第17話 二度目の聖夜と恋心
「「メリークリスマス!!」」
神条家のリビングに、14人の声が重なった。シャンパンに見立てた炭酸飲料が入ったグラス同士がぶつかり合う、乾杯の音が響き渡る。
皆が、用意された豪華な料理に舌鼓を打ちながら、会話に花を咲かせている。
因みに14人の内訳としては、俺と疾風を初めとする神技使い6人、由季、佳奈、蜜柑、夏海、渚、美咲、双葉といった7人の女性陣に、オマケ…いや責任者(?)の一馬さんといった面々である。
神凪島在住者8人に加え、京都に住む2人、沖縄に住む4人までもが集まったというのは、なかなか珍しいことだろう。
俺は、こうなるに至った経緯を思い出していた……。
1週間前。
「ねえ神大君、クリスマスイブなんだけどさ……」
自宅でのんびりしていると、ふいに由季が話しかけてきた。
「ん……?ああ、もうそんな時期か……。…もちろんいいよ、……デート、行こうぜ?」
俺がそう言うと、由季は頬を赤く染めた。
「も、もう……。私が言おうとしてたのに……。……でも、うん。……デート、行きたいな。神大君との…2回目のクリスマスイブだもん。」
「……!」
(そうか……俺と由季が出会って3年経つけど、これが2回目なんだよな…………。)
そう。去年、俺は疾風と共に日本各地を巡っていたために、クリスマスイブ、初詣などを初めとした年間行事を、由季と一緒に過ごせなかったのである。今年こそは一緒に思い出を作りたいと思っていたので、俺としても願ったり叶ったりである。
「それで…由季はどこか行きたいとこある?」
俺がそう聞くと、由季は少し考えた後、答えた。
「うーん……。……その……神大君と一緒なら…どこでもいい…かな…」
由季はそう言って上目遣いで見つめてきた。
俺はその言葉と姿に、少なからずドキリとした。
「そ、そうか……。それじゃあ………………」
俺が行き先を提案しようとしていた時だった。
突然、俺のケータイの着信音が鳴った。
(相手は…………陽介?)
俺は由季に断りを入れてから、陽介からの電話に出た。
「もしもし?急にどうしたんだ?」
『あのさ、冬休み、俺ら4人をお前の家に泊めてもらっていいか?』
「は………………?」
突然の物言いに、俺は絶句した。
「そういう事だったら先に言ってくれりゃいいのによ
……」
12月24日。はるばる沖縄からやってきた4人を家に迎えいれながら、俺は陽介に言った。
何でも、陽介・蜜柑・海斗・夏海のそれぞれの両親が、年末年始、友人として一緒にハワイへと出掛けていないらしく、どうするかと話していた際に、神凪島に来ようという話になったらしい。ウチの両親も、年末年始は家にいないので、俺としても、断る理由は別に無かったので、ウチに泊めてやることにした。
「いや~……要約したらその通りじゃん?」
陽介が悪びれた様子も無く言ってくる。
「お前は要約しすぎだ。……神大、ホントに迷惑じゃなかったか?」
海斗がすかさずツッコミをいれた。
「いや、迷惑ってことはねーよ。お前らと久々に会えたし、楽しく年末年始を過ごせそうだしな。」
俺がそう言うと、海斗はホッとした溜め息を吐いた。
「それにしてもさー、クリスマスイブなのに良かったの?」
夏海がふんわりと聞いてくる。
「そうそう。神大君と由季ちゃん恋人っしょ?デートとか行かなくていいのー?」
蜜柑が重ねて言ってくる。
「もう、二人とも………………」
由季が恥ずかしがっている中、俺は4人に言おうとしてた事を思い出した。
「あ、そのことなんだけどさ……。今晩、とりあえずクリスマスパーティー開こうとしてるんだけど、今から俺と由季で、買い出しがてらちょこっと出掛けてくるから、留守番よろしく。ついでに、京都から大地と競次が来るからそこんとこ……って、お前ら会ったこと無いのか。まあ、疾風と佳奈も来るっていうから大丈夫だろ。」
「あの二人も来んのか?」
陽介が問いかけてくる。
「ああ。お前らが来るって話したらな。ホント大人数になるな……。」
俺は溜め息まじりに呟いた。
「アタシ達も買い出し手伝った方がいい?」
「うーん……多分大丈夫だよ。それより、内装でもやっといてくれないか?」
