第1話 二度目の人生
その日、俺の人生は唐突な終わりを告げた。
ブラック企業勤務の過労死?、いや違う。
子供を助けてトラックに轢かれた?いや違う。
病死でも神様のミスでもない…生まれて30年…女性と付き合った事もなくこうなったらと思い、風俗で童貞を捨てようと覚悟して調べに調べてそういうお店にいったのだが…まさか致す前に緊張で死んでしまうとは…情けない。
当初は、緊張しすぎて倒れて病院のベッドの上かと思ったのだが…。
自分の身体が自由に効かない上に、なんなら視界もぼやける。
頑張って腕を動かし目が見える範囲まで持ってくると小さい赤ちゃんのような手…おう?
もしかしてこれは世にいう転生というやつか?
アニメや漫画はそれなりに嗜んでいるのでこの状況がどういう事なのか…飲み込む事が出来たが…しかし死亡理由があんまりである。
恥ずかしさに悶え、顔に手を当て泣く赤ちゃんに皆が心配して覗き込んできた。
自身の死亡理由に悲しさを覚えながら、心の中で初体験の相手の予定だった女性に迷惑をかけた事を謝罪した。
突然の転生から半年の月日が流れた。
残念ながら転生したのは異世界という訳ではなく、俺が生きていた時代から10年後の日本だった。
名前は、進藤 隼人という名前のようだ。
何度かハヤト~と呼ばれていたので恐らく間違いはない。
異世界転生ではなく少し残念に思ったが、危険な目に合わないで済むというのは助かると思い直していた。
正直現代の日本で生活していた俺に異世界で冒険なんて無茶な話だと感じていた。
赤ん坊時代は非常に苦労を強いられた。
女性のいや、女性というのは憚れるのだが…仕方あるまい自認は30年童貞を貫いた成人男性なのだ…母親の母乳を拒否し続け哺乳瓶で育った。
母は当初はショックを受けたようだが時間が経つにつれて諦めてくれた。
視界がボヤけているので薄っすらと見える母の顔は、それなりに整っており目を合わせると照れてしまう。
俺がよく目を逸らすせいか一緒に生まれた双子の妹の方をよく抱っこしていた。
そして生まれてからずっと違和感は感じていたが、父親がいなかった。
母の話を聞いた限りでは、どうやら子供が出来たと伝えたら捨てられたそうだ。
それでも、多額の慰謝料をぶんどったおかげで生活はそれなりに豊かではあった。
それでもシングルマザーで2人の子どもの面倒を見るというのは大変であり母の実家のお世話になっていた。
母は、看護師らしく仕事に行っている間は祖父と祖母に面倒を見てもらっていた。
2人とも我が子のように世話をしてくれて特に問題はなかった。
それでもあまり負担をかけるものではないと思っているが、赤ん坊である以上どうしても限界がある。
食事に関してもトイレ事情も乳児ではどうしようも出来なかった…おむつを変えられるのは本当に恥ずかしかった。
歩けるようになったら絶対にトイレですると誓ったものだ。
頑張って身体を動かしていたおかげか2ヶ月ほどで寝返りが可能になり、4ヶ月ほどでハイハイが出来るまでに成長はしていた。
そして半年が過ぎ視力も大分良くなり、ある程度見えるようになっていた。
妹との成長速度の違いを不審に思った母が医者に相談していたが、この位の子は個人差が出るから気にしなくて良いと言われていた。
隣でスヤスヤと眠る妹をよそに身体を動かした。
我が妹ながら非常に可愛いと感じていた。
ただ、双子という割にはあまり似ていないという事も感じていたが二卵性だというならそういう事もあるだろうと思っていた。
しかし、その違和感は母が話している内容を聞き解決した。
どうやら俺達は本当の兄妹ではなく俺は別の人の子供だったようだ。
母の学生時代の親友だったらしいが俺を生む時に事故に遭い俺を産んで亡くなったそうだ。
父も亡くなっているそうで身寄りのなかった俺を母が引き取ったそうだ。
俺達には内緒で育てるそうなので喋れるようになっても知らない振りを続けるつもりなのだが…このまま世話になりっぱなしというのも申し訳なく、せっかく転生したのだからその恩恵をしっかり活かそうと考え半年を過ぎてからも運動に励んだ。
アニメや漫画のように何か転生特典みたいな物が無いかと色々探してみたのだが特には見当たらなかった。
そもそもステータスだなんだと喋ってみても何も出ない。
ほんとに転生させてもらっただけのようだ。
ある程度の種銭があればお金を稼ぐ自信はあるのだが…。
難しそうである。
ちなみに母のスマホを使い以前使っていた自身の口座情報などを見てみたのだがすべて解約されていた。
まぁ死んでから10年も経っているので当然と言えば当然なのだが…。
それなりに貯金していたので普通にショックを受けて1日寝込んだ。
復習も兼ねて勉強もしたかったのだが、さすがに赤子が勉強してるのは違和感しかないので身体を動かすだけに留めた。
そのおかげか8ヶ月でつかまり立ちが出来るようになりほどなく歩けるようになった。
元々歩いていた記憶があるというのはデカかったように思う。
母を始め祖父と祖母も驚いていた。
歩けるようになったので大人の目を掻い潜り母の持っていた医学書等を読み漁るのが日課となっていた。
知らない知識を吸収出来るのは実に楽しい日々であった。
身体を鍛える事も忘れず、1歳を迎えて妹も歩けるようになり2人で一緒に何かすることも増えた。
負担を軽減するつもりで妹の面倒を見る時間が増えた。
俺の真似をして一緒に走ったり一緒に本を読んだりしていた。
ちなみに妹が粗相をした時も俺が変えるようになった。
「本当に赤ん坊かね…」
というのが祖母の口癖になっていた。
面倒を見ていたおかげというか、刷り込みに近い形だったのかもしれないが、妹は俺に懐いてくれたようで俺の後をついて回るようになっていた。
そして若い時代の時間は早いというがあっという間に時が過ぎ3歳の誕生日を迎えた日に夢の中で目を覚ますという意味のわからない経験をすることになった。




