第11話 目覚め
エルフの森から帰還して、私たちは十分な休息をとった。
まだ、ラーズリーさんの魔力が私の魔力に馴染んでないとセウェリスに言われたからだ。
数日後セウェリスに魔力を確認してもらい、OKがもらえたのでステラの呪い解除を試みたのだった。
「封印を解いてしまえば呪いが急速に広がり、また停止魔法を掛けようとしても間に合わず、ステラ様は亡くなってしまうかもしれません。そのお覚悟を各自持ってください。」
宝物庫には私、アルデル、セウェリス、ミニスさんが呪いを解く儀式に参加した。
私は深呼吸し、合図した。
「セウェリス、お願い」
セウェリスは魔法を発動し、ステラの封印の氷を解いていく。
私も直ぐに魔法を展開する。
この力でステラの命を助けたい。
私の全身から虹色の光があふれ、ステラの身体を包んでいく。
するとかつて対峙して覚えた魔王の力が私の魔法がぶつかった感覚が手から感じる。
ものすごい力で抵抗しているのがわかる。
それでも私はあきらめたりしない!!
魔力を鋭くするイメージで、呪いの核となる所目掛けて一気に放出した。
「コトハ、呪いは消えました」
肩を叩かれ、魔法を止め、成功したと知る。
汗が全身から流れていたのか、服がびちょびちょで気持ち悪い。
呪いは解かれたと言われたが、ステラの綺麗な顔や手ににはアザが残っていた。服で見えない所も残っているだろう。
ごめんなさいと言う気持ちを抱えながら、目が覚めるのを待った。
ミニスさんが呼びかけて起こそうとしても、反応がない。
呪いを受けた時のダメージが大きかったのだろうか、私が魔王の力に対抗して身体に負担がかかってしまったのかと最悪の結果を考えていたら、ステラが目を覚ました。
「ここは……?」
「ステラ様!!」
ミニスさんは身分の差を忘れ、ステラを抱き締めて泣き崩れた。
ステラは魔族に抱き締められたと驚いてびくついてしまうも、私の顔を見て、己を抱き締めている女性をよく観察した。
「ミニス…?」
「はいっ…貴方をずっとお守りするため、このような姿になりました。信じられないでしょうがお嬢様、呪いを受けてから100年経ったのです。」
「!」
ステラは私たちの姿をまた見回し、状況を理解したようだった。
「おはよう。お久しぶり。年を取ったけれど私はコトハだよ。」
「コトハ、またあなたに会えてうれしいわ。と言っても私からは数か月ぶりくらいですけど。大人の女性になったのね。貴方も魔族に?」
「ステア様、私はセウェリスでございます。ここでの立話はなんでしょうし、詳しくは落ち着いてからご説明でよろしいでしょうか。」
ステラはセウェリスだとわかると目を見開き、落ち着いて手を伸ばした。
「身体が固まって動けないの。運んでいただけますでしょうか先生。」
セウェリスはステラを抱き上げ、ミニスさんはステラを整えてくると急いで宝物庫から出ていった。
ステラの部屋に移動して、ミニスさんがステラの身体を整えた後、簡潔に今まで起きたことをセウェリスはステラに説明した。
「呪いの痕うまく消せなかった。ごめんなさい。」
「いいえ、命あってのですもの。私のためにありがとう、コトハ。それにミニス、長い間私の側にいてくれてありがとう。」
「いいえ、いいえ、お嬢様が目覚められてこのミニス、これ以上の喜びはありません」
ミニスさんはベッドの傍らで膝をつき祈るように感謝をしていた。
「アルデルもセウェリス先生もこの国を守ってくれてありがとうございます。王族に連なるものとして感謝申し上げます。」
100年経って目が覚めたら浦島現象でパニックになってもおかしくないのに、すぐに状況を理解してたくましく凛としているのはさすが貴族だからだろうか。とても格好良く見えた。
「すみません。ステラ様と二人でお話してもよろしいでしょうか?」
ステラはミニスを見てうなづき、私たちはステラの部屋を出た。
