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第4章~第6話~

 〜7日目〜


 博覧会協会職員の石井久和という人物からは、合同庁舎で会話を交わしたその日の夜に連絡が来た。念のため、彼とは秘匿性の高いメッセージングアプリを利用して、コミュニケーションを取ることにしているので、この職員とのやり取りは、設定のとおり、半日で消えることになっている。


 ====================

 予約が取れた。日時は、明日の正午だ。

 ====================

 

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 了解 場所は?

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 喜多野にあるエル・エ・ルイ・アーバン

 というホテルだ。

 そこに吉井という名前で予約を取った。

 相手は、正午に303号の来る。

 その部屋で時間まで待機すれば良い。

 ====================


 石井からのメッセージを確認したあと、すぐにホテルに関する詳細を検索し、午前中に自宅を出れば、十分に待ち合わせ時間に間に合う場所だということがわかった。


 ====================

 了解

 尚、このメッセージは12時間後に消滅する

 ====================


 有名なスパイドラマっぽい内容でメッセージを返信したあと、ボクは十分に睡眠を取って、今日に備えた。

 いつものように、憲二さんを見送ったあと、遅い朝食を取ってから待ち合わせ場所を目指す。


 くだんのホテルは、参宮(さんのみや)駅から徒歩で十数分の場所にあった。そこは、繁華街を抜けた観光地と言っても良い立地で、ボクたち高校生が日常的に訪れるようなところでは無いことは間違いなさそうだ。


 電飾も外壁も青色で統一された建物に入り、「吉井」の名を告げて、303号室で待機する。


 本当に、ウチの女子生徒が関わっているんだろうか――――――?

 それ以前に、石井という人物にハメられていないだろうか――――――?


 ここに来て、急に不安な気持ちに襲われる。

 

 前日に石井と会話を交わす前よりも、はるかに大きな緊張感を覚え、ノドがカラカラになるのを感じながら、ボクは待ち合わせの時間が来るのを、ドアから死角になっているベッドに腰掛けながら待っていた。


 そうして、待ち合わせ時間の数分前、コンコンとドアを叩く音が鳴り、ボクはベッドから飛び起きて、ドアに近づく。さらに、すぐには顔を見られないように室内の側に身体を向けてから、ドアの影に隠れるようにしてから扉を引いて相手を部屋に招き入れる。

 狙いどおり、相手が完全に室内に入って来るまで、お互いの顔を確認できない状態を作ることができた!


 制汗剤の香りが鼻をくすぐり、ボクのあごの辺りの高さを切りそろえられたショートヘアーの女子生徒が通り過ぎる。


 そのまま、後ろ手でドアを閉め、女子生徒に逃げられないような態勢を取ると同時に、相手がボクの方に振り返り、互いに言葉を失った……。


「えっ、なんで!?」


 彼女が肩に掛けていたスポーツバッグが床に落ち、相手は一瞬だけ後ずさりしたあと、我に返って、ドアを背にしたボクの脇をすり抜けようと、身体をかがめる。


 その姿に、こちらも気を取り直して、タックルを受け止めるべく、ラグビー部のスクラムを組む姿勢で相手よりもさらに低い構えで、肩から彼女の全身を受け止めた。そのまま、肩で相手を担いだボクは、ベッドに向かって、ダッシュし、スプリングのよく効いた寝台に、相手を背中から放り出す。


「キャッ!」


 という女子生徒の声にも構うことなく、ボクは仰向(あおむ)けになってベッドに身体を沈めた相手に覆いかぶさった。

 女性に対して乱暴をはたらこうとする男に抵抗するように、彼女は全身をばたつかせたが、ボクが黙ったまま両手を押さえつけたままでいると、しばらくして、相手の身体からはチカラが抜けていった。


 ジッと見つめていた彼女の目には、涙があふれ、全身からグッタリと脱力する感触を感じることが出来たので、ボクは相手を組み敷く体勢を解いて、ベッドから降りる。

 身体を離したあとも、彼女はボクが掴んでいた姿勢のまま、両腕をだらりとベッドに預けたままだった。そんな相手のようすを横目で見ながら、バスルームに入ったボクは、タオルを手にして女子生徒に手渡した。


 スカートの乱れを直した相手は、横たわったまま顔をそらして、タオルで受け取って表情を覆う。


 彼女が、そのまま身体を震わせているのを見るのが忍びなく、部屋に備え付けてある冷蔵庫から炭酸飲料とスポーツドリンクのペットボトルを取り出し、スポドリをベッド脇のテーブルに置いてから、炭酸飲料を開封し、緊張で言葉が出ないの防ぐために、ノドを潤す。


「わかっていると思うけど、キミになにかをするつもりはない。それだけは、信じてくれ」


 声をかけると、女子生徒は、タオルで顔を覆ったまま、黙ってうなずいた。


「なあ、どうして、こんなことが起きているんだ? 落ち着いたら、教えてくれないか遠山」


 ボクの言葉に、遠山響子は、ピクリと身体を動かした。

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