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第22話 刹那に散り行く龍桜

 神楽坂桜。彼女はここの旅館の後継ぎらしい。その事を重荷に感じていたようで堅苦しかったが、俺達と言葉を交わす内に少し打ち解けてきたのだった。

 「そういや桜ちゃんって、私と同い年なんだよね!?私嬉しいなー。箱根まで来て、同い年の友達を作れたんだもん!」

 そう言って美咲は桜の手を握る。

 「と、友達……。……桜は初めてです。同い年の人・同年代の人とこうやって砕けたお話するのは。」

 桜が少し照れた調子で言う。その様子を見た美咲は、桜にギューっと抱きついた。

 「桜ちゃん!私が親友になってあげる!この旅行が終わっても友達でいようね!」

 桜は抱きつかれて激しく狼狽を見せていたが、美咲の言葉を聞いて少し切なそうな表情を浮かべた。

 「……桜もそうしたいのですが、お友達を持ったと言えばお母様が何とおっしゃるか……。皆さんと別れた後のことを考えると、桜の心は不安になります……。」

 桜が属す神楽坂家は、何やら訳ありだと言っていた。だが俺が思うに、その原因の1つは……。

美咲の抱擁から解放された桜の方を向き、俺は言った。

 「なあ桜……その気持ち、母親に言ったことはあるのか?」

 「……!」

 桜が驚きに目を見開く。気にせず俺は言葉を続ける。

 「……やっぱそうか。なあ桜、確かにお前は神楽坂家の人達と距離があるのかも知れない。でもな、自分から歩みよらなきゃ、何も始まりはしないんだ。」

 「……そんなの、私は……!」

 桜は言葉に詰まっていた。俺は声音を優しくして言葉を続けた。

 「だからさ……桜、少し、お母さんと向き合ってみたらどうかな……?…………せっかく、話せるんだから。」

 「……………………」

 「大丈夫。俺達も……支えるから。俺達もう……友達だろ?」

 桜の瞳から1滴の涙が溢れ落ちた。涙はどんどんと溢れてくる。しかしそれと同時に、どこか憑き物が落ちた顔になった。しばらくして落ち着いた桜は、華々しい笑顔を咲かせて言った。

 「……はい!その……ありがとうございます!………明日、話してみたいと思っています。」

 「いい返事だ。さ、んじゃ夜も遅いしそろそろ寝……」

 ドゴォォォォン!

 轟音に驚き外を見ると、さっきまで俺達が入っていた温泉が跡形も無く消滅していた……。


 「何だ!?」

 全員で外に出て、上空を見上げる。

 するとそこには、黒い竜が翔んでいた。

 「ドラゴン……!?なんでそんなもんがここに……!?」

 疾風が狼狽の声をあげた。

 「くそ……冗談じゃねぇぞ……!それにこの気配……気を付けろ皆!敵さんのお出ましだぜ……!」

 先程消し飛んだあたりから、次々と人影が現れる。それらは明らかにこの旅館を狙っているようだった。

 

 「裁き……"掌破(しょうは)"!」

 「真空のメル・スラッシュ!」

 「裏一節……神滅の矢!」

 「雪月風花・秋……紅葉颪(もみじおろし)!」

 俺、疾風、佳奈、由季が、神技と霊装で敵を薙ぎ倒していく。だがしかし……

 「コイツら……弱いくせに数が多い……!」

 敵の一人一人は弱いのだが、いかんせん数が多い。逃げる他の宿泊客を護りながらでは、さすがに埒が空かなかった。

 「せぃやぁぁぁぁぁ!」

 「ハァッ…………!」

 接近してくる敵に対しては、美咲と双葉がなんとかしているがやはり数が多い。……だが。

 「おりゃぁぁぁぁ!くたばれや雑魚どもがぁ!神大達はドラゴンをやれぇ!」

 一馬さんがだいぶ活躍していた。さすが元不良グループのリーダーである。

 しかしそれでも敵の勢いは止まらない。敵の一人が、力を持たない渚へと襲いかかろうとしていた。

 ……その時だった。

 「神楽坂流拳技・一ノ型……"孤竜一天(こりゅういってん)!!"」

 桜から放たれた右ストレートが、その敵を遥か遠くじへと吹き飛ばした。

 「……神楽坂流拳技・皆伝、神楽坂桜……助太刀します。神大さん達は行って下さい!」

 神楽坂の少女は心強い味方だったようだ。

 俺達は包囲網を駆け抜けて、ドラゴンの真下まで向かった。

 「神大君、疾風君、ここは私と佳奈に任せて……!」

 「……分かった!」

 ドラゴンの真下の敵の密集地帯を由季と佳奈に任せ、俺と疾風は神技を使い、空へと飛翔した。


 「やれるものならやってみなさい……!私は直属魔兵団5番隊隊長ヴァイオレット・キースよ。竜使いの私が操る、黒曜石で強化されたこのドラゴンに焼き払われなさい!」

 ドラゴンがいきなり巨大な火を吹いた。俺と疾風は避けようとしたが間に合わない。……刹那。

 ドラゴンの顔面が砕け散り身体までもが消滅した。そしてそれを操っていたヴァイオレットまでもが、一瞬で消滅してしまった。

 いきなりの出来事に付いていけない俺と疾風。その目の前に現れたのは、体格の大きな一人の青年だった。

 「俺の名は龍。龍神(たつがみ)(りゅう)だ。"波動"の神技使いでもある。神条神大と音神疾風だな?皆に声はもうかけてある。明日、神凪島の北東にある洞窟前に来てくれ。」

 そう言って彼は姿を消した。

 「何だったんだ……一体……」

 ヴァイオレットの手下達も粗方いなくなっていた。何はともあれ、敵を撃退することが出来たのであった……。


 翌日。旅館を去ろうとした俺達の元に、荷物を背負った桜がやってきた。

 「本当にありがとうございました!私……お母様と話し合うことができました。それで……神凪島に行くことになりました!」

 ………………………………

 「「えええええええええ!?」」

 俺達の絶叫が、空に響き渡ったのだった……。


 帰りの船。皆が船内で盛り上がってるいる中、俺は船舶へと出て、一人悩まされていた。

 (なんだこの違和感……。昨日からか……?時間の密度が…………薄い。)

 昨日の夜、桜と出会った後の辺りからは余計にそうだ。襲撃の時だって、もっと長い間戦っていたはずなのに、一瞬で過ぎ去った出来事のように思える。俺の思い違いならいいのだが、一体何が起こっているというのだろうか?

 (龍神……龍……。アイツは何を知っているんだ……?……!まてよ…………アイツも神技使いって言っていた……。皆にも声をかけてあるって……!つまり……7人が……揃う!)

 

 これは、由季にも疾風にも、誰にも話したことの無い……俺の記憶の中に、最初から存在していた言葉。

 [神技使いには、生まれた当初から、世界の(ことわり)に関する記憶が存在している。それを、"喪われた記憶"『ロスト・メモリー』という。]

 今まで誤魔化してきていたが、これが俺の、本当の"喪われた記憶"だ。そして俺にはもう1つの"喪われた記憶"が存在している。

 [神技使いが集いし時、記憶の災厄は招かれ、隠された世界の真実を知ることになる。時を狂わせぬ為、その力を泉に注ぎ込まん。]

 この言葉と、時間の密度が薄く感じることは関係しているのだろうか……?

 神凪島へ向かう船。俺は一人、これから待ち受けるであろう真実を受け止めようと心を落ち着かせていた……。


 その真実が、思いもよらない程に残酷なものであるとは知る由も無く…………。

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