12、休養日、そして強盗達との出会い
国造りの拠点とする予定地は確保した。
雇用する人件費を稼ぐ見通しもついてきた。
様々な事業を動かすための協力者も徐々に増えてきた。
次は労働力の確保だ。
泉の森を代表とするエルフの集団には、現在住んでいる土地を守るメンバーと俺の目標を手伝ってくれるメンバーとに分けている。ノーフォーク農法を利用した農業については、現在農業を営んでる方の協力で現在の生活を守りながら試してくれている。
それは結局俺の目標の手助けになっている形だが、ガラス工芸に携わってる人は少し違う。彼らは希望者とはいえ、俺のチャレンジに生活をかけてくれている。だから失敗できない。まあ、このまま順調に行けば彼らにとってやりがいある仕事になってくれるだろうと思える感触は掴んでいる。だが今よりも豊かで安全な生活を提供できるようにならねば、彼らの期待に応えているとは言えないだろう。
そのプレッシャーは常に感じている。
でもさ、俺にだって休養は必要だよね!
だが、サラに速攻で却下されました。
片手で俺を指差して、もう片方の手を腰に当て、直立不動な俺に
「お兄ちゃんの取り柄は? 」
「はい!頑丈なところです! 」
「他には? 」
「無駄なほど体力が余ってるところです! 」
「よろしい。でも、今日から数日は楽な仕事だからのんびりやってください」
「はい! 鋭意頑張ります! 」
軍隊で上官から指示を受ける下士官のような状況が終わった。
ふう……。
「うん、お兄ちゃんには、これに森羅万象の龍気を纏わせて貰います」
そう言って俺の前に出してきたのは、龍を象った銀の指輪だった。
「これに? 」
「そうよ。今のお兄ちゃんなら一日に四個位ならそんなに疲れないでしょ? 」
「うん、この程度の大きさのものに纏わせるだけなら疲れずに出来ると思う」
「それをとりあえず二十個作りたいの。ね?楽な仕事でしょ? 」
「これに森羅万象の龍気を纏わせてどうするの?それに数日で龍気は消えちゃうけど? 」
「龍気が消える前に、この指輪に思念回析魔法を刷り込むの」
なるほど、森羅万象を纏ったモノは魔法の効果が定着しやすくなる。
しかし、思想回析魔法なんて俺は使えないんだが。
「思念回析魔法? 」
「そう、私が刷り込むの。あと、私の作業をマルティナさんのような……高いレベルで魔法を使える人達にも見て覚えてもらう」
「思念回析魔法を刷り込むとどういうことが起きるんだい? 」
「その指輪を身に着けた人は、相手の思念を読み取って理解できるようになるし、こちらの思念を伝えられるようになる。相手の言葉を聞き取れなくても理解できるようになるし、話した言葉を思念として伝えられるから相手に伝わるようになる。知らない文字でも文字を書いた人の思念を読み取ることができる、つまり知らない文字を読めちゃうの。といっても、これはエルザークから教わったんだ」
「何に使うの? 」
「”呼ばれし者”のことブリジッタさんから聞いたこと覚えてる? 」
「ああ、なるほど」
「そう、こちらの世界の言葉をほとんどの呼ばれし者は理解できないし、話せるようにもならない。そういう人と不便なく会話するにはどうしたらいいかエルザークに聞いたら教えてくれたの。あと、マリオンさんも昔魔族のある一族の言葉をまったく理解できなかったことがあったらしいの。だからこれからはいろんな種族と付き合っていかなきゃならないし、お兄ちゃんだけしか会話できない種族との付き合いは難しいでしょ?意思が通じないとトラブルのもとになるし」
そうか、だが、最終的には俺以外の全員が必要になるモノなんじゃ……。
「それじゃ二十個じゃなくもっと必要なんじゃないのかい? 」
