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霧の街の朝

説明文的な話。

『-- Now Starting --』


漆黒の闇に 数十秒程、

ただその文字だけが見えていた起動画面も終わり、画面はゆっくりと開けていく。

正直、この起動画面を見続ける時間はイライラしてくる。

ただ、一説には。

プレイヤーに 現実とゲームの中の世界を心理的に区切る時間を与えるために

本当は 数秒で終わる起動画面を 態々 数十秒流していると言う噂もある。

身も蓋も無い噂。 だが、完全に否定はできない。


徐々に まるで意識を取り戻すように

眠りから醒めるように 少しずつ感じ取れるようになる

雑踏の音や近くの食堂から漂ってくる料理の匂い 僅かに感じる夜風の感触。

それら増して、開けた視界に映るのは、

自分が横たわるベットの真上にある天窓と

それを通して見える蒼い月と月明かりに照らされる流れる雲の姿。

それらは、非常に『自然に』何の淀みも不自然さも無く そこにあった。

そこがゲームの世界であると知らなければ、

現実の世界と勘違いしてしまいかねない。

そう 自然に思えてしまうほど ここは現実じみている。



痒い訳ではないが なんとなしに頭を掻きながら、彼女はベットから身を起こす。

かけられたシーツが滑り落ち、その下に隠された彼女の、

と言っても 仮想世界での『キャラクター』のだが、

非常に際どいの白い下着姿が露になる。


それに気をする事も無く、ベットを降り。

壁に埋め込まれるように存在する一枚の石板、

というより等身大の黒い長方形の板のような物体に向かう。

そして、それを指先で触ると 黒い石版は一瞬にして透き通り鏡に変った。

下着姿の映る鏡の前、再度 石版の…鏡の表面を触ると

半透明の文字が浮かび上がる。

それは、矢印つきで 体の各部位を指し示していた。

さらに、鏡に映った文字を操作して 鏡の中の彼女の服装が変わると

すぐさま彼女自身の服装も変わっていた。

それは、まるで どこに何を装備しているという

RPGではお馴染みの装備画面のようだ。


「よし。」


くるりと回って見て、服を確認する。

いつも着て、着慣れている魔術系亜人キャラ向きのローブセット。

個人的には、赤と白を基調としたスリットの入ったチャイナドレス風のローブと

同様の赤と白を基調としたジャケット状のマントの組み合わせは、

彼女のお気に入りの一品だ。

ちなみに、彼女は拘るタイプなので

安価な亜人用の尾穴付きショーツではなく、

少々高めのフロントリボン付きの黒いスキャンティーをはいている。

さらに アクセサリとして、その長い両方の耳にピアスを付け、

細やかな指に マジックリングをはめていく。

最後に、強化レザーハイブーツを履いた。


そして。

再度 鏡の隅に浮かんだ模様に触れ、

石版に戻すと そのまま慣れた様子で 石版に触れた手を前に突き出していく。

すると、彼女の手は石版に沈み込むように埋没していく。

しばらくすると、目当ての物を探し当てたのか、今度は石版から腕を引き抜いていく。

どうやら、黒い板のような物体は『倉庫』の役目をするものだったようだ。


そして、その手には 馴染みのある杖が握られていた。

木製の杖。何の変哲も特色も無い杖で偶然露店で見つけ 買った安物である。

が、やはり使い慣れているのか それを手に取り軽くバトンのように振り回す。

手にシックリくる感覚を確認し振り回すのをやめた。

そうして、彼女は身支度は終え、

今日も部屋の扉を開いて幻想の世界の日常に始めた。





ここに一つのゲームがある。


『 Deep Mist 』


通称、霧。 15歳以上を対象としたゲームであり。 

タイトルに 『 online 』が入っていないが列記としたネットワークゲームである。

所轄、VRMMORPG … 全体験型多人数同時参加型オンラインRPGに分類される。

日々進化し続けるコンピューターとネットワークの進化の中で

かつて夢物語であり空想の産物であった『仮想世界に入り込めるゲーム』。

それが現実となったのは、十数年前。

その当時、まるでゴールドラッシュのように

多くのVRMMOが作られ…消えていった。

まさに黄金時代だった その時代。 

だが、それも徐々に落ち着き。 衰退の影が僅かに滲み始めた頃。

