11.現状打破と月日の経過
「そう言えばあの神?が第六陣に念じれば次の試練が見れるって言ってたような……」
自分の強化のための指針が立つため、これ幸いと思い魔法陣に向かって念じてみる、
(次の試練を教えて)
すると目の前に文字が浮かび上がる。
[第二階位 敵の500体討伐]
それを見て思わずうえーっと悪態をついてしまう。
これからの活動指針としてはできるだけ人に見つからないように、モンスターとの戦闘を避けて動こうとしていたのが最初からひっくり返される。
だが強くなることが先決であるがためにこの試練は無視することは出来ない。
さすがにレア魔物とか言っていたあの魔物ほどの相手は出てこない事を願うが、それ以外ならどれくらい戦えるか確認したいものだ。
「多分この500体ってもっと低い階層で倒すために作られたものだよね。多分……ゴブリンとか」
そんなことを考えるとどうしてもこの理不尽な現実に対する不満が漏れてしまうがしょうがないのでやるしかない。
それでも慣れるまでは極力魔物との戦闘は避けて進み、どうしてもの時以外は戦うことにする。
結局のところでいえば安全第一なのだ。途中で死んでしまっては元も子もない。
こうして試練の達成、ダンジョンでの生存をかけたサバイバルな生活が始まった。
失った片目に関しては治した方がいいことは分かっていたが治さない方がいいような気がしたために、今までも勘に救われたことのあるエリアスは自分の直感に委ねることに決めていた。
そんなこんなしながらダンジョンの形状、パントリーにおいての食料の確保、逃げる時の行き止まりに行き当たらないような道筋などを確認しながら過ごして数日が過ぎた。
この間運が良いのか悪いのか魔物には遭遇していない。
さすがにこれだけ敵との遭遇率が低いと自分の強化の遅れへ不安、それによる無駄な争いが増えることを危惧していた。
幸いにブラックボックスを手に入れることが出来たため食料を獲得しにパントリーへ行く時には他の探索者たちに遭遇する確率が上がってしまうが、その分一回に獲得できる食料の量が大量であるためにその点に関しては事なきを得ている。
夜は魔除けの結界石のおかげでノーリスクで快適な夜が遅れている。夜が一番安心できる時間であると言っても今の生活では過言ではないかもしれない。
翌日、初めて魔物とエンカウントした。
今回の相手は初勝利を飾ったレッサースピリットの亜種ではなく通常バージョンだ。
今回のレッサースピリットの属性は水だ。
薄水色をしており宝石みたいで綺麗ではあるが、こちらへ向けては敵意しか感じない。
この前のレッサースピリット亜種との戦いで感じたような凄みは感じないけれど、ここは何てったって21階層なのだ。
第一陣の者達でさえもが命を落とす危険性を孕むこの場所で油断などもっての外だ。
戦闘の始まりを告げるアクアカッターが元水の精霊から放たれる。流石という威力をしながらこちらに飛んでくるが今回は初撃なので避けることなく〈収束〉する。
前回の探索者たちとの戦闘では、早々に喰らったファイヤーボールの情報さえ収束しさえしていればあそこまで劣勢で戦うこともあのような結末に終わらせることも無かったかもしれない。だから、連撃可能な手軽な魔法だろうと何であろうと〈収束〉することでレパートリーを増やして自分の生き延びるための、強くなるための手段を手にしていかなければならない。
今度はこちらからアクアカッターを放つ。
試しうち感覚であり、レッサースピリットに当たることはなく簡単によけられ反撃をこちらに向けて数発同時に撃ってくる。
一個一個がそこそこの威力をしているが、一つの個体からの攻撃であるために〈収束〉で対処できると踏んだが、戦闘経験がないが故に驚いてしまった。
目の前にいたはずの相手がそこにいない。
かと言って、死角に回り込んだのであればそこから魔法を放でば自分のことをノックアウトできるのになどと考えていると背後から魔法が飛んでくる。
最初の数発はその魔法の軌道を読み切り体を傾け、横にずらしてかわすと、後ろから飛んでくるものを〈収束〉でそこに留める。
レッサースピリットにとっては完璧であったであろうと思われるその攻撃を止めたということに対する相手のすきをついてアクアカッターを四方から飛ばすと相手にしっかりとヒットするとなんと倒してしまった。
今思い出したが、確か水の精霊種に対して水属性攻撃では大してダメージを与えられないはずだ。
頭の片隅では母サリアがあらあらうふふしながら教えてくれた王国までの地獄の道のりが思い出される。
相手も倒れたことで余裕もあるので魔法に対する考察を加えてみることにしよう。
「アクアカッター!」
魔法陣を臨みながら右手を前に突き出し唱える。
そして目の前には先ほどと同様に水色に揺れる水刃が現れる
はずだった。
「へっ?」
目の前に現れたのは水色で敵の戦闘能力を刈り取るためのブレードであることには変わりはなかった。
だが、それはどう見ても1ミリたりとも水には見えない、それどころか透けて向こう側が見えるような何かであった。
だがすぐに思い至った。
それは自分の瞳に映る腕のおかげである。
加えて根本的な問題ではあるが自分の魔法陣は「青色など存在しない」のである。
考えてみれば風属性さえも持っていない自分。
