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暇をもてあましたお嬢様は怪盗家業に勤しむ  作者: 冴月アキラ
終章:神話兵器を奪う者と守護する者
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愉悦と共に策を弄する者

この話で一旦第一部は完結です。このまま同じ話の中で展開するか、別の小説として上げるかは検討中です。


 柔らかな日差しが差し込む書斎の中で、青年は書類に向かっていた。

 ふわりとカールした髪は濃密な金色で昼前の強くなる前の日差しを浴びてキラキラと輝いている。長いまつ毛に縁取られた眼差しは、宵闇を纏った夜が昼を覆い尽くす刹那の色ーー深く暗い紫。

 その要望は人形のように完璧に整っているが、どこか甘さを纏う目尻や笑みを刻む唇は柔らかく、表情によっては可愛らしくも見える、そんな青年だった。


 パキリ。


 青年の耳をふいに何かが割れる音が撫でる、青年はサインをしていた万年筆をおくと、その音がした方に顔を向けた。それから、おや、と興味深そうな表情を浮かべると、樫の机に両手をつき、立ち上がる。


 青年が向かった先には天井まである高い木製の本棚があり、青年はその中でもその目線の高さにある段に置かれた置物に目を向ける。


 腕が4本あり、武器を手にした人の姿と背後に燃え上がる炎が彫り込まれたそれは、東洋の仏像と呼ばれるものだ。ただそれには色付けは全くされておらず代わりに真っ黒な素材を掘り込んでできており、手に取るとひんやりとして金属で作られているのがわかる。

 

 だが金属製のはずのそれは、棚の上で真っ二つに割れていた。誰も触れていないのに、だ。


 青年はその割れた仏像の破片にを両手に取り、笑みを吐く。眼差しには酷薄な色が浮かんでおり、容貌に残る幼さや可愛らしさに反した冷酷さが滲み出ていた。他に見るものがいたらその姿に狂気の片鱗も感じたかもしれない。


「やはりこの程度では挨拶程度にもならなかったかな?」


 青年は、仏像の割れ目を親指でなぞると呟いた。 


 それから急に興味が失せたように視線を逸らすと、仏像の破片をデスクサイドのゴミ箱に落とした。

 それの持つ神聖性への配慮するのかけらも抱く必要もないーーそんな様子だった。


 そのまま机に戻ろうとした青年だったが、ドンドンドン、という、ノックというには強すぎる扉を叩く音に遮られた。


 そうして入ってくる相手が誰なのか予想がついているのか、ドアに向かって向き直るように机にのへりに腰掛けた後、相手が名乗るより早く「いいよ、お入り」と入室の許可を出す。


「失礼します」


 どこか憮然としたような声と共に入室してきたのは軍人だった。アメリカ空軍の将校の制服を着、胸にはいくつもの勲章を下げており、かなりの高官であることが見て取れる。

 けれど、当の本人は非常に若くまだ二十代前半と言ったところだった。


 被った帽子から溢れる髪は銀に近い金色で瞳も極北の氷河を思わせる淡いブルーだった。軍人らしい鍛えられた肉体と野生味を帯びながら、鋭いナイフを思わせる切長の瞳には知性が宿る。通った鼻梁としまった顔の輪郭はかなりの美丈夫であるが、人形のようなこの部屋の主に比べて人間味のある顔立ちをしている。


 現に、今この軍人の顔は不機嫌に顰められており、部屋に入るなり取ったギャリソンキャップの下、セットされていたのは髪をかき乱す仕草は彼の紛れもない苛立ちを表していた。


「また俺の名前、勝手に使ったみたいですね」

「相変わらずエドは耳が早い。軍人の仕事の方も忙しいんだからもう少し手を抜いたらいいのに」

「目玉商品のキメラを勝手に出した挙句ダメにして、かなりの数の人形まで出したとなったら流石に俺の耳にも入ります」

「口止めしたんだけど、どこから漏れたんだろうね?」


 部屋の主の青年は、不思議そうに首を傾げながら頬に指先を当てる。その仕草は可愛らしくはあったが、目は全く笑っていない。部屋の主人のその底知れない眼差しにエドと呼ばれた軍人はぞくりと背筋が泡立つのを感じた。

 が、それを持ち前の精神力で押し殺すと深いため息をついた。

 

「お願いですから俺の目と耳をつぶすような真似は控えてください。元はと言えばルシエル様が勝手なことをしたのがいけないんですから」

「勝手ついでといえばね、送り込んだ人形二十体もどうやら壊れてしまったみたいなんだ。ごめんね?」


 ちらりと仏像を捨てたゴミ箱の方に視線を向けつつ、ルシエルと呼ばれた青年は肩をすくめる。


「……っ」


 その全く悪びれのない様子に軍人の全身から怒りが膨れ上がった。心の弱い人間がその眼差しを見たら意識を飛ばしてしまうかも知れないほどの威圧感だ。


 けれど、青年にとってこの軍人のそんな姿は、子猫が毛を逆立てているくらいにしか目えないらしい。相変わらず可愛いねえ、と呟いてすらいる。


「いったい何を企んでいるんです?」


 怒りをなんとか押し殺して、低く唸る獣のような低い声で軍人が問うと、部屋の主人は艶然と嗤った。


「とても楽しいことさ。十数年熟成させたワインが飲み頃なんだもの。ただ飲み干すより面白くした方がいいだろう?」

「……答えになっていません」

「君にもそのうちわかるさ。エドラルドにはいつも苦労かけてばかりだからねえ。会食の時には参加させてあげるから、心配しないで?」


 「ね?」ーーそう、甘く囁くように告げると、青年は美しすぎる微笑みを軍人に向ける。

 その様をじっと観察していた軍人だったが、諦めたようにため息をついた。


「貴方がそういう訳のわからないことを言う時は、追及するだけ無駄だ。真実を言う気がないんですから。貴方が何をしたいかは、話す気になるまで待ちますよ」

「ふふ。ありがとう。君は本当に物分かりが良くて可愛いねえ」


 身長は百八十を超える体格のいい、それも顔はいいがいつも無表情か不機嫌な顔かのどちらかのため怖い部類に入れられることの多い男に対し、よりにもよって『可愛い』とは馬鹿にしてるとしか思えないが、この相手に対しては今更であり言っても無駄である。  

 そのため、軍人はやや羞恥で顔を赤らめるも、すぐに切り替えて手にしていた略帽を被った。


「ーーとにかく、やった不始末は俺でできるだけフォローはしますが、呼び出しは避けられませんからね。覚悟しておいてくださいよ」

「仕方ないね。君のところの政治家は面倒臭くて話したくないんだけど」

「だったらもう少し自粛か自制をしてください」

「考えておくね」


 全くやる気のない答えを返す部屋の主に、軍人はまたため息を重ねた。それから一礼すると足早に部屋を出ていく。


 そんな姿をひらひらと手を振りながら見送った青年は、さて、と呟いて軽く唇を舐めた。


「次は何をして遊ぼうか……楽しみでたまらないよ。兄弟で遊ぶのは久しぶりだから、うんと楽しい遊びにしないと」


 そう呟いて青年が視線を投げた机の上にはいくつかの写真がある。


 その一番上の写真を指でなぞりながら、青年は囁きを漏らした。


「早く会いたいよーージェラルド」


 その写真に写っているのは、色素の薄い金髪に、氷のような翡翠色の瞳をした、美しい容貌の青年だったーー




To be continued ----


長いお話となりましたが閲覧ありがとうございました。

また準備ができ次第、第二部を投稿していきたいと思います。


投稿情報はまた順次発信させていただこうと思います。

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