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ハニームーン

 




レンガとおしゃれな間接照明、ずらっと並べられたボトル。私たちは夢の世界の町酒場……ではなく、山梨のワイナリーでウロウロしている。晴れて現実を運転……つまりワープというか、外側の場を創生できるようになったということで、じゃあご挨拶もするし、怪しい魔法薬に使ってしまったから秋葉のお母様に赤ワインを探そうと2人で決めたのだ。さっき。



適当に『旅行用の服を』と念じたら、いつもの不思議冷蔵庫からプリンセスドレスが出てきて秋葉に笑われた。あまり適当すぎるのもダメなんだなと、今度はちゃんと、肌触りの良い生地で、女の子過ぎないコーデのお洋服を出して下さいって言ったらまあまあ良いのが出てきた。願うって難しいね。


 

2人共ワインなんてもちろん全然分からないので、良さげなものを5本選んで終わり。店員さんに、あのおかしな冷蔵庫から創生した1万円札10枚を渡す。年齢確認もないしお金を受け取ってもお釣りはくれず、ただ無表情に『ありがとうございます』と言ってくるだけなので、はあどうもとそのまま店を出た。慣れないな。



「……完全にあの人は夢の中。AIの素材になってるね、私たちの景色の素材とも言う。この前はお札を受け取りもしなかった。どっちしても同じ。」



そんな難しいことを話しながらこちらを向き、私に手を差し出す。背景の透き通った青空と雲と緑の木々が彼女の完璧な美しさを更に引き立て、このままポスターにして映画館の上映ラインナップの1つに無断で足しておいても何の違和感もないなぁと惚けていたら「早く、丹海。」と現実のヒロインに呼ばれた。



彼女の手のひらの上に私の指を添えて。じっと見つめると「見な、見ないでいいから」と失敬なことを言われ。ねぇ、いちいち手をつながなきゃ移動できないの?と聞くと「その方が確実さが増す……気がする。」らしい。


 


それは……そうなのかもしれない。これまで観光ガイドブックやインターネットの画像を見ながら日本のあちこちへ移動する実験をやっていたけど、私が原宿でクレープを食べようよと提案したら「スカウトが来るからダメ」と断られる。えぇ……見えてるどなたもご本人じゃないんだから関係ないじゃん〜とお願いしても頑なにNGするからちょっと険悪になって、手つなぎをしなくなったら創生できなくなったんだ。


 

その後秋葉がスカイツリーに行きたいからお願いって言い出して、そこだって人が多いでしょ?私と同じこと言ってるじゃん……と不満げに協力したら私たちが建物の中じゃなくてツリーの外側にいつの間にか立ってて…………いやいや高っ!どこここ助けてっ!工事の人じゃないってっ!命綱ないし風つよっ死ぬからっ!と怒涛のツッコミを入れてたら秋葉はただ震えたまま「ごめんなさいごめんなさい丹海早く帰りたい」って私の手を取って謝ったから部屋で許した。 



だから〜スカウトに声かけられない格好すればいいんだよって2人であれこれ考えて、面倒くさいから不思議冷蔵庫にお願いしたら宅配便さんのユニフォームと帽子とマスクが出てきて、ああなるほどと、それでお札を入れた小さなダンボールを小脇に抱えながらクレープ屋まで歩いた。私たち何してたのこれ?



帽子の中に髪を押し込んで白いスニーカーを履く。なかなか様になっている感じで、私ここに来るの夢だったんだよね〜意外と行く機会なくてとモゴモゴ話すと、秋葉はスマホで電話するフリをしながら「私も人混み嫌いだから初めて来た……」と伊達メガネと立体マスクでキョロキョロしている。いや……宅配の人が2人並んで一緒に歩いてるの不審すぎでしょ。



オススメの、一番人気を1つ下さい♪と宅配便さん2人でお願いして、いちごが乗っているのを目立たない所で仲良く食べた。おいしかった。……まあそういう経緯があったから、私たちのご機嫌と自分達の命はつながっているんだということをお互い理解した。だからもっと私を夢世界みたいにVIPやお姫様のように扱っても良いのだよ?抱っこするとかさ、気分が良かったりロマンチックなのとかあるじゃないか、新現実はこれから創られるのだ。



