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第18話 涙

 「さあ皆、美味しいチョコを作りたいか~!」

 「「おー」」

 佳奈の号令を受け、神条家のリビングにかけ声が響き渡った。

 今ここには、私…由季と、佳奈、渚、美咲、双葉の5人が集まっている。

 なぜなら今日は、皆でバレンタインチョコを作ることになったからである。そこで、それなりの設備がある神条家のリビングを使うことにしたのだ。

 因みに神大君と疾風君は、部活の遠征中である。

 「佳奈、仕切るはいいけど料理出来たの……?」

 「ぎくっ……」

 双葉の一言に、佳奈が露骨な反応を見せている。このイベントを企画したのは佳奈なのだが、佳奈は料理が絶望的な程に出来ないのである。以前、疾風君が佳奈に弁当を作って貰った際には、何とか完食はしたものの午後の授業を全て休んだ程である。

 「あはは……。もう佳奈は仕方ないなぁ……。私が作り方ちゃんと教えるから。」

 「それなら安心ですね」

 「先輩、了解であります!」

 渚と美咲が返事を小気味いい返事を返してくれる。

 「じゃあ、まずは板チョコを細かく刻んで………」

 こうして、私達のチョコ作りは始まった。


 「そういえばさー」

 冷やし固めたチョコを切り分けながら、佳奈が話を切り出した。

 「私と由季は、その……彼氏に上げるからいいけど、3人とも誰にあげるの…………?」

 「「ぎくっ」」

 渚と美咲がギクリとした反応を見せた中、双葉は淡々と言ってきた。

 「私は皆に義理チョコと友チョコを。……意中の相手の邪魔するようなことはしないから安心して。」

 「……んな!べ、別に意中の相手なんていないんだからねっ!大地君に送るチョコは、ただのお礼よ、お礼!」

 捲し立てた渚を、佳奈がニタァァァ……とした表情で見ている。

 「…………っ!い、今のは違っ………。も、もう!手を動かしてください!!」

 渚が真っ赤になって照れ、佳奈を怒鳴っている。

 「アハハ、分かったってば。で、みーたんはどうなの~?」

 今度は美咲に白羽の矢が立った。

 「……え!?私ですか?私は、えっと、その~……。」

 普段は活発な美咲が、珍しく狼狽(うろた)えている。

 「何々~?誰に渡すの~?いいから言ってごら~ん?」

 佳奈が美咲に詰め寄った。美咲は暫く逡巡(しゅんじゅん)していたが、やがて堪忍したかのように、頬を赤らめさせながら呟いた。

 「うう……。私が渡したいのは…きょ……(きょう)にぃ……です…………。」

 「「競にぃ…………?」」

 美咲以外の全員の声が重なった。

 「競にぃは…こんな私の話を聞いても毎回反応してくれて…それでいてカッコよくて……………っ!」

 美咲は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 私達の知り合いで「競にぃ」と呼ばれる人と言ったら、競次君のことで間違いないだろう。そういえばこの前のクリスマスパーティーの時も、二人はいい感じだったような気がする。妹分に好きな人が出来たというのは、"姉"としても嬉しい気分である。

 「フフッ……。みーたん、じゃあその気持ち、ちゃんと伝えないとね。まず、気持ち籠めてチョコ、作ろ?」

 「先輩……。……はい!」

 美咲の元気な返事を後に、私達はチョコ作りを再開したのだった…………。


 完成したチョコを郵送するために、雪降る中、私達は街中に向かって歩いていた。

 「あ、そうだ先輩!この辺に先輩が告白した丘があるって聞いたんですけど…………。」

 「えっ!?ちょ、ちょっとみーたん、そんな事誰から聞いたの!?」

 確かにこの付近には私が神大君に告白した丘があることは事実だ。しかし、私が知るかぎりその事を知ってる人は……。

 ちらりと佳奈の方を見やった。彼女は目を逸らすようにして口笛を吹いていた。

 「か~な~……!」

 「うっ……。ま、まあいいじゃない。由季にとっての思い出の場所なんでしょ?私達は親友で"家族"なんだから、別にいいでしょ……?」

 「……こういう時だけ調子良いんだから。……でも、そうかも…。それじゃあ皆、ちょっと寄り道してこっか。」

 親友で"家族"などと言われると、私としても悪い気はしない。私達はその丘へと寄り道をしていくことにした。

 ……この何気ない選択が、これからの人生を左右することになるとは知らずに。


 「へえ~…いい景色ですね~……」

 美咲が感嘆の声を漏らした。

 「……夜だともっと綺麗なんだけどね」

 2年前の夜、神大君に連れられてきた私は、聖夜の夜景に感動したものだ。そして神大君に告白をして……。それからは……いや、初めて会ったときから、私は神大君に何かを貰ってばかりである。

 (私……神大君に何か返してあげられてるのかな…?)

 「由季!危ない!!」

 そんな事を考えていると、佳奈が大声で叫んできた。私は咄嗟(とっさ)に伏せの姿勢をとったが、果たして正しかったようだ。

 私の頭すれすれを、エネルギーの塊が通過していったのだから。

 (……!?今のは……何回か見たことがある。…"魔法"!神大君達がいればやっつけてくれるんだけど……今は……いない…!)

 焦りを感じていると、1人の男が私達に向かって突進してきた。

 (やられる…………!)