「うん、でもね。この指輪に思念回析魔法を刷り込むには少し時間がかかるらしいの。エルザークが言うには、私でも刷り込みに二時間はかかると言ってたわ。そして今のところ使えるのは私だけだから、一日四個が限界ね。だから多く準備してもらっても無駄になるわ。他に使える人が増えたら、お兄ちゃんには頑張って貰うことになるわね」
「判った。それじゃとりあえず四個に纏わせればいいのかい? 」
「ええ、お願いよ」
俺はサラから指輪を一つ受取り、森羅万象の龍気を纏わせた。時間にして五分もかかっていない。一応、確認して見たが、きちんと纏っている。
ベンダントをサラへ返すと、三個渡してきたので同じように纏わせた。
「うん、あとはのんびり過ごしていいわよ。また明日お願いするわね」
うーん、こんな程度、仕事した気にならない。
今日の残りの時間を考えると休養日と変わらない。
俺が休養とるなんて以ての外のように厳しく言っていたサラ。
どうしてあんな態度とったのかきっと理由があるはずなんだけど、それが判らない。
判らないまま家に帰り、ベアトリーチェに聞いてみた。
「その理由、サラさんから聞いてますよ」
「教えてくれるかい? 」
「あなたが気を抜くと、ドンドンだらけてしまうんじゃないかと心配なんですって」
うん、そうかもしれない。
最近忙しかったからだらける暇無かったけど……うん、暇があったらだらけちゃってたかもしれない。
「だから気を抜かないようにと……その程度の理由ですよ。あなたの身体を心配してるのは私と一緒です。だから私は思念回析魔法を覚える機会を先にして、マルティナから先に覚えてもらうようになったんです。あなたがここにいる間はできるだけ一緒に過ごしてあげてくださいと頼まれました」
しっかり者の妹の目には、まだまだ心配ばかりの兄のままらしい。
「そうか。じゃあお言葉に甘えて、一緒に散歩でも行こうか? 」
俺とベアトリーチェは、お弁当を持って散歩にいくことにした。
◇◇◇◇◇◇
この数日は最高だった。
ベアトリーチェと散歩したり、一緒に食事を作ったり、特に何することもなく他愛もない話をして過ごしたり、近所の子供達と遊んだり、心身ともにリフレッシュできた。
夜は夫婦で仲睦まじく愛し合っていられたしね~。
毎朝、朝食後にサラのところへ、指輪に龍気を纏わせに行ったけど、三十分もかからずに終わる作業だから、仕事をしてるというより毎日サラの顔を見に行くついでの用事のようなものだった。ちなみに、思念回析魔法を纏わせる作業を学ぶエルフは、マルティナ含めておよそ十名らしい。最終的には十五名には覚えてもらい、量産できるようにするとのこと。
オルダーンから来た三名は、マリオンとともにサラと同居している。マリオンも同じだけど、その三名もサラを可愛がってくれているようで、兄としてはいくらしっかりしている妹でも一人で暮らしていないことに安心しているし、マリオンの話を聞くと楽しく暮らしているようで嬉しい。
アルフォンソさんのところでは、エルフ達にして欲しいと頼んでいたいくつかのことの報告をじっくり聞くことができた。
一つは資源の在り処を地図上に記していく作業。
今後必ず必要となる鉱物の特徴を教えてあるので、山や海岸で作業する機会には必ずそこでサンプルを採取し、地図に記載してもらっている。
二つ目は、エルフの部族間の連絡が密になるよう連絡体制作り。
飛竜を使って各部族の生活圏を回って貰っている。
三つ目は、里の在り処を調べ、里の状況と人口構成の調査。
様々な種族が暮らしている小さな里が、泉の森近辺だけでも十箇所くらいはある。
泉の森以外のエルフが住む地域でも、その周辺には幾つもの里がある。
