表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/99

14、新たな仲間

 ベアトリーチェから聞いていたように、ブリジッタは学校設立に前向きで自分に担当させて欲しいと言ってくれた。ブリジッタが担当してくれるなら何も問題ないので、俺は感謝を伝えた。当面は文字の読み書き、四則演算、そして早いうちに地理と歴史を大人と子供双方を対象に教えられる環境を作る。これをエルフ全体で共有することを目標に進めていくこととなった。当初は当然試行錯誤になるだろうし、批判も生じるかもしれないけど負けずに頑張ろうと話し合った。


 金庫番のシモーナも学校設立は賛成してくれたので、俺はシモーナの頭を悩ませないよう、さらに収入を増やすことを決意した。


 で、最低限必要となるものが紙と筆記具だ。

 紙と筆記具は学習上必要不可欠だ。


 この世界の紙は麻系繊維を利用したもので、安価に、一般の人も日常的に利用可能なほど大量に用意するとなると材料の確保が大変だ。木材は大量に手に入るので、できればパルプを作ってそこから紙を作りたいが、そうなるとパルプを漂白するため過酸化水素などの漂白剤が必要になる。じゃあ、漂白剤も作ればと言いたいが、結局はサラの仕事が増えるだけになりそうで手を出しにくい。

 

 まあ、炭酸ナトリウムは既に作ってるのだから、硫黄を含んだ岩を燃やして亜硫酸ナトリウムは作れそうだな。やってみなければ上手くいくかわからないけど。


 筆記具は鉛筆でいいだろ。これはすぐにでも作れるから、あとは大量に作る方法を考えればいい。こちらは比較的楽に作れそうだ。


 ……ふう。

 こういうとき、二十一世紀の日本をもとに考えてしまうのが悪いんだろうなと最近思う。今回で言えば、質の良い紙を作れれば我が国の特産品にもなるなとも考えて、この世界の現状でもできることを後回しにして考えてしまう。


 消しゴムについてもそう。よくよく考えると、鉛筆で書いた文字など、紙の表面に汚れが文字の形で乗ってるだけなんだから、魔法で除去しちゃえばいい。その程度の魔法はエルフなら誰でも簡単にすぐできる。質の低い消しゴム使うよりよほど綺麗に消える。そう、今のところはエルフにできることは考える必要ないんだ。

 それを思いつくまでは、ゴム探さなきゃとか、消しパンにすればいいとか考えていた。消しパン使う手段は現状でも使えるからいいんだけどさ。


 「サラ、やっぱり旅行しないか?俺とベアトリーチェと三人でさ。長期旅行するんじゃなく、短期の旅行をさ……」


 ブリジッタとの相談を終えたあと、ブリジッタとベアトリーチェが楽しそうに姉妹で会話しているので、二人の邪魔にならないよう俺はサラの家に来ている。


 「いろいろやりたいこと、やらなきゃならないことを考えてるうちに、この世界のこともっと知らなきゃいけないなと」


 「そう、お兄ちゃんがそう考えたなら私は反対しないよ。今手をつけてるものが片付いたら行きましょうよ。一度にできるのはせいぜい二週間で、戻った時には仕事がたくさん待ってるのでもいいならね。ただ、シモーナさんやマリオンさん、他にも幾人かにはちゃんと相談してからね」


 「ああ、そうだな。みんなにも判ってもらわなきゃいけないよな。俺が始めたことだもの」


 「そうね。年に何回か……一度の旅行は二週間程度で、四回くらいならいいんじゃない。この世界のことを勉強したいんでしょ? みんな判ってくれると思うわ。それに思念伝達用ネックレスさえアルフォンソさん達に渡しておけば、いざという時いつでも戻ってこれるしね」


 サラも賛成してくれそうだし、少し元気が出てきた。

 早速、俺の希望をシモーナさんに伝えるため、彼女が仕事してる部屋へ行った。

 ”私も一緒に行きたいですが、今手をつけてる仕事が当分片付きそうにないので残念ですが行けそうもありません。余裕がある時は連れて行ってくださいね”と賛成してくれた。


 マリオンは今日も神聖皇国側の監視のため、元の俺の家辺りに居る。転移で移動してもいいが、天気もいいので飛竜で移動することにする。


 ”別にいいんじゃない?だけど・・・・・・私もダーリンと一緒に旅行したいけど、サラちゃんとベアトリーチェさんも行くんじゃ私は離れられないわね。とっても残念だわ~。”とやはり賛成してくれた。