すんごく真面目な顔の彼女に近づきながら、……ねぇ、私へのLOVEがないと発動しないんでしょ?じゃあもっと顔を見ないとダメなんじゃないの?と聞くとさらに横を向き「愛は……感じるものだから……見なくても大丈夫」なんて、何かの歌の歌詞みたいだ。詩人だなぁ。



私は昔から、そういう音楽とか愛とかというものに割と疎い。カラオケに誘われても特に歌いたいものはなくて、すごく有名なものは知ってるから友達と一緒に歌ったりする程度。恋愛マンガも読まないんだ……麻雀バトルものとかスマホで見てたら秋葉に意外だねって言われた。



「丹海、平気?もう次に行くけど。」



うわっ……いきなり美人が覗き来るのはホラー映画になるんだから気をつけなよって思わず注意した。丹海がいつもやってるじゃん……と膨れ顔するけど、私はちゃんと前置きというか、そういうのを挟みながら距離を少しずつ縮めてるでしょ?秋葉の動きは完全に暗殺者だから怖がられるよと言うと素直に聞いた。「うん、丹海のモテテク、勉強になる。」って……私はそんなつもりでやってないが?



どこ行くの?と聞いたらサービスエリア、と答えて景色が変わった。比較的大きい所だ。なんで?と尋ねたら、やっぱり旅行だから……らしい。とりあえずぶらぶら歩いてあおいさんへのお土産も探す。おトイレは使わなくなったから楽だ。あとおなかもそんなに減らないというか、特定の何かが食べたいみたいな気持ちだけがある感じだ。ソフトクリームが食べたい。


 

秋葉が信玄餅の箱を2つ買った。あおいさんも甘いものが好きらしい。目的は果たされたのでぶどうのソフトクリームを買い、テーブルコーナーにて一緒にスプーンで食べはじめる。……うん、おいしい。一通り食べて秋葉に渡したら「もう飽きたんだ……こうやって男もポイ捨て……」とか身に覚えのない酷いこと言ってる。いや、口の中冷たくなっちゃったから休憩……とYouTubeを開いて、HISUIと検索する。



す、すごい。全部何千万の再生回数……10年前の動画なのに。なんか音楽って暗いのもあるから嫌だけど……え?すごい癒される……柔らかいけど芯のある歌声、分かりやすい歌詞、優しい眼差し好きぃ……



「これは……作詞作曲してる。つめた……」



と、もう一人のHISUIがアイスのコーンをかじりながら教えてくれた。え??お母様、曲作れるの?天才じゃん!と驚くと「凝り性なところあるから」と言った。



「『何でもやってみたいっていうのをやってみたらできた』って、よく分からないこと言ってた。おいし……」



すご……やっぱり考え方が違うなあ、ますますお会いしたくなる。すると秋葉はとある動画を指さした。ん?『HISUIデビュー前、秘蔵映像』?? タップすると、そこにはかなり小さなライブ会場で歌って踊る5人組のアイドル達が映っており、一番端に秋葉……じゃなくてお母様がいた。衣装がかなりセクシーで、みんなオトナな感じだ、歌もラップとか入っててすごい。



「母はモデルでスカウトされた。これはソロでやれるかどうかのお試しだったみたい。」



秋葉曰く、お母様は16歳でファッションモデルの仕事をしてたけど本人の目的は歌手だから、事務所に頼んだらこういう流れになったという。これは……どう見ても見た目といい、歌の上手さといい、ずば抜けている。他の子がかわいそうなくらい端にいても目立つ。デビューしないわけがないねこれは。



いやすごいね君のおっかあさんは、会ったら早速Tシャツにサインをもらうよ、と肩に手を置いたら「そんなの意味ない……近い……」ってそれ、最後のアイス。食べられた……あと一口欲しかったのにぃ。 



