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少女と竜は今日も旅をする。  作者: 白浜ましろ
Episode 4.紡がれゆく時にて繋がりの結びとなる
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小さい竜


 カロンを追いかけてすぐ、ティシェとグローシャは小道に飛び出した。

 まるで獣道のようなその小道。だが、道幅はよくみる獣道のそれではない。


「ここは竜の通る道か……?」


 グローシャが苦なく通れる道幅であり、道のならされ具合から、普段からこの道を通る存在がいる雰囲気をティシェは感じ取る。


「あの地竜が通っていた道なのかもしれないな」


 どう思うかと、鼻先を地面に近付け、気配を探っていたグローシャに投げかけてみる。顔を上げた彼女は、ティシェを振り返って微妙な顔をした。

 肯定とも否定とも受け取れるその顔に、意味を掴みあぐねて小さく顔をしかめてしまう。が、ティシェの中にも見えはじめている答えがあった。


「あの地竜の気配は感じたか?」


 その問いに、グローシャは一つ頷いた。


「――……他の竜の気配を(・)感じたか?」


 その問いにも(・)、グローシャは一つ頷いた。

 ティシェの中で見えはじめていた答えが輪郭を帯びる。


「他に竜がいる可能性がある、ということか」


 小さく息を吐きながら、ティシェは身体の重心を傾けることで、グローシャに先へ進もうと促す。

 獣道の先では、なかなか追いついてこないティシェらを気にしたカロンが、こちらの様子を窺っていた。

 グローシャが歩き出す動作に合わせ、ティシェの腰に括られた木鈴が揺れ、りぃん、と小さく音を奏でた。




 枝分かれした細い道も幾つかあったが、主だった道に絞って竜達は気配を探り、ティシェも出来る限りで視線をめぐらせる。

 それから間もなくだった。

 カロンが足を止め、グローシャも立ち止まる。

 何かを察知したその様子に、ティシェも自然と口をつぐんで息を殺す。と、微かな音がした。

 今度はティシェの耳も拾ったその音は、声と認識にするには曖昧で、けれども確かに音は聴こえた。

 トロロォ――。トロォ。

 今度ははっきりと。

 カロンが小道から外れ、茂みに頭を突っ込んだ。

 もそもそと奥へと進んでいき、彼の姿が茂みに呑まれる。

 ティシェはグローシャの背から降り、彼女と共にゆっくりと茂みを掻き分けて進んでいく。

 そして、それからしばらく。少し広がった空間に出た。

 そこで目にしたものに、ティシェは静かに息を吐き出した。


「……子竜がいたのか」


 ティシェの見つめる先。カロンの後ろに隠れるようにして、地竜の子竜がティシェとグローシャを見上げていた。

 体躯はカロンよりも一回りほど小さく、ティシェが抱え上げられそうなくらい。

 子竜はカロンの後ろに隠れながらも、ティシェ達を見上げる瞳には、少しばかりの好奇心が覗き見えた。

 もしかすれば、地竜以外の竜や、そもそも人を目にすることが初めてなのかもしれない。

 ティシェは意味ありげな色を滲ませ、碧の瞳を伏せた。


「地竜に子がいたのならば、あの痩せた躯にも理由はつくが……」


 あくまで推測に過ぎないが。

 子を宿し、産み育てるのは、その経験のないティシェにだって大変なことだろうことはわかる。けれども、所詮は“だろう”だ。何も知らないことに変わりはない。

 興味深そうにティシェを見上げる子竜の瞳は、まだ何も知らない無垢なそれ。

 思わず頬を緩めかけ――そこで、いや待てよ、と瞳を瞬かせた。

 ティシェはその場にしゃがみ込み、子竜を怯えさせないようにそっと手を伸ばす。

 近付けた指先に、カロンの後ろから出てきた子竜が、ゆっくりとだが顔を近付けてくる。鼻先を寄せ、ふんふんと鼻を鳴らす。

 その警戒心のなさに、ティシェは一抹の不安を覚える。


「……お前、傍で守ってくれる存在が最近までいたんじゃないのか?」


 ティシェの問いかけに、子竜は不思議そうに首を傾げた。その無垢な瞳で。


「初めて会ったカロンは、もっと……縋るような――」


 ――相手を求めるような。

 ある種の必死さが垣間見えた。それが目の前の子竜には感じない。

 必死さも、怯えも、警戒も。それを抱かなくともいい環境――守ってくれる存在が、傍にあったからなのではないのか。ごく最近まで。

 だが、そうなると不可解な点がある。あの地竜の躯だ。

 骸と成りかけている、その度合からは察するに、あれはごく最近のものではない。

 そうなると――。


「まさか、もう一頭いる……?」


 竜の番だ。子竜がいるならば、番だっていたはずだ。

 地竜の躯の傍には、他の竜の気配がなかったゆえに思い至らなかった。

 だが、そうなると子竜の傍にいない理由はなんだろうか。

 手にじゃれつき始めた子竜に目を向けながら、ティシェはその理由を考える――が。

 突として、大きな音が響き渡った。大きなものが倒れたような、重く身体に響く音が。

 子竜がびくりとし、首をすくめる。カロンが子竜を庇い、グローシャがティシェを庇う。

 と、そこでティシェは、この場にトールがいないことに気が付く。グローシャが被膜ある前足で引き寄せる中で、ティシェはその隙間からトールの姿を探す。

 だが、どこを見やっても彼の姿はなく、焦燥広がる胸中に、何ががさあと引いていく感覚を覚えた。

 一瞬脳裏に過ったのは、なんの光景か。重なるような光景に、じわりと侵食してくるのは――恐さ。


「トー、ルっ――」


 不安にかられ、焦れたように彼の名を呼ぶ。

 身じろいだ拍子に、腰に括った木鈴が、りぃんっ、と強く鳴った。

 その瞬。ピィイ――と、張り詰めた空気を割く声が響き渡る。

 弾かれたように空を仰ぐと、浅緑色の鳥が青い空を背にして旋回していた。反射的に叫ぶ。


「ラッフィルっ! トールのところまでっ!」


 旋回していたラッフィルが、こっちだよ、と言うように声を上げると、一つの方向に向かって飛んでいく。

 そのあとを追うため、子竜をカロンにまかせたティシェは、グローシャの背へと飛び乗った。

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