 その話が終わった後、マリオンと最近の神聖皇国の動きについて話していたら、ジャムヒドゥンから連れてきたシャピロ達がラニエロと共にやってきた。


 「ラニエロ、お疲れ様。どうだい彼らは? 」


 ラニエロには、彼らの様子を伺っておいてくれと頼んでいた。


 「特に問題はないですね。あと、亜人狩りから守った亜人達が皆ゼギアス様に感謝していることをきっかけに、奴隷を積極的に解放しないのは何故かと聞かれました」


 「そうか。ありがとう。彼らとももう少し話してみるか」


 俺はラニエロにしばらく休んでいてと言い、シャピロ達のもとへ近づいた。

 彼らはこの辺りで採れた果実から作ったジュースを飲んで、家の前に置いたベンチに座り一息ついている。 


 「よう!何か不便なことはなかったか? 」

 

 「ゼギアスさん。不自由なことなど何も無い。食事も寝る所も、俺達にとっては贅沢なもんだった」


 「そうか、不満がないならいいや」


 「なあ、ゼギアスさん。あんたは何故奴隷解放に動かないんだ? 」


 早速、それも単刀直入に質問してきたか。

 こういうせっかちなところは俺にもあるんで、気持ちは判るし、嫌いじゃない。


 「今、解放したらどうなる? 」


 「奴隷たちは辛い生活から離れられるだろ? 」


 「それだけか? 」


 「奴らが怒って攻めてくるだろうな。だが、あんたが居れば大丈夫なんじゃないのか? 里の人達からあんたの凄さを散々聞かされたぞ」


 「じゃあ聞くが、神聖皇国が本腰を入れて、多くの兵を分散させて、何箇所から同時に攻めてきたら? 俺は一人しかいないぞ? 」


 「……そうか、あんたが居るところは守れても、他ではたくさん殺されるかもしれないというわけか」


 「そうだ。今だってそれを奴らはやれるけどやらないでいるのは何故だ? 」


 「向こうが攻めて来ない限り、こちらからは手を出していないから? 」


 「それもあるだろう。俺達はその他にこう考えてる。まだ奴隷の手が何とか足りてるからだと。皇都でも奴隷の手が足りなくなりそうだと感じ始めたら、本気で攻めてきて亜人狩りするだろう」


 「だから今は奴隷解放できない……」


 「そうだ。やる以上は絶対に勝たなきゃいけない。負けたら全て振り出しに戻る。もしかすると今より悪くなるかもしれない」


 「今は準備する時期? 」

 

 「ああ、俺はそう考えてる。少しでも早く、こちらの防御態勢を整えなければならない。そのためには協力者がもっともっと必要だ。そして人を多く抱えるなら、養えるだけの体制が必要だ。食べるものや住むところ。戦うためや守るための装備。戦いに必要な訓練と時間。敵の情報。他にもまだあるだろう。俺達には足りないものが多いんだ」


 「俺は何をすれば役に立てる? 」


 「俺達と一緒に過ごす中で探せ。俺は、俺達は同じ目的のために努力する者達のためにはできることを惜しまない。だから、やりたいこと、やれること、それを自分で探せ。協力は必ずすると約束しよう」


 「今夜時間を貰えるか? あとで仲間たちと相談して、俺達の考えを伝えたい」


 じゃあ、夕飯を一緒に俺の家で食べよう。ベアトリーチェの飯はうまいぞと伝え、マリオンのところへ行く。


 「マリオン、お願いがあるんだ」


 「ダーリンのお願いなら何でも聞いちゃうわよ」


 「まだ少し先の話になるだろうけど、戦闘訓練の教官やってくれないか? 」


 「私でいいの? 」


 「いや、お前しかいない。俺にはお前しかいないんだ」


 マリオンが蒸気した顔をして腕を自分に巻きつけ身悶えしている。


 「ダーリンったら……。今、やばかったわよ。口説き文句みたいだった。ああ、幸せ~。でもこれ以上、ダーリンに惚れさせてどうするのよ!! 」


 うーん、確かに……。


 「これまで仲間として一緒に戦ってきたし、手伝ってもらって、マリオンなら大丈夫だと思ってるんだ」


 シャピロの焦りとか気持ちを感じて、俺自身も早く体制を整えなければという気持ちが強くなっていた。生活の向上や人件費捻出などのために必要なことばかり考えて、戦いの体制が最初と変わってないことが心配になってきたのだ。