ペットボトルの水を買ってきて2人でCM風に飲むと、秋葉もスマホを取り出して画面を触りだす。え……これも何かの広告ですよね?と言って私が撮影をはじめたら「やめて……お金とるよ」って無表情で請求された。取ればいいよ!秋葉ならお母様と一緒に天下取れるよ!って指を立てて教えたら「天下いらない……ゆっくりしたい」と画面を見せてくる。ん?旅館?宿泊プラン?そういえば泊まるんだったか。


 

どこがいい?って聞くけど、別に……ふとんがあればいいよと言ったらめちゃくちゃツボに入ったみたい。ない場所なんてないから……しかもエッチ……とまだ笑っている。ああ、ここが新現実でよかった。こんな大笑いしてたら絶対周りの人が見てウワサになってしまう。そういう目線も気にしなきゃいけないんだから有名人ってほんとに特殊なお仕事だったんだなって、心から腹を抱えて笑う彼女を見て思……笑いすぎだろ。

 


どこでもいいから早くゴロゴロしよってお願いした。手をつながれ「行くよ。」と言われ彼女を見てうなづくと周りの景色が変わり旅館の駐車場に着いていた。

山梨なんだからどこかに富士山が見えると思うんだけどよく分からない。秋葉のお母様なら火口まで飛べるんだろうなあと想像してたらまた覗き込んできたので注意した。「耳赤いよ」って言うけど……私は白ウサギじゃないぞ。



受付へ行ってチェックイン終わった。というか、何のために泊まるんだ?眠りもしないのに。今さらだけどエレベーターで聞いたら「え……ノリで……修学旅行的な?」って。秋葉は時々……いや、頻繁に理解し難い行動をするよねって今さら伝えたら「それは……否定できない。母に似てるかも」と部屋の鍵のリングにを指を通してカチャカチャ回す。やめなさい。



ドアを開けると、畳の香りで癒されるぅ……ってこれ、カップルの旅行みたいじゃん!ってはしゃいでたらなぜか顔を背けられた。……ん?秋葉さん?


 

ねぇ……私たち、新婚なの?と聞いたら「な……にを言って……これは……修学旅行。」と、君に赤い顔で言われたから今日は修学旅行記念日!ってふざけたら「丹海こそ頭おかしい……」なんて最高に失礼だな!白湯おいしい。


  

さっさと大浴場に行った。脱ぐの見たらお金とるよ!ってお互い言いあって、あ、見た!100円いただきます!と要求したら「安……わたがしの機械で買って食べた方がいい」って……なんだそれ!わたがしと私に謝れよっと自分の巻いてたタオルをはがして振り回したらまた顔を背けて、へぇ……ヒノキ風呂だ広いね……と洗い場の壁に向かって喋っている。首を寝違えたのか?



他にお風呂に入ってくるお客さんはいないようだ。2人で貸し切りの湯によく浸かり、秋葉が肩に頭を乗っけて来たからなでなでし、鏡の前で面倒だから立ちながらドライヤーをかけていたら「浴衣エッロッ」と目つきがいやらしい。そういう君の方がめちゃくちゃ似合ってますけどってコメントするとそれは無視され、紙コップのお水をくれたから飲んだらまた「エッチすぎ。」と乾いてるのにタオルで髪をバサバサ拭かれて、最後に頭をクンクンされたから何か嫌だ。犬なの?


 

そのあと私たちは自動販売機を細かく見て回り、ラウンジのソファで足をぷらぷらさせてスリッパを飛ばしたり、秋葉の肩を念入りに叫ぶほど強く揉んであげたりしてから、部屋に用意されたおふとんの上に転がった。夕食はいらない代わりに、彼女は枕元の畳で信玄餅を広げ黒蜜をかけて食べている。部屋に置いてあったおまんじゅうもおいしそうだ。



私はまた、スマホでHISUIの動画を鑑賞する。その中で何か毛色の違う、結構ロックでポップな雰囲気なのを見つけてタップする。……え、すごい早くて激しい曲だ。全身ピンクな装いのHISUIが同じくピンクのギターをかき鳴らして、周りのみんなにハートを投げまくるという見てて楽しい感じだ。歌詞が気になったので検索してみる。



 



