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第23話、絶体絶命


「何だってんだ……!?」


 突然の爆発だった。――岩に偽装した爆発物、その爆発に巻き込まれたのだ。まったくもって予想外の展開だ。

 銀髪のお姫様を庇い倒れた慧太けいただが、怪我もなく身を起こす。口の中に若干の砂が入ったようで、気持ち悪かった。


『グろろろぉぉぉぉォォォーー!』


 響き渡るのはマクバフルドの咆哮。

 あの爆発の中、生きていた。その声には睡眠を妨害されたことへの激しい怒りを感じ取れた。


 ――ヤバい……!


 慧太は、背中を丸めて倒れているセラに向き直る。


「お姫様……セラ! 大丈夫か!?」

「う、ケイタ……」


 起き上がるセラ。

 怪我はなさそうだったが、ノンビリしている場合ではない。彼女を急いで立たせるのと、巨獣の尖った角がこちらに向いたのはほぼ同時だった。セラもそれに気づき、声にならない悲鳴を漏らした。


「逃げるぞ!」


 セラの手をとり、駆け出す。引っ張られつつ自分の足で走る彼女だが、その背中を掠めるようにマクバフルドの大きな角が空を切る。

 通過範囲にあった岩が砕かれた。一歩遅れていれば傷を負うところだった。


 マクバフルドがズシンと一歩を踏み出すと、地面の岩がへこみ、亀裂が走った。その尖った爪もまた、岩を軽く破砕できる硬度を持っているようだ。


「セラ、光球! 目くらまし!」

「あ、はい!」


 引っ張られるまま、セラは左手で地面に近いところを浮遊している光の球を制御し、その光度を目一杯に上げた。眩い光が空間を満たし、結果、マクバフルドの顔下から強烈な光を浴びせることとなった。


 一瞬、大モグラの化け物が悲鳴じみた咆哮を上げた。ぶんぶんと前足を振り回し、わずかに怯んだように見えたが、すぐにマクバフルドは慧太たちへと駆け出した。


 ――暗闇に光で目をやったかと思ったが……。


 というか、そもそもマクバフルドに目があったかどうか自信がなくなる慧太である。地底暮らしの生物の目がどういうものか慧太には知識がなかった。


「あの! ケイタ、手を離してもらっても――」


 いまだ彼女を引っ張っていることに気づき、慧太は手を離した。セラはすぐさま慧太のすぐそばを走って続いた。……なかなか足が速い。剣は持っているが、白銀の魔法鎧は展開前なので身軽なのか。

 そして通路へと逃げ込む。追ってくるマクバフルドだが、その巨体では穴が小さくて入ってこれな――

 派手な音を立てて壁が砕かれる。研ぎ澄まされた爪が岩肌を削り砕き、穴を無理やり広げながら追ってくる!


「んな、馬鹿なぁぁっ!?」


 走る。少しでも早くマクバフルドから逃れるために。壁を砕きながら追いすがる巨獣。身体の大きさに反して……いや身体が大きいからこそ思いのほか速かった。


「ケイタ! アルフォンソがいません!」

「はっ!?」


 そういえば、慧太とセラを追うマクバフルドの姿はあれど、全身鎧をまとった戦士姿のシェイプシフターの姿はどこにもない。あのどさくさの間に、違う方向へ退避した……のだろう。少なくとも喰われたとかそういう時間はなかったはずだ。


 ――むしろ喰われたほうが、あの魔獣吹っ飛ばせるのでは……。


 走りながらそんなことを考えていると。


「ケイタ、前!」


 へ? ――セラの声に弾かれて前を見れば、膝くらいの高さの『何か』が慧太と彼女の間を通過していった。


「今の何だ!?」

「何かの看板のように見えましたけど!」


 セラが答えた。光の球が追い続けているので、彼女の白い肌に浮かぶ汗まで見て取れる。


「看板って……何が書いてあったッ!?」

「そこまでは、見えません、でしたっ!」


 走りながら返すセラだが、その青い瞳を不安げに向けてくる。


「あの、ケイタ!? まさかと思いますけど、この道、行き止まりなんてことは……?」

「不吉なこと言うな! ……って、エエェェ……!?」


 慧太は速度を緩める。光の球が照らす先、一本道だった通路がそこでなくなっていた。どうやら落盤があったか土砂で埋まっているようだった。慧太とセラは無言で壁の前で立ち止まった。


