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第39話 開業初仕事、大吉……?

回収所の店主は、油汚れのついた銅貨を一枚放った。木製のカウンターに、鈍い音が落ちる。


モーフェイは傷だらけの財布を開き、それをしまった。

この売上を足して、帳面上は金貨 497 枚と銀貨 39 枚。計算してみる。初回返済目標の金貨 500 枚まで、まだ最後の金貨 2 枚と銀貨 61 枚が足りない。


昨夜、魔法狩人ロックへ「サプライズ」を用意するため、夜中にひねり出した鉄インゴットのほとんどは罠の材料に消えた。

あとで賠償は取り戻したものの、この最後の不足分は、肉に刺さった棘のように彼をじりじり焦らせていた。


プロトタイプ1号は配達箱の中でぴくりとも動かない。一方、腰の幻獣瓶に入ったジップは落ち着きがなかった。茶色い毛玉は短い手を神経質に振り、瓶壁についた指紋を必死に拭き取ろうとしている。回収所に積まれた錆だらけの廃金属が目に入るたび、丸い顔の嫌悪感が一段深くなった。


回収所を出て間もなく、路地の入口から雷鳴のような怒鳴り声が炸裂した。


「運べないなら車から降りな! この路地は二十年前から荷車なんか通れないんだよ。新人どもが無理やり突っ込もうとするんじゃない!」


二人が横向きでようやくすれ違えるほど狭い石畳の路地口で、重い金属部品を満載した荷車が進退窮まっていた。

がっしりした体格のマグダおばさんが、片手で運搬人の襟首をつかみ、子猫でもつまむように宙へ持ち上げている。歳月の刻まれた顔は、怒りでうっすら赤くなっていた。


モーフェイは彼女を知っていた。下城区の運搬路の大半を切り開いた、鉄腕の人物だ。


「マグダおばさん? どうしたんだ?」


怒号がぴたりと止まった。

マグダは振り返り、モーフェイだと見て取ると、眉を疑わしげな弧に曲げた。

彼女はモーフェイの腰で光る幻獣瓶を一瞥した。「『点石成金』の小僧かい? あんたのボロ工房でカビてないで、こんなところで日向ぼっこか?」


「飯の種探しだよ。」モーフェイは営業用の愛想笑いを浮かべ、荷車の油まみれの部品へ視線をやった。「マグダおばさん、この……鉄の塊の山、どこの大口仕事なんだ?」


マグダは舌打ちし、下働きを地面へ落とした。「ほかに誰がいる。ギルドの年寄りどもが回してきたやつだよ。精密部品だって言うが、あたしには油を吸った腐れ骨の山にしか見えないね。全部運び込んで金貨 5 枚。だが車は入らない、この鉄塊は死ぬほど重い。人に担がせて入れようとしたら運賃より高くつく。壁を壊すことまで考えてたところさ。」


「全部で金貨5枚?」モーフェイは幻獣瓶を押さえた。この金が入れば、今週の借金はどうにかなる。


マグダは少年の目に一瞬走った光を見逃さず、鼻を鳴らした。「この大物を中へ入れられるなら、金貨 5 枚、きっちり払ってやるよ。」

そう言って、車の先頭にある小山のような鋳鉄製の炉座を叩いた。


「今の言葉、聞いたからな。」


モーフェイは大喜びで、すぐ荷車へ向かった。

瓶の封を解くと、ジップが頭を出した。丸い目が古い黒油にまみれた巨大物体を捉えた瞬間、その表情は崩壊した。

それでもどうにか淡い金色の圧縮力場を広げて包み込もうとする。力場の光輪が炉座の表面に触れると、じじっと微かな電流音が鳴った。だが一腕ほどの限界に達した直後、激しく震え、薄いガラスを押し潰すような耳障りな音を立て、最後にはシャボン玉のようにぱんっと弾けた。


「大物は無理だ。力場が包み込めない。」モーフェイは残念そうに汗を拭い、瓶口を指した。「サイズに限界がある。一腕分くらいだな。それ以上は閉じられない。」


「運べないなら無理するんじゃないよ。」マグダは白目をむいた。モーフェイの「奇跡」には、明らかに期待していない。


「大物は無理でも、残りの管材と部品なら全部引き受ける。金貨3枚でいい。」モーフェイは横に山積みされた圧力管とギアボックスを指した。それらも油汚れにまみれ、日差しの下で鈍い光沢を帯びている。「午後のうちに必ず運び込む。」


マグダは竹竿のような彼の体を疑わしげに見回した。「成立だ。炉座は別に考える。ただし……本気で背骨で押すつもりかい?」


「もっと専門的な従業員がいる。」モーフェイは幻獣瓶を叩いた。今のジップは心を閉ざした顔で、嫌すぎる仕事へ殉じる者の悲憤を漂わせていた。


それからしばらく、モーフェイはマグダに「奇跡」というものを見せつけた。


部品には鼻を刺す油脂がこびりつき、ジップは瓶の中で何度も細い抗議の声を上げた。それでも中小型部品を処理するときの力場効率は極めて高い。淡い金色の波が何度も走るたび、重たい部品は一秒もかからず親指大の「ブロック便」へ縮んだ。圧縮されたブロックは腰の収納袋へ整然と積まれ、かすかな衝突音を立てる。


モーフェイは羽のように軽い袋を提げ、横向きでも窮屈な細い路地を行き来した。

足取りは軽い。往復するたび散歩でもしているようで、汗だくで息を切らす普通の運搬人たちとは鮮やかな対照を成していた。

一日かかるはずだった仕事は、彼の悠々とした往復の中でみるみる底をついていく。


だが作業が最後の一つ、重機の中核に属するアーム架構部品へ進んだとき、異変が起きた。


連続した力場出力のせいで、生まれて間もない瓶中の幻獣は重度の「エーテル疲労」に陥っていた。

このときのジップは、瓶底で平たい「茶色の雑巾」になり果てていた。短い手を振る速度は鈍り、丸い目の周囲には淡い灰色の輪が浮かび、呼吸まで少し荒い。

体は微かに震えている。明らかに限界だった。


「最後の一個だ。終わったらご褒美を増やす。」モーフェイは慎重に瓶口を重いアーム架構へ向けた。


力場が震えながら広がる。淡い金色の光は先ほどよりずっと暗く、収縮の途中で小さな氷晶が砕けるような微かな亀裂音を立てた。

モーフェイは、金光に覆われた部品の輪郭が圧力で歪むのを見た。本来なら中心へ縮むはずの構造が、疲弊した操作のせいで致命的にずれる。

ぱんっ、と力場が崩壊した。アーム架構は地面で重く跳ね、鈍い轟音を放ち、足元の石を微かに震わせた。


「まずい!」


モーフェイは慌ててそれを起こしたが、次の瞬間、息を止めた。部品の主軸中段に、三センチほどの細い亀裂が走っている。血の筋のように痛々しかった。


路地口からマグダの重い足音が近づく。直後、モーフェイの後頭部に容赦ない一撃が落ちた。目の前が暗くなり、耳がわんわん鳴るほどの力だった。


「この馬鹿小僧! 疲れたなら止めな! これはギルド支部長指定の精密部品なんだよ!」


モーフェイは亀裂の前にしゃがみ込み、冷たい汗が背筋を伝って服を濡らした。修理費はいくらになる? 金貨3枚の運搬料で足りるのか? この「開業初仕事、大吉」の看板は、その場で半分砕け散るかもしれなかった。


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