 サラ、マリオン、ラニエロ、あとはアンヌに攻撃魔法が使えるエルフ達、俺の戦力といえば俺を加えてそのくらいだ。もっと戦力を増やさなければならないな。そしてこの中で戦闘訓練指導できるのはマリオンだけ。


 シャピロがどう判断するかはまだ判らない。

 でもこれからは、戦闘員も増やさなければならない。

 そして少数でも強い軍に必要なのは、組織力や戦術や強い意思。


 今、手を打てるのは個々人の戦闘力アップと組織力。


 マリオンなら統率力も身につけてきたし、大丈夫、成果をあげてくれるだろう。


 「いいわ。やれるだけやってみる。でもダーリン、これは貸しよ? フフフフフフフ……」


 「なあ、マリオン、俺はお前のことは嫌いじゃないし、どちらかと言えばかなり好きだし信頼もしてる。だが、愛してるかと言われれば正直判らない。そんな相手でもいいと思うのか? 」


 「あら、真面目に受け止めてくれてるのね。そうね。最初はそれでも良かったけど、今は少し違うわ。愛されて求められたいわ。さらに欲がでてきたのね。だから私の目標はダーリンの愛を手に入れることに変わったの。覚悟していてね~」


 「……そうか、ありがとうな。」


 頭を下げるとマリオンの腕が俺の頭を掴む。

 俺がふと顔をあげると、口づけして舌もねじ込んできた。

 クネクネと暴れる舌にあっけにとられて身動きできずにいたら、体臭と混じった香水の香りが鼻をくすぐりボーっとしてきた。


 俺から離れるのを惜しむように、マリオンが俺の顔を離す。


 「油断してたわね。フフフご馳走さま。でもサラちゃんには内緒でお願いよ~。知られたら怒られちゃうから~」


 まだ素に戻れない俺に笑顔を見せて、マリオンは去っていった。


 ベアトリーチェにはいいのかよ、しかし相変わらずだな。


 離れ際にあいつの顔触れて、それがとても心地良いと感じたことはあいつにも教えてやらん。


 ちょっとしたトラブルはあったが、マリオンの了承も得たことだし、旅行と戦闘訓練指導員の件は片付いた。さて、少し時間もあることだし、いくつかの里を回ってから戻るとするか。



・・・・・・

・・・


 家に戻るとベアトリーチェがハンカチに刺繍していた。

 誰の? と聞くと友人の子供がベアトリーチェのハンカチの刺繍を見て欲しがったので作ってるのだという。

 こういうことに手間を惜しまずに子供とでも接するから懐かれるんだろうと思うが、休む時間があるのか心配になる。疲れないようにねと声をかけると、夕食の献立考えながら手を遊ばせていないだけだから大丈夫と微笑む。


 「そのままでいいから聞いて欲しい。俺とリーチェあとサラが今手を付けてる仕事が終わったら、旅行に行こうと思う」


 俺はサラにした説明をし、マリオンとシモーナの了解も得てきたことも伝えた。


 「あなたにとって必要な社会勉強なのでしょう? それでは誰も断るわけがありません。私はあなた達と旅行できるのですからとても嬉しいお話ですね」


 「のんびりとした観光旅行にはならないと思うんだ。それでもいいかい? 」


 観光旅行と違い、観光地をのんびりまわる話ではない。旅先でいろいろな事を知るための旅なんだ。思念伝達魔法を誰でも使えるアイテムをサラが製造出来るようになった今、大国との衝突がまだ小競り合いで済んでる今、この時期を逃すとしばらくは国から離れられる時間はないかもしれない。


 「ええ、もちろんですわ。何を心配してるの? そもそも観光旅行って何ですの? 」


 あ、そもそも旅行自体、俺の提案した旅行が一般的で、観光旅行なんてものは金持ちの道楽でしか存在しない……のでは……ないだろう……か……。


 俺は観光旅行について説明する。


 「そのような旅行も楽しいでしょうね。何か無駄使いしてるようで落ち着かない気がするように思いますが……」


 やはりそうだったのか。

 ま、ま……まあいい。

 それなら俺の取り越し苦労だったということで。


 「いつかは観光旅行しようね」


 話は問題なく終わった。

 俺がすべきことは仕事を一日も早く終わらせること。

 といっても、俺の場合は今すぐでも行けるのだ。


 だって、俺の仕事って、地球から情報ゲットすることと、マリオンの手に余りそうな時の緊急事態要員であり、新たな仕事を考えることであり、日常的にこなす実務的な仕事は皆無に等しい。 

