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2022年7月2日 みよたみのりのこのはなだより

 この小説は、作者が「星空文庫」で執筆している『宗教上の理由』シリーズの世界設定を使ったスピンオフです。上記小説を読みたいという方は、星空文庫にて作品名または作者名「儀間ユミヒロ」で検索をお願いします。

 もちろん、この小説単体でも話がわかるようにしておりますので、安心してお読み下さい。

 山奥にあるという設定の、架空の小さな村、このはな村。この村にあるコミュニティFMを舞台に、小学生DJのおしゃべりを文字でお送りする、ちょっと変わった形の小説です。

 架空のラジオ番組の文字起こしという体裁のため、文法や文中記号の使い方が本来のルールとあえて異なった形になっている点をご了承願います。原則として地の文はメインパーソナリティのおしゃべり、カギカッコ内は他の登場人物のおしゃべりです。

また、この小説は言うまでもなくフィクションです。

 みなさんこんにちは、みよたみのりです。前回の放送のあと、月曜日に梅雨が明けちゃいましたね。すっごく早くてビックリです。

 でもあくまでも、梅雨明けしたと「みられる」だけですから、また梅雨前線が戻ってくるかもしれません。それに、梅雨が明けるということは猛暑に一層の注意が必要になるということですね。みなさん、どうかお気をつけ下さい。

 それでは、コノハナサクヤヒメに守られし神の村、このはな村からお送りします、みよたみのりのこのはなだより、今週もよろしくお願いしまーす。


 みよたみのりのこのはなだより。先々週から、このはな村は雷の多発地帯で、夕立どころじゃないものすごい雷雨が突然やってくることが多いことや、それに備える方法をお話ししてきました。そしたら先週の放送のあと、ものすごーい大雨に遭ったんです。ボクたちは放送が終わったあと、別の週に放送する分の録音をしに行ってたんですが、急きょその日の様子をお届けすることにしました。


 ではその時のメンバーを、その日に着ていたレインウェアと一緒に紹介します。

 まず先週も出演してくれた、みるちゃんこと七条美留久さんです。みるちゃんは先祖代々このはな村に住んでいて、村の天気や自然を調べるのが趣味です。今日は先週と同じカッコで来てもらいました。みるちゃん、よろしくお願いしまーす。

「こんにちはー。よろしくおねがいしまーす」

さっそく、みるちゃんのファッションチェックです。まずこのレインウェアだけど、色がオレンジで可愛いし、あと半袖半ズボンって面白いなーって思って。

「うん、これは登山用のレインウェアで、夏でも暑くならないように袖が取り外し出来るの。先週も言ったけど、このはな村みたいな山地では突然雨が降ってくることがよくあるから、これを普段から着ておくと、もし急に降って来ても袖を付けるだけで全身カバー出来るから便利だよ。もちろん防水透湿だから、雨は通さないけど蒸れないよ」

そっかー。だよねー、このはな村では雨が降る気配を感じたらまず雨具、ってみんな学校とかでも教わってるから、それ便利だよねー。晴れてるうちから着てられるんだもん。

「便利便利。ただ、このはな村は夏でも涼しいからいいけど、ほかのところだと半袖でも一枚増えただけで超暑くなるかもしんないけど」

ねー。それに、登山用のって高いよね?

「うん、高い。だからこれもお姉ちゃんのお下がりだよ。みーちゃんのも登山用だけど、これはどうしたの?」

 うん、ボクはおかーさんのお下がり。あ、今どんなの着てるかっていうと、濃いピンクの上下です。みるちゃんと同じ透湿防水ですけど袖は取り外せないので、普段は専用の袋に入れて腰から提げてます。でも最近は急な雨の時に少しでも早く着られるように、ジャケットを腰に巻いたり、もう着ちゃって腕まくりして前開けて温度調節したりしてます。

