第45話 初陣と、壊れた祈り
第45話 初陣と、壊れた祈り
朝は静かだった。
風も弱い。
空は薄く曇っている。
「……来るな」
カイルが呟いた。
遠く。
地面が揺れている。
音が、遅れて届く。
――ドドドドド……
「王国軍、確認!」
伝令の声。
空気が、一瞬で変わる。
ざわめき。
呼吸。
誰かの喉が鳴る音。
「配置につけ!!」
怒号。
列に入る。
前方。
黒い帯。
「一万……」
「こっちは八千」
「不利だな」
「普通ならな」
誰も笑っていない。
***
「進めぇぇぇ!!」
地面が爆ぜる。
ぶつかる。
金属。
肉。
骨。
音が混ざる。
「うおおお!!」
「下がるな!!」
「押せ!!」
「誰だ!?今の悲鳴!?」
声が、混ざる。
指示が聞こえない。
誰が味方で誰が敵か、
一瞬、分からなくなる。
目の前。
敵。
同じ人。
違うのは――殺すかどうか。
踏み込む。
一歩。
止める。
二歩目。
――ズン。
首が飛ぶ。
血が飛ぶ。
温かい。
まだ、息があった気がした。
「……っ」
一瞬、遅れる。
その一瞬で、
――横から来る。
「ガルド!!」
受ける。
ギィン!!
「考えるな!!」
カイルの声。
現実に戻る。
次が来る。
斬る。
斬る。
斬る。
でも――
周りが見えない。
味方の悲鳴。
「助けてくれ!!」
「腕が……!」
「下がれ!聞こえてんのか!?」
音がぐちゃぐちゃだ。
(……クソ)
前に出る。
削るしかない。
「っらぁ!!」
三人。
四人。
倒す。
だが、
「ガルド!!戻れ!!」
聞こえない。
視界が開ける。
気づく。
囲まれてる。
「……チッ」
遅い。
「やっと一人だな」
笑う声。
囲まれる。
多い。
「関係ねぇ」
踏み込む。
一歩。
二歩目。
――ズン。
だが止まる。
「くそ……!」
浅い。
その瞬間。
――横から衝撃。
引き戻される。
「何やってんだテメェ!!」
カイル。
「勝手に突っ込むな!!」
「……分かってる」
「分かってねぇ!!」
怒鳴る。
「戦場は一人でやる場所じゃねぇ!!」
正論。
何も言えない。
「戻るぞ!!」
***
後方。
「お願い……助けてくれ……!」
目の前に、兵士。
抱えている。
腹が裂けてる。
内臓が見えてる。
もう無理だ。
(分かってる)
でも。
「お願いだ……!」
手が震える。
刻印が熱い。
(助けたい)
(でも)
「……分かった」
目を閉じる。
(痛みを後に回す)
祈る。
世界が歪む。
呼吸が戻る。
血が止まる。
「……助かった」
兵士が泣く。
でも。
違う。
「……え?」
少年の身体が膨らむ。
不自然に。
歪む。
「やめて……」
もう遅い。
――バキン。
骨が内側から折れる。
肉が裂ける。
弾ける。
血が飛ぶ。
温かい。
顔にかかる。
手に残る。
「……ぁ」
声が出ない。
手が震える。
止まらない。
「……なんで」
血がついてる。
拭く。
拭く。
拭く。
落ちない。
落ちない。
「……落ちて」
こする。
爪で。
皮膚が削れる。
それでも落ちない。
「セラ!!」
ロイが来る。
状況を見る。
一瞬で理解する。
「……祈ったな」
頷く。
「……助けたのに」
ロイが吐き捨てる。
「違ぇ」
「“死”を後回しにしただけだ」
目が壊れる。
「……私」
手を見る。
血。
肉。
温もり。
「触った……」
震える。
「……壊した」
その場に座り込む。
耳を塞ぐ。
「無理……」
「もう……無理……」
ロイが肩を掴む。
「立て」
「ここは戦場だ」
「崩れるな!!」
首を振る。
「無理……!」
「祈れない……!」
もう、二度と触れたくない。
その瞬間。
――前線が崩れる。
「押されてる!!」
「後ろ下がれ!!」
「崩れるぞ!!」
現実が来る。
ロイが歯を食いしばる。
「……クソ」
引き上げる。
「立て!!」
涙でぐしゃぐしゃの顔。
それでも。
立つ。
震えながら。
***
前線。
俺は剣を握る。
味方がいる。
敵がいる。
死体がある。
(……ルイス)
あいつ……さっきまで隣にいた。
足元に、
自慢していた剣。
吐き気。
でも、止まれない。
カイルが横に立つ。
「誰も死なせるつもりは無かった」
「お前の無茶に引っ張られたんだ」
頷く。
間違えれば容赦ねぇ。
さっきの二歩。
足りない。
それでも。
「やるしかねぇ」
血で滑る剣を握る。
遠くで悲鳴。
近くで叫び。
誰かが死ぬ音。
戦線はまだ持ってる。
だが――時間の問題だ。
「行くぞ!!」
カイルが叫ぶ。
「この先は――“壊れたまま戦う”しかない!!」
「ちょっと、
あんたらいつまで突っ立ってんの」
「人を後ろに置いといて、
負けてんじゃん」
リィナだ。
今度は――
一人じゃない。