DIPPIN!  作曲・編曲 MOTO 作詞 HISUI




ah, 君といると不思議

逆さまに立ってるみたいで 


言いたいこと言いたいのに

おかしい子だって ダーリン


もう決めたから構わないでね

他人でいていいこともあるんだよ


君はいつもそう、いつも……


空想 I dippin' ah ah 

暗い I dippin' ah ah

笑顔だってくれないんだ、嫌いだ


空想 I dippin' ah ah

暗い I dippin' ah ah

分かってもくれないんだ、未来永劫 嫌いだ、嫌いだ 



 



うわ……かっこよすぎ……と思ったら秋葉も隣に来て見ていた。口にきなこ、ついてるぞ。



「こういう歌……母の好みじゃない。ヒットしてるけど、無理矢理アルバムに入れてる……恋愛の曲……」



え、どういうこと?と聞かないわけがない。


 


……とにかく、母は音楽の力で世界平和を望むような人だ、と秋葉は言う。……す、スケール大きすぎる。そういう考え方とHISUIっていうアイドル像は一致していたんだけど、利益的に事務所からは恋とか、そういう類の歌が売れるから作れとよく注文があったらしい、と語る。へ〜。


 

「恋愛と人間愛は規模が違う別物。だからこの歌は本当は、事務所への不満を歌ってる曲。ウザいって。」 



秋葉が、指でサビの部分の歌詞を縦になぞる。

ん?なに?分からない。空想、暗い、笑顔……?



「くそくらえ。」



秋葉と数秒間顔を見合わせてから、何だこれ!って一緒に吹き出した。お母様、おしゃれだし面白すぎでしょ!



ぎゃははと笑っていると、どさくさに紛れてくすぐってきたから私のふとんで秋葉をぐるぐる巻いた。どうだ!と上から押さえつけていたら「浴衣はだけてるよ、丹海のエッチ……」と目線をそらされて、はっそうだ!と旅行かばんの中をごそごそ探す。すっかり忘れていた。



秋葉に、はいあげる!とマンダリンカラーの下着上下を手渡す。なにこれ?と言われる前に、創れたんだよ冷蔵庫で!と胸を張る。何日もイメージをして、おかしい人みたいにブラの画像を見て、つけている実感もないと創生できなかったと伝えると、すごい……と一言褒められた。



いつも秋葉のを貸してもらってたからさ、と言うと今さらながら恥ずかしそうにしている。サイズがほぼ同じだったからそれは助かったよと肩を叩くと「丹海は……寒色が似合う。」とつぶやくから、え?間食?何も食べてないよ?と聞き返す。なんかイラ立つくらい笑ってるな……



「下着の色は魂のカラー、奥にいるもう一人の自分。丹海はピンクのプリンセスだけど、脱ぐと青、水色、青紫……バランスを取っている。」



って服の上からブラを自分の胸に当てながら話すの面白いからやめて。


 

そうか……下着の色が魂か……あ、そうそう!私は『見た目よりオトナな色の付けてるね』ってよく言われたりしてたよ。前に私が付き合っ…………んーと。ええと……そういう意味じゃなくて……違うからね?って言葉の誤解を解く前から秋葉さんの顔が怖いんですけど。



「つきあ………………?」



す、すごい表情だ。まるで宇宙人が自分の耳の上にポップコーンを大量に降らせたあと、ついでに寝床を回収していったのを目撃した猫みたいに目を見開いてポカーンとしている。まずい、部屋に帰れなくなるぞこのままだと。



正確に正直に話す。……あのね、中学の時バスケ部だったんだけど同級生なのにお姉様って呼んでくる子がいてね、知らない間に付き合ってるような……なんか近しい雰囲気に勝手になっててさ。でも友達だったから、私が半分くらい面白がってそれに合わせてたような、ただそれだけの話だからね?と言ったが「ふ〜んそうなんだ〜」って背中向けてまんじゅう食べはじめたから絶対ご機嫌斜めだこれ。


  

バスケ……なんで高校でやらなかったの?と聞かれた。ちょっとためらうけど、これは……秋葉になら話せるかもしれない。こんなことは他の人には言えないから。


 