ステラはレニタスの婚約者であったが、実のところ彼女は、魔法の先生であったセウェリスのことを密かに慕っていたのだった。
そのため、私が異世界に来たばっかりの時に、怖くてレニタスにべったりくっついていても嫉妬しなかったのだ。はしたないとは怒られたけれど。
当時、セウェリスはステラの気持ちを知っていたが、身分違いのため断っていたのだ。貴族として正しい振る舞いをと彼女を諭し、距離をおいていたのだ。
レニタスも二人の事情を知っていたから、魔王討伐が終わったらステラをセウェリスに下賜する話を私は聞いていた。
魔王を倒して、愛し合った者同士で結婚をする予定だったのに。
あの事件で、どれだけセウェリスも心痛めたのだろう。
助けられてよかった。
二人を残して自室に戻ろうとしたけれど、私は膝から力が抜けそうになりアルデルに掴んでもらったことによって扱けることは回避できた。
「久しぶりに強力な魔法を発動し続けたんだ。休め」
と私を抱き上げて、部屋に連れてもらいベッドに下してくれる。
私はメイドを呼ぼうと出ていこうとしたアルデルをとっさに止めてしまった
。
「側にいて…。」
「ロビゴ、手の空いているメイドを呼んできてくれ。」
何もいない空間にアルデルは呼びかけるとどこからともなくウォン!と鳴き声が聞こえた。気配が消えたから行ってくれたのだろう。
アルデルはベッドに腰かけ、メイドが来るまで暇つぶしに話し始めてくれた。
「俺のお姫様をベッドに運ぶことが最近は多いな。」
「もう年かなぁ」
おどけてみせたたら、私の頭を撫でてきた。
「100歳超えた俺からするとガキだよ。……あいつらを助けてくれてありがとな。」
あいつらとはステラだけでなく、セウェリスとミニスさんも含まれているだろう。その言葉に、ようやく私は巫女の務めを果たせたと満たされた気持ちになった。
「…そういえば、アルデルの守護騎士紋章ってまだあるの?」
アルデルは胸当たりの服を広げ、心臓の上にある紋章を見せてくれた。
私はその紋章の場所に指をあてた。
「コトハが帰ってくる前までは紋章は消えかけていたんだが、お前が魔力を取り戻してからはっきりと出るようになった。たぶんセウェリスも首に出ているんじゃないか。」
「魔王の力に何か影響があった?ステラを助ける時、近くにいたから大丈夫だった?」
巫女と守護騎士は魔力回路をつなぐことができ、そのおかげで力を与えたりもらったりして、先頭において強力な魔法を出したり身体強化をしたりするのだ。
私の魔力で拒絶反応みたいなことが起きて、身体に異変が起きたら大事だ。
「逆だ、魔王の力をコントロールしやすくなった。コトハがいればこれ以上異形化はしないだろう。」
それならよかった。アルデル達の魔族化も研究して元の人間に戻すため浄化をしなければならない。身体的負担が大きくないのなら助かる。
「また魔力が回復したら次はアルデル達を治さないとだね」
「…いいや、まだそれはいい」
「どうして?」
「オーキデンスと闘うには力がいるからな。ルトゥース側は戦う兵士も圧倒的に少ないから、オーキデンスを滅ぼすまでこのままでいい。」
硬い鱗は防御になるから。と、肘から上の鱗があるだろうところを服の上から彼は撫でた。
「わかった」
早く元の身体に戻ったアルデルが見たい気持ちを心に押し込め、メイドさんがまでたわいのない話をした。
この時、アルデル達の浄化を遅らせたことが、悲しい結果になることを私は知るよしもなかった。
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琴葉がステラの呪いを解いた数日後、オーキデンス帝国アーテル城の夜空には星々が輝いていた。
紅いベルベッドの長い絨毯を歩くのは煌びやかな衣装に包まれた異世界の少女、桃。