今はまだ呼び寄せる体制ができていないけれど、龍の神殿がある森、神殿の森と呼んでる場所の開発を本格的に始めるようになったら、里から招いて住んでもらおうと考えてるし、里の人に打診してみたらかなり積極的に前向きな返事を貰っている。
他にも細かいことはあるが、それらも概ね問題なく進んでいるようだ。
あと、ガラス工芸を学んでいた方達の技術がだいぶあがったと聞いて作品を見た。
うん、グラスや皿の食器類はそろそろ売り物になりそうなところまで上達していた。
ドロドロに溶けたガラスを整形するのは大変だからもっと時間がかかるかと思っていたのだが、魔法を利用して整形するとそう難しくはないのだそうだ。
なるほど、地球で見た作業はそのままのイメージで俺は考えてしまう。
けれど、この世界では魔法を利用して生活しているから、魔法でサポートできないかと考える習慣があり、ガラス工芸でもその考え方の差が出たのか。
整形してる間ガラスの温度や着色の具合が思い通りになるよう経験を積んでいけば、かなりの作品が作れそうだ。
どの程度の値段で売れるかななどと期待を胸に俺が行商に出るのを待ち望んでいる人も出始めたらしい。
とてもいいことだ。
うまく高値で売れれば更に作品作りにも精が出るしね。
前世で見たクオリティからかけ離れてるものは売りに出さないし、売りに出す以上はそれなりのクオリティのモノだから、きっと高値がつくはずと俺は確信している。
明日、ゼルデとアンヌには、行商に付き合ってもらうつもりでいる。
こんな感じで行商してるんだよと一度見せておこうと考えてる。
ゼルデは元商人だから心配していないけど、アンヌは商売の経験など無いから、俺がやってることなどたいしたことではないけれど見せておいたほうが良い。
二人には、俺とマリオンが動きづらいリエンム神聖皇国で行商しつつ情報を集めてもらう予定だ。二人もそのつもりで居てくれていて、今は行き帰りの危険を排除できるようマリオンに鍛えられている。
今日で俺の休養日も終わる。
明日はジャムヒドゥンへ行商に行く予定だけど、その後はドワーフを手始めに様々な種族のところへ出向いて協力をお願いしにいく。
さて、休養最終日を満喫するとしよう。
◇◇◇◇◇◇
フフフ、予定通りだ。
売れろ! 売れろ~~!
前回店を出した高級住宅街で、俺はマリオンとアンヌ、そしてゼルデの四人でガラス食器売りに来ている。目の前では即売り切れになる勢いで売れている。
ワ~~ッハッハッハッハ、笑いが止まらん。
前回で学んだので、値段は市場で売られてる同じような形状・サイズのガラス食器の何と十五倍。うちの製品はガラスの透明度と硬度が市場のものとは比較にならんほどのクオリティ。透明でもこちらのはくすんでいたり気泡が残っていたりするが、うちのは完全なる透明で気泡が入った品物など売りには出さん。
領主様の娘アンヌも商人だったゼルデも、うちの商品を見て驚いていたもんな。
一応セレブのアンヌとシモーナでさえ、失敗作でいいから実家に贈りたいと言っていたし。
二十一世紀の日本の知見と技術を可能な限り活かしてるので、地球で言えば近代時代前の技術しかないこの世界では圧倒的な商品力をうちの品物は持っている。
お客が欲しい商品を提供し、更にその上の商品を求めるお客の要望に答える。それを繰り返して二十一世紀で生まれた商品は、この世界では圧倒的な魅力を持つ商品だ。
最初はビビってこの世界の市場価格の五倍なんて値段つけた。でも今では、一応十五倍で売っているけど、気持ちとしては三十倍でも売れんじゃねぇの? てな感じだ。
サラが作ったものは当然。
