第25話 ヴェロニカ&ラッシュVSゴラゼオス②
――おかしい。
ラッシュの剣閃をギリギリの所でかわしながら、ゴラゼオスは違和感を感じた。
――おかしいぞ!
ヴェロニカの拳の連打をまともに受けながら、疑問符を頭に浮かばせる。
――おかし過ぎるであろうが、こんなの!
この二人の猛攻に、いったい何度内心で悲鳴をあげただろうか。
ゴラゼオスは振り返る。
ここまで計画は順調だったはずだ。
王都中の人間の生命力を吸い上げてこうして復活に成功した。
さらに王都民から生命エネルギーを吸い上げる事で以前よりもパワーアップできている。
後は完全にエネルギーを吸い終えた後は、この陥落させた王都を拠点に散り散りになっていた眷属を呼び集め、新しい魔王軍を建て直す。
――はずだったというのに、なんだこの様は、この状況は!
人間ごときに二度も後れを取るなど、裏切者一人にここまで手こずるなど。
ありえない。
あってはならない事だ。
「ハハッ。隙ありぃ!」
「ぐわぁー!」
上からヴェロニカの勝ち誇ったような声と共に、彼女の膝蹴りをモロに顔面に喰らい、ずっこけたゴラゼオスは地に伏せる。
「な、ならばこれならばどうだぁ!」
鼻血を出しながら、ゴラゼオスが腕に炎を纏わせて殴りかかる。
離れていたはずのラッシュが遠距離からの氷魔法を繰り出して相殺させる。
「なぜなのだぁあああああ!」
遂にゴラゼオスは半ばヤケクソ気味に声に出して叫ぶ。
駄目だ。
自分の手の内は知られている。
別の手が必要だ。
(待てよ?)
ゴラゼオスはニヤリと微笑むと、右手を上に掲げる。
「いでよ聖剣!」
すると、そこから眩い光と共に一振りの剣が現れた。
本来ならば神々しい光の気を纏ったそれは、今や闇の瘴気を纏わせていた。
「フハハハハ! どうだ。勇者よ絶望したか。貴様の最大の武器ともいえる聖剣はもはや我輩の物なのだぁ! ぬぅん!」
自慢げに語るゴラゼオスは無造作に聖剣を横に薙ぐ。
後ろの壁や支柱まで切断する必殺の一太刀。まともに受ければ一緒に真っ二つ。
――だったはずなのだが、いつの間にかヴェロニカのすぐ傍まで迫っていたラッシュが彼女の代わりに魔力で強化した鋼剣で受けきる。
「だから、なぜなのだぁ!?」
本来聖剣は相応の熟練度を必要とする。
ウバクもそうであったが、ただひたすらに振り回すだけなら、高密度の魔力の塊を撃ち出すのと変わらない。
そして、それらの対処法をラッシュは既に学んでいた。
「貸し一つだ」
「うるさい!」
減らず口を叩き合うラッシュとヴェロニカだが、それとは裏腹に二人は攻勢を緩めない。
防御と攻撃。
それぞれをどちらかが肩代わりする代わりにもう一人がもう片方を行う。
言うだけならば簡単だが、魔王の波濤攻撃をそんなシンプルな連携で渡り合うなんて、熟練のパーティでも至難の業だろう。
翻弄されているゴラゼオスからすれば実に忌々しい光景だった。
「おのれぇい! なぜ。よりにもよってかつて仇敵であった貴様ら二人が我輩の攻撃に対応できるだけの連携が取れる!?」
ゴラゼオスはいくら自問自答しても答えは見つからなかった。
「「さあ?」」
すると、考えうる限り最悪かつ腹が立つ答えが返ってきた。
馬鹿にしているとしか思えなかった。
「ふんぬううううううううう!」
ゴラゼオスは威嚇と仕切り直しも兼ねて、身の内の魔力をまた周囲一帯へと放出させる。
床がひび割れ、壁が砕ける。
そうだ。やはり自分の方に分がある。最後に勝つのは自分だ。
「チッ。いちいち厄介だな」
「王都の人たちも限界だ。決着を急ごう」
だというのに、まだ圧倒的に自分が有利なはずなのに――。
こいつらは一向に折れる様子がない。
立ち塞がる彼らの姿が、少しずつ追い詰められていくような錯覚を覚え、焦りが生まれていく。
不安や焦燥――そして恐怖が募らせ、胸を蝕むように黒く広がっていく。
ゴラゼオスはこの感覚に覚えがあった。
「氷刃雨!」
「ウォーターカッター!」
凍てつくような氷の刃はラッシュの風と水を合わせた水刃に砕かれる。
……ああ、思い出した。
あの時、魔王城との戦いで勇者に追い詰められた時。
どれだけ叩きのめしても、なおも諦めずに向かってきた勇者パーティー。
あの時と同じではないか。
自分はまた負けるのか、目の前のこの男に。
「認めん。……認めんぞぉ! メテオフレアァ!」
「喝!」
それらを振り払うように、ゴラゼオスは業火は繰り出すも、ヴェロニカのブレスによって相殺される。
その竜人族の女の雄姿。
ゴラゼオスは再び思い出す。
盟約にて助太刀に参上したと現れたその女傑。
その美麗な姿に似合わぬ気迫に気圧とされたあの感覚を。
同時に己の玉座を奪りに来るのではないか、と抱いた僅かな恐怖。
自分にとってはトラウマであった二つの存在が目の前に立ちはだかっている。
これが悪夢と言わずなんと言う。
「おのれええええええええ! 魔法結界、天地氷炎!」
ならばとゴラゼオスはこの玉座の間を触媒に結界を発動。
真上からは鋭い氷柱の雨、地面からは炎が燃え上がる。
これこそが彼の奥の手の結界魔法だ。
しかし、かつてはこの技も勇者パーティーの前に敗れ去った。
だが、もうここには結界を張ってくれる聖女や別の極大魔法で相殺してくれる魔女はいない。
竜系統の攻撃魔法しか習得していないヴェロニカには無理だろう。
勇者ラッシュ。
いや、最早勇者ではないはずの男一人ではどうにもなるまい。
床に向けて全力で水流を創り出す。
真上の氷柱はヴェロニカが猛烈な勢いで殴り砕く。
――だからなぜ、この二人は変なタイミングで良い連携をするのだぁ!
