12話 説得
「お話ししましたオーキデンスの村を襲撃する計画ですが、ちょうどよい村を見つけています。物資などの準備はすでに終わっております。」
セウェリスの執務室で以前話していた計画の内容を私たちは聞く。
魔王の襲撃を装い、巫女である桃ちゃんを誘い出す計画だ。
「守護騎士たちはオーキデンスの人たちだよね?引き離さないと説得がうまくいかないかも…。」
「全員の引きつけ役目は俺がする。お前の護衛はパッセルが請け負ってくれる手筈だ」
「パッセルが!?」
パッセルは話によると、魔族化せず後方支援作業をこの100年間していたのだそうだ。私の守護騎士に再開できるのはとても嬉しい!
「パッセルは現地で見張りをしてくれています。出発の準備ができましたら、コトハとアルデルはすぐに向かってください。この街のことは私とステラ様に任せてください」
動けるようになったステラは、すぐに外政の勉強をして、私たちのサポートを始めてくれている。貴族の教育で培った彼女の方が外交が上手いから、セウェリスと力を合わせてうまくやってくれるだろう。
私たちはすぐさまオーキデンスの小さい村に向かった。
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「やあ久しぶりだねコトハ!!覚えてるかい?パッセルだよ!!」
私のウエストくらいまでの身長で髭を生やしてはいる男性が私たちを待っていてくれた。ひげが生えてもっさりしているが、昔の姿のままの彼だった。
彼はドワーフの血を引いているから人間より長生きだ。
「オイラもうすぐ孫が生まれるんだよ!!ふふっおじいちゃんなんだ!」
嬉しそうに100年間の話をしてくれた。かわいい奥さんのこと、子供たちのこと、孫たちがそれぞれ家庭を持ち始めたこと。聞いている私もとても嬉しい気分だった。
「おいパッセル。自分語りは仕事が終わってからにしろ。」
「100年ぶりなんだからいいでしょ~?アルデルはせっかちだなぁ」
「あのねパッセル。貴方は大事な家庭を持っている人だったら危険を冒すことをしないでいいよ?ご家族にも悪いし、おじいちゃんになるんでしょ?」
「最近腕にあった紋章がまた現れて、すっごく元気になったんだよね!だから大丈夫!オイラだって君の守護騎士として君を守るよ!それに逃げたら妻に怒られちゃう!」
とカラカラと軽快に笑う。
「命の危険があったらすぐに逃げてね。」
「その時は君を抱き上げて一緒に逃げるからね!」
出会った当初はびくびく怯えている青年だったけれど、立派な男性になったものだ。
「ずっとアルデル達を助けてくれてありがとうパッセル。」
「こちらこそ戻ってきてルトゥースをまた助けようとしてくれてありがとうね。オイラも故郷や家族や仲間を守るためにがんばるよ。」
パッセルはにかっと歯を出し笑って見せてくれた。
作戦を行う村では15人程度が住むごく少数の集落だ。
アルデルがここを襲うフリをして、村人達を一時的に追い出すのだ。
アルデルは誰もいない建物に向かって魔法を放ち破壊した。
爆発音に驚いた村人たちは様子を見に集まってきた。
アルデルは村人に当たらない攻撃を仕掛け、村から追い出していく。
ロビゴは建物に隠れた人を家の外に出るよう、追い出し役をしている。
30分後、すべての村人達を追い出せたのか、誰もいなくなった。
「ロビゴ、村人達が戻ってこねぇように周囲を見張ってくれ。ついでに馬を一頭引き連れて村人に渡せ。」
アルデルは指示を出しながら馬に馬具を装着した。
ロビゴはすぐさま村人達が逃げていった方へ村の馬を引き連れて走っていった。
「さて、村人には申し訳ないが巫女が来るまでここに滞在する。村人が近隣の村に馬に乗って魔族が襲ったことを知らせ、まず騎士達が来る。それを撃退したら巫女達が来てくれるだろうって算段だ。」
「来てるれるかな…」
村に滞在するために食料をたくさん用意した。
食料が無くなる前に来てほしい。
「何度か編成隊を退けていたら必ず来る。巫女様は民の不安を取り除くために働かなきゃならないからな。」
ただ会って話すだけなのに、すごくドキドキする。
説得できなければ私たちは敵になってしまう。
責任重大だ。
「あまりに人数が多ければ、パッセルも手を貸してくれ。」
「あいよ~」
パッセルは角がついたカチューシャを頭にはめた。
そんな変装でいいのかという見た目だ。
アルデルの予想通り二日後に騎士隊がやってきた。
あっという間にアルデルが一人で退けた。
そのまた一週間後に人数が増えた騎士団が現れ、またアルデルだけで退けてしまった。
それから3週間経った。
情報の伝達や移動、隊の編成や作戦会議にどうしても時間がかかってしまうことは分かっていたが、もうすぐ食料が危ない。
巫女達を待っている間、パッセルの指導で村の家畜や畑などの手入れをしていたが、食料がなくなったら分けてもらおうと言うことをちょうど話していると、ロビゴが慌てた様子で帰ってきた。
「来たな」
一緒に畑仕事をしていたアルデルはパンパンとズボンについた土を払いながら立ち上がる。
「待たせ過ぎだな。畑仕事はつまんね――っっ!」
アルデルは何かを感じたのか、表情が一変した。
「どうしたの?」
「……分霊箱の気配がする」
分霊箱?!
