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「体調はどう?問題はないかしら?」


ソフィーが心配そうに聞いてくるのでメアリーは頷いた。


「はい。問題ありません。ご心配ありがとうございます」


あれから数日が経った。

城に滞在はしているが、デュークは忙しく動いているがメアリーはすることが無い。

ソフィーの侍女として仕事に復帰したかったが周りから止められて毎日やることも無く本を読んだり編み物をしたり過ごしていた。


今日は、ソフィー妃とのお茶会だ。


普段ならば給仕係として部屋の隅に立っているはずなのに、ソフィーと向かい合って座っている状態に落ち着かない。


「呪いの腕輪外れてよかったわね。結局どうやって外れたの?」


愛を確かめ合っていたら外れましたとも言えずメアリーは首を傾げた。


「さぁ……。どうしてですかね。私にも分からないんです。事件が終わったら外れたというか、腕輪があった場所に行ったら外れたというか……」


説明がしづらいメアリーにソフィーは頷いた。


「そうなの?まぁ、不思議な腕輪だったから外れた原因も曖昧だったのかしらね。しかし、あのキャロル一家が殺人罪で捕まるなんて。よかったわね、事件が明るみになって」


「はい。すべてデューク様達のおかげです」


両親の事故の話を聞くとまだ心が痛む。

メアリーは頷いて頭を下げるとソフィーは首を振った。


「怪しいとは思っていたのよ。デューク様が現場に居合わせた事は事件当日から知っていたの。そこからデューク様はずっと事件を追っていたわ。始めからブルーノが怪しいと思っていたらしいけれどね」


ソフィーの言葉にメアリーは声を上げる。


「あっ。6年前、デューク様がブルーノを殴っていたのはそういうことですか?」


「多分、そうじゃない?口を割らないから殴ったんじゃないかしらね」


6年も前から自分の為に動いていてくれたのかとメアリーの心が温かくなった。


「もう、キャロルの噂話でもちきりよ~。そのおかげでデューク様は昔からメアリーを愛していたという事実が証明されたんだとか世間では盛り上がっちゃっているわ」


「そ、そうなんですか」


ずっと部屋にこもりきりだったから知らなかったとメアリーは顔を赤らめた。


「それで、メアリーはデューク様が怖いって言っていたけれど……どう?もう怖くないの?」


心配そうに聞いてくるソフィーにメアリーは頷いた。


「はい。良くしていただいているので。その……今では私も愛しているというかなんというか……」


恥ずかしさで声が小さくなるメアリーにソフィーは生暖かい視線を送る。


「そうなのー。よかったわ。デューク様の長年の恋が報われた感じがして感慨深いわね」


あっさりと納得したソフィーは感動したように一人で頷いている。

恥ずかしい気分になりメアリーは紅茶を一口飲んだ。


「でも、よかったわ。すべてがいい感じに収まって。メアリーが侍女に復帰してくれたら私もうれしかったけれど、諦めるわ。メアリーが北の大地に行っても幸せに暮らせるように祈っているわ」


(そうか、私がデューク様を選ぶということは北の大地で生きていくという事なのね)


メアリーはこれから先の事を考えて寂しくなる。

城で働き始めた時はずっとソフィーの侍女として生きていくのだと思っていたが、まさかデュークと共に生きることになるとは考えもしなかった。


「寂しくなります」


しょんぼりして言うメアリーにソフィーも頷いた。


「そうね。でも大丈夫よ、私はメアリーの事を大切に思う気持ちは変わらないわ。たとえ北の大地に居てもずっとあなたの事を心配しているからそれは忘れないでね」


心からのソフィーの言葉にメアリーの心が温かくなる。

寂しかった気持ちが薄らいだ。


「ありがとうございます」


「メアリーがそうやって微笑んでいれば私も幸せだわ」


実の母に言われているような気がしてメアリーはそっと涙を拭った。


(きっとお姉さんが居たらこんな感じなのかしら。ソフィー様を姉だなんて失礼よね)


独りぼっちになったメアリーを直ぐに心配して生活の世話をしてくれた恩は一生忘れない。

何かあったらソフィーの力になろうとメアリーは心に誓った。



ソフィーと面会が終わった後、部屋に戻るとどこかに出かけていたデュークが先に戻っていた。

大量の書類が机の上に載っていてデュークは座ったままメアリーを呼び寄せた。


「お疲れ様です。お仕事中ですか?」


仕事ならば邪魔をしては悪いとメアリーが近づきながら言うと、デュークは首を軽く振った。


「いや。仕事ではないが、やらなければならない書類だ」


そう言いながらメアリーの腕を素早く取って引き寄せた。

バランスを崩したメアリーはそのままデュークの膝の上に座るような形になり後ろから抱きしめられる。


「な、なんですか?」


まだお互いの距離感が解らずにドキドキしているメアリーに苦笑しながらデュークは机の上を指さした。


「事件のこともあり書類にメアリーのサインが必要だ」


「はぁ」


頷きながらメアリーは机の上に置かれている大量の書類を見た。

全てにサインをしないといけないのかと眉をひそめているとデュークが後ろからメアリーの顔を覗き込んでくる。


「書類はすべて俺が目を通している。メアリーはサインだけしてくれればいい」


「わかりました」


デュークがそう言うならとメアリーは頷いてペンを持った。

メアリーを膝の上に乗せながらデュークは書類を取り出して机の中央に置く。


「さっそくこれにサインをしてくれ」


「あの、まさかこの状態でサインをしていくのですか?デューク様疲れません?」


デュークを気遣って言ったが、恥ずかしいので出来れば膝の上から降りて一人で座りたい。

そんなメアリーの要望はすぐに却下された。


「全く疲れない。この方が効率的だ」


(効率的って……)