ネットの片隅でテストプレイが始まったのが、DeepMistだった。

とあるゲームフリークがほぼたった一人で作ったと言う無料VRMMORPG。

当時、多くの大手ゲーム会社が巨額の資金を投資をして

派手な広告を行い 有名な声優やデザイナーを雇って ゲームを作成していた時代。

積極的な広告も無く、精々 ゲーム関係の情報サイトで

文字だけの簡単なテストプレイヤーを募るだけ。

VRMMORPGである事以外 一切情報が開示されていない。

謎には満ちているが、正直 期待されず見向きもされない作品だった。


ところが。

一ヶ月のテストプレイが終わった頃から、

Deep Mistは徐々にネットで話題に上るようになる。

曰く。『 何でもできるゲーム 』

かつて実在した伝説のRPGを連想される

そのテストプレイヤー達の発言が発端となって、

既存のゲームに満足しないコアなプレイヤーを中心に

謎のRPGの内容が 急激に注目を集め始めたのだ。


そうして、正式サービス開始日。

多くのプレイヤーが眼を輝かせて 霧に包まれた仮想世界に身を投じた。

彼らの目の前には、個人で作ったとは思えない美しく自然な世界が広がっていた。

だが、彼らの前に広がった世界は 決して優しい物ではなかった。

そう。それは プレイヤー達を唖然とさせる常識外れのゲームだったのだ。





未だ朝日は昇りきっていないが、

霧平線を赤く染めて 僅かな光が山間の街を照らしていた。

そんな まだ薄暗い街の小路を、彼女はゆっくりと歩いていた。


「ふぁ~。」

幼さの残る顔立ちを歪ませ、欠伸がこぼれ出る。

早朝だから当たり前と思うのは、VRMMOの初心者だ。

すでに プレイヤーの中では常識と化している事なのだが、

通常 この手の仮想世界の時間間隔は 現実世界の12倍に拡張される。

つまり、仮想世界の一日は現実世界では 2時間でしかないのだ。

当然、仮想世界と現実の世界の時間帯が違っている事は 良くある事。

今回は、たまたま現実の世界で早朝にログインしたら、

この世界でも早朝だっただけの事なのだが…。

いつもならば、こんな早朝に彼女はログインしない。

偶然、前日に用事が立て込み、ログインできず。

今日は前々から約束された待ち合わせがあったため、

現実世界では休日という事もあり 少々早起きして 用事を済ます事にしたのだった。


程なくして、彼女は目的地である建物に到着する。

街の中央広場。 高台のトゥーフ教会に向き合うように建つ

強固な楕円柱形の石造り3階建ての建物。

すでに開かれている大人5人は並んで入れる大きな入り口の上には、

『 AGA - Asir Guild's Alliance 』と書かれたプレートがある。

そこは、エイシル大陸で活動する冒険者(プレイヤー)にとって、

最も馴染み深い場所のひとつ。

冒険者協会・クトゥー支部だ。



「おはようございます、リゼさん。 お早いですね。」

「んっ。おはよう、アンネ。

 今日は待ち合わせがあるからね。ちょっと早く来たんだ。」


水晶球が埋め込まれた更新受付カウンターに座ると、

すぐに馴染みの猫耳ギルド職員が対面に腰を下ろした。


「そうですかぁ。では、早速 更新の手続きを行いますね。」

「うん。お願い。」


と、彼女…リゼは「リアライズ。ギルドカード。手の上。」と呟いた。

すっと左手をあげて、上にした掌の上に燐光に光る小さな魔方陣が開くと

そこから 一枚のカードが出て 儚く消えた。


「はい。カード。」

「はい。たしかにお預かりしましたぁ。更新します。」

そう言って、猫耳ギルド職員…ワーキャットのアンネは

埋め込まれた水晶球の頭頂部の平らになっている部分にカードを置いて、

指を組み 祈るように契約された言葉を紡いだ。


『神様、この者の足跡を現し。この者の道をお教えください。』


すると、カウンターに座る両人ともに

僅かに自分の体から何かが漏れ出るような感覚が生じて

次の瞬間 一瞬の閃光が水晶から発せられると 静寂が戻った。


「はい。更新完了ですね。」

「ありがと。」

「いえいえ。 あっ、リゼさん。ついに『赤魔』を得たんですね。」

「うん。この前、やっとね。」

「おめでとうございます。」

と、カードを確認しながら手渡したアンネが軽く拍手して 自分のように喜ぶ様子に。

リゼは嬉しくて少し赤くなった。


「ありがと。・・・さて、そろそろ行くね。」

「はい。 では、また今度。」

