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第35話 シスカのお悩み懺悔室

 聖女シスカに割り当てられた役目は教師ではなく、懺悔室で悩みを聞く修道女であった。


 交友関係からくる気疲れ。

 気になるあの子への抑えきれない想い。

 学業の伸び悩み、逆に好調な友人への嫉妬と自己嫌悪。


 思春期の少年少女たちの思いの丈を受け止めるのが仕事である。


(聖女の時から定期的にやっていましたし、そういう意味ではいつもと変わりませんね。少しばかりあの二人には悪い事をした気がします)


 無論、こちらも大切な仕事だと理解している。


 だとしても、彼らは大分問題のあるクラスを引き受けていると聞く。


 今頃自分よりも大変な目にあっていると考えると、少しばかり引け目を感じた。


 ――いや、ヴェロニカの方はそれほどでもないけども。むしろ、あっちはもう少し人間というものを学べばよいと思っていたり、とんでもない騒動を引き起こしているのではと心配したりしているのだけども……!


 ――と、どこぞの竜人女に対して、色んな感情を渦巻かせていると、壁の向こうの告解室の方から足音が聞こえた。

 どうやら、誰かが悩みを打ち明けに来たらしい。


 シスカは慌てて席に座り、気を落ち着ける。


「……ようこそ迷える子羊よ。さあ、罪か悩みか。その胸の内にある棘を曝け出しなさい。神は全てを許し包み込んでくれるでしょう」


 すると窓の付いた壁の向こうから、少年の声が聞こえてくる。


「……はい。僕は由緒ある貴族の家の跡取りです。今日まで家の名に恥じぬように努力を続けてきました。しかし、ここは僕よりも優秀な奴らがウジャウジャいます。身の程を思い知らされました……」


 なるほど。貴族のプライドがボロボロにされ、しかも家のプレッシャーに潰されかかっているのか。

 この場合は、彼の存在を肯定しつつ、寄り添ってあげるべきだろう。


「そして彼女……主席のアンジュ・オーガストです」


 知り合いの名前が出てきて思わずシスカは面食らった。


「最初は生意気な平民の小娘だと思っていました。ですが、悔しいですが彼女は天才でした。しかも才能に溺れず努力を惜しまない奴です」


 なるほど。

 彼女は魔法の天才でこの学園でも主席の座についている子だ。


 羨望に嫉妬に尊敬。


 数多の人間に数多の感情を向けられていても不思議ではない。


 しかし、忸怩たる思いを抱いている彼には悪いが、妹のように可愛がっている友人をどのような形であれ、評価されていると思うと悪い気はしなかった。


「彼女の事を憎いと思いつつも、彼女を思う度に胸が苦しくなり張り裂けそうです」


 どうやら、思春期の特有の甘酸っぱい思いも抱えているようだ。

 なんだか、だいぶ愛憎入り混じっているようだが。


 とりあえず、友人の人間関係に介入するのは気が引けるが。

 ちゃんと己の心に向き合わせつつも、暴走せぬように諭して導いていこう。


「彼女を想うあまり。気づけば、彼女の私物を回収したり、座っていた椅子の匂いを嗅いでしまう始末です」

「……なんて?」


 思わず聞き返す。

 とんでもないカミングアウトが出てきた。


 だが、大丈夫だ。落ち着け私

 受け入れよう、私は聖女だ。

 受け入れた上でしっかり諭せばよいのだ。


 ――と、自分に言い聞かせながら、シスカは大きく深呼吸する。


「続けてください」

「はい。できれば、彼女の下着も手に入れたいのですが、そっちはなかなか上手くいきませんでした」


 いきなりリタイア寸前であった。


 というか、もう懺悔ですらない。

 自首か。自首しに来たのか?


「はああ。アンジュたんアンジュたんアンジュたん可愛いよぉペロペロペロペロ。デュフフフフフ!」


 もう懺悔とかの自覚なく欲望を吐き出し始めた。


「……駄目ですわこの人。早く何とかしないと」


 なんかこっちも、もう色々と限界だった。

 というか我慢するのが馬鹿らしくなった。


「私はどうすればいいのでしょうか。――いっそ彼女にこの欲……想いをぶつ――あ、あれ?」

「そこになおりなさい。悪魔に憑かれた哀れなる子羊よ」


 シスカは懺悔の口から腕を伸ばして、その貴族生徒の顔を鷲掴んだ。


「ひっ……ひっ……!」


 鷲掴まれた眼鏡をかけた小太りの少年は恐怖に顔を引き攣らせる。


 私は聖女だ。受け入れよう。


 受け入れた上でその性根を叩きのめす。


「懺悔なさい愚か者ぉ!」

「ひぃいいいいいいいいいいい!」


 懺悔室に絶叫が響き渡る。


 そこから一つの噂が流れ始める。

 心悪しき者、病める者が入ると、怒り狂った女神が現れ、その者に地獄のような試練を課し浄化させる、と。

 学園の七不思議に数えられるようになった。

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