表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生命存略夢現  作者: 朝霞ちさめ
第一章 年々歳々/歳々年々
12/111

10 - 懇談会でお節介

 懇談会。ジュニアユースチームのメンバーがホスト役で、それ以外の参加者らはゲスト扱い。といっても、特に特別なことをするわけでは無い。

 単にお昼ご飯を皆で食べながらああでもないこうでもないと雑談をして、新年の抱負でも語ろうでは無いかと言うものである。

 で、ここに揃っているメンバーではカミッロ先輩がやっぱり頭一つ抜けている。

 そりゃまあ中学生のジュニアユースから高校のユースに進むのではなく、そのままトップチーム、つまりプロに即昇進が決まっている逸材なのだから当然だ。

 当然なのだけど。

「うー。のりとー。のりとのばかー!」

 と、見た目にそぐわぬ子供っぽさで藍沢先輩に文句を垂れていた。

「ばかばかー! もっとこうコメントに困る感じの防御能力を期待してたのに、筆舌に尽くしがたいような結果を出して暮れちゃってさ!」

 結局コメントに困っているのではないだろうか、それ。

「佳苗。他人事してねえで弁当」

「ああ、うん。はい」

「さんきゅ」

 というわけでお昼ご飯だ。

 今朝作ったお弁当は、食べやすい大きさに整えたおにぎりと、鶏肉のソテーを主体に全十七品目から構成されている。

 尚、洋輔の好物をおおめにしておいた。

 そしておかずは重箱に入れてきたので、僕と洋輔が一緒に突く形になっている。

 更に言うと、結構多めに作ってきている。

「めっちゃ豪華……。佳苗、洋輔、ちょっと食べちゃ駄目?」

「もちろん構わないぜ。前多が来るのを知ってればあらかじめ聞いてたんだけどな……ま、それを別にしても他の皆がつつけるように、結構多めに作って貰ったんだ」

「そういうことだから、遠慮しないでね」

「やた!」

 葵くんが初手で選んだのは案の定鶏肉のソテー。一口食べたところで目を輝かせている当たりチョロいと思う。

「かーくん! よーくん! 私もたべたいわ! 私のおかず分けるから!」

「どうぞどうぞ」

 そして次に皆方先輩が選んだのはエビのチリソース、いわゆるエビチリである。皆方部長も満足そうにしてくれたようで何よりだ。

「いや、マジで豪華だなかーくん。……一応聞くとこれはかーくんのお母さんが作ったのか?」

「いえ、僕が作りましたけど」

「だよな。だと思った。……料理も出来るんだな」

 そして呆れつつも藍沢先輩はパイ生地でくるんだ豚挽肉の揚げ物をパクリ。味付けが気に入ったらしく、まじまじとそれを見ている。

「のりと! 説教中にごはん……あ、美味しそう。食べて良いかい?」

「構いませんよ」

「よっしゃ!」

 そしてカミッロ先輩が選んだのはうずらの卵をベーコンで包みとろみ餡で仕立てたアイデア料理……というかなんというか、ともあれそれだったのだけど、これもまた気に入って貰えたらしい。

 で、この流れは……。

「たたすけー、って、うわ、なにこの豪華ご飯。皆つついてるし。おれも良い?」

「もちろん」

 案の定やってきた来島くんが選んだのは小ぶりのハンバーグ。本当はチーズを入れたかったのだけど、お弁当という状態から諦めた。あっためる設備なんて無いしな。小細工でどうにかする余地はあったけど、浮くし。