「はいよ~。」

ゆっくりと リゼは席を立ち、

アンネの言葉に腕と尻尾を振りながら、建物を出て行った。


「我が道を行くって 凄いなぁ。」

アンネは その後姿が建物の角に消えるまで 羨望の眼差しを送り続けた。




だいぶ 日が昇り、

街に僅かながら流れ込んでいた霧が霧散する頃。

リゼは 自分が所属するギルドの本拠地に来ていた。

商店が立ち並ぶ地域の片隅、本当に隅の方の

駆け出しの冒険者達が寝泊りする安宿街や繁華街などが隣接する

緩衝地区のような場所に その建物はある。


外見は 古びた石造り2階建ての直方体建築物。

周りの商売意欲があるのか無いのか良く判らない古本屋や

古着屋や妖しい雑貨店などなどの店舗に比べると若干大きめの建物である。


朝早いため、開店の準備として

ダークエルフの少女が通りに面した部分の窓や入り口の鎧戸を仕舞い込み、

ワーウルフの青年が ここいらでは珍しいガラス張りの入り口を磨いていた。

そして、そんな二人の店員の上には、

『ノイナル茶屋』

と、実に達筆な文字が書かれた木製の看板が鎮座していた。



「おはよう。 キアラ、爆裂卵さん。」

「あっ、おはようです。リゼさん。」

「おう、おはよう。リゼ。」

リザは いつものように二人に声をかけながら 店内に入っていく。


「ナルは上?」

「はい。 昨日は、仮眠室でお休みになられたようです。」

「まったく、あいつは・・・。」

穏やかな印象を感じさせる店員の声を背に

彼女は店の従業員スペースを通り過ぎ、奥の廊下を進み、

さらに奥にある扉を開くと すぐ手前にある階段を上っていく。


この茶屋は。

一階は、ハーブ茶とケーキをメインとする喫茶店 兼 薬用を含む茶葉の専門店だが。

二階と店舗の奥にある扉の向う側は、ギルド『ノイナル茶屋』の本拠地なのだ。

何故に、茶屋の奥にギルドの本拠地があるのか。

その理由は、後に語る事にしよう。



さて、階段を上りきったリゼは二階の廊下を早足で進んだ。

そして、突き当たりの扉を壊れるのではないかと思うほどの勢いで開け放った。


「こらぁ! ナル!」

「うひゃ!!??」


怒声一閃。

リゼの声に過剰に反応した部屋の中の人物は、

仮眠していたソファーから飛び上がり そのまま下に落っこちた。




「・・・・痛ひ。」

「自業自得でしょう?」

「ううう。 リゼが冷たい。」

しばらくして、リゼとナルと呼ばれる中性的なヒューマンの少年?は

一回の大広間 兼 応接室の ソファーに座って来客が来るのを待っていた。

よく見れば、ナルの頭には ギャグ漫画のような大きなバッテン絆創膏が張られている。


「はいはい。大体、痛いって言っても そんな対した事無いでしょう?」

「でも、絶対 HP減ってる。 こう、ズズンって。」

「はいはい。」


と、そこにドアをノックする音が響いた。


「「はい。」」

「失礼します。

 ギルド『ケマルカクトゥス』の盟主 サボッテンダー様がいらっしゃいました。」

「お通ししてください。」


静かに、二人ともソファーから腰を上げ 客人を待つ。

数秒の間を置いて 扉が開き、鈍い輝きを放つ合銀製の軽鎧を纏った

緑髪の剣士が入ってきた。


「おはよう、ナル。リゼ。 失礼するよ。」

「おはよう、サボ。」

「おはようございます、サボッテンダーさん。」


笑顔で挨拶を交わす三人。

その後ろで、剣士より小柄な人物が部屋に入ってきた。

見れば、それは小柄で表情に乏しい少女であった。

身に纏っているクロスアーマーや腰に挿した剣から戦士系のようだ。

ナルとリゼが視線を向けると それに気付いたのか ペコリと軽く会釈を返す。


「その子が?」

「あっ、ああ・・。 あー、そうなんだがな。」

「ん?」


と、なにやら剣士…サボの様子がおかしい。

リゼは その様子に違和感を感じ取った。

今日は この少女がギルドの移籍を希望したため、

それの受け入れのための会合だったのだが。

『ノイナル茶屋』では、こういった受け入れは比較的簡単に引き受けている。

今回のように、大型ギルドからの移籍でも ソロからの加入でもだ。

それは、このギルドの設立と方針によるとことが多いのだが。

ともかく、多くは無いが それなりに経験はしている事なのだ。


「どうした?」

流石に、様子がおかしい事に気付いたナルは不安げにサボに問いかける。

リゼも その様子を不安げに見ていた。


