13.穢された乙女
今回のタイトルからわかると思われますがダンジョン内でのそういう話です。もし、そういう展開を受け付けない方がいたらごめんなさい。
「んっっ〜ぁんっっっっ」
グォォーー
明らかに聞こえてはいけない声が近くからしている。
その中にはどうやっても魔物の鳴き声も混じっていた。
たすけてという声を聞いた時、意図せずとも体は動き出していた。
だがおかしい。
声が漏れてくる辺りの壁に沿って歩きながら声の主を探していた。そのはずなのに。
声の向きが変わらないのだ。
先程から右側の方で聞こえていたはずの悲鳴とも喘ぎ声とも言える苦しみが顕著に現れた声は動いても動いても右側にあり続ける。声の大きさも小さくなったり大きくなったりを繰り返しており、気づけばもといた場所へとまた戻ってきてしまっていた。
どう考えてもこのままでは辿り着けない。
このクリスタルの壁という名の牢獄に閉じ込められているのではないか。
そんな時に女性の声は止んでしまう。
何かがあったのではないかと気が気でないエリアスは新たに取得した武器『魔道銃』を取り出す。
そしてその照準を目の前のクリスタルの牢獄に定める。
感情の振れ幅によって試しうちした時とはケタ違いの魔力が銃に吸い込まれていく。
そしてそれを解放する。
ただ引き金を引くだけでいい。
魔力が白魔石の効果により圧縮加速されることにより壁面に当たると同時に、自らの銀白色の魔力の光が爆発し視界のすべてが奪われる。
しばらくすると目の前には壁が元からなかったかのようにその1辺においてはすべてが吹き飛ばされていた。
そうして自分の思っていたとおりの光景が目の前に広がっているのを確認してしまう。
そこは普段、探索者には立ち入ることの出来ない魔物専用部屋。不幸にもどうしてか入り込んでしまった人間の末路など決まっている。
普通ならすぐに戦闘に陥りそこで勝敗がついて強き者が生き残ることになっていたのかもしれない。が、今回の魔物はタチが悪い。
オーク
醜い豚の容貌を持ちながらも性欲がものすごく強く人間の比ではない。人には理解できない気持ちの悪い鳴き声を響かせ、ヨダレを垂らして女性を追いかけ自らの子を為すために襲いかかってくる魔物の中でも特に嫌われる部類にいる。
単体の力はそれほど強くないのでこの階層にいるが、群れをなすとその力は厄介なものとなる。魔物で意思の疎通など大してできないのだが群れの総意だけは最初から決まっているがために謎の統率を見せる。
女性を犯すために。
そのた探索者からは忌み嫌われ必ず男女でパーティーを組むように言われる理由の根源となる一つを有する魔物である。
知らず知らずのうちにこの豚頭の魔物に怒りを覚えていた。
魔道銃に魔力を装填しようとした時には既に満タン状態になっている。
それが彼らの本能であることは理解している。
それでも。
目の前で見せつけられてしまえば怒りが溢れてくるのを止めることは不可能だ。
体液にまみれたこいつらを見ているだけで男の自分でさえ今は吐き気を覚える。
目の前で奇妙な鳴き声を上げながら醜悪なその顔に笑みを浮かべながらそこにある存在にはこの世から退場してもらわなければと本能がそう訴えてくる。
「っくそっ」
しっかりと魔力を充填した銃を標的にあわせる。
そして何のためらいもなくその引き金にかかった指に力を込める。
パァン
一番目の前にいる一つの存在の首から上は音速を超えるほどの加速を見せる魔力の塊に抵抗する間もなくもっていかれる
と、一番前のオークだけでなくその奥にいたものも魔力弾は勢いをとどめることを知らなかったようで同様にもっていっていた。
一瞬その空間にシーンとした空気が流れた。
そして次の瞬間にはすべてのオークが自分のことを敵と認めたのか襲いかかろうとしてくる。
奇怪な声を上げ、エリアスト比べて巨大なその体躯の利点を生かしてエリアスに近寄ろうとする。
だが今のエリアスは違う。
最初の頃はオークに勝てなかった。
魔法を使うわけでもなく、身体能力でも軍配が相手に上がるような魔物にはどうしようもなかった。
身体能力強化が中になった時にやっと互角に戦えるようにはなった。
そして魔力剣を手に入れてからは負けることはなくなった。
それでも時間はかかっていたことは欠点となりえた。
今の彼には魔道銃がある。