 皆でお弁当をつついている状態、なんかこれはこれで良いよな。ちょっとしたパーティーみたいで。

 そして和気藹々としながらも、さきほどの紅白戦に関する感想戦のようなものが始まった。

 白組の徹底防御と紅組のチームプレー。どちらも完成度は、急造品にしては十分すぎるものだと。

「今回、いまいちぱっとしなかったからなー。おれ。全然シュートまでいけなかったし」

「そりゃ悪かったな、来島。けど白組は今回、それがコンセプトだったというか……」

 ちらり、と藍沢先輩を洋輔が見ながら答えると、藍沢先輩は苦笑を漏らして言う。

「それが『おれ』のサッカーだからな。すまん」

「いいえ、別に。そういう藍沢先輩に憧れたのも事実なんで」

 くすくすと笑って来島くんは言う。

 憧れ、か。

「でものりと、もう一つのスタイルだったら今回の戦いは大分違ったんじゃ無いかな?」

「ああ……『ぼく』のサッカーをしろと言うことかい、カミッロ。それは無理だ」

「なんで」

「そりゃあ『ぼく』のサッカーがレベルでいくつも劣るからさ」

 『ぼく』と『おれ』。

 藍沢先輩はサッカーにおいて、そのふたつを使い分けている。

 本来は『おれ』のサッカーで、中学校の部活では『ぼく』のサッカーをしていた……と聞いているから、スタイルで言うなら『おれ』がディフェンダーによる徹底した守備で、『ぼく』はフォワードで攻撃に参加するタイプのものなんだろう。

「カミッロ。『おれ』は高校で、この二つのサッカーをなんとか纏めてみようと思う。幸いというかなんというか、完成形としての実例をこの目でみることもできた」

「中学のサッカー部も無駄じゃ無かったって事だね。だとしたらなによりだよ。のりとがもっともっと強くなればなるほど、自分が楽しめるからね」

 くすくすと。

 カミッロ先輩はあくまでも明るく振る舞う。

「早く仕上げておいで、のりと。自分はのりとを待ってるよ。一足先に、プロで」

「おう。八年くらい待ってくれ」

「うん……うん? 八年? いや長いよ? のーりーとー?」

 そしてこんな予定調和も絡めつつ、話題を戻して紅白戦の検討。

 まず、紅組が白組の防御を突破できる見込みはあったのかどうか。

「可能性があるとしたら自分がチームプレーを放棄して、単騎特攻をしかけた時かな? うーん。のりとだけなら躱せるかもしれないけど、ようすけ、君に捕まる未来が見えるようだよ。大体、あのフレーム当てもわざわざ遮ってくれてさー」

「前に見たプレーです。しかも、俺もカミッロ先輩と一緒に痛い目を見た口ですから」

「……そうだったね。その視点が自分にはかけていたか」

 日々精進が必要だね、とカミッロ先輩は言う。

 じゃあ逆に白組がもうちょっと積極的に攻撃に回っていたらどうだろうか、と言う点についても、大枠では意見が一致し、それをカミッロ先輩が綺麗に纏めた。

「与和が頑張ってればというより、その場合も鶴来洋輔、君が鍵になっただろうってことは間違いなさそうだね。今回は守備を強くやったけど、比重を少しでも攻撃に傾けていれば、両方のチームが結構な得点を取ってただろう。それを嫌った理由までは分からないが……」

 当然、それは洋輔に対する振りだったし、洋輔もそれを察したからかあっさりと答えた。

 別に隠すことでも無いと言いたげに。

「負けたくなかった。それだけです」

「けれど、護ってばかりじゃ勝てないだろう?」

「守り切れば負けは無いですよ」

「悲観的だなあ」

「そうでもないです。だって――」

 護って護って護りきれたならば、その時は相手の攻撃に防御が勝ったということなのだから。

 洋輔はそんなことを当然のように言ってのけ、カミッロ先輩が表情を歪めた。言わんとしていることは理解して言えるのだろう、けれど自分の信念とはあまりにもかけ離れていたのだろう。

「実際、それで完封されてる以上、引き分けとはいえ紅組の負けかな。やれやれ」

「いや、心情的な話なので。成績的には引き分けは引き分けですって」

「まあね」

 と言ったところで、少し話題が横道に。

 それはここに居る、特にサッカーに関連している子たちの進路の話だった。

 但しカミッロ先輩のプロ入りは例外的な存在であってノーカンとする。

 すると、高校ではサッカー部でサッカーを続けるという子が全体の三割ほど、別の四割ほどはユースチームからトップチームを目指し、別の二割は未定。のこった一割、具体的な数字にして三人は、中学一杯でサッカーを辞めるつもりだという。