 そして今日はもう一人、先週放送したときのADと、録音の出演およびスタッフをしてくれました、

「伊佐リサ、です」

リサちゃんは沖縄出身なんですが、このはな村の夏の天気は初体験です。どうだった? このはな村の夏の雨は。

「でーじどぅまんぎ、あ、驚きました。沖縄でも大雨は降るし、今年の梅雨はすごい大雨だったみたいだけど、沖縄のカタブイ、あ、夕立はどばーっと降るんだけどすぐ止むし。あとは台風が来ると雨も風もでーじなるけど、台風は天気予報で来ることわかるよね? でもこのはな村の雷雨はいきなり降るし、あと刺さるみたいな感じっていうか、沖縄って雨に濡れてもすぐ乾くからいいさー的なとこあって、雨具使わないって子もいるんだけど、こっちは痛いような大雨がずーっと降って、あと雨粒が冷たい。カッパ着て良かったさ」

そうなんだー。でもそうだよね、台風は予想できるけど夏山の雨はいつやって来るかわかんないし、このはな村は特に降ることが多いから怖いよねー。リサちゃんもレインウェア持ってて良かったでしょ? かわいいし、それ。

「あ、ありがとう。このレインスーツだっけ? は透湿じゃないんだけど裏地がゴムになってて防水がバツグンみたいで。登山では蒸れることもあるけど、村の中で雨具に使うなら身体冷やさなくていいからおススメみたい」

そうなの。リサちゃんのは本来街で着る用なんだけど、このはな村は登山で歩くようなところに人が住んでる感じだからこれすっごくいいんだってさ。

「あ、みるくでーす。これ農作業とか通学にも便利みたいでお姉ちゃんがこの色違い使ってまーす。軽くて生地が柔らかいし、それなのに結構丈夫で、雨にも強いんだってさ。お姉ちゃんのはピンクだけど、リサちゃんのはブルーとパープルの間くらいかな? これも可愛いよねー」

「あ、ありがと。沖縄にいた時はカッパって重くて面倒なイメージがあったんだけど、これ動きやすいよね。それに透湿はしないっていうけど、背中に空気を抜くスリットがあるし、このはな村は涼しいからスタジオの中で着てても動きやすいし、すっごいラク」

だよねー。村の人がこれ着てるのよく見るもん。みんな信頼のブランドなんだね。

 というわけで、今日はスタジオからこの三人でお送りして、

「待たんねーっ!」

わわわ、いきなりワインレッドの頭巾を付けた、賊が、押し入りました! あるいは何かの妖怪でしょうか?

「たーがまじむんか!」


 はい、というわけで先週から出たい出たいと言ってきかないんだけど、最近もイタズラが止まらないのでずーっと見学者扱いしてて、でも先週の録音に出さざるを得なかったので仕方なーく登場してもらいます、沖縄の言葉で、ちゅーんまじむん、今日の化け物はこの方です。

「化け物違うわーっ! はい全世界のさんごちゃんファンの皆さんこんにちは〜。沖縄が産んで、沖縄とこのはな村が育てた奇跡のヒロイン、松山さんごちゃんでーっす!」

あーはいはい、それでは次行きましょう。

「ってこらー! 反応薄すぎやろがー! アタシのファッションも紹介せんかーいっ!」

は、はーい。いい加減スルーも程々にして、さんごちゃんのレインウェアを紹介します。さんごちゃんのは、なんかとってもレトロっていうか、うん、雨は絶対通さない生地というか、しっかりして厚いやつで、なんか傘をレインスーツにして着てる感じ?

