第78話 決着
「ええい。次から次へと鬱陶しい!」
巨大キメラ内部で操作をしているジャクムは苛立っていた。
何だ。何なのだ、あの二人は。
瞬く間にこちらのキメラの軍勢を全滅させた。
こちらの耐性……学習機能を上回る戦闘能力、殲滅力でだ。
おそらく潜在能力なら魔王にも匹敵する出鱈目ぶりだ。
彼女らは今もなお、こちらの触手もたやすく撃ち落としている。
竜人族の話は聞いていたし、それなりにデータも集めていた。
だが、いくらなんでも記されたデータよりもはるかに規格外の強さだ。
こんな生物が自然界に存在していたというのか?
どうしてあそこまで暴れられる?
なぜこちらが押されている?
「違う! 私はこのような場所で、このようなゴミ共に……!」
ジャクムは振り払うように、あるいは逃避するようにかぶりを振る。
そこにけたたましい警報が鳴り、同時にドゴンと大きく音がする。
「な、何だ。何が起き……」
モニターが異常を知らせるアラームを鳴らし、映像を切り替える。
映ったのはあの忌々しいラッシュやガルドフ。
彼らは自分が潜んでいる核の真上にいた。
「「うおおおおおおおおおおおおおおお!」」
しかも斬撃や衝撃波でこちらに向かって掘り進んでいる。
剣と斧をスコップのように振り上げなら、嘘みたいな光景だ。
「馬鹿な。なぜここが……」
だが、それでも確実にこちらに向かって進んでいる。
進んでくる。死が確実に。
「ひっ……!」
少し前のレヴィアの凍結波が己の位置を割り出してしまったのを彼は知らない。
「見つけたぞ」
こちらの視線に気付いたかのようにラッシュは呟く。
「ひゃあああああっ!?」
ジャクムは慌てて操作する。
今まで掘った肉壁がせめぎあい、ラッシュとガルドフを押し潰そうと狭まってくる。
それでも彼らは構わずに、むしろ斬撃スピードを上げる。
その余波が迫りくる肉壁を削ぎ散らす。
こっちも充分に滅茶苦茶だ。
(もしや私はとんでもない連中を敵に回してしまったのか?)
今さらながらにジャクムは後悔と恐怖が生まれた。
ずっと自分が優勢だと圧倒的な立場が上だと思っていた。
いや、思おうとしていた。
(間違っていた。逃げればよかった……!)
ラッシュたちは既に外殻のすぐそこまで来ていた。
「ひいっ!」
ジャクムは外殻の硬度を最高に設定、ついでに反射魔法も付与させる。
(頼む。防いでくれっ!)
「どりゃあっ!」
放たれるラッシュの一閃。
ボギンという音と共に、刃が宙を舞う。
彼の願いをかなえるかのようにラッシュの剣がへし折れた。
「はは……、ははははははは! やったああああああ! やったぞおおおおおお!」
ジャクムは安堵と共に価値を確信して笑う。
そうだ。
やはり最後に勝つのは自分なのだ。
今度こそラッシュたちを取り込もうと肉壁が迫ってくる。
これで彼らの戦闘力を吸収できれば、あそこの竜人二人にも対抗できる。
ジャクムはほくそ笑む。
一方で折れた剣を見つめ続けるラッシュ。
王都から出て行った後、ずっとこれで戦い続けてきた。
寿命だったのだろう。
「――!」
躊躇と逡巡。
それを払う様に戦斧が飛んでくる。
「は?」
「使え! 貴様の方が練り上げぶつけるのは上手いはずだ!」
投げたガルドフが闘気で肉壁を押し返しながら叫んでいた。
ラッシュはそれを手にして、再びジャクムのいる核へと向き直る。
「ハアッ!」
今度はあっさりと破壊される核の外殻。
そこから怯え引きつった表情を浮かべるジャクムがいた。
「来るな。来るなああああああああ!」
叫び、周りの肉が魔物の頭部へと変形して襲ってくる。
ラッシュは戦斧を振り回していなす。
「そうだ。私の話を聞いてください。手を組みましょう。あなたと私ならば――」
腕を切り落とす。
「ぎゃあああっ!」
その手にはスイッチのようなものが握られていた。
おそらくはトラップの発動。
そのための時間稼ぎでもするつもりだったのだろう。
「痛い痛い痛いよオオオオオ!」
ジャクムは子供のように泣き喚く。
彼を守るように人型のキメラ魔物たちが現れる。
ラッシュは正面から斧で打ち合い、そして薙ぎ払う。
「いやだいやだいやだあああああ!」
あわあわと逃げ惑うジャクム。
その姿にラッシュは己の心がさらに冷たくなるのを感じた。
……ゴラゼオスなら怒りつつも正面から受けて立った。
……ワイアードならこれも結果だと受け入れた。
目の前の相手には何もない。
誰かが残った何かを利用して自分の承認欲求を満たそうとするだけ。
……ウバクですらどんなに無様でも最後は必死に生きようと足掻いていた。
「今まで戦った中でお前が一番弱かったよ」
ラッシュは斧を振り下ろした。




