第13話 メアちゃんのワクワク小旅行
僕らは曲がりくねった裏路地を通り抜ける。
「ふっふっふ。ここを通ると中央広場に早く着くんだよー」
中央のコロシアムに通じる街道を出る。
そこもまた賑わう人と共にどこもかしこも屋台が出回っていた。
王都を思わせる賑わいと華やかさだ。
「なになに。もうすっかり始まってるじゃん!」
リズベルが目をキラキラさせながら興奮してハシャぎ始めたので、とりあえず彼女の首根っこを捕まえておく。
これ以上、彼女に振り回されてたまるか。
「ちょ……なにすんのさー」
「大会の受付にいくんだろ? いちいち野生動物みたいに動き回らないでくれ」
「えー。もうちょっと観光していってもいいじゃんさぁ。ほら、あそこの屋台の肉串美味しそう!」
何、肉串?
……しまった。思わず腕が止まってしまった。
リズベルはニヤニヤ笑っている。
「ラッシュさん、完全に食いしん坊キャラ定着したよねぇ」
うるさいな。
もう僕のことは放っておいて欲しい。
「気にするな。私も食うのは好きだぞ」
これは僕を慰めようとしてくれているのかヴェロニカ。なんかすごく悔しい。
さり気に自分だけ肉串食べてるし。
小遣いを与えたのがアダとなっただろうか。
「いやいや。折角来たんだから楽しまなくちゃ損でしょ。ほらさっさと先を急……あぅ!」
リズベルの方も共感して一緒になって再び騒ぎ出す。
……ああほら、言わんこっちゃない。
僕がいる方向……後ろ向きで歩いていたリズベルは丁度横切ろうとした女の子にぶつかってしまった。
リズベルが『ごめんね』と頭を下げると、ぶつかった子の方も『大丈夫です』と笑顔で会釈して去っていく。
とりあえず、大事にならずに済んでよかった。
「ああ、ビックリした。でもでも、さっきの紫髪の子すごい可愛くなかった? 見た所、身なりもいいし、もしかして貴族の子かなー?」
リズベル、君はもう少し反省してくれませんかね?
溜息をつきながら、リズベルを小突こうと握りこぶしを作ろうとした矢先。
ヴェロニカが神妙な顔をして少女が消えた先を見つめているのに気付く。
「どうかした?」
「――いや、どこかで感じた事がある気配だったなと思ってな。どこだったかな?」
気配ってわかるものなのだろうか、と思いつつ僕もつられて、例の少女が歩いていった方向に目を向けるも、当然既に彼女は影も形も無くなっていた。
……
「ああ、ビックリした。いきなりぶつかってくるんだもんなぁ……」
先程、リズベルがぶつかった少女は埃を払いながら溜息をつく。
黒を基調としたドレスを纏った十代前半くらいの濃い紫髪の少女。
その美しさもさることながら気品のようなものも窺える仕草。見た限りはどこかの貴族の令嬢にも見える出で立ちだ。
「災難でしたね、お嬢様ぁ。お怪我はありませんかぁ? もしそうだったら私今から引き返してあの小娘とっちめてきてやりますよぉ!」
「うん。私は大丈夫だから落ち着いてね、ミラカナ」
彼女の周りを飛ぶ蝙蝠は人の言葉でキーキーと騒いでおり、お嬢様と呼ばれた彼女も特に自然な調子でミラカナと呼ぶ蝙蝠と話を続ける。
それよりも、むしろ彼女としては、あの桃髪の少女の傍にいた男女が気になった。
二人共どこかで見た気がするが、人だかりでよく顔を確認できなかったのが残念である。
(まぁいいか。これから行う大仕事に集中するとしよう)
まったくどうして自分がこんな場所まで来なければいけないのか。
彼女……メアは内心毒づく。
とはいえ、仕方ないと言えば仕方ない。
ガルドフは一度引いて魔王軍の再編を担ってもらっており、前線の方にはレヴィアに立ってもらっている。
前線には再び勇者が参戦してくるかもとの情報があったが、今までの情報、そして直接戦ったガルドフからの評価から推し量るに、今の彼らの兵力でも充分に対応できるだろう。
両軍は拮抗状態。
そこをさらに自分がダメ押しをかけて崩すのが仕事だ。
ここまでの計画を思い出しながら、彼女は街道の端に駐留させていた馬車に乗る。
その馬車の中は黒い暗幕で車窓からの日光を遮っていた。
「ふぇ~。ようやく忌々しい陽の光ともおさらばできましたよぉ~」
飛んでいた蝙蝠はいきなり喋り始めるや否や、ボフンと白煙を上げて一人の女性に変身する。
赤紫の長髪をツーサイドアップしたメイド服を着た女だ。
「はぁ~。この姿なら、ようやくお嬢様を存分に愛でることができますぅ!」
メイドは蝙蝠の時と変わらないハイテンションで満面の笑みと共にお嬢様と呼ぶ少女に抱き着く。
「うん。ミラカナ、暑苦しいからやめて?」
当の少女……メア・リオネスは心底うんざりした表情でミラカナを引き剥がそうとするが、彼女の腕力は人間と変わらない……むしろ平均以下なので無理な話だ。
調子に乗ったミラカナは鼻息を荒くしながら、長い犬歯が覗く口元から涎を垂らす。
完全に変質者のソレである。
「はぁはぁ! メア嬢様の透き通るような白い肌! そこから薫る甘い匂い! クンカクンカ! たまらないですぅ……このままガップリ牙を突き立てて血を吸いた――ぐぇ」
「不敬……だぞ……ミラカナ」
暴走を続ける彼女の髪をいつの間にか現れた犬の獣人が後ろから引っ張る。
それは執事服を着た犬の獣人……のはずだが、服の下から見える顔や手は包帯で巻き覆われており、素顔はほとんど見えない。
「なにするのよぉ、この干物犬!」
「……主に……劣情……抱く……愚か者……諫めた……だけだ」
がなる女吸血鬼に犬獣人……のミイラはたどたどしくもはっきりとした口調で答える。
「失礼な。これは劣情ではないわぁ! ……そう、これは愛! 愛からくる忠義! 私の忠義が体中から迸っているのよぉ!」
「やぁヌビンス。首尾はどうかな?」
「万事……滞りなく……進んで……おります」
「あれれぇ~私は無視ですかぁ? でも、メアお嬢様のそんなつれない所も愛しゅうございますぅ!」
ヌビンスと呼ばれたミイラは隣でぎゃあぎゃあ騒ぐ女吸血鬼を無視して、細かな状況と経過を報告し、メアも同じく彼女を視界に入れないようにしながら、報告を聞いて何度も頷いている。
「よしよし。ここまでは順調のようだね。でも、油断は禁物だよ。ここは相応の腕の冒険者も多数滞在している。何があるかわからない」
「はぁい」
「……御意……」
そうして全ての報告を聞き終えたメアは溜息一つついて車窓のカーテンをぬぐい、メアは街の様子を一瞥する。
「なんともまあ人が多い所だねえ」
「この国の……人間たち……の中で……特に……賑わってる……場所の……一つですので」
生者の活気に満ち溢れたその都市の様子を彼女は見守る。
「まあ人が多いのは良い事だよ」
三魔将の一人、メア・リオネスは言葉を続ける。
「いっそ全員アンデッドにしちゃえば良い戦力にもなるだろうし」
それはこの都市に住む人間にとっては最悪以外の何物でもない一言であった。