 

 つまり、サラの仕事が終えたら旅行へ行けるわけだ。

 うん、明日からサラの仕事を手伝おう。



・・・・・・

・・・


 


 夕飯前、シャピロ達がやってきた。

 ベアトリーチェの夕飯の準備は万端済んでる。


 全員で食卓を囲み、シャピロ達の感想を聞きつつ夕食を済ませた。

 食後、彼らがこれからどうするつもりか聞くことになっている。


 「さて、一通り俺達のやってることは見せたし、シャピロには俺の目標も話した。あとはお前達次第だ。ジャムヒドゥンに戻るなら送るし、ここに残るなら話し合う。どうするか聞かせてもらいたい」


 ベアトリーチェが食器を片付けている物音だけの静かな状況。

 俺は彼らが話し始めるのを黙って待っている。

 

 やがてシャピロが仲間を代表して口を開いた。

   

 「全員ここに残り、あんたの目的実現の手伝いしたいと考えてる。ただ……」


 「ただ? 」


 「サバトルゴイで奴隷で使われてる者に、俺の弟とエルザの兄が居る。せめてその二人だけでも助けてからここに来たい。許してもらえるだろうか? 」


 シャピロが目を向けた先に居た魔族の特徴を色濃く肌に見える女性、青い肌、目の周囲が紫のシャドウで化粧しているかのような顔の女性エルザがペコリと頭を下げた。


 うん、身内が奴隷のまま働かせられていちゃ落ち着かないな。

 妹を持つ身として十分納得できる要求だ。

 俺が同じ立場だったら同じことを希望する。

 奴隷解放すると言っても二人だ。

 大事にはならないだろう。


 「なるほどな。シャピロの言う二人は俺が助け出す。シャピロ、エルザ、んじゃ早速行こうか。ちょうど夜でやりやすい時間だ。あとの者達はここで待っていてくれ」


 え?今から?とでも言いたげなシャピロ達の表情。

 まあ、俺の力は聞いてるだろうが、でも実際に見せなきゃ実感できないだろうから二人共連れて行く。行きは俺の魔法で転移し、救助してる間に飛竜がサバルトルゴイに到着すれば帰りも問題ない。


 「リーチェ、聞こえていただろう? 今から行ってくる。俺はこいつら連れて転移する。でも帰りは五人になるから、飛竜を三頭、サバルトルゴイのいつものところへ飛ばしておいてくれないか? 」

 

 「ええ、判りましたわ。もし、ご兄弟の誰かが怪我などしていたら、私を起こしてくださいね」


 「ああ、その時は頼むよ。じゃ」


 俺は二人を抱えて転移した。



・・・・・・

・・・


 俺はサバルトルゴイの城壁の内側、門番等に見られることない場所へ転移した。

 

