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生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第一章 年々歳々/歳々年々
13/111

11 - 始まる前にも打ち合わせ

 1月4日。

 昨日のお祭り騒ぎを日常のひとつと数えるならば、今日のこれはその裏側、非日常もしくは異常にカテゴリされるような物になるんだろうなあと考えつつも、僕は洋輔と一緒に買い物……を装って、駅を挟んで反対側、滅多に訪れない街の反対側へと訪れていた。

 そして目的地はとある呉服屋さん。

 この呉服屋さんはそこそこ歴史があるようで、お母さんの話によると、少なくともお母さんが生まれたころにはもうあったそうだ。

 入店するといらっしゃいませ、と妙齢の女性が応対してくれた。僕達のような中学生、それも男子が二人で来るのは珍しいだろうに、特に奇異な表情を向けるようなことをしないのは、これまでの経験があるからだろうか?

「何かお探しの品物がおありですか?」

 丁寧な問いかけに、僕は「はい」と答える。

 実は演劇部では次回、時代劇のようなものも考慮されている。なのでちょっと着物関連は参考としていくつか購入したい。

 という自分の目的は別のお店でも果たせるので、当然後回しだ。

「百合の柄が入った巾着袋を探しているんですが、置いていますか」

「お客様がお使いになるのでしょうか」

「いえ。兎を飼っているので、かんざしをこの前買ったんです。それで、折角だから揃えようと思って」

「なるほど。全体の色はどのようなものがお好みでしょう」

「淡い色のほうがいいかな。でも、くすんだ色も大好きですよ。かんざしと色をあわせたほうがいいのかな?」

「そうですね。お持ちですか?」

「はい。お渡しするので、良さそうな物を探していただけると嬉しいです」

「かしこまりました」

 成立しているようなしていないような微妙な会話をしつつ、かんざし入れの小箱を渡すと、女性はたおやかに笑みつつ素早くその中身を確認し、ゆっくりと頷いた。

「すぐに三点ほど準備しましょう。少しお待ちくださいな」

「はい」

 というわけで。

 この老舗呉服屋さんも、喫茶店(パステル)関連のお店だった。

 老舗呉服屋というお店で見るならばその歴史は喫茶店(パステル)とは比にならないほど深く長くあるのだけれど、十年頃前にオーナーが変わっている。そしてその新しいオーナーがさきほどの女性で、その女性の名前は一色(いっしき)マヤと言うそうだ。

(要するに喫茶店(パステル)のオーナーの嫁さんか)

 うん。そういう事らしい。

 なのでここは関連するお店と言うより、殆ど支店のような役割を果たしている。

 僕や洋輔との取引についても当然知っているので、門前払いは食らわずに済んだというわけだ。

 そして少し時間が掛かりそうだったので、お店の中の品物をついでに拝見。

「洋輔。こういう柄で浴衣とか作ったら、着る?」

「いやそれはちょっと。女物になるんじゃねえかな……、しかも結構派手目の」

「それもそうか……じゃあこっちとか。ほぼ無地」

「そっちなら、まあ……。冬場はどうかと思うけど、春先からならアリだな」

 ならば作るか。

「なんでわざわざ浴衣を作るなんて話になってるんだ、佳苗」

「演劇部でね。構想として今上がってるのが二つあって、一つが現代劇、もう一つがちょっとした時代劇。時代劇というかなんというか、そのあたりは微妙なんだけど」

「ふうん? どんなんだ」

「現代劇は本当に、最近起きた出来事としてちょっと描かれる程度みたい。『コメディ強めの若干ラブ、ありきたりな脚本になるっすから、このときは小道具の力を全力で借りたいっすねえ。コメディアンにならない程度にっすけど』って祭部長が言ってた」

「あの人らしいな」

 尚、液晶パネルを足下に設置していろいろな仕掛けを施すことを検討しているのはこっちの方がメインになる。

「もう一つの時代劇もどきは、明治維新前後の話でね。一人の浪人が時代の節目で異国の女性と出会う物語」

「そっちは……、また、難しそうだけど、テーマ的には遠距離恋愛とか国際恋愛か?」

「いや、その異国の女性は早撃ちが得意なガンマンで、浪人とガチバトルする物語だよ」

「なんでだよ……」

 いや、僕に聞かれても。

 脚本を作る祭部長に聞いて貰いたいところだった。

 尚、こっちの脚本が選択された場合、その浪人役は僕がやることになるらしい。

 祭先輩曰く、

『いや、いやいや。俺はそういう殺陣(たて)は出来ないっすよ。ナタリアにしたって、早撃ちのふりをするくらいならまだしも、剣術は無理っす。その点かーくんは剣道がなかなかだとも聞いてるっすから。ファイト!』

 である。

「気楽に言ってくれるな……」

「全くだよね。ま、やれっていうならやるけど。……にしても、明治維新っていえば、やっぱり和装だよね」

「まあ、そうだろう。とはいえ……そんなに上等なものを着ているとも限らねえだろうが」

 それもそうか。

 色無地の……それも、麻とかが妥当だろうか?