サラの製品よりも落ちるけれども、始めてまだ一ヶ月そこそこのエルフ達が作ったモノですら、セレブの奥様達が目の色を変えて、とにかく手に入れたい一心で、触ったものは全て手に入れる勢いで買っていく。バーゲン売り場で見たおばさま達状態。
今日はサラの製品は十個だけだけど、エルフ達の作品を二百以上持ってきたのに開店即完売状態。
この成果を伝えたら、エルフたちも大いに喜んでくれるだろう。
さて、今回来た目的の一つは済んだ。
今回は他にもジャムヒドゥンの情報を集める目的がある。
だから日帰りではなく数日滞在する予定だ。
あ、マリオンだけは神聖皇国への備えのために戻る。
今の俺達は金を持ってる。
ちょっとした贅沢して、羽振りの良いところをこの辺りの人達に見せつける。
すると、俺達の懐を狙って悪さを働こうとする奴らが必ず出てくる。
盗みや騙しで金を手に入れようとする輩はどこの世界でもどの時代でも居るからね。
俺達はこの辺りには住んでいない。
だから、この辺りの遊ぶ場所や遊び方をいろんな方に聞くことになる。
俺達のその様子は彼らの目にはきっと田舎者のように映るだろう。
少なくとも俺は確実に田舎者だし。
きっとネギ背負ったカモに見えることだろう。
俺達をカモだと判断して、近寄ってきた者達から情報を手に入れる。
奴らは俺達が田舎者だと知っている。
俺達の懐に入って気に入られるよう振る舞うだろう。
この国の日常生活は?誰が権力を持ってるのか?軍隊の規模は?
俺達はお客の情報を手に入れたいと質問するから違和感を持たれることはないだろう。だって本当のことだしね。
そしてカモに飛びつくキツネはやはり現れる。
・・・・・・
・・・
・
ゼルデとアンヌは商人とその妻、三名の内ひときわ身体が大きい俺は商い見習い兼荷物運びの従者の設定で、このあたりでは比較的高い宿へ宿泊した。宿屋で近くの酒場を教えてもらい。そこで商売の成功を祝う。
俺達は設定通りの立場で祝い、一緒に祝ってくれと俺達の近くで飲んでる奴らに奢り、騒いだ。
俺達が居る場所は、ジャムヒドゥン南側で最大の都市サバトルゴイ。交易が盛んな都市だ。人口は四十万人を越えるだろう。ここで情報を集めると決めたのは、マリオンの”交易が盛んな都市なら、人も多く集まるから情報も手に入れやすいだろう”という意見に従ったためだ。それにここサバトルゴイはリエンム神聖皇国からも離れていて、俺達の顔を知る者と出会う機会も少ないだろうと判断したためだ。
サバトルゴイを選んだ理由は他にもある。
ここはジャムヒドゥンには属さずに中立を保ってる小国とも交易を行える都市で、ジャムヒドゥン国民以外の者がうろついていても珍しくないからだ。
商売もしたい、情報も集めたい俺達にとっては最適な都市、それがサバトルゴイ。
酒場で見かける人も様々な地域から来ていると衣装や顔の特徴で判る。
俺はリエンム神聖皇国で生まれ、その南方で暮らしていたから、ここで見かける人の特徴には知らないものが多い。そういうのを見てるだけでも結構俺は楽しい。
「ずいぶん景気が良いね。いい商いできたようだね。そのツキを俺にも分けてくれないか? 」
ゼルデの前には、黄色のターバンを頭に巻き黒い衣装を纏った、赤く日焼けした顔のアラブ人風の男がボトルを片手に立っていた。
「奥さん連れで商売かい? 珍しいね」
「ええ、妻もここで買い物をしたいと言うので、今回は一緒に連れて来ました」
ゼルデは、男が差し出すボトルから酒をグラスに注がれるまま話してる。
話しを聞いていると、この男は普通の織物商人のようだ。
ゼルデは商人なら判って当たり前の話しをすることになっている。