「別に、サッカーが嫌いになったわけじゃないんだけどね。でももう、十分だよ。ジュニアユースでそれなりに成績を残したつもりだけれど……、だから、どうも天井が見えちゃってな」

 三人のうちの一人がそんなことを言う。

 天井。つまり、限界。

「それは才能の話かい? だとしたら随分と贅沢なことを言うね」

 カミッロ先輩の問いかけに、けれどその子は首を横に振った。

「俺に足りないのは、頑張るって才能。これ以上、俺にはサッカーを頑張れない。必死になれない……だから、きっぱり辞める。高校に入って、それとなくやることはあっても、それだけだろうなあ……」

 飽きたわけじゃ無い。嫌いになったわけでも無い。

 ただ、もう、頑張れない。

 あるいはどんなに才能溢れる選手でも、モチベーションを失えばもはや続かない。けれど嫌いじゃないから、たまたま気分が乗ればたまたまやることはある。

 天井というのは才能や技量のそれではなく、やる気。

 それも自然な、心のありかたなのだろう。

(だとしたら表現は天井と言うより、底のほうが正しそうだけどな)

 あ、洋輔だ。

 おかえり。

(おう)

 というわけで洋輔との感覚共有が復活した。

 いやまあ、ものすごく今更ではあるのだけど、試合中にスタンドからの事実上の鳥瞰視点を持ててしまうだとか、スタンドで行われる会話が聞こえてしまうのは問題なのでは無いか、それだけならまだしもスタンドで僕が何か奇妙なことを考えた時それにいちいち突っ込みを入れるのがめんどくさい等の理由で、お互いに『王者の仮面(マスク・キング)』という道具を使い、一時的に感覚や思考の共有を閉じていたのだった。

 こういう道具を使わないと常に思考が漏れるというのはもう慣れたけど、なんというか、それが無いと無いで……ちょっと寂しかったのは内緒。

(いや内緒になってないからな、もう)

 そうだった。

 今の無し。

(……まあいい)

 で、どうしたの? わざわざこっちで思考を伝えてくるなんて穏やかじゃ無いね。

(ここに居る怪我人を全員、それとなく治してやってくれねえかな)

 …………?

 洋輔ならリザレクションができるし、そっちのほうが早くない?

 と、周囲を見渡してみる。そもそも明確な怪我人なんて居ないな。

 試合を見てた限りでは、確かに数人怪我をしてるっぽいのは居たけど。

(だからだよ。それを一気に治しちまうと不自然だろ。俺やお前だってそうだった)

 まあね。

 洋輔が使える回復魔法はリザレクション。

 これは回復魔法としては最上級で、それが怪我であるならば問答無用で完治させ、病気や毒でもある程度は解消してしまうと言う理不尽な、厳密に言うと『健康な状態に戻す』ものである。それは殆ど瞬時と言って良いレベルの速度で行われるため、『死んでないならセーフ』理論によりどんな大怪我あるいは致命傷であっても即死していないならば治してしまうという、致命傷って何だろう、なんて哲学と向き合う魔法だ。さすがは魔導師である。

 当然僕には使えない。

 というか、普通の治癒魔法ですら苦手だったり。

(けど、お前の場合は道具でどうとでも治せるだろ)

 まあ、そうだ。

 単なる怪我ならポーションで治癒する。

(その怪我ってアレだよな。上半身と下半身がさようならしてる状態も含むよな)

 僕が普通に作るポーションの品質値は30000で固定しているから出来る芸当であって、普通そういう状況ならばエリクシルを使うんだけどね。

(いやエリクシルとはいえ治せるのが怖いんだが)