蜜柑の申し出に、俺はそう答えた。
「任せて~!これでも私、インテリア学んでるから!」
夏海が胸を張って言ってきた。
「そうか……。頼もしいな。じゃあ皆、よろしくな。」
そう言って俺と由季は、買い出しついでのデートへと出掛けたのだった……。
「ねえ神大君、あれって……。」
腕を組んでショッピングセンターを歩いていると、由季が指を差して言ってきた。
「ん……?あれは……双葉と……一馬さん?」
指差す方を見ると、コートを羽織った双葉と、革ジャンにサングラスをかけた一馬さんが、並んで買い物をしていた。
朝桐双葉と朝桐一馬は、共に暮らす兄妹だ。両親は他界しているらしく、一馬さんの稼ぎによって生計を立てている。双葉にいろいろと買ってあげたいとの思いから、不良となっていった一馬さんだったが、俺との一件によって心を入れ替え、以来真面目に働き、持ち前の体力を生かしてそれなりの業績を上げているらしい。ついでを言うと、一馬さんは俺の舎弟……でもある。何でもあの時の落とし前を着けたいから…なそうだが、流石に止めて欲しいと思っているが、そうはいかないようだ。
俺達は朝桐兄妹に近寄り、声をかけた。
「おーっす双葉。一馬さんも。二人で買い物か?」
二人が同時に振り向いた。
「え…?あ…神大君。ちょうど良かった。兄貴が……。」
「……あー、内緒にしようと思ってだんだけどな。世話なってるお礼に、神大のウチに何か買ってってやろうかなーってよ。」
一馬さんが言ってきた。
因みに、一馬さんは以前俺のことを"兄貴"と呼び敬語で話しかけてきていたが、俺の懇願によりそれだけは止めて貰ったので、今では普通に呼んでくれるようになった。どこか抜けてるが、今もこうして気遣いを見せてくれる辺り、いい兄貴分である。
「そっか。ありがとな双葉。あ、今日、皆呼んでクリスマスパーティーやるんだけど、双葉も来るか?」
「え…いいの?…それじゃあ、お邪魔しよっかな……。」
俺が誘うと、双葉は嬉しそうに言った。
「お……俺は……?」
「あ、一馬さん。うーん……。由季、どうする?」
「どうしよっか~?」
「うぉぉい!」
「冗談っすよ。ぜひどうぞ。……料理は任せました。」
こう見えて一馬さんは、料理の腕が一流だ。両親が早くに他界したのでずっと料理をしてきたからということもあるのだろう。以前家に招かれて夕食をご馳走になった際には、その味に舌鼓を打ったものだ。
「俺はシェフかよ……。……まあいいさ!お前らの為に腕を奮ってやらあ!」
こうしてシェフを捕獲した俺と由季は、他の買い物を済ませた後、朝桐兄妹と共に帰路へと着いたのだった……。
「ん?あれは…………。」
家の近くまでいくと、家の前に二人の少女が立っているのが見えた。こちらに気づいたと見られる少女…美咲が、大きく手を振ってきた。
「おーい!由季センパーイ、神大センパーイ!」
「……みーたん!」
由季が嬉しそうに声をあげた。
「神大君、由季ちゃん、双葉ちゃん、こんばんは。……そちらのガラ悪そうな方は?」
二人の近くまで行くと、もう一人の少女…渚が問いかけてきた。
「ああ、朝桐一馬。双葉の兄貴だ。………今晩のシェフ担当さ。」
「へえ……。人は見かけによらないんですね。」
「おい……。」
一馬さんは何かぼやいていたが、俺達はそれを気にせず家の中へと入っていた。
「たっだいまー」
「おーっす神大、おかえりー」
俺が玄関を上がると、アイスをくわえた疾風が出迎えてきた。
「テメェ人んちのアイス勝手に…………」
「いいだろ別にー、腹減ったんだし。……って何だ、渚達も一緒だったのか。」
「ん、ああ。それとスペシャルゲストの双葉に、シェフの一馬さんも一緒だぜ。」
奥の方から佳奈が駆け寄ってきた。
「今の話ホント~?やったね!と、ささ、どうぞ~、会場は出来上がってるよ~!」
俺達は佳奈に促され、リビングへと向かった。
そして、今に来る。
一馬さんの作った料理はどれも絶品だった。皆、一心不乱に食べ続け、すぐに完食してしまった。
「よーっし!お待ちかねのケーキですねっ!」
美咲が元気よく言ってくる。一番料理にがっついていたのは美咲だというのに、まだ余裕があるというのだろうか?