 しかし次の瞬間、男の体は宙を舞っていた。小柄な少女…双葉によって投げ飛ばされたのである。

 「双葉!」

 「……私これでも柔道黒帯だから。……後ろ!」

 言われて振り向くと、私の背後から別の男が肉薄していた。今度こそやられると感じた。しかし。

 「せえぃやぁぁぁぁ!!」

 叫び声と共に、美咲が回し蹴りを繰り出した。男は宙を舞い、崖下へと落下していった。

 「え……みーたん!?」

 柔道部に入っている双葉が投げ技を使ったというのはともかく、美咲は美術部という生粋(きっすい)の文化部であるはずだ。それなのにさっきの蹴りはいったい……。その疑問はすぐに解消されることになった。

 「……言ってませんでしたっけ?私、中学までは空手と合気道やってたんですよ。……ある理由で辞めちゃったんですけど。……と、その話は後回しみたいですね……。ここは私と双葉さんで食い止め……キャッ!」

 美咲は言葉の途中で悲鳴を上げ、身体を右に傾けた。すれすれを先程のエネルギー弾が通過していく。

 「物理的な攻撃だけなら私とみーたんで何とかなるかもしれないけど、あれだけは……。」

 双葉が言った。確かに、いくら美咲と双葉が格闘に自信があったとしても、先程のエネルギー弾……"魔法"には対応出来ないだろう。

 …私達は神技・魔法といった"力"を持たないのだから。

 いつの間にか、目の前には男達の集団が出来ていた。そのうち魔法使いは何人いるのだろうか?

 後ろは崖。逃げ場は……無い。

 

 突進してきた男達を、美咲と双葉が倒していく。しかし時折エネルギー弾が飛んできて、集団の中には突っ込めないでいる状況だ。やはり身体は丈夫なのだろう、投げられ蹴られした男達も、徐々に立ち上がってくる。

 「……っ」

 「痛っ…………」

 時間が経つに連れて、戦う二人に被弾が重なってくる。そもそもの威力が高いのか、かすっただけで生々しい傷が出来ている。

 「きゃっ……」

 「うっ……」

崖を背にしている3人にも、徐々にエネルギー弾がかすり始めてきた。

 (このままじゃ皆が……!敵は遠くから攻撃してくる…。せめて、せめて弓矢があれば……!)

 佳奈は、焦りと共に自分への苛立ちを感じ始めていた。

 (ここには、神大君も疾風君もいないんだ……。みーたんも双葉もそろそろ限界……。由季と渚は被弾で弱っている。このままだと皆やられちゃう……。私に…私に力がsれば…!)

 「佳奈!」「佳奈ちゃん!」「佳奈さん!」

 皆に呼ばれて我に帰った。…その時には、私の身体は斜めに切り裂かれていた。


 (私……死ぬのかな……?)

 地面に真っ赤な血が広がっていく。

 朦朧(もうろう)とした意識で倒れこむ私に、由季と渚が駆け寄ってくる。少し離れた場所で応戦する美咲と双葉はこっちを気にするあまり攻撃を食らい始めている。

 「もう…いいよ…皆…。もう…逃げて…。私…を…置いて………」

 「そんなこと出来るわけないじゃない!」

 私の言葉を(さえぎ)って由季が叫んだ。

 「佳奈は……佳奈は私の一番の親友なんだよ!?……ううん、私だけじゃない!皆だって、佳奈のこと大事に思っているんだから!」

 「そうですよ、佳奈さん!……時には少しうるさいですけど……でも、それも含めて、私は佳奈さんが大好きです!」

 渚が続けて言ってきた。美咲と双葉も同じ意だと言わんばかりに大きく頷いてくる。

 (そっか…私…思ったより…皆に…想われていたんだ…)

 ポツン……

 私の顔に一粒の涙が落ちた。見上げると、由季と渚が涙を溢していた。

 (……涙。二人とも、私のために………?)

 ドサッ

 美咲と双葉が、私の横に同時に倒れこんだ。

 もう限界だったのだろう。服は所々破れ、あちこちから血を流している。

 「ごめんなさい……守れなかった…………」

 「佳奈さん……ゴメンね?先輩も…。私……もう……。」

 二人はそう言うと、意識を失った。

 向こうからは、敵の集団が近付いてきている。

 (何で……ゴメン……なの……?私の……方こそ……何も出来なくて…………。)

 敵の魔法使いのうちの1人が、こちらに向けて杖を掲げた。

 (あ……もう……私……ううん……私達……死んじゃうんだ…。)

 虚ろな意識の中、私は目を閉じた。

 (あーあ……もう少し、皆と一緒に、生きたかったな。……皆と、一緒に…………。)

 途端、涙が込み上げてきた。この涙は、悲しみの涙と後悔の涙のどっちの涙なのだろうか……?

 (……ううん。一緒に生きたいんじゃない……一緒に、生きるんだ…………。そうでしょ……"ウル"。)

 

 見開かれた佳奈の目から、涙が溢れた。悲しみの涙でも後悔の涙でもない…………決意の涙が。

 「"霊装"……神癒(しんゆ)調(しらべ)

 佳奈の身体を光が包んだ。光が消えると傷は癒え、身体を淡い緑色の衣が(まと)っていた。

 「佳奈……?」

 驚く私を尻目(しりめ)に、佳奈は立ち上がった。

 「神癒ノ調……表三節:天照(あまてらす)神癒(しんゆ)(きゅう)

 私達5人の身体を、光の球が包んだ。

 (これ……は……?……!痛みが……和らいで……?……佳奈の…力……?)

 「皆、そこで休んでて。あいつらは、私が倒す。」

 佳奈がそう言ってくる。

 「佳奈……………。これは…………。」

 「…これは皆を護るための力。…皆の涙が、想いが呼んだ力。」

 佳奈が手を天に掲げた。すると、光が佳奈の手に宿る。

 「"霊器(れいき)"……涙癒(るいゆ)霊弓(れいきゅう)……ウル。」

 佳奈の左手には弓が、右手には矢が携えられていた。

 「神癒ノ調……裏一節:神滅(しんめつ)ノ矢」

 群がってきた敵の集団を、光の矢が貫いた。  

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