第15話 天地鳴動
俺達は修学旅行での京都自主研修で山に登り、直属魔兵団第8部隊隊長…レディオ・マキスを名乗る仮面男に襲われた。
俺と疾風の善戦も虚しく、倒木によって動けなくなった渚へと無慈悲な一撃が叩き込まれた。
しかしそれは、乱入してきた青年…"地学"の神技使い、山神大地によって阻止されたのだった……。
「お前……大地って言ったか?何で、ここに…?」
俺は乱れた呼吸を整えながら、大地にそう問いかけた。
「……俺の家がこの近くでな。山が騒がしいから来てみた所、この状況に鉢合わせたんだ。っと……。…フン!」
俺の問いに答えた大地は、片手一本で巨大な戦斧を地面へと突き立てた。俺では両手でも持てるか怪しいところだろう。相当の腕力の持ち主と見受けられる。
大地が、突き立てた戦斧に力を込め、呟いた。
「脈動する大地<アース・パルセイション>」
地面に微かな振動が起こる。それと同時に、倒れていた木がみるみるうちに起き上がっていく。さらに何たることか、切断されていたはずの木と切り株が、地面から出てきた太い根によって接合される。
「「渚…………!」」「「渚ちゃん……!」」
大地の技により倒木の重みから解放された渚の下に、倒木によって動けないでいた由季達が駆け寄った。
「くっ……貴様、よくも私の邪魔を……許しませんよ!…"硬化解除"、"伸化"!」
レディオが叫ぶと、真っ二つになったはずの鞭の切断面から、10m程にわたって鞭が伸びていく。レディオはその鞭を平気で振るい始めた。。
「どうですか……!この長さ!この速さ!周りの屑共々眠りなさい!"ウィップエンド・サーカス"!」
長大になったレディオの鞭が、無数に見える程の速さで大地へと襲いかかる。しかし。
「断続する壁<インタミット・ウォール>」
大地が言い放つと、大地の足下から土の壁が出現した。レディオの鞭が振るわれる度に、壁が次々に出現して、攻撃を防いでいく。
時おりレディオが大地の後方の女子達を狙うが、大地はそれをも防いでいる。さすがの大地も、それで一杯一杯の様子だった。
(くそ……。疾風は……気絶してる…頭を打ったか?俺が何とかするしか…………。……ん?……!)
俺は"加速"の裁きを自らに使い、一直線に飛び出した。レディオの鞭が届かない程の上空…由季達の丁度真上に向かって。
キィーン!
俺の剣と、短刀がぶつかる音。
そのまま何度か斬り結び、相手と共に地上に降りて距離を取る。
突如現れた短刀使いは、いわゆる忍の格好をしていた。
「ほう……。手負いの身で、よく我の不意討ちに対処出来たな。」
「凄まじい殺気を感じたもんでね……。…テメェ、何者だ?」
俺は敵意を剥き出しにして男を睨みながら問いかけた。
「……我はシュバルツ・ミレイス…直属魔兵団第2部隊隊長だ。」
(直属魔兵団隊長……レディオと同じ……!)
「……俺の名は神条神大だ」
「そうか。……少年、私を倒したいと思っている所残念だが、私は慈悲など持ち合わせいないのだよ?私が隊長ということは、当然……隊員がいる。」
「………!」
俺はシュバルツの言葉を受けて、由季達の方を振り向いた。しかしそこには、誰も存在してはいなかった。
「ガハッ…………!」
振り向いた俺は後ろからシュバルツの蹴りを食らった。しかもシュバルツは、的確に俺がダメージを受けていた右脇腹を狙ってきた。俺はそのまま、木に思いきり叩きつけられた。
「……少年、時には嘘も必要なのは理解出来るだろう?…暫くは動けまい。そこで大人しく仲間が殺される様を見ているがよい……。」
シュバルツは由季達を殺した後、レディオと共に大地を葬り、終いには、意識の無い疾風と、俺をも消すだろう。
(く……そ……。"アレ"さえ…使える状況なら……!)
