"頭がいい”の違い
前話が長かったのでこの話は短めです。
『回収と招待』のためにやってきたのは、前の任務失敗の時と同じくフェリスだった。
曰く、定時連絡が来なかったラヴェンダーを心配し、最初にシューヴァンシュタイン公国にジェイから連絡が入るより前に、フランスに飛ぶ手立てを整えていたフェリスは、ジェイからの連絡で乗り物を航空機からヘリコプターに乗り物を変え、一時間ほど前にバーゼルのシューヴァンシュタイン家の持つビルの屋上に到着していた。
その後、エリーゼから回される会話の音声を聞きながら、突入のタイミングを待っていた、のだそうだ。
「はいこれ。一応着替え、適当に見繕って持ってきた」
着いてそうそう、フェリスが紙袋を差し出してくれたので、ラヴェンダーはありがたくそれを受け取った。
ジェイ達は女性物の着替えは用意してくれていたが、サイズがあっていなかったし、何よりスウェットを普段着ないので、違和感が半端なかった。
そのため、撤収のためにジェイ達が荷物を片付ける間、最初に寝ていたベッドルームの中で、胸元にレースの着いたカットソーと綿のジャケット、そして細かいプリーツのついた白いスカートに着替えたのだ。
そして、ついでに一旦メイクも落とし、着替えと一緒に紙袋に入っていたラヴェンダー愛用のお出かけ用メイクポーチの中身で見られる顔にする。
今まで意識せずに彼らの前に顔をさらしていたが、鏡を見たら酷いものだった。アイライナーは取れかけていたし、はげたマスカラが目の下に散っていた。
寝室からリビングに移動した後に、アレクがホットタオルを渡してくれたわけである。
「……うお。誰だこれ」
完全お嬢様バージョンのラヴェンダーと一番最初に顔を合わせたのは、もはやラヴェンダー専用運搬機となりつつあるグロウだった。呼ばれて部屋に入った瞬間、顔を引きつらせている。
「ふふん。私は今お嬢様なんだからね。孤児院の頃とは違うのよ」
「そっかぁ……そうだよなあ」
「というか、まだ女性恐怖症直ってないの? そんなんで彼女とかできてる? 大丈夫?」
「うるせー……孤児院出た後楽しく五年間傭兵生活だ。支障はなかったんだからほっとけ」
「傭兵……」
「おー。アフガニスタンとか中東に行ってきたぜぇ。おかげで真っ黒だ」
そう言ってあっけらかんと笑うグロウは、確かにラヴェンダーの記憶の中より黒くなっている。よく見たら、首の中程から上下で肌の色が違うし、今着ているシャツよりも高いところに、くっきりと白と黒の境界線ができていた。ハイネックのシャツを着たり、Tシャツを着たりしていたようだが、圧倒的にTシャツ比率が高かったようだった。
「ちなみに言うとな。この左手、義手なんだわ」
「ええ?」
驚いて身体を離すと、自分を支えてくれる左腕を付け根からぱしぱしと叩いてしまう。
すると、二の腕の真ん中あたりに、何かプラスチックの板のような、留め金のような物が着いているのが分かった。
「中東で仲間助けようとしてドジってな。助けようとした仲間ごと片腕も吹っ飛んじまった。んで、退役してアメリカに帰ったら、アレクがあいつの研究に協力するかわりに作ってくれたんだ」
「うわ……壮絶……てか、アレクは何が専門なの?」
「医療工学って言ってたな。あいつ今まだ大学行ってんだけど、最近は脳波と接続して動く義肢の研究してるらしい」
「……すごく頭いいのね」
「ああ。ジェイとは違う意味で頭がいいな」
「……なんかそれ、すごくわかる気がする」
グロウに抱かれたままリビングに戻ってきたラヴェンダーは、リュックサックを背負い、準備万端なアレクと、未だに何かをアタッシュケースに詰め込んでるジェイとを見比べて呟く。
「……なんか言ったか?」
「ううん。なにも」
ふと手を止めて視線を向けてくるジェイに、ラヴェンダーは首を横に振る。
アレクの頭の良さを、学者特有のひらめきの良さなんかだとすると。
ジェイのそれは、人を掌握するずるがしこさというか、サイコパス寄りというか――そういうだめな方な気がする。
経営者になるならいいのだろうが、もしも彼が悪の組織でも作ろうものなら、世の中に大変な混乱をもたらしそうである。
言ったら怒られそうなので、本人には言えないが。
「……準備できたなら、行くぞ」
一番最後になったジェイがそう言って立ち上がるのを見て、一同はその半地下のアジトを後にしたのだった。
本日はあと1話更新予定です。




