第42話 最近、なんでみんな俺を勧誘したがるんだ?
会議室の中は、長い木卓と薄暗い壁灯が古めかしい格式を漂わせていた。だが空気の底には、薄氷を踏むような緊張が潜んでいる。
「猊下、こちらで少々お待ちください。工房事故の現場と負傷者には最低限の手配が必要です。少し席を外して対応することをお許しください」グリムは恭しく頭を下げた。その姿勢に隙はない。
彼女の手が扉の取っ手に触れようとした瞬間、聖女の空ろなほど澄んだ声が、広い部屋に響いた。
「あの配達員……あの区域のエントロピーエネルギーが異常に清浄だったことと、関係がありますね?」
扉に背を向けたまま、グリムの足がぴたりと止まった。胸の奥を重い槌で叩かれたようだったが、長年培った管理者としての資質が、彼女に再び振り向いた時も完璧な冷静さを保たせていた。
「何をお指しでしょうか」
聖女は瑕ひとつない自分の指先を見下ろし、純粋な好奇心をにじませた声で言った。「廊下にいた者たちは、多かれ少なかれエントロピー中毒と巻き添えを受けていました。けれど、あなただけと、あの配達員だけは、焦げ跡も濁りも一切残っていません」
彼女はわずかに目を上げた。澄んだ視線は、虚飾を見透かすようだった。
「さらに不自然なのは、彼の周囲がまるで真空帯のようだったことです。信じがたいほど清浄で、不浄なものがすべて飲み込まれたかのようでした。とても興味があります」
グリムはその視線を受け止めた。鼓動は速まっていたが、それでも公的な口調で答える。「ご覧の通り、あれは本支部が新たに導入した『適応型導流陣列』の効果です。あの配達員は、たまたま有効範囲内にいただけでございます」
聖女は彼女を見つめ、軽くうなずくと、それ以上は追及しなかった。
「わかりました。あなたは仕事に戻ってください」
グリムは軽く身をかがめ、扉を押し開けて外へ出た。
扉を閉めた瞬間、彼女は長く濁った息を吐き出し、眼差しをたちまち極めて冷たいものへ変えた。後始末だけではない。今すぐ、あのとんでもない面倒を起こした小僧を「尋問」しに行かなければならない。
……
支部長の執務室で、モーフェイはソファに座っていた。扉の外に誰もいないことを確認してから、そっと配達箱を細く開ける。
「おい、生きてるか?」
箱の中では、もともと手のひらほどの大きさだったプロトタイプ1号が、無理やり一回り以上膨らんでいた。
生き生きとした感じは失われ、破裂寸前の水風船のようだ。しかも「げぷ、げぷ」と鈍い音を絶えず漏らしている。
明らかに、あれほどのエントロピーエネルギーを一口で飲み込んだせいで、ひどい「消化不良」を起こしていた。
「命を張りすぎだろ……」モーフェイは深く眉を寄せた。「お前がこのまま爆発したら、師匠が絶対戻ってきて俺を絞め殺すぞ」
突然、プロトタイプ1号が激しく蠢き始めた。何か極度に苦しい圧縮過程を経験しているかのようだった。
「ぷっ」と一音。
親指ほどの結晶が勢いよく射出され、覗き込んでいたモーフェイの顔面に正確に命中した。
プロトタイプ1号はそのまま空気の抜けたボールのように急速に元の大きさへ戻り、箱の底でぐったりと死んだふりをした。
「……くそ」モーフェイは目尻をひくつかせ、顔についた生温かい粘液を拭った。それから、鼻の穴にめり込みかけた結晶を拾い上げる。
結晶は深く透明な光沢を帯び、混じり気が一切なかった。危険物ではない。ニコラスのもとで鍛えられた鑑識眼で、モーフェイは即座にそれが何かを見抜いた。
高位エーテル結晶。
闇市でも値はつくが物がない高級素材だ。こいつは、荒れ狂うエントロピー霧をこんな宝物へ変換したというのか?
モーフェイはかすかに輝く結晶を見つめ、柔らかく弾む体をつまんで、苦笑交じりにぼやいた。
「結局、お前こそ俺のチートじゃないか?」
かちゃり。
執務室の鍵が回り、グリムが足早に入ってきた。背後で扉を固く施錠する。
彼女はソファの前まで早足で来ると、低い卓の縁に両手をつき、モーフェイと足元の箱を上から見下ろした。
「ニコラスのあの老いぼれは、いったいどんな怪物をあなたに残したの?」
その詰め寄るような気迫を前にしても、モーフェイは少しも慌てなかった。ただ無実を装って肩をすくめる。「支部長、本当に誤解です。これはただの……高濃縮クリーニングジェルみたいなものですよ」
「とぼけないで」グリムは冷たく遮り、ずきずきと痛むこめかみを揉んだ。「教廷の聖女がもう疑い始めているわ」
モーフェイの目が鋭くなり、だらけた座り方をやめた。
「教廷は『秩序』に極めて敏感よ。もし教廷所属の『異端裁決廷』に目をつけられて、あなたが『無秩序』を象徴するエントロピーエネルギーを飲み込める怪物を連れていると知られたら……」
グリムの声は厳しかった。「彼らは間違いなく、あなたを聖蹟を盗んだ異分子として柱に縛りつけて研究する。その時は、この支部まで巻き込まれるわ」
執務室は、圧迫感に満ちた死の静寂に沈んだ。
「それで、あんたはどうしたいんだ?」モーフェイは彼女を見た。指先はさりげなくエーテル結晶をこすっている。
「私たちに加わりなさい」グリムは条件を突きつけた。「あなたには特別な隠密編制を用意する。合法的な身分と全面的な庇護も与える。教廷側は私が抑える。その代わり、あなたは私の命令を聞き、私のために働くの」
それはまさに、天から降ってきた安定職だった。日々裏仕事を請け負う配達員にとっては、なおさら魅力的な話である。
最近どうなってるんだ? なんでこんなにみんな俺を勧誘したがる? ブラザーフッド、フローラ、今度は錬金術師ギルド……まさか俺、実は何か隠れた才能でもあるのか?
モーフェイは慌てて首を振り、その馬鹿げた考えを否定した。そしてグリムの意外そうな視線の中、黙って配達箱に鍵をかけ、背負い直す。
「ご厚意には感謝します、支部長。でも俺は、混乱していてもそれなりに自由なこの暮らしに慣れています。手厚く安定したギルド契約より、自分のペースを自分の手で握るほうが好きなんです」
グリムの眉間が一瞬で寄った。彼女は恩恵のつもりだった。だが相手はそれを、見えない首輪と見なしたのだ。
「背を向けて歩き去れば、このすべてがなかったことにできると思っているの? 聖女はもうあなたの顔を覚えたわ」彼女の声が冷たくなる。
「できるだけ面倒は起こしません。本当に何かあっても、あなたたちを巻き込まないと保証します」モーフェイは扉口まで歩いたが、ふと足を止めた。振り返ると、営業用の完璧な笑みを浮かべる。「ところで支部長、さっきの火事を抑えるのは楽じゃありませんでした。配達員にとっては『プレミアムサービス』です。少しくらいチップを払う気はありませんか?」
グリムの目尻がひくりと動いた。「ギルドは等価の報酬を惜しまない。何が望み?」




