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第42話 実戦演習

「ひゃっはー! シュガちゃん、大勝利にゃあ!」


 第二訓練場の中央で虎の獣人の少女が勝鬨をあげている。

 彼女の足元にはボコボコにされた生徒たちがうめき声をあげながら、数多積み上がっていた。


 どうしてこんな状況になっているのか。


 今から約一時間前、魔導研究会の何度目かの集会。

 既に恒例となりメンバー同士の空気も打ち解け始めたその時、誰かが言った。


「そういやこの中で誰が強いんだ。やっぱ主席?」


 この一言が血の気の多いメンバーたちの心に火をつけた。


「そりゃ実戦なら俺だろ」

「いや、それだとウチにゃ」

「平民共が何を生意気に……総合力であるなら私が……」

「いやあアタシよ――」

「オイラこそが――」


 こんな感じで、見事に言い合いにまで発展。


 ――ということで、まずは互いの実力を見るのも兼ねてガス抜きとして、魔法抜きの即席バトルロワイアルが始まったのだ。


 ちなみにメアは早々にリタイアした。……というか自主的に降参した。


 何が悲しくて野蛮なボコり合いに参加しなくてはならないのか。

 まあ、魔法戦以外はからっきしだというのも主な理由であるが。


「ちくしょうっ。強いのは知ってたがここまでとはなぁ」

「獣ごときにこの私が……」


 次第に山になっていた敗者たちが復活していく。

 口々に愚痴りながらも、それでも負けん気を見せていた。

 もっと温室育ちのお坊ちゃんの集まりだと思っていたが、意外と根性のある連中のようだ。


「やっぱ近接戦はシュガちゃんの方が分があるわねー」


 その中で魔法使いの癖に魔法抜きでシュガと食らいつき、二位の座をぶん取ったアンジュは立ち上がって、パンパンと服の埃を叩く。


「よっし。いい感じであったまってきたしそろそろ次の段階に進もうかしらね」

「はっ。最強のアタシに何を教えようというにゃ!」


 アンジュの提案に完全に調子に乗っているシュガ。

 魔法を使わないというハンデで勝ったくせにこの調子である。

 実にわからせ甲斐がありそうだ、とメアは久しぶりにちょっと意地の悪さが顔を出す。


「それじゃあ今度は実戦訓練と行きましょうか。メアお願いね」

「はいはい」


 アンジュに促され、メアは溜息をつきながらパチンと指を鳴らす。


 すると、浮かんできた召喚陣の中から、何十匹の小鬼……ゴブリンが現れる。


 しかし、肌は青白く、よくよく見ると体そのものが半透明である。

 ゴブリンの幽霊……ゴーストゴブリンだ。


「へえ。こういう事も出来るのね。でも多すぎない?」

「見た目だけさ。耐久は紙の演習用だよ。さっきの戦いぶりを見てこれぐらいは行けるかなって思ったんだよ。で、どうかな?」


「はっ。余裕過ぎにゃ!」


 メアの挑発するような物言いに応えるように、シュガは威勢よくゴブリンの群れに飛び掛かる。


「うにゃにゃにゃにゃー!」


 闘気を込めた蹴りと拳をひたすらに繰り出す。

 それだけでゴブリンたちはバラバラにかき消されていく。


 既にゴブリンの半数が削られていた。


 しかし、彼女は気付かない。

 ゴブリンたち倒しつつも、自分がとある場所に誘導されている事に。


「はいバカー」

「……にゃ!?」


 メアの嘲りの声と共にシュガは一気に落とし穴に落っこちる。

 落とし穴と言っても、深さは膝から下ぐらいだ。

 だが、身体能力が売りのシュガのバランスを崩させて隙を突かせるには充分だった。


 体勢を戻そうとするシュガへと、ゴブリンたちが一気に押し寄せる。


「ふぎゃぁぁ~!?」


 ポカポカと棍棒でしこたま殴られるシュガ。

 しばらくして、ボロボロの状態でぶっ倒れていた。


「ひ、卑怯にゃ! やり直しを要求するにゃ!」

「実戦だったらやり直しなんてできないよ。もし、生身の連中だったらそのまま慰み者コースだったね。ご愁傷様」

「ひいっ! ……ふにゃ~ 悔しいにゃ~」


 涙目で駄々っ子のようにジタバタと手足をばたつかせる涙目のシュガ。

 そんな彼女を見下ろしつつ、邪悪な笑顔を浮かべているメア。


 他の者らはドン引きだった。


「つーかメリー。お前そんなキャラだったのかよ……」

「決闘の時から片鱗はあったけどさ。ドン引きだよな」

「――アリだな。アンジュちゃんと交互に見下されながら踏まれたいっ!」