 「皆があんたは化物並だと言っていたが、本当にそうなんだな。あんなところからここまで転移できるなんて、どれほどの魔法力持ってるんだ……」


 シャピロは驚きながらも言葉を発したが、エルザはまだ口もきけないでいる。


 「さあ、さっさと片付けよう。どっちからやる? 」


 シャピロとエルザの二人に問いかけた。

 エルザの兄からにしてくれとシャピロが言う。


 「エルザの兄のところがここから近いからな」


 エルザに案内してくれと言うと、先頭にたって走り出した。

 道に近づくと、通行人のように歩き、またはちょっと酔った女のようにシャピロに寄り添いながら歩く。


 ふむ、周囲に亜人だとバレないよう動いてる。

 慣れたもんだなと思いながら俺はついていく。


 やがて小さな農場につくと、母屋と思われる家の隣に並んでるボロい小屋の一つの裏側に回った。


 少し高い位置にある窓に向かって


 「兄さん、兄さん……」


 エルザが背伸びして中へ声をかける。

 その声は母屋や他の小屋の奴隷に聞こえないよう小さい。


 何度かエルザが声をかけてる間に、俺は中の様子を森羅万象使って確認していた。


 窓のない壁側にはたくさんの荷物が積まれている。

 残った狭いスペースに藁が敷かれていて、そこに二人の男が寝ている。

 二人のうち一人がエルザの兄なのだろう。


 うーん、一人だけ助けるのは、残ったほうが可哀想すぎるな。

 仕方ない、予定外だが二人とも助けよう。

 俺はそう決めて、小屋の中へ転移し、二人を抱えて外へ再び転移した。

 エルザとこの奴隷二人には悪いが、騒がれると面倒だし、説明してる時間ももったいないので無属性龍気で二人の眠りをかなり深くしてある。


 「エルザ、シャピロ、一旦城壁へ戻る」


 そう言って、両肩に奴隷を二人担ぎ、シャピロ達の肩に両手を置いた。

 すぐ転移して、両肩の奴隷二人を下ろした。


 「エルザ、ここで二人を見て待っていろ。声をかけても起きないだろうが心配するな。眠りを深くしてあるだけだ。俺の家に戻ったらベアトリーチェが起こしてくれるし、手当てもしてくれる。今は俺を信じろ」


 エルザは無言のまま頷いた。


 「よし、俺とシャピロはシャピロの弟を助けてくる」


 俺はシャピロの顔見て、


 「さきほどの農場からは遠いのか? 」


 「あそこからなら五分くらいだ」

 

 返事を聞いて、俺はシャピロを掴んで、先程の農場の近くに転移した。街中を他人の目を気にしながら足で動くよりこのほうが断然早い。今はとにかく少しでも早く家まで戻ることが優先する。今頃飛竜がとんでもない速さでこちらに向かっているだろう。背に人を乗せていなければ、乗せてる時の何倍もの速さで飛行できる。いつもの乗り降りする林まで少しでも早くこいつらを連れて行くことが大事だ。


 「さあ、ここからはお前が先導してくれ」


 シャピロの後ろについていく。

 小さな農場を二つ通り過ぎたあと、工場のような建物が見えてきた。

 工場のようだと思ったのは、背の高い煙突が数本並んだ大きな建物だったからだ。


 大きな建物の裏に、小屋ではないが、大きめの建物が見える。

 大きな家ではあるが、ところどころ壊れていて、修繕もきちんとしていないのが判る。

 

 その建物の横で、俺にここで待っていてくれと言い、シャピロはその中へこっそりと入って行った。十分ほど待つと、シャピロが七歳か八歳くらいの男の子を抱いて出てきた。


 「すまん、待たせた。弟の部屋が変わっていて見つけるのに少し時間をくった」


 「構わん。すぐ行くぞ」


 俺はシャピロの肩に手を当てて転移した。


 「エルザ待たせたな。それじゃ外の林まで転移する。先にエルザ達。次にシャピロ達を連れて転移する。いいな」


 シャピロとエルザはやはり無言で頷く。

 いいぞ。判ってるね。


 俺はエルザの横に寝転がっているエルザの兄達二人を背負い、エルザの手を掴んで林まで転移する。エルザの兄達を下ろし、再びシャピロ達を連れて戻ってきた。


 ゼェゼェゼェ……。


 まだまだ体力鍛えなきゃダメだな。

 エルザークに言わせると、生身の俺には限界はあるけど、俺の限界はまだまだ上で、今は鍛えたら鍛えただけ体力が増えるらしい。

 龍気で転移するよりは全然マシだが、同行者を常時二人連れて、連続して、そのうち一度は超長距離転移なんかすると魔法の転移でもかなり疲れる。


 俺はシャピロ達から手を離すと、ドサリと草むらに倒れるように横になった。


 「ハァ……ハァ……もうじき、……飛竜が来る。そしたら家に戻ろう。……それまで休ませてくれ」


 「兄貴を助けてくれてありがとう。あんたはホントに凄いね。あれじゃ逃げたというより消えたと思われるだろうね」


 エルザの感謝に俺は片手をあげて応えた。

 疲れて、声を出すのがダルかったんだ。


 「俺からも礼を言わせてくれ。この恩は必ず兄弟で返すと誓う」

 「おじちゃん、ありがとう」


 おじちゃんとは失礼な。

 おっさん臭い顔に見えるのかもしれないが、俺はまだ二十歳前だ。


 だが、言い返す元気もない。

 シャピロ達にも片手で返事するだけにした。

 後でベアトリーチェに慰めてもらおう。


 シャピロの弟の部屋は見なかったので判らないが、エルザの兄が置かれていた環境は酷いものだった。扉には鍵がかかっていたようで、あれでは外から開かれるまで外へは出られない。急に排泄の必要が生じても、中で済ませるしかない。多分、あの藁は寝床としての役目と掃除する際のことを考えてのものだろう。家畜と扱いが変わらない。