地方ごとの特産品の話や、その特産品を手に入れる苦労やその品を売る旨味など、商人なら当然知ってることだけど、商人じゃなければ話のどこかにおかしなところが出るらしい。
おかしなところがある相手の場合は、俺に合図を送ることになっている。
サラが作っていた例の指輪こすりながら俺に目で合図するのだ。この事以外で俺に何らかの異変に気づいて欲しい場合は指輪に触らずに合図を送る。俺達はこう決めている。
やがて織物商人が神の導きがあったらまた会いましょうと言って去っていった。
しばらくすると、酔っぱらった男がアンヌに絡みだした。
俺は注意深く見ていたが、ただの酔っ払いで……俺が”奥様に失礼なことを言うのは止めていただきたい”と注意すると、旦那が居ると気づいたようで平謝りに謝って去っていった。
アンヌの機嫌をとるという理由で、酒場を離れ宿に向かって歩いてると、俺達の後をつけてくる者が居た。俺は二人に”つけてくる者が居る。気をつけて”と思念を伝える。
俺達は宿に入り、俺は宿の窓から外を伺うと、さきほどつけてきた者と誰かが話してる様子を感じた。
この宿はこの辺りでは比較的高い宿だが、セレブが宿泊するような高級宿ではない。警備は居るが、厳重に警備されてるわけでも無い。
当然だ。
あまり警備がきついところでは、盗賊も襲っては来れないのだから、それでは俺達がわざわざ宿泊する意味はない。襲ってきてくれないとつまらな……困るのだ。
時間をかけて、この地域でネットワークを築こうなどとは思っていない。それにそういったまともなネットワークは俺達の目的の役にたたない。俺達の目的は奴隷を逃がすことなのだから。
奴隷達を逃し、俺達の国で給料を稼ぎ、家庭を持ち、できるだけ自由に生活が送れるようにする。それが俺が作る国の目的の一つだ。俺は外見こそ人間と変わらないが、俺は亜人だし、魔族の血も混じってる。亜人だから、魔族だから奴隷で当たり前とされるのは気に入らないんだ。
深夜、こちらの期待通りに俺達の部屋を襲ってきた。
俺とゼルデ達は部屋を分けている。当然だ。商人夫婦と見習いが同じ部屋に泊まることなどない。本来なら見習い役の俺はもっと安い宿に泊まるのが自然。まあ、そこは不自然でも今回は止めた。
宿屋の誰かと組んでいたのか、俺の部屋にはこないで、ゼルデ達の部屋だけを狙って襲ってきた。賊がゼルデの部屋に入ったと確認した後、俺はゼルデ達の部屋へ入っていった。
まあ、滅多なことではゼルデ達を囚えることなどできない。
マリオンから、そこらの賊程度ならアンヌだけで大丈夫。ゼルデも自分の身を守るくらいならさほど心配はないといわれていたので、多少は心配だったが俺が何とかすると考えていたし、実際マリオンの言うとおり、部屋を襲ってきた四名の賊はアンヌに気絶させられていた。
窓から外をそっと覗くと、賊の仲間らしい姿が二人見えた。
俺は床に転がる賊を縛り上げ、外のも捕まえてくると二人に伝え部屋を出た。
宿の裏口から出て先程確認した二人を探すと、先程と同じように宿の玄関正面で仲間の戻りを待っていた。
賊ごとき俺の相手ではない。
スッと近寄り気絶させて部屋へ持ち帰る。
賊六名を縛り並べたところで気を取り戻させた。
「で? お前達は何者だ? 命を奪われても仕方ない状況だってことだけは忘れないでくれ」
「チッ、美味しい獲物だと思ったのに……」
女の声であった。俺が宿の外で捕まえた二名のうちの一人も女だった。
踏み込んだ四名の中にも一人女が混ざっていた。
「だから、お前達は何者なんだ? 強盗しかけて捕まって、朝になったらお前達をこのまま役人に突き出してもいいんだが、話によっては解放してもいいと考えてるんだ。こちらの質問に正直に答えろ」