「イリス神に選ばれし巫女、モモよ。各地に現れる魔物の退治、大儀である。その力を見こみ、貴殿はルトゥース国を奪いオーキデンス帝国を脅かしている魔王アルデルを倒してほしい。」
「仰せのままに」
桃は王様の前で跪き誇らしげに返した。
王様から勲章を首にさげてもらい、城のホールいっぱいにいる貴族たちに振り向くと大きな拍手と歓声が上がった。
今夜は桃のお披露目パーティーだった。
桃は代わる代わる話しかけてくる貴族達に張り付けた笑顔で対応していた。
「あーあ、知らない奴としゃべるのしんどい。最近は雑魚の魔物退治や、支持を得るための奉仕活動ばかりで疲れた。もっと派手なのをやりたいなぁ。大魔法どかーんなんてね」
一息つくためにホールから離れ、ついでにテーブルからとってきたグラスを揺らしながら一人愚痴を吐き出していた。
「ステータス画面が出るわけではないから、自分がどれくらい強くなっているのかわかんないし、この世界ノベルゲームではなく、戦略系RPGかアクションゲームなのかなぁ?そうなると攻略方法を知らないのはきつすぎる。もっとおばさんに聞いておけばよかったなぁ…。」
ゲームを知っていたおばさん――琴葉の手紙の内容は巫女の力の使い方だけで攻略法は全く書かれていなかった。オーキデンスが保管している巫女についての書物も魔王の詳しい倒し方なんて書かれていなかった。
使えない、と桃は琴葉に悪態をついた。
どうして王様はあのおばさんを国境近くに働き先を与えたのだろう。魔法が使えなくても私の侍女として置いておいたのに。もう死んでしまったのだから、どうしようもできないけれど。
異世界転生した時に出会った黒髪のレピドっていう女神に世界を救うために言われたこと。
魔王の魂が入った分霊箱を一つに集め、魔王を倒せば世界が救われると言って、私に力を授けてくれた。分霊箱を同じ場所に集めないと魔王を倒せないとも話していた。
その分霊箱の捜索は国が引き受けてくれたので、今は最強の巫女になるため成長しなければならない。
「怖いけど強い敵と闘わないといけないよね~。」
「モモ」
「ディクタ殿下!」
モモの名を呼んだのはこのオーキデンス帝国の第一王子ディクタ・ヴィン・オーキデンスだ。
彼は紫がかった黒髪と灰色の瞳を持つ甘いマスクの男である。
桃はすぐさまディクタに駆け寄り、彼の左腕に腕を絡ませた。
「式典は素晴らしかったけれど、僕らの大事な巫女様が護衛もなしに会場から離れてはいけないな?」
「だってみんな休ませてくれないんだもん」
巫女の仕事だけでなく、淑女としての教育時間も多く、高校に行って勉強している時間よりも多いのだ。国の歴史、マナー、ダンス、魔法の練習。毎日へとへとである。
「ディクタ様が私の守護騎士になってくれたら、嬉しいのに…」
桃はディクタに甘えるように身体をより密着させた。
「ごめんね、僕は守護騎士にはなれない。持病で他人の魔力に影響されて、寝込んでしまうからね。僕も本当は君の側を離れたくない。」
「ほんと!?だったらもっと強くなってディクタ様のご病気を治せるか調べてみるわ!」
桃は頬を赤らめ嬉しそうに言った。
「頼りにしているよ」
そう言ってディクタは桃の額にキスを落とした。
不意打ちに真っ赤になった桃は、暑さを和らげるために手を扇いだ。
「(きっとこの王子様が1番人気攻略対象なんだろうな~!破壊力がやばい)」
目の前のイケメンに心の中でキャーキャーとしていると、遠くから桃を探す守護騎士たちの声が聞こえた。
「さすがに戻らなきゃね。行こうか」
手を差し出してきたディクタに、桃も手を取りホールに戻った。
中は守護騎士たちが勢ぞろいで待っていた。
ディクタ様やイケメン守護騎士達がいればきっと魔王に勝てる。
だって私は主人公だもの。
これから私の無敵チートが始まるのよ!
桃は彼らに囲まれ逆ハーレムを堪能したのだった。