 道具も使わず治す洋輔には言われたくない。

 尚、エリクシルとよく似た効果を持っているエルエッセンシアという道具でも治せるんだけど、あの道具一定時間で元に戻しちゃうデメリットが付いている。デメリットがある分効果が高いんだけど、デメリットが無い普通の道具の品質値を馬鹿高く出来る僕には本来の効果では使わないという可哀想な子だ。とはいえ、エリクシルにせよエルエッセンシアにせよ、あるいはポーションにせよ、効果はやはりほとんど瞬間的に顕れちゃうんだよね。ふりかければそれでいい。飲んでも良いけど。

 よってそれらの道具では洋輔のリクエスト、『ゆっくり、気付かれない程度に治す』のは難しい。

 なので賢者の石という、魔力を流している間周囲に回復領域を作るような道具を利用したい。あれは出力を品質値や補正値で設定できる上耐久値という数字が残っている限り効果を持つため流用が聞く、とても便利な道具だ。

 ……ただし、回復領域から外れたら当然回復効果は起きない。

 ゆっくりと治すって考えると……、あれだよね、今日中に完治してるようじゃダメってことだよね。

(それが理想だな。どうしても無理ならそれでも良いが)

 ふむ。

「サッカーやってた子に聞きたいんだけど、サッカーのシューズって皆、どのくらいの頻度で買い換えるの?」

「んー? そりゃ人によるんじゃないかな。自分とかは結構な頻度だけど、それでもそうそう買い換えはしないかも」

 と、答えてくれたのはカミッロ先輩。

「じゃあ、この一ヶ月くらいで買い換え予定って子はいる?」

「妙な質問だな、渡来」

 どうしたんだいきなり、とは来島くん。そりゃそうだ。

「いやあ。僕もバレーだけど、結構シューズ類とか買い換えがあって。でも屋内スポーツだから、屋外スポーツだと頻度が高いとか有るのかな? って思ったんだ」

「鶴来に聞いた方がはやくないか?」

「洋輔の物持ちの良さは尋常じゃ無いから……、あんまり当てに出来ないんだよ」

 僕の苦しい言い訳に、けれど洋輔以外は誰も違和感は覚えなかったらしい。

 で、特に買い換える予定があるという子は居なかった。あえていうなら三月四月に買い換えることが多いとも。

 ならば十分だろう。

 渡鶴を介してマテリアルを認識。賢者の石の治癒効果を継続して展開する猫の置物の応用で、その猫の置物を道具として概念化、つまり自動で常時稼働状態の賢者の石として性質を獲得し、その性質をこの場に居る全員のシューズに付与……いけそうだけど、音をどうしようか。

(俺が誤魔化す)

 了解。タイミング会わせて。

(おっけ。3、2、1……)

 ふぁうん、と。

 錬金術を実行する音が鳴り響く――それと同時に、上空をバタバタバタバタと、ヘリコプターが通る音がして、錬金術の効果音が掻き消された。

 随分と都合の良いヘリコプターだな、と空を眺めると、しかしヘリの姿は見えない。

(周囲の風を操作してヘリの音を表現しただけだ。冬華が猫形態でも発声してたのと原理は同じ)

 声を強引に魔法で作るという発想はまだしもヘリってどうなんだろう。

(いやヘリの音のほうが再現は容易だからな?)

 …………。

 それも、そうか……。

 とまあ、そんなやりとりを内心でしつつ、全員のシューズに効果が付与されているのをざっと確認。

 大体六十日ほどかけてゆっくりと治してくれることになる。これで良い?

(最上だ)

 それは良かった。

「午後は紅白戦、メンバー入れ替えてやるんだよね。つぎはどんな組み合わせになるの?」

 と。

 丁度良いタイミングで葵くんが質問をすると、藍沢先輩が説明を始めた。


 結果から言うと、二回目の紅白戦は9-8というおよそサッカーとは思えないスコアで終わった。

 内容もざっくりで済ませるならば、『フォワードの藍沢先輩』とカミッロ先輩というツートップに対して、来島くんと洋輔がどこまで対応できるかという勝負になっていたんだけど、洋輔は一人では対処できないと判断したらしく、点取り合戦化した結果である。

 キーパーの子、トラウマになってなきゃいいけど……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