……中学の時にかっこいいなって思って始めたんだけど、ちょっと人間関係のことで運動系が面倒くさくなっちゃって。私……男子と話すの抵抗ないからすごい楽しいなって喋ってたんだ。でもそれで向こうにね、気があるんだって変に思わせちゃうことに気づいて……他の子にも嫌な思いをさせてしまったりとか、そういう距離感みたいなのを考えることが多くなって中学2年の時にやめたんだ。結局文化系にも入らなかったのも……本当はそういうのを避けたい気持ちがあったからなんだと思う。


  

「でも……結局女の子と仲良くしても嫌がられたりしたでしょ?そういう人間は必ずどこにでもいたから。」



確かに、昔からそういう「事故」は割とあって、ふるまい的にどうしたらいいのか分からなくなったこともある。



みんなと仲良くやりたいけど……それがダメというか、勘違いして怒っちゃう人がいたから。歯がゆいし、辛かったよ……と気持ちを明かすと、秋葉は分かるよ……という風に肩を組んできて「私たちはね……迷い子なの。一緒にいるのが幸せ。」とニヤっとする。なんか詩人はじまった。



いや……私は、秋葉ほど誰かに強く憧れを持たれたり慕われたりはしてないと思うけどさ……と述べたら急に固まってズーンとなり。あれ??



「丹海……どうせ小学校からモテてる…………やっぱり悪女…………裏では何股もしてる寒色下着……エッチ……」



おいっなんだそれは。変なイメージ創るのやめてね?って言ってもふとんを頭から被ってぶつぶつ呟いて。仕方ないな……とすぐ横に張り付く。


 

秋葉はさ……男の子みたいなところもあるけど、魂……は、あったかい色だよね、優しいし。秋葉に告白したい人って……たくさんいたんだと思うよ。実際私よりモテてたと思うけどさ、みんな言えなかったんだよ、だって……すごく繊細なの分かるから。傷つけちゃいけないなって周りは慎重になるよ。私ね、たくさんの誰かに好かれるのは嬉しいけど……でもそれより限られた人でもいいから、秋葉みたいに同じ価値観を持ってるような人にね、好感、持たれたほうがずっと心が満たされると思う…… 



「……じゃあ、丹海が告白して?」



すっと起き上がり、私の手を握ってきた。…………は?



「丹海ばっかりされててずるい…………されたことない」



なんて、口を尖らせながら子どもみたいなことを言い出す。だ、だから私がするの?と聞くとうん……とこちらをうかがうようにしていて。えぇ…………



ここでふと気づく。そういえば私は誰かに告白……みたいなこと一度もしたことないな。……なるほど?これは良い体験かもしれない。今この場でそれを「実験」できるのなら……しかもはじめての告白のお相手が秋葉だなんて……やらない理由がない、いや何を言ってるんだ。


 

……まあ、こんな思い詰めた顔された美女に『告ってほしい……』なんて頼まれたなら誰でもやらなければと思うでしょ?と、さっそく彼女の両肩を軽くつかみ、じっと見つめ合う。うっわ……この距離の直視すご……まつ毛の長さと大きな目の輝きでゾワってなる……とんでもない美の圧で心臓が震えた。そういう悪魔か何かなの?



「丹海……永く見すぎ……早く…………」



告白中に早くって言う人いる?って吹き出しそうになるのをこらえる。いけない、笑ったらまた塞ぎ込んでしまう……って、……う、美しすぎるよ…………思わずさらさらな髪を触る。これどうなってんの?ほんとに人間?頬とか輪郭とか、あごから鎖骨のところとか、マネキンじゃないよね?確かめたくなる……って気づいたら首を触ってて、これ告白じゃなくてエッチなやつだ。

 


「ん…………」



目を閉じて、ん……じゃないよ?君、こんな危ないことしてくる女を受け止めてどうするの?ていうか私ここからどうしたらいいの?