「お待たせいたしました」

 と、考えが始まったところで女性が帰ってきた。

 特に写真を見たことがあるわけでも無いし、親子ならまだしも夫婦である以上横には似ないので断定は出来ないけど、たぶんこの人が喫茶店(パステル)のマスター、の奥さんなんだろうな……。

「このような三点をお薦めしますが」

「ああ、どれも可愛い。うーん。洋輔、どの色が一番すき?」

「その三つの中なら、そっちの鶯色かな。けれど百合の花とあわせるならば、淡いひまわり色のそれがいいと思う。あわい黄色は綺麗だぜ。朱色は逆に主張が激しすぎる」

「僕も同感。これをくださいな」

「はい。毎度」

 さて、ここまでは概ね台本通り。三つ提示される巾着袋の色で現時点での喫茶店(パステル)側の行動が分かるような符丁になっていて、今回提示されたのは鶯色・黄色に近いひまわり色・朱色の三色。

 青系統の色が有る場合は何らかの進展があったとき、逆に言えば青系統の色が提示されていないのだから、去年の段階から進展はなし。

 僕達が持ち込んだ者に不備があるときは黒が出てくるけど、それがないと言う事は特に不備は無かったという意味で、最後に朱色が出てきたのは、カモフラージュとして何かしらは買っていけということだ。

 尚、この代金は後で喫茶店(パステル)が補填してくれるらしい。

 包装をしてもらっている間、店内におかれている反物の柄や性質を分析。

 特に気に入った奴は眼鏡の『表示固定(スクリーンショット)』機能で記録しておくことにする。

 但し、残念ながら猫柄は無かった。

(そんな変わった柄がそうそう見つかってたまるか)