レア種のレッサースピリットと戦った時のエアースラッシュの後に起こった大旋風に対して、探索者たちと戦った時のものはレッサースピリットのそれには及ばず、ルームを暴風に晒すことは無かった。
そこから考えられる結論はひとつ。
自分は決して完全に魔法を使えている訳では無い。それどころか恐らく魔力を過剰に使ってやっと魔法の代わりとして魔力による魔法モドキを、〈収束〉により得た情報をもって再現しているに過ぎないのであろう。
自分の魔力量などわかるはずも無く、便利であったはずのスキルも無駄撃ちは出来ないことに気づく。
これで生存に近づくかといえば目標に対してはブレーキ要素の一つともなってしまう。
とはいえ、
「とりあえず2体目を倒せて良かった」
ほっと一息だけ吐いておく。
敵が今来る可能性も否定しきれない。
どこを見てもクリスタルであるため代わり映えしないダンジョン内の光景に少々うんざりしながらもまた探索を続けていくのであった。
「グギャァ」
目の前でゴブリンメイジが絶命する。
それに怒りを覚えたのか周りをゴブリンメイジの護衛のように存在していたゴブリンジェネラルが興奮し始め、こちらへと突撃を開始する。
「はあ、だるいな」
目の前にいる敵とはもう何度も戦った。最初はゴブリンメイジこそ倒せたものの、ゴブリンジェネラルには複数で襲われると多勢に無勢でやられかけて敗走を余儀なくされたのはいい思い出だ。
近接戦闘手段のなさを自覚してからは新たな戦闘方法探し、習得する頃にはこの階層に敵はいなくなっていた。
そしてその頃に同時に[第二階位 敵の500体討伐]が達成されることにより自らの体に変化が起きた。
・全能力強化中
これにより一般人よりも強い体となり、第一陣などには敵わないまでもこの階層で活動する分には問題ない領域まで自分の能力を昇華させていた。
「これでおしまいだよ」
エリアスの目の前に片手剣が創造される。
相手の件を受け止め、受け流しながら敵との距離をつめていき急所を的確に突く。
後ろから襲いかかってきたもう一体に対しては剣を目の前で構えて鍔迫り合いの姿勢をとる。それと同時にそのポーズとは反対的に相手の剣を避けるための動きをしながらジェネラルへと近づいていこうとする。
その時、打ち合い甲高い音を鳴らすはずであった剣と剣はぶつかることは無かった。ゴブリンジェネラルの体重を乗せた剣はさっきまでは斬りあっていたはずの剣をすり抜けてしまいその結果として体勢を崩すこととなる。
そのことを予期していたかのような男は横から今度は実態を持った剣で首をはねとばす。
「道のりは長いな……」
ダンジョンに入ってから一年の月日が過ぎようとしていた。
この1年間あまたの敵を屠りながら次の階層へと進むために活動を続けていた。
今、自分がいるのは23階層。
あれからは探索を続けて2度ほど階段を上った。とてつもなく広いダンジョンの中で1年で攻略情報なしに二階層も進むのは奇跡というにも近いペースだ。
とはいいながらもう24階層への到達点へと確実に近づいているエリアスは多分強運だ。
エリアスの『第六陣』の次の達成すべきことは現れている。
[第三階位 中ボス撃破]
中ボスというのは5階層ごとに設置されているボスだ。そこらの魔物とは一線を画した戦闘力を持つと言われている。
これを達成するためにも、両親の待っている1階層へと戻るためにも早く階層の踏破を積み上げていかねばならない。
時がすぎると共に冷静な思考は戻ってくるものであり、人間不信は続いているとはいえ自分を救ってくれていた彼らに対しては今となっては感謝の念が絶えることはなく懐かしさを感じていた。
エリアスのカバンには魔物のドロップアイテムは食べられるもの以外は入れないことにしている。今ここで持っていた所で微塵も価値を見いだせないからだ。ただ、魔石だけは別であり、等価交換を使用しながら装備を整えてダンジョンを突き進んでいる。
今はメインウェポンを作るための魔石の貯金期間だ。
が、
どうやら今回の戦闘で獲得した魔石によってブラックボックスの中身は魔石で一杯になったようである。
「そろそろ自分に合った武器が欲しいな……」
今となっても〈収束〉を使用しない戦闘手段をほぼ手にしていない自分を省みながらつぶやく。
魔法は収束による情報解析の上に成り立つ擬似攻撃である。この1年間で分かったことは自分の持つ属性なのであれば本当の魔法が撃てるのではと期待していたが特にそんなことは無かったが。
武器を使った戦闘はすぐに限界を迎えた。そもそも自分専用の武器を持っていなかったので等価交換で呼び出したこともあった。敗れ去った冒険者たちの遺品を頂戴して戦っていた時期もあるのだがそれらの武器の摩耗には勝てなかった。
そこでそれらの武器の情報を〈収束〉し〈放出〉による実体化に伴い完成した戦闘手段が「魔力剣」なのである。
そうして最後にわかったことは自分の魔力量はかなりありそうだということ。少なくとも今までに枯れたことは一度もない。
つまり効率を度外視すれば、スキルで戦闘におけるすべてを賄うことが可能であった。
だがやはりイレギュラーに備えて多数を余裕で相手に取れるようになるためにも武器の入手は必須となりつつあった。
出来ることであればいつかは魔力でできた腕から魔弾とか発射してみたい。
そんな無邪気な考えを持ちつつ新たな武器の生成を試みることにした





