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【17】強敵

 12月24日(水曜日)夜


 鬼泉正輝はアパート寮に帰ると、スマートフォンを取り出した。昼間、自分から切った近藤の着信を思い出し、折り返した。

『鬼泉か。全く、俺が電話したときは、すぐ出ろと言っただろう』

「近藤先生か。何の用事だ?」

挿絵(By みてみん)

『状況報告しろ。今、帝林高校の制圧状況はどうなっている? プランBについては理解したのか? それと、天獄会についての調査状況はどうなんだ?』

「今のところ調査は順調に進んでいる。天獄会についてもだんだん全貌が見えて来た。それより近藤先生、あんたに聞きたいことがある」

『なんだ?』

「この帝林高校制圧のミッションだが、もしかして姉貴の追っていた事件と何か関連してるんじゃないのか?」

 受話器の向こう、近藤の声が詰まる音がした。

『……』

「教えろ、何を知っている? 天獄会、帝林高校、聖愛学園、そして、姉貴が追っていた事件。一見すると、全てバラバラの出来事のように思える。だが、どうしても無関係とは思えねぇ。天獄会玄武隊の四天王、亀元武史達が食っていたクッキー、あれ、大麻クッキーだろ? あんなものを使っていて、何故警察は動かない?」

 キィ…と椅子が揺れる音がした。

「西塵玲司がナイフを持って襲ってきたにも関わらず、反撃した俺が一方的な加害者として聖愛学園に入れられたこと、絶対卒業を保証するはずの特例措置、拳闘ナンバーワン試験で優勝しても、結局聖愛学園を卒業出来なかったこと、半グレ集団の天獄会が我が物顔で渋谷をのさばっている上、違法薬物にすら手を出しても摘発されないこと、どれも納得のいかないものばかりだ」

 正輝は言葉を切ってしばらく目を閉じた。そして続けた。

「しかし、俺は、見えないどこかで、これらの一連の出来事の全てが深いところで一つに繋がっている気がしてならない。何を知っている? 近藤先生」

 電話の向こうからは静寂しかなかった。

「教えろ」

『……今、俺が言えることは……【天獄会を潰し、帝林高校を制圧しろ】それだけだ』

「結局、そこに戻るのか」

『全てが深いところで一つに繋がっているという、お前のカンは、それほど外れちゃいねぇ。後は、お前自身の手で事件の真相に辿り着いてみるんだな。まぁ、お前の実力で真相まで辿り着ければの話だがな』

 そう言って近藤はスマートフォンを切った。

 鬼泉正輝はツーツーというスマートフォンの電子音を聴きながら、しばらくアパート寮の部屋の中、立ち尽くしていた。

挿絵(By みてみん)


 12月25日(木曜日)夕方


 次の日、鬼泉正輝は、放課後、一度、入院している姉の鬼泉香菜子のところを訪れることにした。クリスマスの活気で街は賑わい、道を歩くカップルや親子連れが多かった。

 サンタクロースの姿をした男が自転車に乗って坂を下っていた。

渋谷の街並みを眺めつつ、群衆をかき分けながら渋谷駅に向かって進んだ。

 その群衆の流れが、突如、ざわめきを孕んだ。

 一人だけ、逆方向に歩いてくる異様な男。

 奇妙な覆面、そして、その巨体からは、むせ返るような殺気が立ちのぼっていた。

 身長一九〇センチメートルはあろうかという覆面を被ったその異様な大男は、鋭い殺気を放ちつつ、無言で鬼泉正輝に近づいて来た。

挿絵(By みてみん)

 鬼泉正輝とその覆面男が真正面から対峙した。

「誰だお前? 何だよその覆面。ダセェな」

 鬼泉正輝が覆面男に質問した。

 すると、突然覆面男が、鬼泉正輝に走り向かって来た。

 その巨体を旋回させ、鬼泉正輝に殴りかかって来た。

「……ッ!」

 鬼泉正輝はその拳を躱し。体制を立て直すと、カウンターの蹴りを覆面男に浴びせた。覆面男がわずかに後退した。

「メリークリスマス、ってわけにはいかなそうだな。おい、覆面。いきなり何すんだよ。顔隠してるのは暴力事件隠蔽のためか?」

 覆面男は何も答えず連続して鬼泉正輝に向かって拳を放った。

「俺は、喧嘩は得意だが、別に喧嘩が好きなわけじゃねぇんだよ。出来ることなら余計ないざこざは起こしたくねぇ。だが、売られた喧嘩は買う主義だ。やるなら容赦しねぇぜ?」

 覆面男から繰り出される凄まじい拳撃をかわしながら鬼泉正輝が言い捨てた。

挿絵(By みてみん)

 スキを突いた鬼泉正輝のカウンターの左フックが覆面男の右脇腹に入った。

 だが、覆面男の肉体は異様に硬く、まるで分厚い金属を殴ったかのような反響が返ってきた。覆面男は、全く動じる事なく再び鬼泉正輝に一気に襲いかかった。

 異常な筋力とは裏腹に、動きのキレがプロの格闘家のように洗練されていた。

 覆面男が右ストレートを放った。

 ドンっと音がして、ストレートパンチを両腕のガードの上から喰らった鬼泉正輝が、三メートルほど後方に弾き飛ばされた。

挿絵(By みてみん)

 鬼泉正輝は後に身体を跳ねさせてストレートパンチの衝撃を逃したが、それでもかなりの威力を感じた。

 鬼泉正輝の腕がわずかに痺れた。

 再び二人が対峙する。

 すると、二人の周りにザワザワと見物のため人が集まってきた。

 人目に触れて、覆面男は、群衆を一瞥すると、チッと舌打ちした。そしてそのまま、覆面男は、群衆に紛れるように鬼泉正輝の前から走り去っていった。

 覆面男が見えなくなるのを見届けて、鬼泉正輝は両腕を振って痺れを収めた。

挿絵(By みてみん)

「なんだよ、あれ」

 鬼泉正輝は呟くと、気を取り直して、鬼泉香菜子の病院へと向かうことにした。

(天獄会の関係者か? かなりの実力だったな。だが、あの戦った時の感触、どこかで……?)

 鬼泉正輝は、今の覆面男と何の関わりがあるのか考えた。

 特に思い当たる記憶は無かったが、何か以前にも感じた殺気を忘れている気がした。

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