 確かに。猫どころか犬でも珍しい部類かもしれない。

「お待たせしました。お代金はこちらになります」

 と、渡されたのは領収書。

 ショルダーバッグからお財布を取り出し、ぴったり払ってはい、おしまい。

「ありがとうございます。良いお買い物ができました」

「気に入って貰えたならばなによりで」

 かくして呉服屋から出ると、僕と洋輔はそのまま駅をまずは目指す。

 特に他に用事も無いし、まだ開いてないお店も多いしね。

「買い物と言えば、お前、猫の福袋は結局どうした?」

「四つ買ってきたし全部並べてあるよ」

「なるほど、四つか……四つ?」

「うん。全部中身が違うって言うから、じゃあ四つくらい買ってくかーって。店長さんがきょとーんってしてたよ」

「そうだろうな。するだろうな」

 ちなみに一袋五千円だった。

 今年分のお年玉は余裕で吹き飛んでいるけど、それはそれ。

「けど、どこに並べたんだ。少なくとも俺には見覚えが無いぞ」

「洋輔、二日はカーテン閉めてたからね。その間に全部やっちゃったから……。あとで見に来る? 亀ちゃんのキャットタワーの横に棚を作って、その棚の中に陳列してあるよ」

 尚、本当に福袋の中身は全部違ったのでびっくりした。

 普通は一つ二つ、共通の雑貨品が入ってるもんなんだけどね。

「そういえば福袋の中身にカーテンもあったな。あれ、どうしよう」

「使えば良いじゃねえか」

「そうしたいのは山々だけど、僕の部屋はあんまりカーテンを閉めるつもりもないからね……」

 どうしてもと言うときとか、あとは洋輔がこっちに来ているときで、外から見られたらまずいことをしているときとかは閉めるけど。

「語弊があるぞ、それ」

「でも、間違ってないよ」

 魔法にせよ錬金術にせよ、見られたら困る事というのは存外多いのだ。

 とはいえ、僕や洋輔のような年代だとお年頃なので、鍵やカーテンをかけていても特に不審がられないのはありがたいことだった。

「……まあな。とはいえあんまりそれを盾にしてると色気づいてると思われるのも困りものだ」

「洋輔の部屋と違って、僕の部屋にはえっちい本は無いから安心だよ」

「屋根裏に劇薬が大量だけどな」

「ね。あとは棚の奥に金塊とか宝石とかね」

「冷静に考えるまでも無くそっちのほうが問題じゃねえかな……」

 いやあ、でも健全だし。

「健全……?」

 なんか違うんじゃねえの、という洋輔のニュアンスは黙殺。

 している間に駅に到着、地下道を通って駅を通り抜け、いつもの見慣れた駅前通り。

 スマホで時間を確かめれば、現在時刻は丁度昼時。

「どうする、洋輔。何か食べて帰る?」

「この時間、混むんじゃねえかな」

「だろうとは思うけど」

「なら、家で食おうぜ。焼き鳥食いてえ」

 了解。

 じゃあ折角だし買い物も手伝って貰うとしよう。

 まずは駅前通りの商店街でお肉屋さんへと直行、お肉類を適当に購入。

 洋輔のリクエストは焼き鳥なので鶏もも肉を多めにしておいた。余ったら唐揚げにでもしよう。

 次に八百屋さんで長ネギなども購入。今晩はお父さんが八宝菜を食べたいとも言っていたので、それ用の材料もついでなので揃えよう。

 さらにお豆腐屋さんで豆腐や油揚げなどを購入して、っと。

「ん? ああ、かーくんっすか?」

「え? ……祭部長? こんにちは」

「こんにちはっす。あけましておめでとうっすね」

「はい。メッセージでは済ませていますが、改めまして。あけましておめでとうございます」

 丁度そんなときに話しかけてきたのは、祭部長である。

 噂をしたわけでもないけど、微妙に作為を感じないこともない遭遇だった。

 いや、祭部長の家がもの凄くここから近いっぽいので、確率的には高いんだけど。

「それでかーくんは……えっと、野良猫を撫でてるっすか?」

「いえ、この子は野良じゃないです。飼い猫ですよ。ほら、首輪も付けてる」

「ああ、本当だ」

 ちなみに今僕が撫でているトラ猫は三島さんの所のヒデくん、五歳のオス。別に逃げ出しているわけでは無いと言う事を知っているので、普通に扱っている僕だった。

「じゃあ、えっと、そっちでくたびれているよーくんは何をしてるっすか?」

「見ての通り、僕の買い物の荷物持ちです」

「…………。災難っすねえ」

 他人事のように祭部長は呟いた。

 他人事かよ、と洋輔も呟いた。

 洋輔のソレはたぶん僕に対して、そして祭部長に対してもなのだろう。

「それにしても丁度良かった。祭部長。ついさっき僕たち、呉服屋さんで色々とみてきたり、あとは技術的な確認もしてきたんですけれど」

「ああ、脚本案の件っすね。なにか面白そうなものがあったっすか」

 本当に丁度良かったので、とりあえず明治維新前後の和装、および洋装は資料さえ見つかれば再現それ自体は問題なく出来そうなこと、刀や銃の模型も特に問題なく調達できることを伝達。尚、刀にせよ銃にせよ本物を準備するほうが簡単なのは内緒。

 むしろ現代劇における足下ランプのほうがよっぽど技術的には厳しいことも伝え、その上で脚本上で指定される演出はなんとか実現のメドを立てるつもりだとも言うと、

「足下ランプに関しては、ぐみぐみ先輩の知恵も借りるっすかねえ。それとかーくん、時代劇の場合は血糊に変わる表現もほしいっすけど、何か知恵はあるっすか?」

「血糊はNGなんでしたっけ?」

「あくまでも学校の部活っすから」

 それもそうか。

「なら、造花の花びらを使いましょう。クラッカーの容量で吹き出すような形にも出来ますし、照明を利用すれば血糊以上に上手く行くかもしれません」

「ふむ。それは……、学校が始まったら、早い段階で確認するっすか」

「ええ。そうしましょう」

 というわけでやることリストに追加しておかなければなるまい。

 尤も、既にそこそこ使われている表現だ。たぶん問題なく実現は出来るだろう。

「それじゃあ、俺は行くっすよ。かーくん、よーくん、また学校で」

「はい。また」

「あの、できれば、佳苗に一声早くしろって先輩からも言ってくれません?」

「俺の手には余るかな……」

 がんばれ、と親指を立てて去って行く祭部長は領分をわきまえているようだった。

 とはいえさすがに洋輔も可哀想か……猫をなで始めて既に二十分は経っている。

「おう。さっさと昼飯にしようぜ」

「……そうだね」

 ヒデくんとはまたね、と挨拶をして、っと。

 荷物の一部をあずかって、一緒に帰路につく。

 非日常と日常が少し重なっているような、そんな妙な感覚があったけれど。

「それでも平和は平和だろ。得がたいもんだぜ、存外な」

 僕の心情を理解した上で、洋輔はそんな事を言って空を仰ぐ。

 視線を手繰ればそこには空撮中らしいドローン。見覚えの無い形だった。

 念のための色別、結果は緑。品質値は尋常では無く、民間品とは考えにくい。

「……どう見る?」

「さあ?」

 判断のしようがねえよ、と洋輔は首を振った。

 ごもっともだった。

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