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第25話、グノームの宴


 地下とは思えない大きな空間が広がっていた。


 地面や壁、天井にはクリスタル状の灯りが無数に設えられ、赤、黄、緑、青、白など様々な色に淡い光を放っていた。

 地下にあった宇宙、というのは大げさだが、暗闇に包まれた空間の中で輝く照明はまるで無数の星空を浮かべる夜空のようだった。


 神秘的にして幻想的なグノームの集落がそこにあった。その光景に慧太は感嘆し、セラも心を奪われた。


 見とれることしばし、集落へを足を踏み入れる。岩をくり貫いて作られた住居。金属製の扉がなければ洞穴にしか見えないそれらが、いくつも見える。何だか集合住宅みたい、というのは慧太の率直な感想だった。


 マクバフルドを退治した。

 グノーム人たちにそう話したら、彼らは野太い歓声をあげ、慧太たちにぜひ自分たちの集落に来てくれと勧めた。出口を求めて彷徨っていた慧太たちには断る理由がなかった。

 なお、アルフォンソは慧太の影にずっと隠れている。何かあった時の保険であるが、その必要はなかったかもしれない。


 案内されたグノームの集落で待っていたのは、盛大な宴だった。


「あの墓場モグラには、散々悩まされてきたのです」


 グノーム集落の(おさ)。すっかり白くなったあごひげをたっぷりと蓄えた小柄な体躯は、ドワーフといわれても信じてしまいそうな姿である。長は、慧太の隣であぐらをかいて言った。


 グノームの坑道に棲みついたマクバフルドによって彼らは上の階層に避難し、資源採掘をしている下の階層に手を出せずにいたという。何度か退治を試みたが失敗。今回も寝ている墓場モグラを爆破しようと試みたが、結果は奴を起こした程度で終わった。


 そこへマクバフルドが倒されたという顛末。グノームたちが喜んだのも無理はなかった


 豪快な笑い声が響き渡る。普段から地面掘って鉱石集めをして逞しいグノームの男ども。一方、グノームの女性も、なかなか太ましかったり、スレンダーでもがっちりした身体つきの者が多かった。普段から重いものを運びなれているようだった。


 集落の中心に巨大な赤魔石が、焚き木のごとく光り、その周りに鉄器と共に料理が並んでいる。グノーム人たちは山と積み上げられた料理を食べ、飲み物を口にして盛り上がっている。


 一方で、セラは微妙に眉をひそめていた。

 明らかに芋虫のような形をした料理に、ドン引きしていたのだ。


 慧太は串に刺さった焼きコアという芋虫料理を一口。かりっとした外に反してぷりっとした中身。果たして『人間』の時に食べていたらどんな味だったんだろうな、と思った。

 セラが青ざめた顔を向けてくる。どんな味ですか、と言いたげな表情だ。慧太は表情なく言った。


「悪くない」

「そ、そうですか……」


 セラは目の前のコアの串焼きを眺め、なかなか決心がつかないようだった。虫は食さない文化のお姫様なのだろう。


「そっちの魚にしたらどうだ?」


 慧太は近くの皿にある焼き魚を示した。料理を運んできたグノーム女性が口を開いた。


「地下水道で捕れた魚です。……ちなみにそちらの肉はコウモリ、あちらはネズミです」

「……」


 セラは絶句している。慧太は指差した。


「あのスープは何です?」

「土のスープです」


 グノーム女性はニコニコと答える。


「あの『土』ですか?」

「ええ、私たちのテリトリーの中に良質な食料土が採れる場所があって。土入りのお菓子もあるので、よければそれも」


 どんな味がするんだろう。興味は尽きない。慧太は、焼きコウモリを手に取る。


「まあ、肉は肉だよ」


 ちゃんと焼いてるし――などと食あたりとは無縁のシェイプシフターは言うのである。


 たぶん狐人のリアナだったら平然とグノームの料理にも手を出していただろうな、と思う。狐人(フェネック)はネズミの揚げ物と焼き物が好物なのだ。


 慧太は鉄と思しき金属製のカップで飲み物を口にする。透明なので多分水だと思うが、ひょっとしたらアルコールの入ったエールかもしれない。

 水は腐るもの、この地方だと大抵保存にいいエールやお酒が常用飲料である。元にいた世界だと未成年禁酒なんて法律があるが、そんなものをこの世界で守っていたら生き残れないのである。……日本は相当水に恵まれていたのだと、違う世界に行ってはじめてわかることもある。