ゴラゼオスは内心で悲鳴を上げるが、それでも魔力は無限、いずれこちらに軍配が上がるはずであると、必死に己を鼓舞しながら結界を維持し続ける。
二人の姿が視界から消えていた事に気付く。
ゴラゼオスは必死に探す。
突如、真上から二人が姿を現す。
「馬鹿な。氷の天井の中を掘り進んできたと言うの――ぐぅおぉっ!」
言い終わる前に、今度はラッシュに思いきり殴り飛ばされた。
「くるな。こっちにくるなぁあああああ!」
ゴラゼオスは闇の魔力を煮詰めた聖剣を玩具の様に振り回す。
「だから力に頼り過ぎだよ、ゴラゼオス」
ラッシュはあっさりと聖剣の瘴気を霧散させていく。
まずい、このままでは取り戻される。奴の魔力以上の闇の魔力を注がねば。
――と、そちらに気をやったのがゴラゼオスの失敗だった。
「捕まえたぞ」
いつの間にか後ろに回っていたヴェロニカが、ゴラゼオスの角をガシッと掴みあげる。
「な。貴様。放――」
「えいやっ!」
「ギャアァアアアア! 我輩の角がアアア!」
言い終わらぬうちに、ヴェロニカは軽いかけ声と共に、ボギンと嫌な音を立てる。
あわれ、角をへし折られたゴラゼオスは痛みにのたうち回る。
すると、彼が纏っていた膨大な闇の魔力が一気に薄れていく。
へし折られた角。
これこそが王都中の精気を凄まじい闇の魔力へと変換させていたアンテナだったのだ。
ゴラゼオスが何度も魔力を吸収させていく姿を見ている内に、それを看破したラッシュたちは破壊するタイミング見計らっていたのだった。
「よおし、これで魔力を補充する事はできないな。一気にケリをつけるぞ」
「ふ、ふざけるなぁー! ここまで、ここまで来て貴様らなんぞに阻まれてたまるものかぁー!」
悲鳴混じりの絶叫を上げながら、ゴラゼオスは周囲の熱を集め凝縮させていく。
基本的にゴラゼオスは炎と氷を操ってきたが、彼の魔法の大本は熱エネルギーの操作だ。
故に高熱に偏らせれば、それだけ強大な高密度の熱エネルギーを創り出せる。
「ははははは。どうだ。これが我輩の真の力だ――はえ?」
絶句するゴラゼオス。
目の前の二人は同じ密度の魔力を生み出されていたからだ。
「なぜ、なぜ、なぜそこまで力を出せる!?」
勇者の力は失っていたはずなのに。
彼の疑問に応えるかのように、ラッシュの後ろから、彼の背に手を当て力を分け与えている者がいた。
ヴェロニカは勝ち誇るように教えてやる。
「簡単だよ。こいつの魔力が不足しているなら、私の魔力を使えば良いだろうさ。悔しいが、魔力の細かいコントロールはコイツの方が上だからな」
ヴェロニカの魔力を使ってラッシュは集中させていた。
シスカに預けたとはいえ、ヴェロニカの魔力はいまだに凄まじい。それに自分の魔力を上乗せている。
「魔力を与える契約の魔法。コツを掴んで応用すれば、こうして他者に譲渡するのも可能なわけだ」
互いに弱体化しているとはいえ、ヴェロニカの魔力と自身の魔力を剣に集中させているのだ。
無論、彼らとてタダでは済まない。
刃身にヒビが入る。
体中からブチブチと嫌な音がする。
互いに再生と補給が追いつかないレベルまでダメージを与えており、もう限界だ。
これにて決着となるだろう。
ゴラゼオスの熱球と竜の力を合わせたラッシュは一太刀。
放たれたのは、ほぼ同時だった。
「……この前の多対一もそうだが、そもそも二対一とか卑怯だろうがっ」
ポツリとゴラゼオスが愚痴る。
直後、二人を合わせた斬撃が熱球を両断して、そのままゴラゼオスに直撃した。
「馬鹿なアアアアアアア!」
断末魔の叫び声と共にゴラゼオスは光に呑まれて消えていった。