しかしこの状況下で"アレ"は使えない。俺は力を振り絞って立とうとするが、骨が数本折れているらしく、身体に全く力が入らない。
大地はこちらの異変に気付いてはいるが、レディオとの交戦に手一杯のようだ。
シュバルツが宙に浮く。由季達は、恐怖に凍りついた表情でそちらを見上げていた。
「死ね……。苦無演舞…五月雨!」
無数のクナイが、雨のように降り注いだ。
……しかし、それらのクナイは全て、雷撃によって撃ち落とされた。
雷撃による煙が晴れていくに連れ、徐々に乱入者の姿が浮かび上がっていく。
「貴様……何奴」
シュバルツが動揺を圧し殺した声で、雷撃の主へと問いかける。……すると。
「……突き抜けろ、雷鳴の槍<シャスティフォル>!」
煙の中から、雷を纏った槍を構えた青年がシュバルツへと突っ込んだ。
シュバルツは驚きの表情を見せながらも、身体を反り返らせて紙一重でそれを回避した。
「……当てるつもりだったんだけどな。……避けられたからには仕方ねぇか。…とりあえず名乗っとくぜ。鳴神競次……"雷鳴"の神技使いだ。」
「私はシュバルツ・ミレイス。先程の一撃、見事だった…。さあ、存分に剣を交えようではないか!」
シュバルツが長めのクナイを、競次が槍をそれぞれ相手に向けた。
「苦無演舞…四穿!」
シュバルツにより、空中にひし形の巨大クナイが4本形成される。それらは弧を描くように翔び、競次へと時間差で向かっていく。
「雷鳴の層壁<ライトニング・スクエア>」
競次の目の前に、正方形の雷の多層障壁が展開される。
(多層障壁……?あれじゃ物理的攻撃は……)
競次の障壁にシュバルツのクナイが激突する。1本目でほとんどの障壁が貫通してしまっている。そこに、2本目・3本目が同時に、続けて4本目が激突した。
物理攻撃に対して魔法系統の防御は効果が薄いのだ。
競次がそのままクナイに貫かれ……はしなかった。
見れば、シュバルツの放った4本のクナイは、障壁に刺さった状態のまま、微動だにしていない。無論、クナイは競次に全く届いていなかった。
「何……?……ならば」
シュバルツは驚愕しながらも、新たなクナイを競次に放たんと振りかぶる。
「……放電<ディスチャージ>!」
競次が叫ぶと、クナイを止めていた障壁が収束する。代わりに、雷による障壁は、鉄銀のクナイへと帯電し…他のクナイへと通電していく。4本のクナイを伝った雷が、シュバルツが手に持ったクナイへと放電される。
「……ぐぅ!?」
シュバルツが呻き、そのクナイを遠くに放り投げた。
「く……、貴様なかなかやりおるな……。……先程のクナイはどうやって止めた?」
「……"電磁力"だよ。磁石の反発……あれを利用して、上下左右から対角線上に力を加え、攻撃を止めた。それだけだ。」
シュバルツの問いに競次が答えた。
これを聞いたシュバルツは、どこか不敵な笑みを浮かべると、宙へと浮かび上がった。
「成程……。……しかし、こういうのはどうかね?……苦無演舞…五月雨!」
「さっきと同じ技だと……?そんなもん…放電<ディスチャージ>!」
シュバルツのクナイの雨を、競次が雷で撃ち落としていく。
(何が狙いだ……?……この方向……。……!)
「競次!!」
「……!っテメェ!!」
クナイの雨が由季達の方に進路を変える。俺の声によりそれに気付いた競次は、何とか迎撃に間に合った。
「フハハハ……どこまで耐えられるかな?」
シュバルツが嘲笑を見せる。
競次はクナイの雨を捌き続けているが、由季達に向けられる攻撃にも対応しているため、余裕が余り感じられない状態だ。
俺は横目で、もう片方の戦闘を眺める。そこでは、レディオの鞭による攻撃を必死に防ぐ大地の姿があった。
(恐らくシュバルツとレディオではシュバルツの方が上だ…。シュバルツの動きを少しでも止めれれば、競次と大地でレディオを…………!)