魔族が倒せなくて分霊箱を持った人が参加しているのか。
「人選変更だ。パッセル、お前は俺と一緒に戦え。ロビゴ、お前は巫女に見られてもいい姿でコトハを守れ。」
「ワン!」
「わかったよ!」
パッセルは例のカチューシャを身に付け、ロビゴはただの犬に見えるよう縮んだ。
「コトハ、あらかじめ決めていた場所で待機だ。俺達がそこに巫女を飛ばす。あまり悠長には話す時間はないと思ってくれ。」
「わかった。」
アルデル達は巫女達がいるだろう方へ武器を抱えて走っていった。
二人だけで分霊箱の相手をさせるわけにいかない。
どちらかが分霊箱を破壊して、魔王復活の依代にさせたくない。
アルデルはなおさらだめだ。
私も急いで指定の場所に向かった。
村の広場で待つこと二十分。
「ここどこよ!?皆とはぐれちゃったじゃない!!あのチビ魔族!」
村の裏手の林から桃が現れた。
「桃ちゃん!!」
「あれ?おば――お姉さん!?死んだんじゃ!?」
「桃ちゃん聞いて!オーキデンスは魔王信者が作った国なの。だからあの人達を信じちゃ駄目!」
「…は?」
「魔王の天敵である巫女を味方に付けて、魔王の分霊箱をひとつにし、魔王を復活させることが目的なの。貴方は利用されている。」
突然の話にぽかんとしている桃ちゃん。
当たり前だ。私もこんな説明を受けたら意味が分からなくなる。
それでもどうにか説得しなければならない。
「私が国境へ行った後、私はオーキデンスの兵に雇われてたごろつきに殺されそうになったの。でも助けてくれた人のおかげでオーキデンスを逃れ今まで生きてこられたの。」
「オーキデンス帝国はスタート地点だし、そんないきなりレベル1の人間が魔王城みたいなところに飛ばされるわけないじゃん」
スタート地点?そうだ、私が日本で作られた物語だといったから、ゲームだと思っているんだった。
「桃ちゃん、あのね。この世界は日本で発売されている小説でも漫画でもゲームでもないの。ここは誰も知らないただの異世界だよ。嘘ついてごめんなさい」
「えっ…?じゃあなんでお姉さんはこの世界のことを知ってたの?」
「私は高校生の頃一度この世界に召喚されたの。私はかつて巫女として魔王を倒してもとの世界に戻った過去がある。だから詳しく知っていたの。」
「お姉さんが巫女…?なにそれ」
桃ちゃんは何故か嫌そうな表情になり、私を見ている。
「信じられないかもしれないけど、オーキデンスに居続けるのは危険だから、ルトゥースに一緒に来てほしい。」
「ルトゥース?魔族の国じゃない!そんなとこ行かないよ!」
桃ちゃんは私が差し出した手を叩き落とした。
いい説明ができない。でも嘘をつく方がきっと信頼を損ねてしまうだろう。
桃ちゃんにも魔王退治に協力してもらわなければいけないのだ。
「魔族は確かにいる。でも分霊箱のせいで魔族になってしまった人間や、オーキデンスからルトゥースを守るたに苦しみながら魔族化した人たちがいるだけで、皆優しい人だよ!」
「……ああ、なるほど、お姉さんが物語のライバルなのね。」
「え…?」
「前作が主人公だった人が続編で敵になるなんてゲームでよくあるじゃん。ストーリーの主要キャラなら死なずにまた現れて、助言のようなこと言って勧誘しようとしてもおかしくない。面白いじゃん!!」
桃ちゃんは楽しそうに笑っている。
だめだ。完全にゲームだと思い込んでいる。
どうやったら目を覚まさせれる?