 二十一世紀の日本を知る俺は、人権や人間の尊厳というものを考える。だが、この世界にはそんな考えはない。きっと俺ほどにはおかしいとは思わないのかもしれないが、やはり俺には我慢できないな。


 上空から降りてくる飛竜が見える。


 さあ、帰ろう。





◇◇◇◇◇◇




 昨夜帰宅して、家に着いた俺は背負っていたエルザの兄達を居間に寝かせると、ベアトリーチェに後のことを頼んでソファで寝てしまった。サバトルゴイからの帰り、飛竜の背でも眠りそうになったが、家までは何とか我慢したのだ。


 ベアトリーチェの朝食を準備する音で目が覚め、俺は水を浴びて身体を洗うことにした。汚れを落とさずに寝てしまったから、朝食前にスッキリしたかった。


 着替えて居間に戻ると、エルザが居た。


 「おはよう。昨夜は先に寝てしまって悪かったな。兄貴たちの様子はどうだ」


 「おはようございます。小さな怪我はいくつかあったけど、それはベアトリーチェさんが治してくれました。二人とも栄養不足で弱ってるようですが、食事をとってしばらく休んでいれば大丈夫のようです。昨夜はありがとうございました」


 「いいんだ。これからは仲間なんだから、気にするな」

 

俺は微笑んでもう少し休んでいろと行った後、台所へ向かった。


 「リーチェ、おはよう。昨夜は先に寝てしまって悪かったね」


 食事を作る手を止めずに、振り向き


 「おはよう、あなた。いいわよ。怪我は小さなキズだけでしたし、衰弱もさほどじゃなかったので、回復魔法で癒やすより食事をとってゆっくり治すほうが休養できるだろうと思って使わなかったの」


 「そうか、下手に回復魔法で治すと、身体は完全に癒やされていないのに、元気だけは戻るから、リーチェの言うとおりで正解だと思うよ」


 「もうすぐできますから、あちらで待っていてね」


 「ああ、そうさせてもらうよ」


 ベアトリーチェに軽く口づけして、俺は台所を出た。

 

 「エルザ、シャピロ達は昨夜は家に戻ったのか? 」


 シャピロ達は、空き家を仮屋にして住んでいる。ここに滞在中はそこを彼らの家として使ってもらっていた。別に追い立てるわけじゃないが、エルザの兄達もあとでそちらへ移ったほうがいいだろう。この家は人の出入りが多いし、俺とベアトリーチェも留守にしがちだ。


 「はい、シャピロの弟は怪我もなく元気でしたし、ベアトリーチェさんが診ても身体に問題はないとのことでしたので」


 「そうか、朝食が済んだら、皆を呼んできてくれ。これからのことをもう一度話したい。今度は具体的なことをね」


 「はい。わかりました」


・・・・・・

・・・


 「さて、先にエルザのお兄さんとお友達……でいいのかな? もう一人の方に確認したい。身体が治ったら、ここで俺の手伝いをしてくれるということでいいのか? 」


 床に毛布を厚く敷いた上で横になったままの彼らに俺は確認する。

 身体を起こす必要はないと言ってあるし、そうしようとしたらエルザに止めてくれとも言ってある。


 「まずお礼を言わせてください。本当にありがとうございました。私の名はクルーグといいます。妹と同じ鷹人族の父と妖魔族の母の間に生まれた魔族と亜人のハーフです。昨夜。妹からここの状況とゼギアス様が何を目指しているのか聞きました。私にできることでしたら喜んでお手伝い致します」


 「私からもお礼を言わせてください。ありがとうございます。私の名は、ダイアン。猫人族と人間の間に生まれたハーフです。私もゼギアス様のお手伝い喜んでいたします」


 二人の気持ちを聞いた俺は皆を見渡して


 「最初は何ができるか判らないだろうし、ここにどんな仕事があるのかも判らないだろう。だから最初は俺が決める。でも、ここで生活しているうちにやりたいことや、自分にできることが判ってくるだろう。その際は遠慮なく俺やこれからお前達が就く仕事の上司に伝えてほしい。遠慮はしちゃダメだ。いいかな? 」


