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【01】最終卒業試験

「オラァ!」

 体育館の中央で、激戦の上、鬼泉正輝の右正拳が守騎山芳樹の左頬にドカっと炸裂した。

 口から鮮血を吹き出し、守騎山芳樹は大きく一回転して地面に叩きつけられた。

 守騎山芳樹が膝をついて立ちあがろうとしたが、遂に力尽きて地面に付した。

挿絵(By みてみん)

「勝負あり!鬼泉少年の勝利!」

 聖愛学園の学級主任 近藤が両者の決着を宣言した。

「はあっ、はあっ、はあっ」

 鬼泉正輝は息を整えると周りを鋭く見渡した。

 自身の足元には血痕が残り、これまでの戦いの激しさを物語っていた。

 聖愛学園の全生徒達が一斉に泉正輝を見ていた。

「守騎山が負けたのか?」

「鬼泉、まさかそんなに強ぇ奴だったとは」

 観客に来ていた生徒たちに低いどよめきが走った。

 聖愛学園の特例卒業試験である、拳闘ナンバー1試験決勝戦会場で優勝した鬼泉正輝は、右拳を高く掲げた。

(勝った!

これで卒業、晴れて自由の身だ。

俺はやっと戒めから解放され、自分の足で歩いていける。

姉貴の仇を、奴らへの復讐を果たすんだ!)

 鬼泉正輝は卒業後について思いを巡らせた。

 しかし、その望みはすぐに打ち砕かれることになる。


 一二月一五日 月曜日 正午

「よく優勝したな。鬼泉正輝」

 近藤が竹刀を肩に置いていた。

「まさか聖愛学園歴代最強とまで恐れられた守騎山すらも倒し、拳闘ナンバー一試験で優勝しちまう程、お前は喧嘩が強かったとはな」

 近藤が、体育館裏のベンチで、息を切らす鬼泉正輝を見下ろした。

挿絵(By みてみん)

「それとも、お前の姉貴の仇、その復讐を果たすという強い思いが、拳闘ナンバー一試験の決勝戦で守騎山すらも打ち倒す原動力になったか?」

 その言葉に鬼泉正輝は近藤を無言で睨んだ。

 聖愛学園は、主に、暴力事件を起こしたことが原因で更生が必要と判断された少年たちが収容される、特に喧嘩自慢で血の気の多い不良達の集まる、全寮制の特殊訓練学校であり、実質的な更生施設、要するに、少年院であった。

 そこで半年に一度行われる拳闘ナンバー一試合。

 荒くれ者の集う聖愛学園の生徒達から、三〇名近くの出場者の中から優勝した者だけが、特例措置として、聖愛学園を卒業できる権利を得られる大会だった。

 決勝戦で、守騎山芳樹を破り、見事一位となった鬼泉正輝は、近藤との会話を適当に打ち切った後、校長室に呼ばれた。


「鬼泉正輝君、確かもう一七歳になるんだね」

 入所以来、初めて入室した校長室、低い温度に設定された暖房が、厳格な空気を若干和らげていた。

挿絵(By みてみん)

「君がこの聖愛学園に来て、どのくらいになるかね?」

 校長室の窓から外を眺めながら、校長が鬼泉正輝に問うた。

 五〇代中盤、黒いスーツに白い髪に白い髭の校長は、老いたりとはいえ、重厚な威厳とオーラを放っていた。

「今日でちょうど五ヶ月だよ」

 正輝は椅子で腕と脚を組んでいた。

「俺は、拳闘ナンバー一試験で優勝したんだ。優勝したら、俺をここから卒業させてくれるんじゃないのか? さっさと卒業させてくれよ」

 その鬼泉正輝の言葉に校長は正輝を横目で見た。

「まぁ待ちたまえ。君の場合、当校の他の少年達に比べて若干問題があってね」

「問題?」

「君が怪我させた男性、西塵玲司さんだが、今だに怪我が治っていない。それに一般人男性を半殺しにした君をそのまま高校生として社会に戻すのは問題があると教育委員会から指摘があってね」

 正輝は眉をしかめた。

「西塵が一般人男性!? あいつは根っからの悪党だよ。あんただって本当は知ってるだろ? それに、ここで五ヶ月過ごして、あんたらのいう更生授業ってヤツは全部やり遂げたはずだ」

 校長は再び校長室の窓から外へと視線を移した。

 校庭では、細腕の生徒同士が取っ組み合いをしており、近藤が竹刀を地面に叩いてどなっている。

「鬼泉正輝君、君は常識に囚われない自由な思考ができる人間だ。それは認めよう。

君のこれまでの更生授業の成績も悪く無い」

 校長の言葉は鬼泉正輝の胸に何の響きも与えなかった。

「だが、人は、常識を知っているからこそ、常識を破ることが出来る。それが出来てこそ、真の自由というものだ」

 校長は鬼泉正輝の方を向き直した。顔色一つ変えず、相手の実力を冷徹に観察するような目が正輝を射抜いた。

挿絵(By みてみん)

「聖愛学園の最終卒業試験を君に与える」

「最終卒業試験?」

 眼光に動じずに、鬼泉正輝が校長を見返し問い直した。

「君には、その自由の意味を知ってもらう。そのため、今から、東京都渋谷区のある高校に転校してもらう」

「転校だと?」

 温厚な校長の目が怜悧な光を放った。

「ああ、そうだ。その高校は、ある少年半グレグループが実効支配しており、無法地帯と化している。だが、その高校の少年半グレグループは、ある事情により警察が表立った捜査ができない状況にある」

 校長が部屋に備え付けの据え置きテレビの電源をつけた。不良同士の抗争により怪我人が出たことがニュースになっている。

「少年半グレグループの凶悪性は日に日に増大し、危険な集団になりつつある。周りの地域環境や生徒にも非常に悪い影響を及ぼしている。君のその拳で、半グレグループを壊滅させ、不良高校を制圧して欲しい。渋谷区やその周辺地域に平和をもたらすんだ」

 鬼泉正輝の思考は校長の言葉の解釈についていくことができなかった。

「それが出来たら、無事にこの聖愛学園を卒業させてあげよう」

 要するに、突拍子もない課題をクリアしない限り卒業できない。

 話が違う、失望と怒りで鬼泉正輝の表情が熱くなった。だが、校長の不思議な独特の雰囲気の前に鬼泉正輝の怒りが暴発することはなかった。

「半グレグループを壊滅させて高校を制圧……その高校は、何て高校なんだ?」

 校長は一呼吸置いた。

「東京都立帝林高校。不良共の巣窟だ」

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