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旅人と妖精

森で道に迷ったのは、日が落ちかけてからだった。


同じ場所をぐるぐる回っている気がして、立ち止まる。


鳥の声も、風の音も、急に遠くなった気がした。


(やばいな……)


地図はあるが、道が分からない。


引き返そうにも、どこから来たのかも曖昧だった。


そのとき、後ろから声がした。


「迷ってるの?」


振り向くと、少年が立っていた。


年は十代半ばくらいに見えるが、耳が少し尖っている。


光の加減か、体の輪郭がぼんやり透けて見えた。


「……妖精?」


少年は肩をすくめる。


「そう。で、出口どっちか分からないんでしょ」


図星だった。


「案内してやるよ」


そう言って、くるりと背を向けて歩き出す。


半信半疑のままついていく。


足取りは軽く、森の中を迷いなく進んでいく。


途中、振り向いて笑った。


「人間って、すぐ迷うよね」


「悪かったな」


「悪いとは言ってないよ」


どこか楽しそうだった。


しばらく歩くと、木々の間から街道が見えてきた。


助かった、と息を吐く。


「ここ出れば、もう迷わないよ」


少年はそれだけ言う。


別れ際、ふと聞く。


「お前、ずっとこの森にいるのか?」


少年は少しだけ考えてから答えた。


「まあ、そんなとこ」


そのとき。


後ろから声がした。


「おい」


振り向くと、男が立っている。


立派な服を着た、裕福そうな男だった。


男は少年を見るなり、眉をひそめる。


「何してる。勝手にうろつくな」


少年の表情が、少しだけ消える。


男は当たり前のように、少年の腕を掴んだ。


「すみませんね。こいつ、すぐ勝手にどこか行くんで」


旅人を見ることもなく言う。


そのまま引き寄せる。


少年は、抵抗しない。


「……知り合いか?」


思わず聞く。


男は笑う。


「飼ってるんですよ。便利なんで」


言葉が、すぐ理解できなかった。


「夜の相手もするし、客にも使えるし。妖精は長持ちしますからね」


冗談みたいに言う。


頭の奥が冷える。


少年を見る。


少年はいつもと同じ笑顔で、肩をすくめた。


「じゃあね。もう迷わないでね」


それだけ言う。


当たり前のように、男に連れていかれる。


止める理由も、資格もない。


何も言えないまま、その背中を見送る。


やがて姿が見えなくなる。


街道へ出て、しばらく歩く。


町の灯りが見え始めても、足が重かった。


安全な場所に戻ったはずなのに、胸の奥がざわつく。


ふと、森の方を振り返る。


あいつ。


帰る場所、あったのか?


答えは出ないまま、夜の道を歩き続けた。


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