12 - ゴーレムバージョン1.9
めっちゃ地味説明回。
1月5日。
冬休みも残るところあと四日ほどとなったこの日、僕と洋輔は僕の部屋に集合しカーテンを閉めてドアの鍵も閉めた立てこもり状態、と同時に完全防音、防振動などが施されていることを念入りに確認し、さらに部屋の中に異常がないかどうかを色別のみに頼らず、品質値なども使ってざっと確認、問題なし。
尚現在、僕の部屋には僕と洋輔だけがいる。いやそしてキャットタワーの上では亀ちゃんが寝てるか。
「洋輔。始めようか」
「ん」
と言うわけで、今日は洋輔と一緒に、他人に知られては困ることを済ませることにする。
「お前いちいち語弊があるよな」
「でもいかがわしいことに違いも無いし」
「まあ……そうなんだけど」
具体的には僕達のゴーレムのバージョンアップだ。
そもそもゴーレムというのは素材を集め、そこに洋輔のゴーレマンシーという類いの魔法を行使することで生み出すことが出来るもので、それはよくゲームやファンタジーな世界にでてくるそれと同じである。
但し、ゴーレマンシーの難易度は極めて高い。性質的なことを言うならば僕が向いているらしいけど、僕にしてみればちょっと要求される魔法が複雑すぎる。一方で洋輔はその手の複雑な魔法をなんとか頑張れるわけだけど、洋輔の性質が生成とは正反対の所にあるため、実際に完成させるのは苦手なのだった。
これの解決策は至って単純、洋輔が魔法を組み立てる前まで、つまり行使するために必要なパーツ単位では全てを用意し、それをマテリアルとして錬金術で魔法を完成させるというものだ。僕と洋輔はこれを比較的早期に使っていたので自覚が遅れたけど超高等技術だったらしい。
ともあれ。ゴーレマンシーという技術によって生み出されるゴーレムには様々な性質や命令を魔法によって与えることが出来るんだけど、性質はゴーレムを生み出すその瞬間にしか決定できず、後からの変更はできない。そして命令については生み出す時点で与えられた物が最優先ながら、後から命令を変更したり追加したりは特に問題なく可能である。
で、僕が使役しているゴーレム『渡鶴』と、洋輔が使役しているゴーレム『にわとりバード/ひよこチック』のスペックは現状、次の通り。
『渡鶴』は完全自律行動型。渡鶴には人間的な人格があるわけではないけど、その根底にはスーパーコンピュータのようなものがあり、これによって様々な計算を高精度で行うことが出来る。また、『我在る故に我思う』によって魔力が保有でき、つまり渡鶴が単独で魔法を行使できる。通常ゴーレムは魔法を使えないのでこの時点で破格の性能を持っているとも言えるけど、さらに人格を偽造する魔法、イミテーションをマテリアルとして見做して封入してあるため、各種パラメータを入力すればあらゆる人格を再現できるようになっていたりもする。プリセットとして入力してあるのは僕と洋輔の二人分だけ。ま、この人格のエミュレーションというのはついでに出来るようにした拡張機能の一種に過ぎず、その本質は『環境のエミュレーション』にある。環境としてパラメータを入力できれば、その環境の再現が計算できるのだ。そしてその環境に制限は無い。ようするに地球という環境をきちんと入力できれば地球をまるごとエミュレーションしてくれる。もちろんそんなパラメータの入力をいちいちしてたらどんだけ時間が掛かるか分からないし、そんなに時間をかけてる時点でパラメータの変動もあるだろうから現実的には使えない――というのを、僕は錬金術によって代入することで特に問題なく可能としている。但し、環境エミュレーションそこそこ『渡鶴』に負担をかけるので、実行できるのは使役する権限を持つ者のなかで最上位にある者と、それがどうしても必要があると判断した『渡鶴』自身に限られる。
