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第61話 乱戦

「まさか地下にこのような場所があったとはな」


 移動を始めた魔物の群れを追跡していた魔王軍は森林の奥深くへと地下に続く大穴を発見した。

 すぐさま彼らは調査を始めるも、中は魔物たちの巣窟であり困難を極めた。


 命からがら戻ってきた斥候からの報告によると、続いている距離的や辿り着いた位置にも、地下の遺跡ダンジョンへと繋がっている可能性が高いそうだ。


 ならば、と今度はガルドフやレヴィア自らが部隊を率いて入る。

 当然、魔物たちからの手荒い歓迎を受け、現在に至るまで彼らの駆除にあたっていたのである。


「しつこい奴らめ。さすがに面倒になってきたな」

「ですが、これでこの道が遺跡に繋がっている事が確信できました」


 思わず漏れたガルドフの愚痴に、レヴィアが竜の爪で魔物を切り裂きながら励ます。


「でなければ困る。折角ここまで奥まで潜ったのだ。行き止まりでしたでは割に合わん」


 言いながら、ガルドフは今度は素手で魔物の頭を掴み直接握りつぶした。


「ガルドフ殿、手が焼けています」

「む? チッ。毒持ちだったか。皆同じようで個体差があるのは面倒だな」


 レヴィアは後方に控えた回復魔法持ちを呼ぼうとするが、ガルドフはこの程度は何とでもないという様に手で制する。


「雷哮に全力の一振り、こんな場所では大技は使えんな。さてどうしたものか」


 魔物の耐性の件もそうだが、狭い洞窟の上に、この先に例の遺跡とやらが続いているのなら、崩落を招くような余計な破壊は控えるべきだろう。


「ガルドフ様、後方からも魔物が……!」


 そこへ部下の一人が悲鳴交じりの声を出す。

 どうやら挟み撃ちにする腹積もりだろう。


 ――知恵もあるからタチが悪い。


「チッ。落ち着け。一匹ずつ冷静に対処しろ。厄介そうな個体はこちらに回すのだ」


 さすがのガルドフたちも少しばかり辟易しているようだが、その戦斧を振るう剛腕や鋭い竜爪に陰りはなかった。

 しかし、連れてきた部下たちは流石に心身共に疲労の色が出ていた。


「ガルドフ殿……」

「案ずるな。そろそろ来る」


 レヴィアの心配そうな声色に、ガルドフは頷く。

 すると、ガルドフの言葉に呼応するように後ろに回り込んでいた魔物たちが悲鳴を上げて駆逐されていく。


「お待たせいたしました。ガルドフ殿っ! レヴィア様!」


「待っていたぞ。よし、我らはこのまま先と同じように奴らを殲滅する! ついてこい!」

「「「はっ!」」」


 本隊が到着し、守りの構えを解いたガルドフは皆に檄を飛ばす。

 反撃とばかりに彼らは一転して魔物たちの蹂躙を開始する。


 鎧を着込んだ犀の獣人が槍を振るい、蛇の尾を持つ鶏が石化させ、地竜が大地を操り潰す。


「殲滅するぞ。こやつらは既に我らの攻撃や魔法を受けた。他の群れに食われて耐性をつけられたらかなわん」

「承知しております」


 レヴィアが答えながら、氷で作った刃で魔物たちを切り裂く。


「ギヒィッ!」


 すると、仕留めそこなった最後の一匹が洞窟の奥へと逃げ去る。


「逃がさぬっ!」


 ガロドフたちはそれを追いかけていく。

 思っていたより、足が速い個体だった。


 ――さらに奥に進むと、ガルドフは大きな空洞に出た。


「なんだ。ここは……」


 洞窟のような道行きとは真逆。

 ブロックに積まれた壁。石畳で舗装されてた床に、中央には祭壇のようなものが祀られていた。


 周りには水路のようなものがあり、上から流れる流水を請け負っていた。

 上の方にも同じように水を溜めたり流す場所があるのかもしれない。


「ぬ、しまった。忘れる所であった」


 ガルドフは改めて逃げていた魔物へと向き直る。


「せいっ!」

「ギィ!」


 ガルドフは戦斧を投げつけ、ブーメランの要領で魔物を切り裂いた。


「これで最後でしょうか?」

「そうだな」


 追いついたレヴィアたちが声をかける。

 ようやく一段落着いたと、ガルドフは息を吐いたその時、ゴゴゴと地響きと共に部屋が揺れる。


「ガルドフ殿!」

「総員、警戒を怠るな……!」


 ガルドフの言葉に全員に緊張が走る。


 やがて真上の天井が崩れ始める。

 退避を始めるガルドフたち。


「「うわあああああああああ!」」


 すると、上の方から人の声が聞こえて、ガルドフは慌てて落ちてくる瓦礫に目を向ける。


 最初に見えたのは今までのよりも一際大きな魔物。

 ガルドフたちは身構えるが、よくよく見ると損傷が激しい。どうやら既に死骸であった。

 だが、その端に人影らしきものが二つ見えた。


「――なんと」

「……嘘」


 その人影が鮮明になる毎に、ガルドフたちの表情はみるみると驚愕に変わっていく。


「勇者ラッシュ!?」


 ガルドフは知っていた。


 かつて、魔王ゴラゼオスの戦い。

 その時に遠巻きに見た青年の姿とも一致した。

 そして、その隣にいる女は飛竜戦姫。

 その勇者と何度も死闘を演じ、現在はなぜだか行動を共にしている女傑。


(なぜ奴らがここに……⁉)


