第26話 荷物確保、脱出は未定
言葉が終わる前に、深処の暗闇から岩層の断裂音が響いた。歯が浮くような、嫌な音だった。
深淵鉄顎虫が砕け込んでいった地底深くから、伝わってくる。
現場に張り詰めていた殺気が、その突発的な異変によって強引に断ち切られた。
黒衣の男の視線が漆黒の通路を素早く走り、眉がほんのわずかに寄った。
それからその目がモーフェイから離れ、プロトタイプ1号へと移った。
「深部の構造が崩れたな。遅かれ早かれここも連鎖崩落する。あの個体の素性はまだ不明。この環境で強行しても素早い制圧は保証できない──情報の空白は後で埋める。今さら口封じのために崩落に巻き込まれるのは愚策だ。逃がすほうが合理的だ。」
短く息を吐いた。リスクと利益の計算式を解き終えたような、端的な呼気だった。
「行っていい。」
そう言いながら、黒衣の男は外卖箱の側面に指先をそっと一度押し当てた。音もなく、まるで何かをついでに押さえたかのように自然な動作で。
モーフェイは三秒間固まり、続きがないことを確認してから、廃坑車の残骸の陰で立ち上がった。
「……ありがとよ。」余計な視線一つも向けず、ストラップを整えて前に進んだ。
通路が曲がり、黒衣の背中が後方に消えた。モーフェイは肩の力を抜き、奥へと歩き続けた。
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第四分岐を左。通路がようやく本格的に下り坂になる。
来た時より、静かだった。
鉄顎虫が通り抜けた区間には岩壁に深く刻まれた長い傷跡が残り、壁面の光の輪は戻っていない。外卖箱の側面についた方向灯だけが、かろうじて足元を照らしていた。
依頼書の添付図が頭の中で繰り返す──主要支柱東側、封装板材箱、三点。
突き当たりに着いたとき、彼は鉱山坑口を見た──正確には、見ようとした。
実際に見えたのは、入口手前の通路が結晶に覆われ、元の形をほぼ失っていることだった。
天井、両側の岩壁、床の亀裂、至るところに鉱晶の成長速度が何十倍にも速められたかのような結晶が重なり合い、半透明の銀灰色が通路の色をまるごと塗り替えていた。方向灯の弱い光を受けて細かな乱反射が走り、静止しているように見えるが──よく見ると、ごくかすかな揺らぎがある。振動ではない。面全体が、極めてゆっくりと呼吸しているような。
【共鳴灰晶】
【状態:鉱晶複合構造、飽和度異常。共鳴感度:極高。外部魔力波動・エーテル干渉により連鎖共鳴を誘発する。】
モーフェイはその情報を見つめ、甲虫の群れが外に向かっていたこと、廃坑車の残骸も衝撃を受けていたことを思い出した。
「……難怪ブラザーフッドが自分たちで来たくなかったわけだ。」
一歩、そっと踏み出して鉱山坑口へ近づく。
結晶が鳴り出した。壁の中に籠もり、隙間から滲み出るような共鳴音。直後、天井から砕け欠片がいくつか落ちて、地面にちりんちりんと当たった。
二歩下がると、音が止まった。
もう一歩前に出ると、また共鳴が起き、大きめの岩塊がいくつか緩んだ。しぶしぶ退く。
強行突破を一度試みたところ、天井から大きな塊が続けて落ち、坑口の三分の一を塞いだ。モーフェイは後方へ勢いよく飛んで岩壁に激突し、ようやく止まった。
「わかったわかった、強行は駄目か。」岩の粉を払い、通路にしゃがみ込んで考えを巡らせ始めた。
外卖箱が動いた。
転がったのでも、外へ押し出したのでもない。中から来た、一回だけの、はっきりした、意図的な叩き音だった。
モーフェイは箱を見下ろした。「出たいのか?」
プロトタイプ1号が箱から首を出した。あちこち動き回ることなく、まっすぐ鉱山坑口の方向へ触手を伸ばした。