俺はベッドを椅子代わりに座り、苛ついた感情を抑えずに話す。
話が進まずグダグダと時間を潰すのはかなり嫌いなんだよ。
「俺達は、この辺りで義賊やってる”プーラン”」
この男の賊は、六名の中で最も身体も大きく、身体もがっしりとしている。
堂々としてるからリーダーなのかもしれないな。
低音の声ではっきりと答える様もリーダーっぽい。
この男と話すのが手っ取り早そうだ。
「義賊ってことは、俺達から奪った金を貧乏な人へ配る予定だったと? 」
「ああ、そうだ」
ふーん、言ってることは本当のようだ。
俺はエルザークのように相手の思考や記憶を読むことはできないが、言ってることが嘘か本当かくらいは相手を読み取れる。
こういった奴らは嫌いじゃない。
「俺達に協力するなら、解放してやってもいいけど? 」
「何を手伝えって言うんだ。それに俺達は人間の手伝いはしない」
「お前達は人間じゃないってのか? 」
「ああ、俺達の仲間に人間は居ない。亜人の元奴隷ばかりさ」
「雇用主から逃げたのか? 」
「そうだ」
こいつらは力を持たない俺だ。
今の俺のように力を持っていなかったら、俺もこいつらと同じことをやっていたかもしれない。
……助けてやりたい。
「お前達、俺のところで働く気はないか? 」
「だから俺達は人間の手伝いはしない」
「ここに居る俺の仲間は人間だが、俺は人間じゃない。亜人だ」
リーダーっぽい男が、俺の目をじっと見ている。
俺も目をそらさず、俺を信じろ、信じてくれと気持ちを送る。
亜人だと、ここで自由に動けないはずだ。
まして逃げて奴隷を辞めた奴だと隠れて動くしか無い。
今回俺が必要としてるのは、金銭取引で動き契約は守る人間。
こいつらは俺が助けたい相手だ。
「あんたは嘘を言ってるようには見えない。だが、すぐ信用しろと言われても無理だ」
「そうか、それもそうだな。じゃあ、これはどうだ。俺がやってることを見せるから、それを見てからもう一度考えを聞きたい。俺がやってることを見ても協力できないと思ったなら、その時お前達を解放しよう」
俺は里の人達やエルフ等の暮らしとそこで俺が手伝ってることを見せようと決めた。それでも俺を信用できないというなら解放しよう。
賊達はお互いに顔を見合わせ、軽く頷いた。
「計画を変更しよう。俺はこいつらを連れて今から先に戻る。明るくなってからこいつら連れて歩いちゃ目立つからなあ。アンヌとゼルデは明日戻ってくれ」
「「はい、ゼギアス様」」
二人は同時に頷いた。
「お前達、俺から逃げようとしても無駄だからな。大人しく俺の指示に従っていれば痛い思いをしなくて済む。心配するな。危害は加えない」
そう言って賊達を縛っていた縄を切り、付いてこいと合図する。
賊達は大人しく俺の後を付いてきた。
都市の城壁に着くまでの間に、俺はサラに思念を送る。
(サラ、深夜にすまない。サバトルゴイ城壁の東側の……いつも俺が停めてるところまで飛竜を三頭送ってくれ。俺がそこで待ってるからサバトルゴイに近づいたら飛竜なら判る。急ぎ客を連れて行かなきゃならなくなった)
まだ起きていたようで良かった。サラはすぐ送るという返事を受け取って思念を切った。
門から離れた城壁。
門番などが気をつけても見えない場所がある。
そこに到着すると、俺は転移魔法を使って賊全員と城壁の外側へ転移した。
サバトルゴイの門は、誰でも比較的簡単に通過できるが、さすがに深夜にゾロゾロと通過しようとすれば怪しまれる。俺は何とでもなるが、こいつらは引っかかるかもしれない。騒ぎは起こしたくない。アンヌとゼルデは明日普通に門を通過するだろう。まあ、時間があったら俺が迎えに来よう。
