二十名様入りまーす
一方、時は少し遡り、扉を閉めたグロウに戻る。
「はあ、痛ってえ」
おそらく両手共に真っ赤に腫れてるだろうな、と思いながらも≪月印のメダリオン≫を扉から外したグロウは後ろに迫る黒人間——グロウ命名——の一団にそれを高く掲げ、笑った。
「お前らがなんだか知らねえけどな、通りたかったら俺を倒して行けよ!」
言うと、それを右手で懐にしまいざま、左手でサバイバルナイフを抜く。
「二十名様、入りまーす!」
弾んだ声で叫んで、駆け出す。一番最初に接敵した黒人間が剣を握った腕を振り下ろしてくるのをサバイバルナイフで受け止めると、メダリオンの代わりに懐から取り出したメリケンサックを着けた右の拳を、思い切り相手のみぞおちにたたき込む。
黒人間の足がわずかに浮いた。そのすきに剣を受けていた腕を引き、相手の腕をつかむと、たたき込んだ拳で相手の身体を大きく持ち上げ、振り回す。
そして、後に続く黒人間達にたたき込んだ。
至近距離で投げつけられた四、五人が姿勢を崩し、倒れ込む。そのすきに、別の影人間にとりついた。
槍を突き出してきたのを身体を半分ずらして避けると、その腕に添わせるようにして右腕を突き出し、掌底で相手の顎をかち上げる。黒人間もそれなりに体躯はいいが、それよりも遥かに上背のあるグロウの膝を活かした掌底である。黒人間の首はビンと伸びきり、そうしてさらされた喉を、鋭いサバイバルナイフが屠る。
血は出ない。だが、効いてはいるようだった。
力が抜けてかしいだ身体に思い切り横蹴りを入れてやると、後続を巻き込んで吹き飛ぶ。そのまま動かなくなった。
(腕が四本あるだけで、弱点は人間と同じか)
それなら、話は早かった。
ジェイをして常軌を逸していると言われた格闘技術で、手当たり次第に敵を倒してく。
ただ、複数に囲まれるリスクもきちんとわかっているので、基本的に集団に飛び込むようなことはしなかった。剣や槍で一度に360度から攻撃されたら、さすがのグロウも終わりである。
「おっと」
その彼の脇を,何かが回転しながら通り過ぎていく。
よけられたその何かは、再び黒人間の元に戻った。それはわっかのようなもので、所々とげのようなのが突き出ているほかに、輪自身にも刃がついている。チャクラムというインドの武器だ。
「へえ」
黒人間の攻撃をよけ、蹴りをたたき込みながら、再び投げられたチャクラムをかわすと、それをサバイバルナイフの柄で下からはじく。
回転が止められたチャクラムの持ち手部分をつかむと、それを持ち主に向かって投げた。
音もなく飛んで、それは持ち主の喉に吸い込まれるように刺さった。そのまま、その黒人間は倒れて動かなくなる。
そうして、時に相手の武器を奪いながら、的確に敵の急所を突いて倒していったグロウは、程なくしてその全員を制圧した。
累々と転がる黒人間の死体の中に立って、結局こいつらなんだったんだろうなあ、と呟いたグロウの方は全くの無傷である。
ただ、相手の持っていた武器はそれなりに興味があったので、それぞれを見て回った後、チャクラムなど遠距離に使えそうなものはいくつか頂いて置くことにした。
「……ん? これって……」
その中で、一人が手にしていた金属製の何かが目にとまる。
それは中央にエメラルドのような緑色の石が填まった、薄い金色の棒状のものである。
黒人間の手の中から拾い上げてみると、その表面には何か文字のようなものが刻んで有り、よく見ると左右にジョイントがついていて、さらに別の板を引き出すことができるようになっていた。ただ、動かせる角度は決まっているのか、その追加の板は中途半端なところで止まる。
そうしてできあがったものを掌に載せたジェイは、ははあ、と呟いた。
ジグザグとしたその形に、見覚えがあった。
「あっちの扉の鍵、だな」
黒人間が来た方ではなくその向かいにある岩の扉を眺める。あの扉の境目にも似たような形のくぼみがあった。ジェイが言っていたように、おそらくここは一方通行の通路が二つ、十字に重なるところなのだ。
「ま、これを使うかどうかは、ジェイに相談だな」
考えるのはジェイに任せてるしな——と、ジェイが聞いたらまた頭を抱えそうなことを呟きながら手にした鍵を元の手の平サイズの棒状に戻すと、腰のポーチにしまった。
代わりに、懐にしまった≪月印のメダリオン≫を取り出す。
そうしてジェイ達が言った扉の先に向かおうとして——動きを止めた。
「また、この扉に触らねえといけねえのかよ」
そうして、グロウはがっくりと肩を落としたのである。
閲覧ありがとうございます。
短いので、もう1話投稿予定です。