「丹海……まだ…………?」



ひたすら、エッチな口元ばかりに目が行って肝心のうまい言葉が思いつかない。というか告白ってそういうものじゃないのでは?……そうだよ、みんな好きって想いをシンプルにぶつけてたじゃないか。じゃあ言葉はそれで、あとは身体の位置だけちょっと変えよう。



肩を押して、秋葉をゆっくりふとんに倒す。かなり動揺気味に「え……?」と言われたけど、とりあえず上から見る感じで……壁ドンじゃなくてふとんドンして



『秋葉…………私、前から秋葉のこと…………ずっと好きだったよ。』



少しクールっぽく告白したけど……何にも反応がない。あれ?ダメ?と思ってたら、



「……ありがと…………私も好き……です…………」



って小さくお返事された。うん……これは……破壊力やばいね。秋葉にこんな風にOKされたら告った人たぶんその場で爆発しちゃうよ。死んでどうする。


  

私、誰かに告白するのはじめてだよ……なんか難しいね、はは……と笑ってたら「すごくよかった……」とふとんを被りながら喜んでおられて。とりあえず機嫌が戻って安心した、よかった。



満足げな秋葉を見てちょっと思う。私にも……してほしいかなって。……やはり、告白というのはするほうがエネルギーを使うんだ。私がしたんだからやってほしい。気がする。

そんな私の要望を伝えると、え!!!?と、隣の部屋にも聞こえそうな今日一番の大声出た。元気だなぁ。



「するの?私が…………??」 



ああ……やっぱりNGかな?と思ったら、すぐに肩をつかまれる。え……早っ……っていうか近っ!!!暗殺者の間合いになってますよ秋葉さん!!!



『あの……言うね……?』



な、んでこんな接近してるの…………?違う違う、こんなの告白じゃない、ただのキスするやつだ。うわぁ……早く言うなりどうにかしてほしい。喋るたびに吐息が顔に当たりそう……というか胸とかすごい当たってるんですけど……誘惑してます?これ。


 

さっきと違うのは、秋葉の表情にある種の気合が入っていて。以前見た雑誌表紙のHISUIと全く同じじゃん……この距離でそれは……強すぎ。え?何?私は芸能人に告白されるの??見つめてくる瞳に意識を吸い込まれながら、ああ……本当に贅沢なお願いしちゃったな……と、ぼぅっとしているとパッと離れて急に後ろを向く。あれ……秋葉さん?



「う、うう…………」


 

耳まで赤くなってふとんの上で頭を抱えている。もう終わりなの……?と聞いたら



「丹海がっ、すごい見るからっ……」



なんか怒っていた。えぇ……?告白の時に目を見ないってどういう……?私的にはあり得ないんだけど……じゃあ見ないようにする?と提案すると「いや、ちゃんと見る。」ってまた私の肩に手をやり、


 

『あのね…………?』



また、身体を一気に寄せてきてゼロ距離一歩手前の告白劇場がはじまった。だから距離の詰め方どうなってんの?本当にアサシンなの?普通に命を狙ってるじゃん。もはや気合というか殺気立ってて、獲物を逃がさないスナイパーみたいな目つき怖い……



『丹海のこと、前からね…………?』



う、うん、と相槌したら、ぐぅっ……と、何だか苦しそうな声を出して。……ヘビにでも噛まれた?いけないいけない、集中して彼女の言葉を待とう。



『前から………………っ…………』



ヘビの毒が回ってきたみたいに目を閉じて苦悶している。肩をつかむ手がぷるぷると震えてるから、手を添えてあげたらビクっとして、その手を握り返しながら私を決意の目でまっすぐと見て



『好き…………大好きだった………ずっと………』



瞳を潤ませながら告白する。え……映画のクライマックスだ………臨場感すご…………しばらく放心した。



ありがとう……すごいよ秋葉、女優みたいだよ……って感動して出た涙を軽く拭っていたら、チュッてなんかが触れた。…………ん?