「うんうんそんな感じ。このレインスーツは昭和の終わり頃から売ってたらしいんだけど、塩化ビニールとかいう、傘も作れる素材だわけ。だからもちろん雨にはムッチャクチャ強いし、厚手で重いけど、そのかわり安心感あるよね」

うん、なんかそれ分かる。フードについてるこの紐を締めると髪の毛とかも隠れていいよね。

「そうそう、フードがどんどんせばまって、目しか出なくなっちゃうから。色づかいがワインレッドとシルバーなんだけど、フードはワインレッドだから、こうすると赤ずきんちゃんみたいで可愛いでしょぉー?」

さんごちゃん、言われる前に自分で可愛いとか言っちゃうから、ウザキャラって言われるんだよなー。えっととにかく、

先週の大雨の様子を録音でお聴き下さい。それっ。


 えー、今日はみよたみのりのこのはなだよりの生放送を終えてから、七条美留久ちゃんこと、みるちゃんの家の畑にお邪魔して、このはな村の伝統的な農業のやり方について学ぼうと思ったのですが、急に雲行きが怪しくなってきました。みるちゃん家みたく、ずっと昔からこのはな村に住んでいる家の畑は細長くて、その一番奥にボクたちはいます。そしたら急に日がかげってきまして、空を見たら青空がほとんど見えなくなってて、黒い雲が西の方からどんどん沸いて来ています。ボクたち全員、まず安全な場所に避難しました。みるちゃん、ここはどうして安全なんですか?

「はい。まず、このはな村の畑は周りを囲うように木を植えてあります。これで風を防いだり、畑の土が流れ出すのを防いでいます。その木から四メートル以上離れて、さらに木のてっぺんから四十五度になる範囲内の場所で、あたしたちは姿勢を低くしています」

先週、雷が鳴り始めたら木に近づきすぎても離れすぎてもいけない、みるちゃんが今説明してくれたような所に避難しないと危険、という話をしました。でもどうやって距離や角度を計るのかと思ってたら、雷が落ちそうな大きな木から四メートル離れたところに避難場所の目印を置くんだそうです。これは岩で、ちょうど四人座るのに良いくらいの大きさです。

 ボクたちはすでにレインウェアを着ています。みるちゃんは半袖半ズボンの服を朝から着てたんですが、これはレインウェアだったんですね。袖の長いのも持ってきてて、今大急ぎで付けています。

「ゴロゴロ」

わっ、鳴り始めました、雷。あと急に冷たい風が吹いてきて、半袖だと少し寒いかなって感じになってきました。みるちゃん、もうこれ、降るの?

「降るよ。ほぼ確実に。もう空真っ暗だも」

「きゃあっ」

「ボボボボ」

ひゃあ、あわわわ。今マイクにもすごい雑音入ったと思うんですけど、とんでもなく強い突風が吹いてきて、身体がちょっと浮いた感じがして、リサちゃんの叫び声も聞こえたと思い、

「ピシャバリバリドーン!!」

うわっ! 大きいの来ました! 光って一秒くらいで音鳴ったから近いよね、

「音の速さは一秒で三百四十メートルだから、それくらいのとこに落ちてる」

いきなりそんな近く? 早いよほんと! でもリサちゃんなんで急に落ち着いてるの?

「ここは安全だと分かったし、私もちゃんとレイン着たし。ちょっと暑いかなと思ったけど、風が吹くとちょうどいいかも」

「雨降って来たらファスナー上げてね。フードもしっかりホック留めて」

「うんわかった、みるちゃんの言うこと信じる」


 みるちゃんが避難開始宣言してから五分経ちました。すでに生暖かいような冷たいような不気味な風が吹いて、雷もゴロゴロからバリバリとかドーンとかに変わってます。多分五分前にみるちゃん家に戻る決断しても間に合わなかったと思います。突風がすごくてちゃんと歩けなくて、戻れないと思いま、

「ピシドーン!」


 ……。


 「みーちゃん、だいじょぶ?」


 こく、こく、ぶる、ぶるるるる……。


 「……怖くない、怖くないから。あ、みーちゃんが今の落雷でショックなようですので、七条が実況します。今、あたし達がいる場所から一番近いところの木に雷が落ちました。木も、あたし達も無事です。ですが、みーちゃん、みよたみのりちゃんが怖がってブルブル震えてます。