とても効率的とは思えないが、デュークはこのスタイルが気に入っているのだろう。

恥ずかしい気持ちを堪えてメアリーはペンを持ってサインを始めた。



「デューク様そろそろ手が疲れてきました」


うんざりするほどの大量の書類にサインをしてメアリーはペンを持っていた手を振った。

書かれている内容を確認する暇もなくデュークは積み上げられた書類をメアリーの前に置いてサインが終わると左に置いていく。

流れ作業を繰り返しているが全く終わりが見えない。

泣き言を言うメアリーにデュークは頷いた。


「やっと半分が終わったところだな。今日は終わりにするか」


「こ、これでまだ半分なのですか?」


驚くメアリーにデュークは頷いた。


「6年前の事件のことや今回のキャロルやブルーノの事件も絡んできているからな。いろいろと書類が増えてしまうのは仕方ない」


「そう言うものなんですね」


難しい事は分からないとメアリーは伸びをしながら頷いた。

家の事も関係してきているのだろう、もし父が生きていたら父がやるはずだった仕事もデュークが行ってくれているのだろう。

そう思うとサインをするだけなのに根を上げて情けないと思ったが手が痛くて今日はもう書けそうにない。


やっと休めるとメアリーはデュークの胸に体重を預けた。


「メアリー」


「なんですか?」


デュークに顔を覗き込まれてメアリーは彼を見上げた。

アイスブルーの瞳と目が合う。


「呪いの腕輪が外れても俺はメアリーを愛している。メアリーは?」


何度聞かれても恥ずかしいが、小さな声でメアリーは答えた。


「私も、気持ちは変わりません。その、デューク様を愛しています」


メアリーの返答を聞いてデュークは微笑んだ。


「ありがとう。北の大地で共に暮らしてくれるだろうか?」


デュークはこの国の第一王子で、王位は返上しているが身分は高い。

そんな人の隣に自分が立っていてもいいのだろうか。

それとも、ただ傍に居ればいいと言っているのだろうか。

ぐるぐると悩んでいるメアリーにデュークは微笑んだまま頬にキスを落とす。


「もちろん、共に暮らすということは夫婦になってくれと言っている。メアリーが自分の身分を気にしているようだったからソフィー妃の家に養子に入ってもらった」


「えっ?」


さらっと言われてメアリーは目を丸くした。

そう簡単に養子になれるはずがないではないかと目を丸くしているメアリーの目元にキスをする。


「ソフィー妃のご両親も大変喜んでおられた。ソフィー妃もメアリーを妹のようだと思っていたから嬉しいと言っていたぞ」


「そんなこと、聞いていません」


驚きながら言うメアリーにデュークは微笑んだ。


「極秘で進めていたからな。ちなみにメアリーがサインをした一部が養子入りの書類だ。どうだ?俺と夫婦になるのにもう気にすることは無いだろう?」


そう言われてメアリーは唇を尖らせた。


「そうですけれど、やっぱり私は美しくも無いし、メアリーって名前だってパッとしない名前ですし」


キャロルと初めて会った時にメアリーという名前をバカにされたことは一生覚えている。

小さく言うメアリーにデュークは肩をすくめた。


「俺の妻になるのに容姿は関係ないだろう。くだらない。それに名前が気になるのならば名前を変えることもできるが?俺はメアリーという名前が可愛くて馴染があっていいと思うが……」


どうする?というように見られてメアリーは首を振った。


デュークであれば名前を変える手続きもできるだろうが、たしかにそれは自分ではなくなるような気がする。


「メアリーという名前は……両親が付けてくれた名前なのでこのままでいいです」


(あれだけ平凡な名前を変えたいと思っていたはずなのに、やっぱり変えたくないわ)


メアリーという名前を呼んでくれた母と父を思い出す。

デュークはニヤリと笑ってメアリーの顔を覗き込んだ。


「そうだろうな。メアリーという名前も含めてメアリーだ。俺は名前なんてどうでもいいが、メアリーをメアリーと呼べなくなくなるのは寂しい」


「そうですね」


「それで?俺と夫婦になってくれるかな?」


もう断る理由などないだろうというように覗き込まれてメアリーは観念して頷いた。


「……はい」


「ありがとう」


デュークは嬉しそうに微笑むとメアリーに口付けた。





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