 なんとでも言えと思う。

 もう自分は猫を被るのはやめたのだ。開き直って好きにやらせてもらおう。

 あと、何か気色悪い妄想をしている者がいたが、聞かなかった事にしよう。


「さてお次は誰かな?」


「無論我々だ」


 ニクスたち貴族組が名乗りを上げる。

 メアは頷いて、ゴブリンを新しく召喚し直す。


「行くぞお前たち! 家名の誇りの元に!」

「「「おう!」」」


 初っ端からニクスたちは強力な魔法をぶつけまくり、ゴブリンたちを駆逐していく。


「どうだ平民共。これが我々の力だ!」


 威勢よく吠えるも、優勢なのは最初こそであった。

 途中で何人か魔力切れを起こしバテ始めたのか、徐々に押され始める。


「うわあっ!」

「お、おい。陣形を乱すな」


 次第に彼らは杖を武器に近接戦を開始する。

 しかし、慣れていない付け焼刃の近接戦闘ではジリ貧だろう。

 実際、何人かは既に逃げ腰だ。


 10分もかからないだろうな、とメアは見積もった。


「ああもう。何やってんだよ、ちくしょうっ!」


 そこへレドがしびれを切らして木剣を片手に走っていく。


「ギャウッ!」


 ニクスに殴りかかっていたゴブリンを斬りながら、後ろから迫っていたもう一匹のゴブリンを、今度は剣の柄で顔面を殴り飛ばす。


「おい。立てるかよ。お坊ちゃま」

「貴様……!」


「おい! お前等聞こえるか? 魔力が少ない奴らはとりあえず後ろに下がれ。回復する時間は俺らが稼ぐ!」


 ニクスの言葉を聞かずに、レドは他の者らに声をかける。

 気付けば彼の元で皆が団結していた。

 その中には貴族の仲間たちもいた。


 彼に圧されて、他のメンバーたちも瞬く間にゴブリンたちを斬り伏せていく。


「ふぅん」


 メアは少しだけ感心する。

 先頭に立ちゴブリンたちを駆逐していくその姿は、なかなかどうして随分と様になっている。


 だが、これはどうだろうか。


「クソッ! こいつ強い!」


 レドの前に一回り大きいゴブリンの幽霊が立ちはだかる。

 ……さすがにあのホブゴブリンの相手は厳しいだろう。

 膂力が違い過ぎる。


「――!」


 案の定、レドは防戦一方の戦いを強いられている。

 棍棒の一振り一振りを弾いて軌道をずらすか、すんでの所でかわすのが精一杯という感じだ。


 あのホブは生前から数多の冒険者を屠った歴戦の戦士だ。

 今の未熟な彼では荷が重い。


「お前ら、頼んだっ!」


 やがてレドはそう叫びながら体をずらした。


 直後、氷や炎がホブを襲う。

 レドの仲間たち、そして回復した貴族組が遠距離からの魔法を撃っているのだ。

 連撃を受けて幽体が薄れていくホブゴブリン。

 あと一息だろう――。


「よっしゃあ!」


 レドはトドメの一撃を喰らわせようと振りかぶる。


「――あらよっと」


 そこにリズベルがあっさりとボスのゴブリンの首を刎ねた。


 全員がキョトンとしていた。


 よくよく考えれば、彼女はあの若さながら熟練の冒険者で、実際さっきのバトルロワイヤルも彼女シュガ、アンジュ、レドに続いて四位だった。

 もっとやる気を出していれば、さらに上位に行けたかもしれない。


「いやー。昔からこういう乱戦で全部持って行っちゃうのは得意でさあ」


 当のリズベルはと言えば、特に反省もない様子で何の自慢にもならない事を言う。


「お、お前―!」


 レドや他の皆が盛大にブーイングを巻き起こす。

 そのまま再び言い合いに発展していく。


(なんか、いつの間にか全員参加してしまっていたけどまあ良いか)


 アンジュもそれを微笑まし気に見ていた。


「止めないの? ……というか混ざらないの?」

「えっ。いや私は――ひゃわっ!」


 面倒くさいのでメアは半ば強引にアンジュを喧騒の中へと放り込む。


「何のために同好会なんて作ったのさ。もう少しメンバーと交流してきな」


 アンジュは何か言おうとしたが、周りの『なんだ主席も次は混ざるのか?』『いやマップ兵器持ちは勘弁』『なんなら次はトーナメント方式で――』という声に埋もれ消えていった。


 たまにはこうして自分が振り回してやってもいいだろう。

 ざまをみろ。


「……平民共がっ」


 そんな馬鹿騒ぎを後ろの方でニクスが毒づいていた。

 どうやらこっちの問題児はまだまだ前途多難のようだった。

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