「アハハハ……!美咲ちゃんってやっぱ面白ーな!慌てなくても大丈夫だって……」
美咲の様子に、競次が腹を抱えて爆笑している。そこまで面白いことでは無かった気がするのだが、競次は笑いの沸点が低いらしい。でも、だからか、天真爛漫な美咲とさっきから馬があっているみたいだ。
ケーキが一馬さんによって切り分けられ、各自に配られていく中でも、美咲はよだれを垂らしていた。
「もう、騒がしいんですから。たかだかケーキぐらいでそんな大げさなんですよ。」
そんな美咲の様子を見ながら、渚が呟いた。
「……そう言いつつ一番大きいケーキ選んだよね……。」
「な…………!コ、コレは違いますよ!ただ順番に取っただけです!だいたい何で私が大きいの選ばなきゃいけないんですか!?別に私、甘いもの好きとかそういうんじゃないんですからねっ!」
大地の言葉をそう返した渚は、そっぽを向いた。見れば顔が耳まで真っ赤になってしまっている。
「渚~、顔に出てるぞ~?ったく、蜜柑もこれぐらい可愛げが……いてててて!」
呟いた陽介の頬を蜜柑がつねった。
「可愛げが……何?」
「か、可愛げが十分あります好きです愛してます!」
「そ、そう……?じゃ、じゃあいいのよ……。」
陽介の直球過ぎる物言いに、珍しく蜜柑が狼狽している。
その向こうでは、海斗と夏海が甘い雰囲気を醸し出していた。「はい、あーん」
「あーん。うん、美味い。夏海も食べるか?あーん…」
「あーん……。うん、美味しい!」
二人が恋人同士であるということは知っていたが、どうやら予想以上にラブラブのようだ。普段クール気味な海斗を見ているだけに、イメージが少し壊れた気がする。
「おうおうあちらはラブラブですね~……」
向かいに座る疾風が呟いた。
「はい、あーん……」
「あーん……。うん、美味い……って佳奈!?な、何して……」
「……え?"あーん"だけど?何か問題あった……?」
「い、いや………その…………。」
佳奈の行動に、疾風が狼狽を見せている。
「…………対抗意識?」
双葉が呟いた。その隣で一馬さんが"あーん"を要求しているように見えたが、誰も気づいていないようなので放っておくことにした。
「ね、ねえ神大君、あ、あーん…………。」
ふと、隣に座る由季が、おずおずとケーキを刺したフォークをこちらに差し出してきた。
「ゆ、由季…………。あ、あーん……うん……美味い……。」
俺の胸の鼓動は急速に速まった。聖夜ということもあってか、由季が愛しく見えてくる。
「……由季。」
俺は由季の肩を掴んで、こちらを向かせた。
「ちょ、ちょっと待って神大君!」
俺が何をしようとしているか気付いたらしい由季が、真っ赤になって抵抗してくる。だが俺はそれを気にせずに、唇を近付けていった。
「だ、だから、待ってってば!!」
由季に大声で叫ばれて、俺は我に帰った。周りを見渡すと、皆がニヤニヤとした表情(一部ムスッとした表情も混じっていた気はするが)を浮かべながら俺達のことを見ていた。
俺の顔は茹で上がったように真っ赤になっていたことだろう。由季も、同じぐらい顔を赤くしている。
「い、い、今のはちがーう!!」
リビングには、俺の悲痛な声が響き渡ったのだった…。
「お、雪降ってきたな……。にしてもあいつら、派手に散らかしてくれたよなー……。」
「でも、賑やかで楽しかったんじゃない?」
俺が一人ベランダにいると、由季が外に出てきた。
「……由季。起きてたのか。……皆は?」
「うん。仲良く寝てるよ……。」
あの後、クリスマスパーティーはさらなる盛り上がりを見せた。結局全員が泊まっていくことになり、雑魚寝して怪談話などをして、やっと皆が眠りに就いた時には、既に夜中の1時を回っていた。それから一人で片付けをした俺は、眠れなくなったのでベランダに出てきていたのだ。
「……ならいっか。由季は?眠くないのか?」
「……うん、ちょっと目が覚めちゃった。ねえ、そっち行って……いい?」
「……うん。……おいで。」
俺は、無言で着ていたコートの半分を由季に羽織らせてやった。
「あ……。……あったかい。……こうすれば、もっとあったかいよ…………?」
由季が指を絡めてきた。華奢なその手からは、愛しい暖かさを感じることが出来た。
「…………ねえ、神大君…………。」
「………………由季。」
どちらからともなく二人は向かい合い、お互いに唇を近付けていく。唇が触れ合う瞬間、俺は由季の背中に手を回して、身体をキツく抱き締めた。由季は抵抗の素振りを見せずに身体を預けてきた…。
こうして、絶え間なく降り注ぐ雪の下、俺達は熱い抱擁と口付けを交わしたのだった…………。