一方で『にわとりバード/ひよこチック』は受動型ゴーレムと言って、最初に埋め込まれた命令以外の行動は自分からでは絶対に行わない、一般的なゴーレムのそれとあり方は似ている。けれどまあ、渡鶴と同じ技術によって作られている以上、それが普通のゴーレムであるなんてことはやはりなく、そもそもそのゴーレムは『にわとりバード』という一体のゴーレムだ。但し洋輔が必要としたとき、『にわとりバード』に命令を出すと、『にわとりバード』が子機を生成する。その子機の名前が『ひよこチック』で、『にわとりバード/ひよこチック』を使役するのは全て洋輔である。使役している側は、『にわとりバード/ひよこチック』を介して魔法を使うことができ、つまりひよこチックの配置さえできるのであれば、距離もなにも関係なしに魔法を行使できるという優れものだ。また、『にわとりバード/ひよこチック』も渡鶴と同じようにその根底がスーパーコンピュータのようなものであるから、子機であるひよこチックからの情報をにわとりバードが集積できる他、にわとりバードを介する事でひよこチック同士の連携とかもできる。但し、ひよこチックは新しくひよこチックを作る事は出来ない。最後に渡鶴との最大の違いを改めて上げると、渡鶴は『勝手にやってくれる』けど、にわとりバード/ひよこチックは命令しないと何一つ行動しない。
こんな二つのゴーレムは、当然最初の異世界でも異質どころか最上級品とされるものに違いは無い。けれど現状で僕はこのゴーレムの機能に不満を持っている。なのでゴーレムを改良する。
「割と理不尽だよな、それ」
「そう? 改善できるならしちゃった方が良いよ」
「……まあ、そうなんだが」
というわけで、僕の部屋におかれたテーブルなどは一度どかして、適切な大きさのテーブルをピュアキネシスによりでっち上げ。
その上にあらかじめ準備しておいた改善案を展開、洋輔に理論的な部分で問題が無いかを確認して貰う。今回は僕達がちょっと前に知った概念、神智術や呪文の積極的な採用が主な変更点と言えよう。
とはいえそのどちらも僕達が完全に習得したわけでは無いので、概念的なことをぶち込むに過ぎないのだけれど。それでも十分効果は見込めると考えている。
更に、錬金術や魔法との一部連携機能の強化。ひよこチック同士の音声共有なども今回は導入する予定で、僕が用意したとおりの術式を組み込むのだとすると、
「佳苗」
「何かな」
「お前さ。魔力ってリソースが限り有るものだって理解してるか?」
「してるよ?」
「たぶんこれ、術式としてくみ上げると、消費する魔力が世界に過去存在していた全ての魔力をぶっちぎるぜ?」
「でも僕達は魔力を無限に使えるし」
「…………」
錬金術で大量にランダムな効果を与えていたら出来てしまった『無限の魔力として扱える、しかも出力自由』という道具があるからで、僕や洋輔だからというより、その道具の使い方が分かれば誰にでも出来てしまうんだけどね。
「それで、これを実行することによって渡鶴とにわとりバード、ひよこチックに追加されるメイン機能は何だ」
「渡鶴はエミュレーション機能の拡張……より具体的に指定したり、あるいは特定の範囲を連続してエミュレーションできるようにしたりとか、そういうものかな。神智術と呪文が上手いこと概念として取り込めそうだから、これで複製やら並行世界やらが色々と使える。それに加えて、錬金術や魔法との連携強化で、僕のピュアキネシスを拡張するつもり」
「だよな。というか、エミュレーションの強化もピュアキネシスの拡張に必要だったからなんとかひねり出したって所だろ」
バレていたようだ。
「この概念図が完璧に実現できたと仮定しよう。するとお前のピュアキネシスを渡鶴と共有することで、ピュアキネシス内部に『空間のエミュレーション』が行える。もちろん精度に限界はあるだろうからネックもどっかで出来るだろうけど……、お前の本命は錯覚、トリック、技術によるものではなく、もっと直接的な『空間の作成』か」
「うん。屋根裏倉庫の改修、の流れなんだよね」
屋根裏倉庫は十分に役立っている。錬金圧縮術を活用する事でより多くの量を収納できるというのもある。けれど以前、そこに盗人が侵入するという重篤な問題が起き、クリティカルに危険なものは渡鶴が咄嗟に護ってくれたから無事だったとはいえ、一部の道具が盗まれるという事案が発生した。
それを根本的に解決する手段として僕が目を付けたのが、渡鶴による空間のエミュレーションだ。それを僕が展開するピュアキネシスの中に展開させることで、ピュアキネシスに収まる程度の極小世界を運用する。
……というのが、当初の理想だったんだけど。
「理想?」
「うん。理想。まあ、実現の目はいまのところないかな……」
出来たら四次元なポケットとかもびっくりな便利道具として使えそうだったんだけど、そうは問屋が卸さないというか、なんというか。
