第94話 武装精霊・匣の刃
「同意、完全に同意だ!」
墨飛が突然大声で叫び、周囲の視線を集めた。
フローラは首を傾け、美しい眉をぎゅっと寄せて、疑問に満ちた目で墨飛を見た。「何に同意しているんですの?」
「え、い、いや、何でもない! 今の城主の一撃に、ものすごく同意したっていうか……最高の一発だった!」墨飛は適当にごまかした。
【許可を確認。吸収変換を開始します。】
その時、周囲の暗紅色の肉壁が再び脈打った。粘つく圧迫音が耳元でどんどん大きくなる。
防衛線の前方では、戦士たちの咆哮と、刀剣が血肉へ食い込む鈍い音が混ざり合っていた。各勢力の障壁は、どれも今にも崩れそうになっている。
防衛線の前から、ヒステリックな恐怖の叫びが飛んだ。「外の支援はまだ来ないのか!?」
「外はさっきから突破を試みています! でも今は外界とまったく連絡が取れません!」
通信を担当する錬金術師は、何の反応もない通話符文を握りしめていた。力の入った指の関節は白くなり、声も震えている。
早くしろよ……
墨飛は心の中で急かした。額には冷や汗が噴き出し、両目は目の前の表示を凝視している。
【吸収変換完了。おめでとうございます、宿主。100 EPを獲得しました。】
パネルに跳ね上がった数字を見て、墨飛の胸が弾んだ。これだけあれば、今回はいける!
システム、混沌錬成を起動!
見慣れたインターフェースが目の前に展開された。だが解析完了を告げる音が鳴った瞬間、墨飛は固まった。今回はいつもの「安全」「フラックス」「カオス」の三つの選択肢が表示されない。パネル全体には、ぽつんと一行だけが浮かんでいた。
【唯一】「武装精霊・匣の刃」(消費100 EP):あらゆるものを切り裂く刃。餌を与えられるならば。
なんで選択肢が一つしかないんだ? 墨飛は眉をひそめ、心の中で問いただした。
【投入素材は極端な排他性と強烈な固定概念を備えています。独立した機能実体としてのみ再構築可能です。】
墨飛は後ろに表示された100 EPの消費を見て、思わず口元を引きつらせた。
これ、左手から右手に移しただけだろ……この黒心システム、EPをぼったくるために計算してやがるな? 墨飛は歯を食いしばって抗議した。
【本システムは「等価交換の法則」を遵守しています。妥当な価格です。】
はあ、勝手にしろ。システム、錬成開始だ。
【100 EPを支払い、錬成を開始します!】
幽青の光が墨飛の前で爆ぜた。金属がねじれ、砕ける音を含んだエネルギーの乱流が周囲の空気を引き裂き、唸る暴風に近くの者たちは思わず首をすくめた。
「何だこれは! 法陣が過負荷を起こしたのか!?」必死に持ちこたえていた法師たちが青ざめる。
「違う、現場錬成だ……防衛線の後方で誰かが陣を起こしている!」隣の錬金術師が叫んだ。
陣列を維持していた学院長の指先がわずかに止まった。吹き荒れる乱流が、彼の銀白の長い髭を乱暴に揺らす。鼻先の半月眼鏡には、防衛線の後方で何もない空間から炸裂した幽青の光がくっきり映っていた。
魔法と錬金術の双方を修めたこの権威の、常に古井戸のように静かな瞳に、驚疑の色が浮かんだ。
本来、錬成には必ず追跡できるエーテルの流れがある。だが彼の感知の中で、このエネルギーはまるで虚空から現れたかのようだった。
「源なき錬成……」
学院長の肩がわずかに強張り、光の中心にいる墨飛を見つめる。
「面白い……ニコラス、これもお前の布石か?」
幽青の光潮は収束する瞬間、細かな光屑へ変わった。光が散った場所に、精巧な造物が宙に浮かんでいた。
それは人型の造物だった。
銀白色の小さな金属甲が小柄な体を覆い、甲片の縁には折れ刃のような冷たい光が宿っている。その袖珍な体と強烈な対比を成すのは、氷晶から彫り出したかのように精緻な顔だった。表情はなく、生まれながらの孤高を漂わせている。
それは静かに空中へ浮かび、まるで小さな氷山のように、近寄りがたい気配を放っていた。
これ……これが武装精霊?