「……」


 背後からガシガシ通路をこじ開けながらマクバフルドが追ってくる。飛散する岩や砂。一時は引き離しつつあった距離が見る間に縮まっていく。通路を拡張しながらやってくる巨獣。当然ながらすれ違うスペースはない。このままでは挟まれて……おしまいだ。


 ――いや、多分オレは死なないけど……。


 セラはそうはいかない。生身の人間である彼女のことだ。ここでマクバフルドが気まぐれに方向転換したり、あるいは倒さなければ、アルゲナムのお姫様は使命を果たすことなくここで果てる。……最悪、奴に喰われる。


 ――そいつは御免だな……。


 慧太は身構える。その横で、セラは白銀の鎧を召喚した。戦乙女の装束をまとい、最後まで抵抗しようというのだろう。アルガ・ソラスを構えて光を剣に蓄える。……確かにその切れ味は抜群だが、まずはあの突進を回避するのが先決であり、現状よくて相打ち、普通に考えてこっちがやられるだけだろう。


 そうなると……やるしかない。生半可なことでは駄目なら……シェイプシフターの本気を見せなくてはいけない。正体をバラすことになっても――


「……これから何が起きても、動揺しないでくれよ……!」


 慧太は呟く。その声はセラに届いたようで、驚いたように目を丸くする。


「オレが仕掛ける――!」


 地を蹴る。説明している暇はなかった。後ろでセラが慧太を呼んだが、振り返らない。ただ――


「オレを信じろ!」


 慧太は両手に球体を形成すると、それを手榴弾の投擲とうてきよろしく投げた。

 マクバフルドに当たるかと思われたその瞬間、二つの球体は強烈な音と光を発して破裂した。

 いわゆる、フラッシュグレネードの類である。


 強烈な閃光は一瞬、マクバフルドはおろか、背後のセラに目と耳を閉じさせた。

 その隙を、慧太は見逃さず――シェイプシフターの部分変化で目を光から守り、耳を閉じている――マクバフルド、その腹へと滑り込んだ。



 眩い閃光からしばし、顔を上げたセラは、そこで慧太の姿がどこにもないことに驚愕した。

 魔獣もまた、光と音に麻痺したのか突進が止まっている。


 慧太が、消えた……?


 まさか、やられてしまったとか。愕然とするセラ。


 ――まただ……。


 アルゲナム陥落のあの日、父の最期を看取り、部下や仲間たちに守られ脱出した悪夢の日。迫り来る魔人に立ち向かい、死んでいた者たち。炎上する城、そして聖都。


 ――また私は、『守られてばかり』……!


 いま魔獣は動きを止めている。このまま奴が正気を取り戻せばやられるのはこちら――慧太が作り出してくれたこの隙を使わなくては。


 だがセラは一歩を踏み出したところで、ふと気づいた。


 墓場モグラの様子がおかしい。


 マクバフルドが咆哮を上げる。耳障りなその声。だが連続してあがる巨獣の声は怒りと共に焦っているようにも感じ取れた。その証拠に、マクバフルドは前足を動かし進もうとしているようだが、何故か前に動けないようだった。


 よくよく目を凝らす。マクバフルドの足、そして胴に黒いものが無数に絡みついていた。

 それは手のような形をしていた。大モグラの身体や足を引っ張り、動けないようにしている。


 まるで、地獄に墜ちた亡者どもが、自分達のいるそこへ引きずりこもうとしているように。

ちゃっかり姿を消しているアルフォンソ。

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