「ぐっ…………」
どうやらクナイがかすったらしい。競次が短い呻き声を上げる。瞬間的に、競次の迎撃が止まる。
「そこ……!」
それを好機と見たシュバルツが、数百本のクナイを競次へと降り注がせる。
「しまっ……!」
クナイが競次を貫こうとした……刹那。数百に及ぶクナイを、突風が吹き飛ばした。
「……俺の事……忘れちゃいねーか?」
風を司る神技使いはこの場に一人しかいない。
「そこの槍持った奴……名前は?」
シュバルツの前に浮かぶ疾風が、下を向かずに競次へと問いかける。
「鳴神競次……"雷鳴"の神技使いだ。」
すると疾風は、高周波を使ったのだろう、競次にしか聴こえない声で言った。
「そうか……俺は音神疾風、呼叫の神技使い。……なあ競次、俺がコイツを抑えておく。お前はその間に向こうを頼む。」
競次が頷く。
疾風がシュバルツへと突っ込むと共に、競次がレディオの方へと向かう。
「……貴様ら!」
狙いに気付いたと思われるシュバルツが、競次へとクナイを放った。しかし。
「おっと……。わりぃが、こっからは俺が相手だ。」
疾風がクナイを風で吹き飛ばし、言った。
「チッ……。まあいい。苦無演舞…五月雨!」
シュバルツが再びクナイの雨を降らす。疾風が風を操って応戦する。しかし、先程のレディオからのダメージが抜けていないのか、疾風は少しふらついていた。
(疾風……。……援護くらいなら!)
「裁き……"加速"!裁き……"加重"!」
加速を疾風に、加重をシュバルツへとかける。
「む……?身体が先程までより……重く?……しかし!」
「……へへっ。サンキュー神大!……望むところだ!」
俺の裁きにより動きが同程度になった二人は、尚も撃ち合いを続ける。
俺は、競次が向かった方向を見つめた。
「ホラホラホラ!さっきまでの威勢はどこいったんですか!?」
「くっ…………まだだ……!」
レディオはただ鞭を振るっているのに対して、大地は神技の源…神力を消費し続けているため、徐々に押され始めていた。
「……隙あり!」
一瞬途絶えた大地の土壁を見逃さず、レディオが鞭を叩き込もうとした。
しかしその鞭は、雷撃によって弾かれた。
「ったく……。よお大地、苦戦してんな?」
「……競次。」
どうやらあの二人は知り合いのようだった。
競次が大地に耳打ちで作戦を伝えている。
「……何をコソコソと!二人がかりでも私には勝てませんよ…?」
「それはどうかな……?……雷鳴の檻<ライトニング・ケージ>!」
作戦を立て終えたらしい競次が叫ぶと、レディオを雷の檻が囲った。
「こんなもの……!……っぐ…?何…だ…?身体…が……?」
雷の檻を壊そうと、レディオが鞭を振るった途端、レディオの動きが急にゆっくりになった。
「へっ……。お前があっちの黒い奴程知的じゃなくてよかったぜ…。雷はプラフ……コイツは強力な電磁石の檻だ。かなりの神力がかかるから相手が動かなきゃあんま意味無いんだがな。まんまと引っ掛かってくれたぜ……。……大地!」
「……任せろ!」
大地はレディオの遥か上空へと跳躍した。……巨大な戦斧を持ったまま。
「……!くそ……この……!私がそんな……もので!」
大地が戦斧を振りかぶり、レディオへと落下していく。
「砕け……崩壊の斧<カタストロフィ>!!」
斧がレディオを真っ二つに斬り裂いた。斧はそのまま地面へと叩きつけられ、山全体が鳴動した。
「そんな……バカ……な…………」
そして、直属魔兵団第8部隊隊長…レディオ・マキスは塵となった後、完全に消滅した。
「……レディオが死んだか。……まあよい。死んだら死んだで、"あの方"の力となるだけだ……。」
シュバルツは、クナイによる攻撃を中断して呟いた。
「……そこ!」
疾風が真空の刃で攻撃を仕掛ける。しかしシュバルツはそれを容易く避けた。
シュバルツは再び技を放とうとしたが、そこに競次と大地がやって来たのを見て、攻撃を中止した。
「…流石の私でも、4対1では分が悪いかもしれんな…。ここは一端引くとしよう。」
「逃がすか……この……」
「疾風!!」
俺は、シュバルツに攻撃を仕掛けようとした疾風を呼び止め、首を横に振った。
この場で乱戦を繰り広げれば、由季達の方に危害が及ぶかもしれない。それに消耗している状態では、勝てるかどうかも分からない。
俺の言わんとすることを理解した疾風は、舌打ちをしながらも神器を消した。