「ポッ、ポッ、ポポポポ……、バラバラバラバラ、ザーッ、ドーッ、ドドドーッ」

雨が降って来ました! ものすごい雨音で、このはな村らしい大雨です」

「カラカラカラ、ドン、ドン、ドドーン」

「雷も、すごいです。また近くに落ちました。みのりちゃんはすっかり(おび)えちゃって、頭抱えてうずくまってます。みーちゃん平気だよー。雷はここには落ちないから」

「ドーン、ドドドドーン」

「あっ、落ちた、八条さん家だ」

「木には落ちてないね」

「うん、多分畑の中。とうもろこし植えてるとこかな」

……ね、ねえ、

「ん、みーちゃん、どしたの?」

どーして? 木に落ちるんじゃない、の? しくしく。

「畑にも落ちるよ。畑のど真ん中は野原とおんなじだから、どこ落ちるかわかんないし」

いやああああっ!

「平気だってばー。ここは木に落ちる範囲内だから、じっとしてれば」

「ドーーーン!」

うそつきぃー! みるちゃん家の畑にも落ちたあー!

「あそこは周りに木がないからだよ。ここは大丈夫だから、落ち着いて、ね、ね?」

もーやだー! やだやだやだやだーっ! びえええーーー、

「みる、貸してよマイク」

「うん、ダンケダンケ」

「はい、みーちゃんを介抱中のみるちゃんに代わって、伊佐が話します。雷も激しいですが、雨もものすごい量です。マイクにも音が入ってると思いますが、台風がよく来る沖縄でもこんな土砂降りは年に何日かしかないと思います。レインスーツの上から雨粒がぶつかって痛いくらいです。畑の中の小道は土が踏み固められているので、水が染み込まずに川のように流れていきます。雷は絶え間なく鳴っています」


 「雨が降り始めてから三十分ほど経ちました。どーも、松山さんごです。雷はさっきより収まりましたが、まだ時々近くに落ちて、そのたびみーちゃんがブルブル震えています。風は弱くなりましたが、雨はますます強くなっています。ザーッ、じゃなくて、ドーッ、って感じです。えーっと、あと何か言うことある? ねえ、みーちゃん、どーする?」

「ムリムリ。今しゃべれるヨユウ無いっぽい。あたしにマイクちょうだい?」

「おう。めるしー」

「さんきゅー。えーと、みるくでーす。このはな村の夏に降る雨は、今マイクも拾ってると思いますが、滝のような雨の音です。それで、手作りの雨量計、精度、ザックリ。それをあたしが作ってここに置いてます。缶カラの中に目盛り書いただけですけど、もうすぐ三十分で二十ミリ貯まりそうです。数字を出せば傘だけではびしょ濡れになるって分かると思います。それにレインスーツも全部のボタンやファスナーを閉めないとダメです。さんごちゃんはへーき?」

「どおしてアタシに聞くかなー? ふだん着はルーズだけどレインスーツはびっしりチャック閉めて、紐もきちんと結んでるばー、ほら。でも顔がびしょ濡れなのがちょっとねー。鼻と口はマスクあるからいいけど、雨の日用のシールドってなんで肝心の雨をさえぎってくれないかなー?」

「それはだって、雨を防ぐためじゃないんだもん。あ、みるくです。普段あたしたちこのはな村の子どもは、レトロな宇宙服みたいな透明の金魚鉢に似た形のヘルメットをかぶっています。が、これの空気穴が首の後ろにあるので、レインスーツを着るとふさがっちゃうんです。だから雨の中で外にいる時には防塵マスクとアイガードだけにするんですが、ウィルスを防ぐのが目的なので雨は普通に顔にかかります。あたしのレインウェアも登山用でひさしが一応ついてるんですが、リサちゃんの通学モデルは透明ビニールの大きなひさしが伸びててほとんど顔が濡れてないと思います」

「えー? りーさーずるいー。アタシはフードにバイザー無いから、さっきから顔に雨がダラダラ垂れてきて大変なのにー」

「いやそれ、アイガードきちんとおでこにくっつければだいぶ良くなると思うけど。私はメガネ掛ける時あるから、このバイザーが長くてしっかりしてるのを選んだの。みるちゃんだって、サンバイザーとかキャップでひさしを延長してることあるし」