「あ、これ美味しい」


 セラはカップに入ったそれをごくごくと飲んでいる。グノーム女性は笑った。


「グノーム特産のラール酒です。美味しいでショ?」

「ええ、とっても」


 お代わりを要求するセラ。グノーム女性は喜んで注ぎいれる。慧太はカップに残る液体を眺め、苦笑い。


 ――お酒だったのかー……。


「それで、ケイタ殿」


 隣に座っているグノームの長が酒の入ったお碗を手に口を開いた。


「物見の話だと、一番近い地上への道は先の大地震で崩れてしもうてな。人をやって復旧作業をさせてもよいが、それでも数日は覚悟してもらわんといかン」

「数日ですか」


 慧太はラール酒に口をつける。


「セラは……アルゲナムのお姫様は、ライガネンに急ぐ事情があるんですが」

「よもや、伝説の白銀の勇者の方だったとは」


 長は、勢いよくラール酒を飲んでいる銀髪の姫君を見やる。グノーム人にも白銀の勇者伝説は有名らしい。


「ライガネンへ、ということなら、そちら方面へ抜ける道はあるンじゃが」

「……何か問題が?」

「道中が問題でしてな。ゴバードのテリトリーを通ることに」

「ゴバード?」


 聞いたことのない単語だった。長は頷いた。


「獣人ですじゃ。我らグノームと対立してましてな。行けば流血沙汰は避けられないのであまり近づかんようにしておるンです」


 さらに――長は続けた。


「通り道には水晶の群生する、人呼んで『クリスタルトンネル』があるンですが、そこには凶暴な水晶蟲が」

「……よくはわかりませんが、何となく物騒なルートなのはわかりました」


 慧太はセラへと視線を向ける。


「セラ、道だけど……って!」


 当のセラは真っ赤な顔をして、お酒を飲んでいた。目は空ろ、明らかに酔っ払っている。


「飲みすぎじゃないのか?」


 慧太が言えば、セラは小さく「ひっく」と声を上げると、はいはいするように手を付いてにじり寄ってきた。


「ケイタ……ぁ」

「セラ、さん……ちょっと酔って、ますよね……」

「どうして敬語なんですかケイタ」


 青い瞳は艶っぽく、幼い顔立ちに浮かぶ妖艶な表情。熱い吐息。慧太の心臓がドキリと跳ね上がるが、酒の臭いを感じ……ちょっと引いた。

 がばっと銀髪のお姫様が抱きついてきた。とっさに身を引いたが座っているので、避けきれず、セラは慧太の腰まわりをがっちりと掴んだ。


「あはー……捕まえましたよー、ケイタぁ」

「あー、セラさん。ちょっと飲みすぎですよ」


 ケタケタ笑うセラ、その銀色の髪を撫でてやりながら、たしなめると。


「ふぅ、ケイタに撫で撫でされたー」


 上機嫌になった。馴れ馴れしかったかと、慧太は手を離す。


「ごめ!」

「何で手を離すんですかー、ケイタぁ。もっと撫で撫でしてください……」

「あ、ああ……」


 言われるままセラの頭を撫でる慧太。とてもご満悦な顔になるセラを見やり、しょうがないな、と胸の中で呟く。

 周囲でグノーム人たちが勝手に盛り上がり、あるいは寝転がり始めるのを、慧太はお姫様を膝枕しながら見守るのだった。

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