ピュアキネシスの内部に極小世界を作るという発想は良かったと思うんだけど、ちょっとそれの維持にかかる負担が非現実的だ。具体的には渡鶴がフリーズすること間違いなしである。緊急回避的にそれで再起動が掛かるとはいえ、成功したらフリーズ、失敗したら再試行なんて命令を出したら最後、無限ループに入ると思う。
ちなみに似たような理由でワームホール運用も無理そうだった。
残念だ。
「となると、思ったより劇的な変化はねえんだな」
「うん。今の僕達にはこれが限界かな……ソフィアの力が借りられればどうとでもできそうなだけに、ちょっと残念」
「あいつの光輪術やら神智術やらは便利だもんな」
全くだ。
「それじゃあ今回はこのスペックに底上げはしておく、その上で連動性とかは増やして……、それでおしまいか?」
「そうだね。今までよりもより素の能力が上がるけど、特別新しい機能が付くわけでも無い感じかな。もっとも、素の能力が上がることで渡鶴とより自然な会話ができたり、エミュレーション機能も使いやすくなるから……ま、今回は土台作りということで」
「オッケ。術式くむから、ちょっと待て。この規模だと……、余裕見て、二時間くらい」
「ん」
その間僕は別の改善作業を行うことにする。
近頃その絶対性が疑問視されつつある色別だ。
暫くいろいろな道具の性質を思い出したりして考えてみたんだけど、色別という性質はとても大雑把に『敵』『味方』『中立』の三種類に分けるだけだから扱いやすいわけで、扱いにくくなってもいいならば改善の余地は多いにあった。
たとえば毒や毒消しの効果を確かめる人形がある。それは毒が強くなればなるほど色が濃く顕れ、逆に毒消しの力が強くなれば強くなるほど白く輝く、という、駆け出し錬金術師御用達の道具だ。一定以上に力のある錬金術師にも応用されることがしばしばある。
で、その道具で毒の強さを調べるにも限界がある。そこで登場するのが『表しの指輪』、その道具の品質の階級を教えてくれる道具だ。但し、一般的に『表しの指輪』と呼ばれるそれは機能が制限されていて、特定の道具にしか反応しないようになっている。また、教えてくれるのは等級、つまりその道具が何級品であるかというもので、同じ等級内での優劣は分からない。それでも普通はコレで十分だ。
しかしごくごく一部の、特例の域に踏み込むような錬金術師はそれでは満足しない。そこで作られるのが表しのレンズというもので、それを通せば『全てのものの品質値を強制的に表示する』ことが出来る。問題はその表示対象が文字通り『全て』で、たとえば空中を漂う塵とかも表示対象なので、そのままでは全く使い物にならない、役立たずな道具だ。役立たずな道具だけれど、特例の域に踏み込むような錬金術師達にとって、その程度の使い勝手の悪さはカバーのしようがある。僕の場合は洋輔にレンズの材料の一部をお願いしたこともあって、かなり使い勝手は改善されており、僕がマテリアルとして認識したものを、そのマテリアルとしての品質値で表示してくれるようになっている。あと、レンズそれ自体だと虫眼鏡のように毎回掲げなければならないという不便さがあったので、僕は普通の眼鏡の形にそれを作り、『表しの眼鏡』としたわけだ。
余談になるけど『表しの眼鏡』には現在大量の機能拡張が施されていて、補正値の表示や洋輔の剛柔剣視界の有効化、時間認知間隔の変更に理想の動きに関連する事、表示固定による映像の記録に紫外線・赤外線の可視化、魔力レーダーによる光や音に依存しない暗視に倍率をある程度任意に決定できる望遠機能の遠見などなど便利系が山盛りになっている。これらの機能の使い分けは最近になって魔力以外の方法でも出来るようになり、結果、昔は眼鏡のつるの部分に付けていたダイヤルが意味を失ったんだけど、今度また別の機能を追加する予定なのでデザインは変えていないのだった。その辺はまだしも、こうも機能拡張が増えるともはや『表しの眼鏡』と名乗るのは無理があるんじゃないかと思うこともちらほらとあるけど、『便利な眼鏡』だとなんか特別な道具って感じがしないので現状維持である。
って本当に余談だったな。
ともあれ、これまで僕が眼鏡に付与してきた機能やこれまでに使ってきた道具から、作成が不可能ではないという自信があった。だからむしろ問題はどの程度精密にそれを知ろうとするかなんだけど……、あんまり詳しく数値化するともの凄く見づらくなりそうなんだよね。