「……いい判断だ。その判断に敬意を表して、いいことを一つ教えてやろう……。直属魔兵団は"あの方"に仕える部隊……。1から8までの部隊があり、その隊長は強い順に配属されている…。つまり貴様らが必死に倒したレディオ・マキスは、私達の中の末端だ。…そして私は、2番目に強い。…この事をどう受け止めるかは貴様ら次第だがな。……今度あった時には、容赦なく殺す。ではさらばだ……。」
シュバルツの姿が闇に呑まれて、消えた……。
「……お世辞にも、勝ったとは言えねぇな。」
疾風が呟いた。
「…ああ。アイツ…シュバルツは、まだ本気を出していない感じだった。くそ…油断しなければ……いや、今はそんなこと言っても仕方ないか。……それより、大地、競次、本当に助かった。礼を言う。」
俺は大地と競次の方を向き、軽く頭を下げた。
「よせよ、俺だってお前らには助けられたんだからよ。困った時はお互い様だろ?」
競次が笑いかけてきた。俺は頭を上げ、苦笑を返した。
ふと、俺は大事なことを思いだした。
「…そうだ!…由季!佳奈!双葉!渚!大丈夫か!?」
俺達は話を中断して、由季達の方へと駆け寄った。
すると、突然由季が俺の胸に飛び込んできた。隣では、佳奈が同様に疾風に抱きついている。
「怖かった……。私自身の身も怖かったけど……神大君がいなくなっちゃわないか、心配だった……。……生きててくれて……よかった…………」
由季が涙ぐみながら言ってくる。俺は由季の頭を撫でてやりながら、言った。
「……ありがとう。大丈夫だよ。俺はいなくなったりしない……。言っただろ?俺が由季を守るって。だから……大丈夫。……由季がいてくれれば、それで……」
「うん……うん……!」
由季が力強く頷いてくる。
俺は由季を優しく放すと、渚の方に歩み寄った。
「渚、足……大丈夫か?」
「あ……はい…………。双葉さんに応急処置はしてもらいましたし……。それに……あのままだったら……。……っ!」
渚は双葉の肩を借りて立ち上がると、大地の前に歩み寄り、消え入りそうな声で話しかけた。
「……あの」
「……ん?」
「えっと……その……助けてくれて……ありがとうございました…。あのまま貴方が来なかったら……私は……。……感謝しても…しきれません……。本当にありがとうございました……。」
「……どういたしまして。俺も、君を助けられてよかったよ…。間に合わなかったら、一生後悔したと思う。」
大地が、戦闘時とは別人のような優しい微笑みを作って言った。
「…………渚。」
渚が小さな声で呟いた。
「私は……天草渚です。貴方の名前…教えて下さい。今度…お礼をしたいから……。」
渚が頬を真っ赤に染めながらそう言った。思えば、渚が自分から相手の名前を聞くというのは初めてだったかもしれない。
「俺は山神大地。……渚、か。……言い名前だね。」
大地がそう言うと、渚は一粒の涙を溢した。
「あ、あれ…………、俺なんか悪いこと言っちゃった?渚って名前、嫌とか……?」
渚は次々と溢れてくる涙を拭いながら、首を大きく横に振った。
「ううん……その逆…。私、自分の名前褒められたこと、無かったから…。たった一人の大好きなお母さんと……亡くなっちゃったけど、私の好きなお母さんが愛した、お父さん……大切な両親に付けて貰った、名前だから……。"渚"のように、穏やかに育って欲しい、穏やかな人生を送って欲しい、って…………。」
「そっか…………。渚は、お母さんと…亡くなったお父さんの事も、大好きなんだね……?」
「……うん!!」
渚が明るい笑顔で返事をした。その笑顔は、山を照らす夕日のように輝いていた……。
この辺りに住んでいるという競次と大地にホテルまで送り届けられた俺達は、無事に寝床へと就くことが出来た。渚が大地にどうしてもお礼をしたいというので、彼らは冬休みに神凪島に来ることを約束した。
後日、俺は身体の傷みを押して、大坂の某テーマパークを満喫した。
さらにその次の日、一日中寝込むことになり、由季に看病して貰ったのは、また別の話である……。
京都での騒動と同日、夜。
世界の裏側……"魔界"にて。
「シュバルツ・ミレイス、只今帰還しました。」
「……レディオはどうした?」
「神技使いに、やられました……」
「……そうか。奴等を滅ぼすためにも、新しい手駒を早急に用意せよ。」
「ハッ……承知致しました。我等の王、ジン・カンナギ・ブレイヴァルス様……………。」




