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第4章~第8話~

 遠山響子が打ち明けた内容は、ボクが半ば予想していたとおりのモノだった。

 その事実に、暗い気分になりながらも、最後の勇気を出して、真相を語ってくれたクラスメートに敬意を払って、ボクは努めて明るく彼女に声かける。


「ありがとう、遠山。キミのおかげで、ようやく事件の全貌が見えた気がする。お礼と言ってはなんだけど、ランチを奢るから一緒に昼食を食べに行かないか? 12時に呼び出されているなら、お腹も空いているだろう?」


「野田くん、こんな時まで、優しいなんて反則じゃない?」


 女子生徒は、苦笑いを浮かべながらそう言ったあと、澄ました表情でこう言った。


「それじゃあ、お言葉に甘えて……私、この辺りに前から行ってみたいと思っていたバーガー・ショップがるんだよね」


「いいよ。ランチにはピッタリじゃないか! お店に案内してくれる?」


 ボクの言葉に、何故かクスリと笑った遠山は、「ありがとう」と言ってから、念を押す。


「水泳部の食欲を甘く見ないでね。あと、付き合ってくれると言ったからには、私が食べる量については、言及しないこと。それでいい?」


「わかったよ。覚悟しておく」


 バーガー・ショップに移動する前に、そう宣言したボクは、実際に店舗に移動してクラスメートが注文したメニューと値段を確認し、自分の発言を後悔することになることをこの時点では、まだ理解していなかった。


 遠山響子が案内したバーガー・ショップは、彼女との待ち合わせ場所(と言っていいのだろうか?)に使ったホテルから、徒歩5分ほどの場所にあった。

 午後1時を過ぎた頃の日中で最も暑い時間帯だったため、移動距離が短かったことは幸いだった。そして、肝心のメニューの価格帯もインバウンド目当ての観光地価格などではなく、非チェーン店のバーガー・ショップであれば、常識の範囲に収まる値付けだった訳なんだけど……。


「ダブルダブルに、BMB、あと、山椒バター磯辺バーガーをください。ドリンクは、オレンジジュースで」


(えっ、3つも食べるのか?)


 ボクが疑問を挟む余地もなく、注文を受けた店員さんは笑顔で応じる。

 

「ダブルダブルとBMBは、少々お時間をいただきますが、よろしいですか? そちらの方もご注文をどうぞ」


「それじゃ、プレーンバーガーとアイスコーヒーで」


 注文を終えたボクたちは、店内の座席に座る。建物の外観から内装まで、アメリカ映画に出てきそうな洒落た雰囲気で、ここが真夏の日本であることを忘れそうになるけど、目の前の制服姿の女子生徒が、ボクを異国情緒から現実に引き戻す。


「野田くんって、少食なの? さっきはああ言ってくれたけど、たくさん食べる女子って引いたりしない?」


「健康的に食べる人に、そんなネガティブな感情は抱かないよ。あと、今日は朝食が遅めだったから、そんなに空腹感は無いんだ。あと、夕食の時間まで、そんなに時間も無いしね」


 そんな会話を交わしていると、ボクたちが注文したメニューのうち、山椒バター磯辺バーガーとプレーンバーガーがテーブルに運ばれてきた。このテのお店の常として、大きなバーガーの隣には、厚切りのフライドポテトが、こんもりと盛り付けられている。


「この山椒バーガーっていうのを、一度食べてみたかったんだよね」


 そう言いながら、遠山は、山椒と海苔の香りに食欲をそそられのたのか、バンズでパティを潰しながら、豪快にバーガーに食らいつく。


「ウワサには聞いていたけど、やっぱり、水泳部って、たくさん食べる人が多いんだね?」


「そうだね。ただ、普段はおにぎりとか、消化に良いモノを中心に食べてるから……練習があるときは、消化に良くないパン食は避けるようにしてるんだけど……もう良いかなって……」


「水泳を諦めるなら、陸上部にでも転向するかい? もっとも、陸上競技じゃ、もうこんなに食べられなくなるだろうけど……」


 ボクが冗談めかした口調で言うと、「う〜ん、それは無理かな? やっぱり、水泳は諦めたくない」と、山椒バーガーをペロリとたいらげた遠山は、「でも、もう大学への推薦ももらえないだろうし」と、寂しそうに言う。


「水泳が好きなら、諦める必要はないさ。遠山は、定期テストでも成績上位に入ってるだろう? ウチの学院の成績上位者なら、大学のスポーツ強豪校の入試でも難しく感じることは無いと思うよ」


「そうかな?」


「そうだよ。夏休み中に時間をもらえたら、水泳の強豪大学と偏差値を調べておくけど?」


 ボクがそう答えると、彼女はこのタイミングでテーブルに運ばれたてきたBMBという名の厚切りバター、メープルシロップ、カリカリベーコンを挟んだ最強甘じょっぱバーガーに目を輝かせながらも、


「もう、ホントそういうところなんだよね、野田くん……」


と、つぶやいてから、今度もバンズでベーコンを握って、バーガーにかぶりつく。

 その後、締めにパティとチーズが2枚ずつ挟まれたモンスターバーガーであるダブルダブルを完食した彼女は、「はぁ〜美味しかった。今日が夏休み最高の思い出かも」と口にした。


 そんなクラスメートに、ボクは苦笑いで応じる。

 

「いや、それは大げさでしょ?」


「ううん……こうして、野田くんとバーガー・ショップでデート出来たんだもん。私にとっては、忘れられない一日だよ。あ〜あ、相手が敏羽じゃなけりゃ、もっと、アプローチもしたのになぁ……」


 彼女のその言葉に、ボクは貼り付いたような笑みを浮かべることしかできなかった。

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