女の影あり
あの白い一朶の雲の先に、何があるのかは知らないが、我は翼を得た。力尽きるその時まで飛び続け、地の果て、雲の上、成層圏、果ては更にその向こうまで、ただひたすらに、飛ぶ
いきなりやって来た優男、狂犬に、いきなり決闘を申し込まれた黒い隼。
売られた喧嘩を買わねば、アレッサンドロ海の飛行機乗りとしては恥である。勿論、ファルコは快諾した。
「で、条件は?」
決闘には、相互何らかの条件を付けねばならない。例えどんなに残酷なものであろうと、どんなにバカバカしくとも、相手は承諾せねばならない。
カーネは、予てより決めていたのか、即答した。
「もし僕が勝ったら、ファルコ・ネーロ、君は空軍に入るんだ」
それを聞いた途端、ファルコはあからさまに嫌な顔をし、「またか」と呟いた。
カーネは続けた。
「確かに、君は軍からの勧誘を再三断っている。君が組織に属するのを嫌っているのも知っている。だけど、今回ばかりはワケが違う」
ファルコは嫌な顔をしたままだったが、少しは気になるようで、その内容を訊ねた。
「『ワケが違う』?」
「最近、ウチの政権が変わったことは知ってるだろ?」
「ああ、流行りの民族主義のだろ? 確か、『偉大なるアルゲアスの復古』だとか何だとか……。そんな莫迦な思想に染まる気はねぇぞ?」
「君をヤツらの思想に染め上げようってワケじゃない。ただ、連中、どうもこの海の賊や賞金稼ぎを放置しとくつもりはなさそうなんだ」
なるほど、そういうことか。ファルコは理解した。
新政権の掲げる、「国内の治安回復」。まず第一に本土のマフィア、第二にアレッサンドロ海に巣食うゴミども。これらを撲滅するというものだ。
マフィアと癒着している政治家の先生や、やくざな稼業で食ってる、俺みたいな人間のクズからすりゃ、悪魔の使徒のような新政権だが、いつもそいつらに貧乏くじ引かされてる堅気さんからすりゃ、まさに神の使徒。
さらに、この不況のご時世、増え続ける失業者を救済し、経済を立て直す目的で、大規模な公共事業も予定している。
そりゃ、圧倒的な支持を得るワケだ。
ちなみに、その一方で、かなり大胆な軍拡計画も掲げている。確か、「空軍国化計画」とか何とかいう計画もあるそうだが………まぁいいや。あまり関係はないだろう。
カーネは続けた。
「今回の勧誘は、空軍の人気集めやら何やらっていう、チャランポランなものじゃない。ファルコ君、君を守るための勧誘なんだ」
「守ってもらわなくて結構なんだがなぁ………。別にここがダメなら、南扶桑洋にでも移りゃ良い話だからな」
結構強情だな。こりゃ僕名義で説得しても無駄か……。隊長の言ったとおりだ。
ならば……!
「ちなみに、この話は、国からでも軍の上層部からでもない、僕らの部隊、第11戦闘航空団司令、モニカ・フェラーリン中佐自らが、君に持ち出したものだ」
モニカ・フェラーリンの名を聞いた途端、ファルコは少し硬直した。
モニカ・フェラーリンとは、先の戦争、帝政ルートヴィヒラント側で参戦したアルゲアス王立空軍で、弱冠19歳ながら、最も活躍した女性トップエースで、彼女の名を知らぬ者はこのアルゲアスにはいないであろうというほど国民的な人気を誇る女傑である。
そんな彼女とファルコの関係は、本人たち以外誰も知らないが、ファルコのどぎまぎした様子から察するに、明らかにナニかあったのは間違いない。
ファルコの様子を見たカーネは、さらに畳み掛けた。
「いいのかい? 隊長の顔に泥塗っちゃって。ナニがあったかは知らないけれど、君は隊長の面子を傷つけるようなことは………」
「あー‼︎ わぁった、判った‼︎ 条件呑んでやるよ‼︎」
やはりナニかあったのだ。
ファルコのこの狼狽え様に、何よりも驚いていたのは、畳み掛けたカーネ自身だった。ここに来る前、彼の隊長が「自分の名前を出せば、アイツは首を縦に振るだろう」と言っていたが、まさか本当に、しかもこうあっさりと首を縦に振るとは思いもしなかったのだ。
やれやれ、仕方ない、といった表情したファルコは、大きく溜息をつくと、自分の条件を述べた。
「じゃあ、俺が勝ったら………、モニカに直接会わせろ。直談判して、諦めて貰う」
カーネは微笑み、それを承諾した。
判らんよ。どうやって隼でBf109F-4、それもかなりの腕利きが操縦するやつに勝つのかが。
カーネの由来・正体?
待て、頼む! 待ってくれ!
ファルコの過去?
その内やるよ、言われなくても
濃厚な官能的プロレスシーン?
童貞には厳しい(やりたいけれど)




