一人の飼い主と二人の妖精
主人は、妖精を二人飼っていた。
一人は、長い髪の女の妖精。
もう一人は、自分。
同じ妖精でも、扱いは違った。
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夜になると、決まって呼ばれるのは彼女だった。
扉の向こうで笑い声が聞こえ、
やがて、ベッドが軋む音が続く。
聞きたくなくても、聞こえる。
耳を塞いでも、意味はなかった。
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朝になると、彼女は何事もなかったように笑う。
「おはよう」
悪気なんてない。
ただ、選ばれているだけ。
自分は選ばれないだけ。
それだけの違い。
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それでも、主人のことが好きだった。
恋愛対象になれなくても、
そばにいられるなら、それでいい。
主人に名前を呼ばれるだけで嬉しくて、
喜んでくれるなら、何でもした。
酒を運び、
客の相手をし、
掃除も、買い出しも、進んでやった。
「助かった」
主人が、ふと笑ってくれた。
それだけで、
しばらく何もいらないと思えた。
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ある夜、主人が酔って帰ってきた。
彼女は外の仕事でいない。
珍しく、自分が呼ばれた。
胸が跳ねた。
もしかしたら、と思ってしまった。
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部屋に入ると、主人はベッドに倒れ込み、
「悪い、水くれ」
と言った。
それだけだった。
水を渡すと、そのまま眠ってしまう。
呼ばれた理由は、それだけ。
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布団をかけ直しながら、気づく。
期待していた自分が、情けなかった。
それでも。
眠る横顔を見ていると、
離れたいとは思えなかった。
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部屋を出るとき、小さく呟く。
「……おやすみ」
返事はない。
それでもよかった。
選ばれなくても。
そばにいられるなら。
それでいいと、
何度も、自分に言い聞かせていた。