「私は日本人。貴方と同じ。ストーリーで作られた人間じゃないわ。」
「じゃあ証明してよ、この世界がゲームじゃないって!私は女神に選ばれて魔法が使える!無条件でイケメン達に愛されている。主人公じゃないとそんなのあり得ない!巫女は魔物や魔族を倒して、分霊箱を集めて魔王を復活して倒したらクリアなんでしょ?」
「っそれは…」
「桃さま!!」
私の方に向かって大槍が飛んできたのをロビゴが口止めてくれたが、止めた瞬間に魔法が発動し雷に撃たれロビゴは倒れてしまった。
「ロビゴ!!」
私は駆け寄り治癒魔法をロビゴにかける。
命には別状がなかったが、口から内臓に電流が走って大きなダメージを受けてしまったようだ。
桃ちゃんの守護騎士の一人が桃を庇うように私たちの間にはいった。
槍を投げたのはこの男だろう。
「モモさま!!この犬は魔物です!この女は油断させてこの犬を使って害そうとしたんです!」
「魔物だって!?サイテーじゃんおばさん!!」
桃ちゃんは私に向かって魔法を放ってきたので、とっさに魔法で打ち消した。
「魔法が…使えるなんて。私だけが特別じゃない。やっぱライバルキャラなのね」
桃ちゃんは苦虫を噛み潰したような苛立った表情で睨み付けてきた。
「お願い桃ちゃん聞いて!分霊箱が集まる前に浄化しなきゃだめ!たくさんの人が死んでしまう!!本当に桃ちゃんを騙そうとしているの。敵の計画を信じちゃだめ!」
「嘘をつくな!ルトゥースの配下め!」
守護騎士の一人が地面に刺さった槍を引き抜き、私に向かって走ってきた。
槍が当たる前に、私はロビゴを庇うように抱き締めた。
ガキン!と大きな金属の音に目を開くと
アルデルが守護騎士の槍を止め、防いでくれたのだ。
「コトハ、もう無理だ。諦めて撤退するぞ。」
「でもアルデル!まだっ…!」
「アルデル…?なっその赤髪、お前はまさか魔王か?!」
アルデルのことを魔王と読んだ守護騎士は驚いて一旦下がり、腰の剣を引き抜き構え直した。
「コトハを守りながら戦えない。」
アルデルが私とロビゴを持ち上げ、飛び上がった。
「逃がすかっ!」
守護騎士はアルデルが捨てた槍を掴み投げようとしたところ、どこかからハンマーが飛んできて槍を吹き飛ばした。
あのハンマーはパッセルのだろう。
アルデルは私達をしっかりと抱え、その場から離れた。
「巫女様お怪我は!?」
守護騎士達が心配そうに巫女に駆け寄った。
「(何が魔王復活よ!なんか私を説得しようとしていろいろ言ってたけど、魔王と協力してるのは向こうじゃない!嘘つきおばさんじゃん!!!キモッ!) 」
桃は行き場のない苛立ちに地面を何度も蹴り上げている。
「(アルデルってキャラ、イケメンだったな。あれも攻略対象じゃない?乙女ゲーだと敵側のボスと恋愛ルートあるもんね!おばさんから略奪かぁ。燃える!) 」
ふふふっと突然不気味に笑いだした巫女にオロオロする守護騎士達。
「皆助けに来てくれてありがとう!皆のお陰で魔族…魔王を退けれた!」
桃は守護騎士達に笑顔を向けた。
ほっとした顔や、やりきった顔をしている者、誇らしげにする者。彼らと勝利を桃は祝った。
たぶん今回のミッションは魔王に対峙して、力を知る負けイベだったのだろう。
でも選択肢を間違えなかったから成功ルートに行けた気がすると桃は勘違いをしていた。