「実はな・・・ もう一人居るんだが…。」

やっとの思いで搾り出すように、サボは言葉を出した。


「んっ? 別に、一人が二人になっても問題ないけど。」

「サボッテンダーさん、その位なら 気にせず言って頂ければ…


「本当っすか!?」

リゼとナルが承諾の言葉を言った瞬間、

廊下との扉が開かれ まだあどけない少年が流れ込んできた。

ギョッと固まったサボの横を通り抜け、唖然とする二人の前に立つと

その手をとって握り締め ブンブンと振り回し始めた。


「ありがとうっす!! これからお世話になります!!」

「「はあ。」」

「俺、ハリって言うっす。」

「「はあ。」」

あまりの押しの強さに 呆然と流される二人。



「今日始めたばかりの初心者なんで! 本当よろしくお願いっす!」

「「はい?」」


「「えええええええっ!?」」

思わず、叫んでしまった二人であった。


これが『変人集団』『マイナー職の巣』などと呼ばれる

駆け込み寺的 中規模ギルド『ノイナル茶屋』に初めての初心者が加入した日だった。


この幼き冒険者が茶屋の中で どのように成長していくのかは・・・まだ判らない。

出てきた武器や防具の解説いいかげん


リゼのウッドマジックスタッフ

リゼが昔から使っている杖。 長さ 166cm。

全体的に オーク木材を使って作られている安物である。

ただし、意匠自体は非常に良く。細部まで丁寧に作り込まれている。




クリムゾンヘクセローブ:

赤と白を基調としたスリットの入ったチャイナドレス風のローブ。

へクセローブという魔術系女性専用の上級装備と評されるローブの紅色版。

非常に有難い加護(補正)が得られるローブだが、

スリットの入りが非常に深い上に 体の線が明確に出る意匠なので

纏うのには かなりの覚悟が必要。




クリムゾンシルジャケット:

同様の赤と白を基調としたジャケット状のマント。

シルジャケットという中級装備と評されるマントの紅色版。

紅い色は着る人を選ぶため 売れ行きが悪い。




黒いスキャンティー:

セクシーな下着。どんな形状なのかは、ググレ。

DeepMistでは下着も変更可能なので、

自分好みの物に変更する女性プレイヤーは多い。

ちなみに、他の防具や武器は強力な攻撃で吹き飛ぶ(消滅する)事があるが、

下着だけはボロボロになる演出はあるが消える事は無い。

(防御力はないので注意)




マジックリングなど:

アクセサリ各種。 それなりの価値がある物。 特殊な効果がある物もある。

DeepMistでは、アクセサリは好きなだけ付けられるが、

最大でも 3個のアクセサリの効果しか発現しない。

と言うのが 最近の定説。




強化レザーハイブーツ:

中級と評価される金属製プロテクター付き皮製ハイブーツ。

冒険者用なので 防水や強化などの魔術がかかっている。

店売りで、それなりの価格がする。




大きなバッテン絆創膏:

最上級の一つと評させるアクセサリー。

装備した者の自然治癒力を上昇させる効果と

回復魔法を受けた際 治癒効果が大幅に増す効果がある。

ノイナル茶屋ギルドの共有財産の一つ。




ミスリルライトアーマー:

サボッテンダーのミスリル製軽鎧。

上級と評される軽鎧で素材も魔術処理もレベルが高い。

当然、ぶったまげる お値段する高級品。

合銀製の鎧だが、軽量化の魔術もかかっているため見た目より軽い。

胸の部分に 態々書かれたサボテン(っぽい謎の生き物)の紋章がダサい。




クロスアーマー:

布製の鎧。 基本的に、耐久性のある生地に魔術で補強がされている。

初心者から駆け出し、果ては防御より身軽さを重視する人には定番の防具。

ちなみに、ファーネのクロスアーマーは安物なので魔術はかかっていない。



スモールソード:

ファーネが持っていた小型の剣。

小さい為、威力は低いが扱いやすく剣に不慣れな者でも それなりに戦える。

剣士系など戦士系の称号志望の駆け出し冒険者が持っている事が多い剣。

また、攻撃の速度などを重視する上級冒険者の中には、

ミスリルを素材として 仕上げに魔術処理された

性能が高いスモールソードを使っている者もいる。

ファーネのスモールソードは鉄製の安物だがw




しばらく、説明的な話が続きます。

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