「リサちゃんよく見てるねー。ていうか、さんごちゃんにもフードの中にキャップかぶって顔が濡れにくくするやり方は、教えてあげたと思うんだけどー?」

「そうだっけ、忘れたー。まーいーや、傘だけじゃずぶ濡れになるってのは覚えてたから。お陰で全然濡れてないもん。このカッパ、素材が全然空気通さないから中がムレるかもって思ったけど、雨が冷たいし温度も低くなったっぽいから、汗かいてないみたい」

「私も。内側のゴムがベトベトするかと思ったらそうでもなかったよ。みるちゃんはもっと快適なんじゃないの? 透湿だから」

「そうだね。でもこの透湿防水って、信じられないくらい雨が入ってないんだからすごいよね」

「服はサラサラ?」

「もちろん」

「んっと、みーちゃんは?」

「……」

「みー、ちゃん? まだ、泣いてる? 雷さん、だいぶ静かになってくれてる、けど」

「……ぬれ……」

「え?」

「……びしょびしょの、びしょ濡れ! ぱんつまで、もうぐっしょぐしょ!」

「……あ、そっか、うん。……なんか、ごめんね、ヤなこと聞いちゃって」


 「みるくです。降り始めてから一時間を過ぎました。手作り雨量計では五十ミリ近く降ったことになります。まだ雨はかなりの勢いで降っていますが、雷が鳴り止んだので家の方に戻ろうと思います」

「……」

「あそっか。ゆっくり、ゆっくり立ってね。今、みーちゃんが、ズボンの中がお水びしょびしょで気持ち悪くて歩くのがイヤみたいで、さんごちゃんがおぶって行きます。あ、へーきへーき、支えてるから、はい、せーのっ!」

「あ、ありがと、ぐ、ぐす……」

「気にしなくていいよー。デニムは濡れるとゴワゴワになるから、しょうがないって。そおれっと」

「とっとっ、さんごちゃん、下滑るから気をつけてね? えーと、今二人でさんごちゃんとみーちゃんを支えながら歩いています。今日は畑に入るからという理由で全員レインブーツを履いてきたのですが、それが正解だったみたいです。普段から夏のお出かけにはレインブーツか雨用のブーツカバーを持っていくようにしているのですが、やっぱり最初から履いて行った方がいいかもしれません」

「うう〜、ズボンがぐじゅぐじゅ、きもちわるい〜」

「みーちゃんガマン、あと少しだからがんばって!」


 「はい。みるくです。ようやくあたしの家に到着しました。今お風呂を沸かしてもらっているので、このままみんなでお風呂に入って、そのあとみんなにお泊りしてもらおうと思います。まだ外は雨で、屋根に雨の当たる音がすごいです。でもきちんとレインウェアを着てると、中は全然濡れていません。このはな村に来る方は、山登りと同じ感覚でいいと思います。それではこのあたりでロケを終了します。ありがとうございました」


 ……。以上、先週のリポートの模様をお伝えしました、が。

 ちょっとみんな、どういうこと? ボクが編集したやつと違うの流れたけど?

「あれー? おかしいなー。どっかで入れ替わっちゃったかなー」

入れ替わらないでしょ! 放送の音源はボクがいつも自分で入れてるし、今日もちゃんと、ボクが! ちゃんと! この手で! 入れたの! それが入れ替わるってことは、ボクが音源セットしたあとに誰か入れ替えた、そういうことでしょ?

「ぴんぽーん。大正解。いよっ、名推理!」

推理じゃないし! 誰だって分かるし! で、主犯は? 誰がこんな事したの?

