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「男子が2割の世界で普通にしてたら、どうやら大問題らしい」   作者: ゆう
5章

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第3話「白河家の事情」

第3話「白河家の事情」


生徒会室の窓の外。

黒塗りの長い車が、校門の前に停まっていた。

磨き上げられたボディが、夕日を跳ね返して鈍く光っている。

(お迎えか)

僕は最後の一束を机に積み上げた。

作業はこれで終わりだ。

「……崎山さん」

白河さんがカバンを手に取った。

いつも通りの、隙のないお辞儀。

「本日は、ありがとうございました。おかげで捗りました」

「ああ。また明日」

白河さんは、少しだけ名残惜しそうに唇を動かした。

何かを言いかけて、結局、静かに部屋を出て行った。


一息ついてから、僕も生徒会室を後にした。

昇降口へ向かう廊下の窓から、下が見える。

車の横に、一人の女性が立っていた。

和服を凛と着こなした、中年の女性だ。

使用人だろうか。

あるいは、彼女の母親だろうか。

白河さんがその女性の前で、人形のように深く頭を下げた。

女性は一言も発さず、ただ白河さんの所作を検品するように眺めている。

(……なんか、息が詰まるな)

視線を感じた。

女性が顔を上げ、窓越しに僕を見た。

一瞬だった。

女性の目が、獲物を定めるように細められる。

単なる好奇心ではない。

身分や価値を瞬時に見分ける、冷徹な鑑定士の目だ。

(値踏みされた)

直感でそう思った。

女性はすぐに視線を外し、白河さんを車の中へ促した。

重厚なドアが閉まる。

車は音もなく、滑るように走り去っていった。


「……見たか」

背後から、低く沈んだ声がした。

振り向くと、田辺が立っていた。

いつも以上に顔色が悪い。

「何が」

「今の女だ。白河澪の……母親だよ。白河家の現当主代理だ」

田辺が窓の外、車が消えた方向を死んだ目で見つめている。

「怖い顔してたな」

(母親なのか。全然似てないな)

「怖いなんてレベルじゃない。あの一族が、この国の『男性管理委員会』の中枢だ」

田辺が僕の横に並んだ。

珍しく、僕の顔を真っ向から見ている。

「男性管理委員会?」

「……知らないのか。精子のランク付け、居住区の指定、男性保護法の運用……全部あそこが決めてる」

田辺の声が、わずかに震えていた。

(それがどういう意味か)

僕らがこうして学校に通えているのも、その委員会の許可があるからだ。

つまり、僕らの人生のハンドルを握っている連中ということになる。

「崎山。お前に忠告しておく」

「何だ」

「白河澪さんと仲良くするのは——慎重にした方がいい」

田辺がはっきりと言った。

いつも無気力で、すべてを諦めたような田辺が、僕の肩を強く掴んでいる。

(田辺が慎重に、か)

(珍しいな)

「あの一族にとって、男子は『管理対象』でしかない。情を移す相手じゃないんだ」

「……そうなのか」

「仲良くなりすぎれば、お前が消されるか、彼女が壊される。白河家っていうのは、そういう場所だ」

田辺はそれだけ言うと、手を離した。

力なく首を振って、階段の方へ歩いていく。

(壊される、か)

さっきの白河さんの、少しだけ弾んだ足取りを思い出す。

唐揚げ一個で喜んでいた、あのぎこちない表情。

(管理対象ね)

僕は窓の下をもう一度見た。

白河さんが立ち尽くしていた場所は、もう冷たいアスファルトが見えるだけだ。

(まあ、明日も唐揚げは持っていくけどな)

母さんに、少し多めに入れてもらうよう頼まないといけない。

そんな「普通」の予定を頭に浮かべながら、僕は自分の靴を取り出した。

(田辺、相当ビビってたな)

階段を下りる。

廊下の静寂が、いつもより少しだけ重く感じられた。


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