サバトルゴイの南東を少し下るとこぢんまりとした林がある。
俺はいつもここで飛竜の乗り降りをする。
そこに着いた。
「じゃあ、ここでしばらく待っていてくれ。迎えが来るから」
俺が気楽にしていてくれというと、今まで黙っていた先程のリーダーらしき男が口を開いた。
「あんたは何者なんだ」
警戒が残る視線を浴びてるが俺はそんなこと気にしない。
この状況で警戒するなというのが無理がある。
「俺はゼギアス。人間と変わらない姿だが、俺が亜人だということは嘘じゃない。奴隷ってのが気に入らなくてね。亜人や魔族は奴隷として使っても当然と考える人間は嫌いだ。もちろんさっきの俺の仲間のように、俺の考えに賛成してくれる人間も居るから、人間なら誰でも嫌いというわけじゃない」
「亜人を奴隷として見ない人間なんか居るのか? 」
「ああ、居る。確かに少ないけどな。それにリエンム神聖皇国とジャムヒドゥン以外の国では奴隷制度そのものがないところもある。他にも奴隷制度はあっても、亜人や魔族だけでなく人間が奴隷やってるところもある。そういうところでは、戦争に負けた国の人間が今も奴隷のまま、そういう感じだな」
俯いて何か考えてるようだ。
しばらく考えた後その男は口を開いた。
「ゼギアス、あんたは魔法も使える。逆に俺達に協力してくれないか? 」
「嫌だ。お前達の貧しい人を少しでも助けたいという気持ちには共感したが、お前達は金の有無だけで人間を見た。俺も貧しい人を助けたいし、困ってる亜人の手助けをしたいと思ってる。だが、それは自分で稼いだ金で、仲間たちと稼いだ金で、そして今は貧しくても頑張れば貧しさから抜け出せる場所を作ることで成し遂げたい」
「夢物語だ。そんなことできるわけはないし、そんな場所などない」
呆れたような口調。
まあ、これも仕方ないよな。
俺はたまたま力を持っていて、他人よりできることが多かったし、サラやベアトリーチェ、エルザークから教えられて出来ることを増やし、そして今のように考えられるようになった。実際、走り始めたばかりで、必ず出来ると約束できることではない。俺だって不安なんだ。でもやらなきゃならない。サラやベアトリーチェや皆と少しでも幸せになるためにはやるしかない。
「ああ、今はできないし、そんな場所もないな」
「だったら……」
「だったらお前達を手伝えってか? 嫌だ。たまたま俺には力がある。俺が居ればお前が考えてるようなことは大概できる。亜人のために金をどこかから奪って渡すことなど簡単だ。だが、俺が死んだあとはどうする? 」
「……」
「その時はその時でなどと言うのなら、今から考えろ。そしてどうしたらいいか考えろ。……まあ、俺も偉そうなこと言ってるが、妹や仲間たちから教えられてやっと判ったことだ。お前にすぐ納得しろと言っても無理なことは判ってるよ」
「あんたがやってることを見たら納得できるのか? 」
「さあな。だが俺は、俺と同じ亜人の妹が奴隷になるようなことは許さない。俺の仲間たちもな。だから俺が居ないときでも皆を一人でも多く守れる場所を作りたい。そう思って頑張ってる。だが、それを見てお前達が納得するかは知らん」
「俺の名は、シャピロ。今は生き残りも少なくなったが人狼族だ。あんたがやってることをしっかりと見させてもらうよ」
「ああ、そうしてくれ」
飛竜が降りてくる様子が目に入った。
「さあ、迎えが来たようだ。振り落とされないように気をつけてくれ。俺が指示した通りに飛んでくれるからお前達はしっかりと掴まっていてくれさえすればそれでいい」
一頭に三名ずつ乗せ、俺は残った一頭に乗る。
「さあ、泉の森まで行ってくれ。頼む」
俺の声を合図に三頭の飛竜は空へ舞い上がった。




