目覚めて
雪菜は誰かの言い争う声で目を覚ました。
「起きないじゃないか。本当に大丈夫なんだろうな!」
「毒は浄化したし、問題はないはずだよ。文句があるなら自分でどうにかしてくれるかな」
どうやら怒鳴っているのはザガートのようだが、もう1人は誰だろう?声からすると女性のようだが、酷く不思議な声だった。例えるなら、物凄く人間的で滑らかに話す機械音声だろうか。つっかえる事もなく話しているのに、何処か違和感が拭えない。
どうしてだろうと思いながら、やけに重たく感じる瞼を必死に上げた先にいたのは、予想通りのザガートと、見たことのない美少女だった。
金色の髪に紅い瞳。年は17くらいだろうか?整った顔立ちに、今は心底鬱陶しそうな表情をしているが、笑顔を浮かべたらどんな男の人でも魅了してしまえるのではないかと思ってしまう。
ザガートの恋人だろうかと思ったところで、何故か胸の奥が鋭く痛んだ気がしたが、それを自覚する前に此方を見ていた美少女と目が合った。
「ほら、起きたじゃないか」
「っ雪菜!大丈夫か!?」
ガバッと音がしそうな勢いで振り返ったザガートは、その勢いのままに雪菜を抱き締めた。正直何が起きたのかまだ良くわかっていない雪菜にとって、何故ザガートがこんなに心配しているのかがわからず混乱する。
そんな雪菜に事情を説明してくれたのは謎の美少女の方だった。
「キミ、ザガートが渡した実の毒で倒れてたんだよ。ワタシが解毒したけど、何処か辛いところは?」
「え?あ、大丈夫です」
そう言われれば、ザガートに貰った果実を食べた途端に苦しくなって倒れたのだと思い出した。
しかし今は少し怠いかな?というくらいで特に不調を感じるところはないので、大丈夫だと返しておく。
「東雲 雪菜といいます。助けてくれてありがとうございました」
「別にそんな畏まらなくても良いよ。ワタシはリラ。そこのヘタレ馬鹿の友人だ」
謎の美少女はリラさんというらしい。ヘタレ馬鹿、はザガートの事だろうか?
実は今も雪菜を抱き締め続けているザガートを恐る恐る見ると、物凄く機嫌が悪そうな顔をしていた。
「誰がヘタレ馬鹿だ」
「うっかりで猛毒のソドの実を人間に食べさせた上に治療の協力すら出来ないキミのことだけど?おかげで貴重な薬草を使うはめになったじゃないか」
撃沈するザガート。どうやら雪菜の治療の為に何かあったようだが、そんなに難しい要求をされたのだろうか?
「全く、たかだか口移しで薬を飲ませろと言ったくらいで」
予想以上に高難易度だった!納得すると同時に少し寂しいような気持ちになる。
雪菜としてはザガートになら口移しされても問題ない。自分でもどうしてここまで無条件に信頼できるのかわからないが、理屈ではないのだ。
でもザガートからしたら、会ったばかりのよく知らない小娘に口移しで薬を飲ませるなんて出来ればしたくないことだろう。
今でも充分気遣ってもらっているし、面倒をかけている自覚もある。なのにそれ以上を望むなんて我儘過ぎる。雪菜は自分の思いを無意識に封じ込めた。
それにしても、意識のない人間に薬を飲ませるのは確かに大変だろうけど、今こうして雪菜が目覚めた以上口移し以外の方法で薬を飲ませてもらったのだろう。しかし、それなら何故わざわざリラは口移しと指定したのだろうか?
貴重な薬草を使ったと言っていたが、口移しするかどうかでそんなに成分を変える必要があるとは思えないのに・・・・。
口論するザガートとリラを眺めながら考える雪菜だったがいくら考えても答えは出てくる筈もなく、そうこうしている間にザガートの方が言い負かされた様だった。
次回は説明回になる予定です。