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第4章~第7話~

 水泳部の期待の星として学院内でも有名人だった女子生徒は、全身を起こしてベッドに腰掛ける体勢を取ると、顔を覆っていたタオルで、額や首筋に浮かぶ汗を丁寧に拭き取った。

 

 最後に顔を拭いたタオルがベッドに置かれたことを確認し、ボクは、遠山響子が手にしていたモノを回収してバスルームに入り、ついでに自分も洗面台で顔を洗う。


 バスルームから出てきたボクに、「ねぇ、バッグからブラシを取ってくれない?」と女子生徒から声がかかった。

 床に投げ出されたままのスポーツバッグから、ブラシを取り出して手渡すと、彼女は黙ったまま髪を整える。


 そんな彼女の姿を横目に見ながら、ボクは、ベッドのそばにあるソファーに腰を落として口を開いた。


「この部屋に入ってきたのが、キミだとわかって、なにかの間違いだと」


「なにかの間違い……だったら、良かったのにね―――いつかは、こんな風に自分のしていることが、知られる日が来るとは思ってたけど……でも、その相手が、野田くんだなんて……」


「どこか、身体は痛くないか? 乱暴なことをしてしまって、すまなかった」


「ううん……大丈夫。相変わらず、優しいんだね? それより、野田くんは、どこまでわかっているの?」


「どこまで、か……ざっくり話すと、ウチの学院の関係者と生徒が、建設会社と博覧会協会の癒着に関わっているってことくらいかな?」


「そこまで知ってるんだ? 当事者の私たちより、野田くんの方が詳しいくらいかも」


「警察には、面倒な管轄ってのがあるらしい、おとり捜査なんて出来ないらしいから……時間が無限にある夏休みの高校生の出番ってわけだ。いまとなっては、余計なことをしてしまった、と後悔してるけどね。仲田のことも含めて……」


「そっか……私も、野田くんの顔を見たとき、声が出ないくらい驚いて、最初は意味がわからなかった。でも、すぐに気がついた。あぁ、もうお終いだな、って――――――」


「良かったら、聞かせてくれないか? キミたちは、どうしてこんなことを? その……亡くなった葛西は、周りの友だちとの付き合いから、お金に困っていたようなことを聞いたけど……」


「そんなことじゃない……!」


(じゃあ、いったい、どうして――――――?)


 ボクの表情を察したからなのか、遠山響子は、ポツポツと語りだした。

 

「私ね、大会や記録会が近づくと、ストレスが溜まって、これが手放せないんだよね」


 そう言って、水泳部のホープは、タバコを吸う仕草を見せた。


「これを吸うと、気持ちも落ち着くし、食欲もある程度おさえられるから、心のお守り代わりに吸ってたんだけど、それが周りにバレっちゃってさ。いつの間にか、理事長の耳にまで入ったらしいの」


「それで?」


「このままじゃ、水泳の大会に出すことは出来ない。その代わり、あとはわかっているね――――――? って言うお決まりのパターンよ」


「それは、理事長から直接的に指示されたのか?」


 ボクの問いかけに、遠山響子は首を横に振る。


「主には学年の先生を通じて、ね」


「じゃあ、葛西と仲田も同じなのか? 二人とも、キミと違って部活に青春を賭けているタイプには見えないけど……」


「稔梨は万引きで、仲田さんは一年のときの定期テストでカンニングをしたのがバレたのが、キッカケだと聞いたことがある」


 なるほど……それぞれの生徒の弱みを握ってから、自分たちの意に沿うように動かそうと考えていたわけか。


「彼女たちが、グリ下や浮き庭に出掛けていたのは、あの辺りで顔を売るためか……?」


「多分、ね」 


「あと、もしかして、葛西のお気に入りのアクセサリーもどこかの店で?」


「それは、自分で買ったんじゃないかな? いちおう、少しはお金も貰えたからね」


「そうか……ところで、キミも、葛西や仲田と同じように誰かと一緒に行動してたのか?」


「ううん、私は他のコとあまり絡みたくなかったし、単独行動をさせてもらってた。誰かとツルむのは、これを一人でやり通す勇気がないか、逃げ出ししそうなコの相互監視のためかな?」


 ふむ……生徒から告発できないよう、対策もバッチリというわけか。


「たかが、未成年の喫煙くらいで、こんなことまで……」


 それは、理事長をはじめとする学院の関係者や彼女たちと関係を持ったであろう大人たちに対して、憤りを覚えたことで、口に出してしまった言葉だったのだけど……。


「たかが、なんて軽く言わないでよ! 私は国体に出ることが決まっているし、オリンピックの指定強化選手にも選ばれた。喫煙くらいのことでキャリアを無駄にするなんて出来ないじゃない! 私だって、怖かった。誰にもこんなこと言えないし、もし、こんなことを続けて知っている人に出会ってしまったらって考えて、いつも、ビクビクしていた。もう、いやだ、こんなこと!」


 そう言って、遠山響子は、ソファーに居るボクのもとに駆け寄り、ワッと泣き出した。


「私、もう全部お終いなんだ……水泳も、学校も、何もかも……」


 そんな彼女の姿があまりにも痛々しく、ソファーで泣き崩れているクラスメートの肩をさすることしかできない。

 それでも、感情を押し殺して遠山響子に聞かなければいけないことが、ボクにはあった。


「まだ、なにも終わってないさ。すべては、キミのこれからの行動に掛かっている。ところで、最後に確認させてもらいたいことがあるんだ。キミや葛西をこんなことに巻き込んだ学院の教師は、斎藤先生だけなのか?」

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