キスの身元を探すと、ふとんに入って信玄餅を食べ始めている。私は即、そこに潜りこんで、手で顔をこちらに向けようとするが嫌がりながらクスクスしている。秋葉さん?なぜ口の端にしたんです?リベンジですか?と問い詰めると、あははとますます笑った。

 


ちゃんと前置きしなきゃダメって言ったでしょ?と、私が何だかエッチな授業の先生みたいになってしまって「前置きすればやっていいの?」って女子生徒も危ない質問してくるから笑っちゃったよ。


 

ねぇ、何食べてるの?と聞くと「狭い……来ないで」って言うから、ふとんを頭まで被って暗くする。秋葉は「やめて……」って薄暗い中、口をもぐもぐして。告白大会したから2人とも身体が熱い。ねぇ……蒸し暑いのすごいエッチじゃない?って小声で言ったら「すぐ誘惑する……騙されない……ビッチ……」なんていうのがまた始まった。

 


ふとんは秋葉が保健室でやってきたことじゃん、と、私も枕元の信玄餅をもらってもぐもぐしてたら「懐かしい……」ってあの時を思い出したのか、静かに微笑んでいる。……じゃあさ、修学旅行だから、女優の秋葉さんの好きなタイプとか聞いちゃってもいいですかっ?ってマイクを向けたら手で取材拒否された。

 


……秋葉さんっ、ウワサのっ、近くの席に座る、セミロングの可愛いニウさんという女性との進展についてお聞きしたいんですけどっ!って諦めずインタビューを続けると「可愛いって自分で言ってる……」ってウケててなかなか答えてくれない。



実際どんな女性なんですかっ?身長は164センチで、バストはEカップで、超絶キュートだと話題の彼女ですがっ!ってめっちゃ爆笑してるから畳み掛けて、秋葉さんっ、出会いは一目惚れだというお話、本当ですかねっ?ボディラインが決め手だったという風のウワサもありますがっ、あと下着姿をじっくり見ていたっていうのも、秋葉さんの答えられる範囲でよろしければっ、



「見てないっ……見てないからっ……お腹痛いっ……」って最高に笑いこけてなさる。見てただろ?



やっぱり意中の女性のカラダというのは気になるものですよねっ、実は私も見てましたけどっ秋葉さんが制服のシャツに袖を通すところっ、窓の光で透けててすんごくセクシーでしたよっ、私の好みはですねっ、やはり長い脚っ、からの太ももっ、そして美しい胸からの肩っ、もちろん艶のある髪と最高の顔っ!全部ですねっ!そんな絶世の美人である秋葉さんっ、あのニウさんとどのようなご関係なのですかっ?答えられる範囲でよろしければっ、



「そんな人知らない…………聞いたこともない。私の記憶にはない……完全に嘘のデマ…………」


 

ええとっ、彼女を泣かせたあと左の口の端にキスをしていたという目撃情報がありますけどっ!って真実をバラしたら横を向いて「ぶっ……」と噴いた。そして猫みたいに完全に丸まって、まんじゅうを食べはじめる……ってそれ、私のじゃん!口にくわえてる秋葉に、ちょうだい?って顔を近づけてゆっくりと半分をいただいた。うんおいしい。



それで秋葉さんっ、素敵なニウさんなんですけどっ、詳しくどんなところに惹かれたのですかっ?お聞かせくださいっ!って再びマイクを向けたら「丹海は変態……節操無しの、何股もできるスキルを習得したエッチな魔女……ビッチプリンセス…………」なるほどっ、エッチでビッチなところに惹かれたんですねっ!「違います……そんな人は知らない……関わりもない……」あっ、でもそんな秋葉さんが彼女の右の口の端にもキスしていたという目撃情報がっ!「ぶっ…………そ、れは妄想……誰かの勝手な夢……」えっ、でもキスされていたのは新現実でだったという「もういい……ゲームするから邪魔しないで……」


 


あっではっ、ついに交際を認めるんですねっ?ニウさんとのっ?

「うるさい……近い……暑いから離れて……」



新婚旅行をしているというウワサも出ていますがっ?

「これは…………修学旅行。ねぇ浴衣はだけてる……脚とかおっぱい見えてるから……エッチ」



今夜は暑い夜ですねっ!眠らずに何をなさるおつもりですかっ?明日はどうしますかっ?

「なにもしない…………そうだ丹海、あとで飲み物買いに行こ?……明日は…………」


 


 

実際、明日……なんてないけどね?


飽きたら次へ行って、来たかったら何回でもここに訪れるような世界で私は時計なんか見てない。秋葉の真面目な顔を隣でじっと眺めて、どうしたら笑ってくれるかな?って忙しいんだ。

 





 




 

 


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