 困惑するガルドフをよそに、彼らは風魔法でそれぞれ落下スピードを減衰させ不時着する。


「ふぅ。酷い目に遭ったな」

「いや、元はと言えば君が――」


 そのまま、喧々諤々で言い合いを始める二人。


 完全に蚊帳の外とされたガルドフたちはポカンとしている。


「姉様……!」

「あれっ……お前レヴィアか?」


 レヴィアの声に反応したヴェロニカは驚いたような顔をする。


「はははっ。おーい。久しぶりだなあ。いやあ、しばらく見ない間に大きくなって……」


 ヴェロニカは久方ぶりに出会った妹にフレンドリーに声をかける。

 最初こそ驚いていたレヴィアはどんどん表情から感情を消していく。


(まずいな)


 ガルドフは理解していた。

 ヴェロニカ本人は自覚していないのだろう。自分が妹である彼女に何をしたのか。

 今のレヴィアは噴火寸前の火山だと言う事に気付いていない。


「……ヴェロニカァー!」

「な、なにぃー!」


 案の定、レヴィアは怒り狂いながらヴェロニカに向けて巨大な氷柱を降らせる。

 ヴェロニカは驚きながらも、それをたやすく砕く。


「お、落ち着けレヴィア! どうした!? ほらお姉ちゃんだぞ?」

「何を今さら……一方的に切り捨てておいて姉面するな。この愚姉がぁー!」

「!!?」


 レヴィアは聞き耳持たずに氷の刃を階層一帯に降り注がせる。

 ちなみにガルドフたちには届いていない辺り、最低限の理性は残っているようであるが、少なくとも目の前の姉と会話をする気もないようだ。


「ヴェロニカ! 君、何をしたんだ!」

「知らん! 心当たりなど――あんまりない!」

「あるんじゃないか!」


 ヴァロニカは叫び返すと、そのまま彼女は戦闘に入る。

 ラッシュの方はとりあえず頑張って状況を整理する。


 ――とりあえず、あそこにいる彼らは魔王軍だ。メアも似たような格好をしていた。

 ――なぜここに魔王軍が。……いや、大体想像がつく。この遺跡ダンジョンを調査しに来たのだ。

 ――考える事は同じと言う事だ。

 ――しかし、ここで潰し合うのはまずい。非常にまずい。

 ――どうにか、話し合える妥協点を見つけなければ。


「貴殿が勇者ラッシュか」


 そこまで思考を走らせた所で、不意にかけられた後ろからの声に、ラッシュはおそるおそる振り返る。


 そこには黒い鎧を纏い戦斧を構えた獅子の獣人が立っていた。


「いささか数奇な縁であるが、怨敵である貴様らをみすみす見逃すわけにもゆくまい。いざ尋常に勝負!」


 一方的に宣言すると、ガルドフはその剛腕から渾身の一振りを繰り出す。


(これはまともに受けたらまずい!)


 ギリギリで避けたラッシュ、その斬撃は後ろで隠れて隙を伺っていた魔物たちをも切り裂いた。


「ほうこれを避けたか。ならば……!」


 ガルドフは戦斧を振り回しながら、次の攻撃を繰り出してくる

 今度は振りや突き。巧みなフェイントを織り交ぜた連撃。


「うおおっ!」


 ラッシュは最初こそさばききっていたものの、少しずつ押されていく。

 気付けば、ラッシュは壁にドンと背をぶつけていた。


「いつの間に――!」

「もう逃げられぬな?」


 もう一度ガルドフは斧を振り下ろす。


「何――!」

「ぐぅううううう!」


 今度は真っ向から受けて立つラッシュ。

 しかし、衝撃に耐えきれず、体中が軋みをあげて、大地に足がめり込む。


「づあっ!」


 そのままラッシュは斧の刃を剣で弾き返した。


「っ! ……よくぞ受けた」


 それをガルドフは面白そうにニヤリと笑う。


「素晴らしいな。勇者の力を失ってなおこの強さか。いや、むしろ失ったからかもしれぬな」


 いまいちわからない事を言うガルドフにラッシュは少しだけ首を傾げた。


「では次は本気で行くぞ」


 その言葉にラッシュの背筋に悪寒が走る。

 これでまた小手調べだったと言うのか。


 バキバキとガルドフの身体から音が鳴る。

 膨張する筋肉が内側から鎧を圧迫しているのだ。


(やはり強い)


 かつてゴラゼオスが率いてきた魔王軍とラッシュは何度も戦ってきたが、幹部連中でもここまで強い奴はいなかった。

 パワーだけなら、ゴラゼオスや全盛期のヴェロニカに比肩しうる。


「ゆくぞぉ! グォオオオオオオ!」


 ガルドフは咆哮と共に、闘気を込めた斬撃を放とうとする。

 いや、斬撃ですらない。目の前にある物を全て粉々にする。

 破壊の一撃だ。


 ――駄目だ。こちらもここですべて捨てる覚悟でやらなければ。


 ラッシュは覚悟を決める。

 闘気を練り、魔力を回し、懐からバフ用の魔石を取り出す。


「はああああああ!」

「ヌウウウウウウ!」


 ぶつかり合うその直前、ヴェロニカに殴り殺されたはずの魔物が起き上がっていた。


 違う。

 その魔物は既に死んでいた。


 死にながら起き上がり、その体に血管が浮かび膨れ上がらせている。


 ラッシュはそれに見覚えがあった。


 以前の学園での戦いで爆弾と化したウバク・レイダーと同じであった。


「――みんな逃げろっ!」

「なに!?」


「「え?」」


 ラッシュは思わずそこにいた全員へと叫び、ガルドフは驚き、戦っていたヴェロニカとレヴィアもようやく気付き、残りの魔王軍のメンバーは頭に疑問符を上げる。


 ――ドゴオオオオオオオオオオオンッ!――


 次の瞬間、巨大な爆発が巻き起こり、その場所は完全に崩壊した。


 ラッシュの意識は今度こそ闇に沈んでいった。

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