数度しか使っていないがもう自分手足のように扱って相手が近づく前に、それどころか動き出す前に素早くそして正確に狙いをつける。
魔力の残滓が銃口から立ち上るのを見る頃にはこの部屋で生き残っているオークは皆無となっていた。
「ふう」
ひとまずすべてがドロップアイテムと魔石へと変わったオークを見ながらため息をこぼす。
そしてエリアスの激情を呼び起こした一人の人間の存在に目を向ける。
全裸の女性がそこには横たわっていた。
身体中にはアレの乱暴な扱いによるものなのかその白く美しかったその乙女の柔肌には傷が所々に存在し、
破かれた服は部屋の隅に投げ捨てられているようで、引き裂かれ泥にまみれもう使える状態とは言えない。言うのであればブラックボックスの見た目並みにボロボロになっていた。
そして…………身体中は白い液体に侵されていた。
その有様に思わずエリアスは目を背ける。
この世界では10歳から成人となる早熟な世界であるためもちろんエリアスも性についての知識を持っている。
と言うよりかは、知りたくなくっても知ってしまう現実がそこにあった。
人気の少ない路地を歩けば、下品な男の声と泣き叫びながら助けを呼ぼうとする女性の悲鳴が入り交じる場所などいくらでもあった。
それゆえに特に女である者達にはそれを回避するためにも知識が、強さが必要なのである。
そんな世界で生きているエリアスでさえ目を覆いたくなる状態に彼女はあった。
彼女はあらゆるところを汚されてしまっていた。巨乳とまではいかないものの形よく育った胸に、金髪で恐ろしく整った容姿を持つその顔に、口の中さえもが穢されてしまっていた。
意識のない彼女を見れば、気を失うまでもの行為をされていた事は容易に想像できてしまう。
生々しい。
そう思った。
人間のやることの非動さは身に染みて知っているし、見ている。路地裏で女を犯すクソな男であっても、犯されている女性に対しても最低だ、可愛そうだとは思った。力なく何もできない自分が歯がゆかったが、それを超えての感情は大きくはなかった。それがある意味日常に溶け込んでしまっている社会を嘆いていたと言った方がいいかもしれない。
だが目の前の少女に起こっていることに感じるものは違う。
何かこう体の奥から生じてくる生理的嫌悪のようなものを感じてしまう。形のない悪魔の手が無いはずのその手で心臓を鷲掴みにされたかのような錯覚を覚える。
彼女がとびきりの容貌を持っているからかえってその残虐さが強調されるからなのであろうか。
この行為を行ったのが魔物であるからこその魂からの次元で感じる嫌悪なのであろうか。
はたまた力を手にした今も何も出来ない何も助けられずに会う人会う人を不幸にしかしていない自分の無力さに対してなのであろうか。
ともかく早く助けなければならないと思い彼女に近寄る。
不名誉な彼女を白く染める装飾は時間が経って固まってきている様子まであり、それが更なる憎しみとそして悲しみを呼び起こしてくる。
「仕方がない、か」
エリアスは回収したオークの魔石を目の前に集めておく。
本当はこの少女に使いたくなかった。自分を不幸に陥れた現況のものでその不幸を振り払うことにエリアスは申し訳なさを覚えていた。しかし今はこうするしかない。
命に別状はないことはわかっている。だがこの状態で起きれば彼女がどうなるかなんてことは分かりきっている。
どこかで見たように眼に虚無だけを写し、命だけは吹き込まれたけれどゼンマイを巻かれることのない人形のような状態になってしまうのだろうと。
そして、エリアスが自らの異能を使おうとしたその時に目の前の少女が目を覚ます。
身動ぎをしたと思えば、その美しい碧眼を開き自分の惨状を確認してしまう。
あぁこれで彼女は終わってしまった。
そう思った。
けれども予想に反して彼女は大した反応を見せなかった。
自分の鼻腔を支配するその青臭い匂いには顔を顰めてその元凶を自らの口の中から吐き出していた。
エリアスはその反応に驚きながらも望みを託して等価交換を使う。
「この魔石と交換に彼女の身を清め服を与えて」
ここにいない何かに、どこからか願いを叶える存在に初めてこれほどまでに切実に願った。
対価は足りたようでいつもの通りに眩い光と共に姿が隠れた後に彼女はまた現れた。
今度はしっかりと服を着ていた。