墨飛は自分の前腕ほどの長さしかない小さなやつを見て、目元を引きつらせた。この短い手で……本当に何でも切れるのか?
ぐちゅり──
肉壁がまた一分近づいた。
「もういい、死に馬に医者だ!」墨飛は歯を食いしばり、暗紅色の肉壁を指して命じた。「動け! あの肉壁を斬り裂け!」
しかし武装精霊はその場に浮かんだまま、冷たく空洞のような両目で墨飛の指した方向を見ているだけだった。他の動きはない。
【システム通知:当該個体は現在、駆動に必要なエネルギーが不足しているため、命令を実行できません。】
出荷時から充電が必要なタイプかよ? 墨飛は危うく血を吐きそうになった。
周囲の肉壁が再び湿った粘つく摩擦音を立てた。各方面の結界の縁は、すでに血肉に呑み込まれはじめている。
粘つく触手を引きずり、骨棘を生やした歪な血肉の這いずるものが数体、防衛線を突破し、咆哮しながら人々へ一直線に襲いかかった。
エネルギー、どこにエネルギーがある!?
墨飛の視線は混乱した戦場を素早く走った。その時、高台の上のかすかな光が彼の注意を引いた。高台の縁を見ると、そこには倒されて散乱した各種の献上品が転がっている。
「お嬢様、もう一度ペニーに援護を!」墨飛は大声で叫び、無表情の袖珍精霊をひっつかむと、防護圏からまっすぐ飛び出した。
「またですの!? ペニー!」
ペニーが鋭い猫の鳴き声を上げた。鈴の透かしから金色に輝く星屑が空いっぱいに舞い、墨飛の側面でいくつものきらめく黄金の薄盾へ凝結し、横合いから飛んできた骨刃と肉片を強引に受け止める。
同じ頃、防衛線の縁では、アーダイが汗だくになりながら、調合したばかりの遮断剤と高爆発原液の瓶を数本抱え、高台へ慌てて退いていた。防衛線を突破した血肉の這いずるものが一体、猛然と咆哮し、彼の方向へまっすぐ突進する。
「ああああ! 来るなあ──!」アーダイは恐怖のあまり、手の中の薬剤をめちゃくちゃに投げた。
彼の襟元にいた雲ウサギのライフが、灰色の尾を勢いよく振った。その大きな瞳に微光が灯る。
轟──!
さまざまな薬剤がぶつかり合った直後、轟音とともに炸裂した。真っ先に巻き込まれた血肉の這いずるものは、体の半分を吹き飛ばされる。
爆風に巻き込まれ、アーダイの体は砲身から撃ち出された砲弾のように後方へ吹き飛んだ。凄惨な悲鳴とともに、高台に積まれた雑物の中へ尻から見事に突っ込む。
「あいたた!」アーダイは尻をさすりながら痛みに声を上げた。
アーダイが砕いた雑物の中から、深い青光を放つ金属球が転がり落ちた。それはちょうど墨飛の前で止まる。
【高エネルギー反応を検出。】
【第七世代小型エーテル動力核】
【状態:未開封】
「よくやった、アーダイ!」武装精霊を抱えて走っていた墨飛はそれを見て、思わず叫んだ。
膨大なエネルギーを感じ取ったのか、武装精霊から突然「ガチャン、ガチャン、ガチャン」と機械金属が噛み合う音が響いた。
銀白色の小さな金属甲片が重なり、反転し、四肢は極めて精密な再構築機構で折り畳まれていく。わずか半秒で、この精緻な小人は墨飛の手の中で、長方形の銀白色の金属匣へ変じた。
「本当に匣だな。つまりエネルギーさえ足りれば……」墨飛はすぐさま青い光を点滅させるコアを拾い上げ、箱の中へ入れた。
箱はコアを受け取ると素早く閉じ、表面の符文と陣が幽かな光を帯びた。続いて、金属匣は青白い光流の中で一気に展開し、伸長し、一本の銀白の長剣となって墨飛の手にしっかり収まった。
「これが……刃!」




