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雨の日のこと

雨が降ると坂井さんを思い出すことが多い。坂井さんが初めて家に来た日、あの日も冷たい雨が降っていた。



午前4時、夜が長くなってきた季節、外はまだ暗い。あたしは気絶したようにぐったりと眠る坂井さんの傍らに座っていた。もう2時間も彼のことをこうしてじっと見つめているのだ。

ここはあたしの家。どうして彼がいるの?あたしはほんのつい先ほどの出来事を思い返した。


時刻は1時くらいだっただろうか、あたしはナニワ駅から家に向かって歩いていた。

一人暮らしを始めて、初めて実家に帰ってぐだぐだと居座っていたら一人暮らしの家に帰るのが遅くなってしまったのだ。

雨は傘をさしていてもあたしの手を容赦なく濡らした。濡れた手は冷たい空気に冷やされてかじかんだ。

酔っ払いが騒ぐ居酒屋街を早足で抜けた先に、ぐでっと座り込んでいる男がいた。あたしは呆れて通り過ぎようとした。

「あれ、亜沙美ちゃん」

ふにゃふにゃとその男がそう言ったように聞こえてあたしは男の方を振り返った。その男は坂井さんだった。あたしはびっくりして彼に近づいた。

「坂井さん!なんでこんなとこに?濡れちゃいますよ、そんなとこに座ったら。」

あたしは彼に傘を差し出した。

「亜沙美ちゃんこそ、こんな遅くに、何してんの?ハハハ…」

彼はかなり酔っているようで、呂律が回っていなかった。あたしは傘を首で挟み、精一杯彼を担いだ。このまま彼を放っておけなかった。

「坂井さん、ここに居たら風邪引いちゃいますから。」

彼はうーうーと言うばかりでまともな返事はない。あたしは自分の家に向かって歩き始めた。ほぼ坂井さんを引きずるようにしながら。

なんとか家に着くと、あたしはくたくたになった。坂井さんは細身ではあるけれど、何と言っても男性だ、とても重かった。坂井さんは反射的に靴を脱ぐとふらふらと少し歩いて居間で倒れた。あたしは彼の濡れた体を服の上から遠慮気味にタオルで拭いた後、布団を掛けた。


ふと目が覚めた。携帯を見ると朝の10時。いつしかあたしも眠りについていたようだ。そうだ、坂井さん。そう思って横を見ると、驚いた様子の坂井さんが布団から起き上がってこっちを見ていた。

「あの、昨日、道に倒れていたので、風邪引いたらあかんと思って…。」

あたしは半ば言い訳のような口調でそう言った。

「ここ、亜沙美ちゃんの家?あー、やってもうた…。ごめんなさい、ほんまに。」

「あ、そんなそんな。ただ、少し驚きましたけど…。めっちゃ濡れてましたけど、大丈夫ですか?」

「いや、ほんまにすんません。大丈夫です。」

風邪を引いたりしていないようで安心した。

坂井さんは焦ったようにすんませんと何度も言いながら玄関に向かった。

「お邪魔してしまってすんませんでした。それでは、失礼致します。」

「あ、あの気を付けて。」

彼は最後に深くお辞儀するとまだ酔いが覚めない様子でふらふらとアパートを後にした。


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