彼女の体に染み渡る穢は一部を除いては取れた。
綺麗になった女性は簡素な白いワンピースを着ている。それだけでも絵になるほどの美人である。
だが、彼女の浮かべる顔は困惑だ。
「私……どうし、て、助けた、の?」
口からこぼれ落ちる言葉に感情が乗っていない。
長い間言葉を発していなかったかのようにその口調はたどたどしい。
「困っている人がいたら助けるのが普通じゃないかな?」
困っているなんてレベルではない彼女の身の程であったが何故かこの会話ではこの表現がしっくりくる気がした。
「対価、何かを、返さ、ない、と。でも、わたし、にはらえる、ものは、体くらい、しか……」
その金に揺れる美しい髪ら澄んだ青に揺れるその瞳とは対照的になにかに怯え、そして彼女自身が死んだように心を、閉ざし、闇を飼っていることが簡単に見える。
彼女の言葉は冗談ではないらしく自分の今、交換によって新たに得て着たばかりの服をも脱ぎ捨てようとする。
「ちょっと待って…。僕はそんなこと望んでいないから。
だからやめてくれ」
どうしても。この目の前の自分よりも2つか3つほど年上であろうこの少女に何かはわからない。けれども何かが心の琴線に触れている気がした。
「ほら、こんな、にげんき、だよ?」
エリアスも男。どんなに非常事態であったとしても残念ながら生理的な現象は押さえつけることが出来ない。
一年以上に渡るダンジョン生活での戦いによる高ぶりかもしれないし、彼女の姿を見て改めて感じた自分の置かれる危険地帯ゆえに防衛本能が働いたのかもしれない。
気分を害するような惨状が広がっていたのにも関わらず、それ以上に目の前の少女に知らず知らずのうちに目を奪われていたのかもしれない。はたまた、戦闘による高ぶりが溜まっていたのかもしれない。その事を自覚すると自分もあの節操なしの豚と同じような存在になっている気がしてとても不快な気持ちになった。
「わたし、にでき、ること、は、これだけ。だいじょう、ぶ。なれて、るから」
その言葉を聞いてこれまでの違和感が霧散する。
ひとまず彼女の行動を手で制す。
目の前の少女がここまでどうしてこんなにもこのような状況でいられるのかが不思議でならなかった。けれどそれは常人に考えつく答えではなかっただけだったが今は自分の中に確信的な答えが浮かんだ。
そもそも今回のような行為が日常茶飯事に彼女の身に起きていたから。
誰もが振り返るような美貌を持っているのに対し、その容貌からは一切の自信といったものが感じられずただただ何も無い。
彼女の心が今、錆びて動かなくなることを心配していた。
しかし、彼女の心はとっくの昔に錆びつきていたのだ。
「僕はそれは望んでいないからやめて欲しいな」
男を見て対価を払うとなった時に払える何かを探すのではなく、自分自身を差し出すように教育した周りの環境が末恐ろしい。
そんな考えが捨ててもらえるようになってほしいそう思った。
「じゃあ質問をしてもいいかな?」
微妙な雰囲気を取り払うために一旦話に区切りを入れ、新たな、そして確認すべき基本的な情報の確認へと移る。
「質問……うん、わかっ、た」
彼女は少し離れたところに戻り自分の目の前に立つ。
「僕の名前はエリアス。君の名前は?」
「私の、名前、はアイリス」
段々と話を続けるうちにまわりがよくなる口調とともにその容姿に違わぬ美しい声で空気を震わせ響かせる。
「どこの国からきたの?」
「帝国の、ナルカ村と、いう所。私は──逃げ出して、きた」
「どうして逃げ出してきたかを教えて貰ってもいい?もし言いたくなければ言わないでいいから」
「私は、もう嫌、だった。だからダンジョン、の上層、に入れば楽、に自分のことを、殺してくれる、相手、が、現れると、思った」
伏し目がちにしながら語り出す目の前の少女アイリス。
「だけど、現実は、甘くなかった。魔物、にさえも、辱められる、この世界に、絶望を、感じた」
アイリスは1つ大きく息を吸って覚悟を決めた、垣間覗く彼女の封印されているはずの本当の心がこの言葉にだけは現れようとしている。
「だから、──私を、殺して?」
アイリスは第六陣の悲惨さを描くための超不遇ヒロインです。最後には誰よりもハッピーエンドへと押し上げていきたいと思っているので、重い展開ですがこれからもお願いします。