「それは、決まってるよ。誰がこういうことするって」

「そのとーり! アタクチ、松山さんごちゃんでーっす! 最近番組に出させてくれないから、ドッキリ仕掛けてやろうと思って、ディレクターと共謀の上での犯行でーっす! もちろん、りーさーもみーるーも知ってるので、共犯もしくは犯人隠匿でーっす!」

うわ、開き直ってるー! ちょっと、みるちゃんもリサちゃんも、なんで止めないの? 知ってたんでしょ?

「えー? だってみーちゃんの編集だと、このはな村の大雨の怖さが伝わらないでしょ? 良かったよー、みーちゃんの泣きの演技。小六でも泣いちゃうくらいすっごい雷と雨に注意して下さいというメッセージを伝えるには最適だもん」

いや、だからぁ、それが恥ずかしいのっ! 雷の音だけでも十分怖さは伝わるでしょ?

「伝わるけど、でも怖がってる子のようすを見せたらもっと分かりやすく伝わるさ。しかもみーちゃんてば、デニムがびしょびしょになるくらい」

きゃーっ! それ以上言わないでーっ!


 みよたみのりのこのはなだより。今日はもう強制終了します。ボクがエンディングの音楽出したらみんなしてブーブーと、なんでもう終わるのー? って言ってますけどほっときます。ミキサー卓を握ってるのはボクですから、ボクが終わると言ったら終わりですっ! とにかく、このはな村の雷雨のすごさ、みなさんも実感できたかと思います。村にお越しの方はどうかお気をつけて。

 こうやってボクがまじめに話してる時も、ほかの三人、もちろんメンバーのセンターは思い切りさんごちゃんですけど、ボクのことをいじくり倒そうと色々ガラスの向こうからちょっかい出して来ています。でもそんなのほっといて、来週こそまともな放送をしたいと宣言いたします。

 それでは、みよたみのりのこのはなだより、また来週、よろしくお願いしま〜す。あっ、ちなみにさんごちゃんがどうしてパンツやズボンが水にぬれると固くなることを知ってたかというと、宿泊学習とかお泊まりの時にデニム履いたまま寝ちゃったとき、いつも夢の中でおトイレ行っちゃってるからで、

「ドンドンドン」

さんごちゃん静かにしてねー。それではみなさんさようなら〜。


 「番組ディレクターより、このはな村からのお知らせです。国政選挙が迫っております。村では村役場および村役場分署での期日前投票、病気などの理由で投票所に行けない方のための郵便投票など、万全の体制で村民の皆様の選挙権行使をサポートしております。期日前投票および当日の投票におきましては、投票所整理券の提示で村営バスの乗車が本人および同行三名まで無料となります。投票は原則当日の二十時までですが、村営バスに遅延が生じた場合は締め切りを伸ばす事があります。是非投票にお越し下さい。以上、村からのお知らせでした」。

 異例の早さで梅雨が明けまして、連日の猛暑です。このはな村は真夏日どころか夏日も珍しいという設定なうえに、こうやって連日のように午後から天気が崩れるところ。そういう厳しい環境の中でも生きている村の人々のたくましさと子どもたちのしたたかさが書けていれば幸いです。

 みよたみのりのこのはなだよりという番組は、原則子どもが企画・制作・出演・音響などといった全てを行っていますが、みのりのおしゃべりの中にディレクターなる人物というのが出てくると思います。ディレクターは分別のつく大人で、時には暴走する子どもたちを制御しつつ、余計な口出しはせず自由に番組を作らせています。ただ注意や指摘は必要に応じて行うし、今回のように村からのお知らせをディレクターが代読することもあります。

 今回みのりがドッキリを仕掛けられ、自分の泣きじゃくる姿を放送されたわけですが、これもみのりが被害者意識を持たないという確信のもと許していて、実際みのりもさんごのオ○ショ癖をばらしてやり返す。これで恨みっこナシという関係性が成り立つことを分かっているんですね。いじめにはならないんです。

 夏は物語を動かすには適した季節。このはな村の短い夏に子どもたちはどんな思い出を残すのか。そしてそれをどれだけ小説として紡げるのか、作者にとっても楽しみな季節です。

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