 「「「「「「はい」」」」」」


 「うん、シャピロの弟とメイヤ。お前達の仕事はお手伝いと勉強だ。二人共ベアトリーチェの実家で家事や雑務の手伝いをしてくれ。それと読み書きと計算を勉強して欲しい。これは何年か先絶対に大事になるし、読み書きや計算を覚えたら、俺の仕事を手伝って貰えるから有り難いしな。頼むぞ」


 二人は元気よく子供らしい仕草で頭を縦に大きく振って返事する。


 「シャピロ、レンザ、ブレーゾ、ハリル、そして、身体が治ったらダイアン。お前達は当面、神殿の森でこれから始める建設工事や土木工事を手伝ってもらいたい。但し、そこで手順など必要なことをしっかりと覚えて欲しい。そして覚えたら一人一人が十名ほどのグループのリーダーを務めてもらう。仕事は山ほどある。一日も早くリーダーを務められるようになって欲しい」


 五名は黙って、だが力強く頷いてくれた。


 「最後になったが、エルザ、そしてクルーグ。クルーグはダイアン同様に身体をしっかり治してからだが、二人の持つ魔法力は一般的なエルフより多いし強い。だから、二人にはマリオンのところで体術や魔法の戦闘訓練して欲しい。マリオンは良い指導員だが、厳しい。一番きついかもしれない。だが、お前達の持つ、かなり遠くまで見える能力は貴重だ。いずれは偵察や状況観測の任務に就いて貰いたい。この仕事だけは他の仕事と違い危険な仕事だ。だから断ってくれてもまったく構わない。他の仕事を紹介する。どうだ? 」


 横になってるクルーグがまだ力強いとは言えない声で話した。


 「ゼギアス様。私達は奴隷でした。命など、いつでも主人の気分次第で消される立場でした。それを思えば、仲間や誰かのために自分の意思で命をかけられる仕事は誇れる仕事です。たとえ命を失うことになっても喜んで失えます。断るはずはありません。きっと妹も同じでしょう」



 エルザも兄に賛同するように頷いて話す。


 「はい、兄の言う通りです。私はゼギアス様にこの身体、この命を使って貰えるなら幸せに感じるでしょう。ゼギアス様はただ命令してくださればいいのです。私は喜んでそれに従います」


 「うーん、気持ちは有り難い。でも、自分の身体や命は自分のために使って欲しいんだ。皆が自分のために生きられるような場所を作りたい。そのために頑張ってるんだ。もう一度じっくり考えて欲しい。その上で俺の願いを聞いてくれるなら助かるな」


 シャピロがゆっくりと言葉を口にする。


 「ゼギアス様。私達には誇りを持つことは許されませんでした。そもそも私たちにとっての誇りなど考えたこともありません。やりたい仕事を選ぶなど考えたこともありませんでした。明日も生きていられる確信など持ったことはありません。ただ動いていただけです。ただ空腹を紛らわしていただけです」


 仲間の顔を確認して、シャピロは続けた


 「私達は希望を初めて知りました。楽しいと思えることがあるのだと初めて知りました。神が居るならそれはゼギアス様ではないかと今思っています。少なくとも私はそう思っています。エルザとクルーグの気持ちが痛いほど私には判るんです。二人ともとにかくゼギアス様の役に立てると思うと嬉しくて嬉しくてどうしようもないんです」


 居間は静かな空間に変わった。

 誰も身動きもせず、息を殺して俺の返事を待っている。


 「判った。でももう一度言うよ。全員、やりたいことが見つかったなら絶対に言うんだぞ? 与えられた仕事が自分には合わないと思ったときもだ。いいね? 」


 「「「「「「はい! 」」」」」」


 全員納得したようで良かった。


 「……そうだ。ここにはエルザークという神龍がちゃんと居るからさ。俺を神だなんて呼んじゃダメだよ? 」


 「はい? 神龍が居る? 」


 ベアトリーチェを除いて皆固まっていた。

 神が身近にいると聞いたら普通驚くよね。

 

 「うん、そこらでのんびり眺めたりブラブラしてるから偉そうには見えないかもしれないが、この世の神だ。失礼のないよう気をつけて欲しい。まあ、大概のことでは怒らないから恐れる必要はないけどね」


 俺はシャピロ達に向かってニヤリと笑い、ベアトリーチェにラニエロを呼んでもらった。

 ラニエロはすぐに来た。彼にシャピロ達をそれぞれの職場へ案内してもらえるよう俺は頼んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