七段階と二百五十六段階、あと絶対数値で表示できるバージョンも容易しよう。
現行の三段階も含めれば四種類になるけど、このくらいならばまだなんとかなる。はず。
ふぃん。
完成。
「いや。佳苗。悪いけどその『なんとかなる。はず。完成。』はどうかと思うぜ」
「できちゃったんだから仕方ないじゃん」
というわけで完成品は色別の機能を拡張した、『色別:虹』、『色別:詳細』、『色別:数値』である。虹の追加マテリアルはpH試験紙、詳細の追加マテリアルは十六進数の概念、数値は表しのレンズと同じ魔法だった。
通常の色別が敵対=赤、中立=緑、友好=青で、三つの原色だけで視界が埋め尽くされる。
色別:虹と色別:詳細は緑を中間色として、そこからそれぞれ七段階あるいは二百五十六段階のグラデーションで視覚的に表示を行うというものだ。ちなみにこの二百五寿十六段階、詳細の方で部屋の中をぐるりと見回してみると、洋輔が一番青く、ついで亀ちゃんと渡鶴、にわとりバード、ひよこチックが同等くらいで、それ以外はちょっと緑がかってるけど大体青って感じだろうか。幸い緑よりも赤側に傾いているのは居なかった。
……で。
「まあ、使う前からなんとなくオチは見えてるんだけど」
「あー……まあ、物は試しだろ」
「そうだね」
というわけでラスト、色別:数値を実行。
案の定と言えば案の定、空気中の塵……どころか、どうやら酸素やら水素やらも表示されているようだった。
ううむ、使い物にならん。
「かといって表しの眼鏡と同じ条件付けじゃ意味ないしな……」
「道具だけにでも使えるようにしておくか?」
表しの眼鏡の欠点。生き物の品質値や補正値は表示できない……か。
裏を返せば表示できれば死んでいるとか、表示できないならまだ生きてるとか、そういう意味で使い道はあるから一概に欠点とも言えないんだけど、それと同じ欠点を色別に与えてしまっては本末転倒だ。生き物からの害意や善意を計れなくなる。
「……ううん。どうせ使わないし。いずれ改善するよ。いずれね」
肩をすくめて僕は答える。
その後暫くの時間をかけて、洋輔が術式を完成させ、それを用いて渡鶴とにわとりバード、ひよこチックはバージョンアップが完了。
これでより便利になるだろう。
こぼれ話:
佳苗が最初にやろうとしたこと
→高密度のピュアキネシス(魔力の塊)を造り、そこの内部に世界(内宇宙)を作ることで自由に使える実験場&無制限に収納できる倉庫にしたかった。コスト的に現状では維持不可能と判断(瞬間的な展開ならできそう、とも)。
佳苗が妥協しようとしたもの
→ピュアキネシスを展開し、それを回路として渡鶴に提供することで必要に応じた道具の存在をエミュレーションさせ、そのピュアキネシスをマテリアルとすることで事実上全ての錬金術のコスト踏み倒しをもくろんだ。しかし効果は無かった。そう甘い話はない。
佳苗が実装したもの(渡鶴バージョン1.9パッチノートより)
・新たにAI会話機能が追加されました。プリセットとして渡来佳苗、鶴来洋輔のパーソナリティが設定されています。パラメータを入力することで、新たなAIを作成することが出来ます。
・使役者(ルート最上位権限者)との魔法連動機能が強化されました。
・一部の応用的錬金術の行使ができるようになりました。
・ルート権を持つユーザーに対し、GUIを提供できるようになりました。GUIは視覚に直接投影され、空間に投影は行われません。
・軽微な動作不良を修正しました。
佳苗が実装したもの(にわとりバード/ひよこチックバージョン1.9パッチノートより)
・にわとりバードに現代錬金術用の錬金鍋代替機能が実装されました。
・ひよこチックの生成コストが低下しました。
・ひよこチックの生成に限界数が設定(42億9496万7295機)されました。
・暫定対応としてカラーひよこチックの生成が可能になりました(全十六種)。
・限界数、およびカラーひよこチックの色種類は今後のアップデートで撤廃予定です。
・にわとりバードの魔法補助能力が強化されました。
・にわとりバードを一度経由する必要がありますが、ひよこチックから別のひよこチックに音声を送信したり受信することが出来るようになりました。
・ひよこチックを介して行える色別の種類に、『色別:虹』が追加されました。『色別:詳細』は今後のアップデートで追加予定です。
・軽微な動作不良を修正しました。