通路に浮遊していた結晶の粉が動いた。
さっきの落石が砕いた粉塵、岩の隙間から漂い出た細かな鉱粒が、磁石が鉄粉を吸い寄せるように、ゆっくりと1号へ集まり、触手の表面に付着していく。結晶の共鳴音が一段下がった。
モーフェイは息を止めた。後頭部がじんわりと痺れた。
「……おい、お前、床を吸ってるのか?」
一歩前に踏み出す。天井は動かなかった。
鉱山坑口まで歩き、砕石に詰まった入口を押してみると──本当に入れた。
プロトタイプ1号が先頭で支え、触手を両側の岩壁に添わせ、磁場が結晶片を引き付けている。通路はもう鳴らなかった。
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鉱山坑内は通路よりさらに荒れていた。
主要支柱に三本の亀裂が走り、東側の作業プラットフォームは半分が崩れ落ち、横転した小型坑車が蓋をするように乗っている。
三点の封装箱はすべて坑車の下に埋まり、側板と落石にまとめて押さえられていた。依頼書に書かれていた「主要支柱東側」からは、およそ二メートルずれていた。
「もうすぐだ。」自分に言い聞かせながら、肩をその隙間に押し込み、一つずつ引っ張り出した。最初の二点は角が欠けたが密封は保たれている。三点目は外装に亀裂が一本入っていたため、予備の巻き帯を何層か巻いて、とりあえずの封をした。
立ち上がる。三点、確保。
「行くか。」
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通路を引き返す際も、プロトタイプ1号の先導で難なく通り抜けた。共鳴音は抑えられていたが、来た時より薄い。
出口はすぐに見えてきた。モーフェイは外卖箱のストラップを締め直し、壁沿いに歩を速め、心の中でつぶやく──*これは安牌だ。*
しかし、そんな彼を笑うかのように、最後に回収したあの荷物の巻き帯がぴんと張れた。中で何かがかすかに動く音がした。箱の構造が鳴る音ではない。
全知の視界が重なる:
【封装板材箱】
【状態:崩解中】
【構造が環境魔力の落差により崩解反応を起こしている。】
残り二点も震えていた。封装材の縁から微かな光が滲み出てくる。銀白、淡い紫がかかって──鉱山坑内の奥の結晶と、まったく同じ色だった。
モーフェイは出口の方角を一瞥し、この三点が出口まで持つかどうか、あるいは自分の250金貨の報酬が今まさに翼を生やしていないかを素早く試算した。
プロトタイプ1号が振り向き、三本の触手をそれぞれ一点の箱体に当てて、二秒静止した。それから一気に三点まとめて飲み込んだ。
「待っ──!」
遅かった。
プロトタイプ1号はやや角張った大きな球に膨らみ、表面がゆっくりと暗い金属色に変わっていった。封印の流光が外殻の上を巡り、安定した。それからたいへん満足そうに、ほぼ音のない気泡を一つ出した。
「ぷっ……」
モーフェイはその球を抱えたまま、半秒ほど頭が空白になった。それから記憶の断片が素早くよみがえった:
出発前、バーニーに「スライムを連れていけ」と言われたこと。
最初の仕事、過負荷の紫心晶をプロトタイプ1号が跳んで丸呑みし、波動が消えたこと、バーニーはすぐそばで見ていたこと。
「バーニーはこのロットが鉱山から出た途端に崩解し始めると知っていた。俺にプロトタイプ1号を使って運び出させるつもりだったんだ!」
丸々と膨れた1号を見下ろす。
「……お前のことまで計算に入れてたのか。」
プロトタイプ1号は二つ目の小さな気泡を出した。
「……まあいいか。」起き上がってストラップを整え、出口へ向かう。
残り数十歩というところで、左側の岩板が突然ずっと沈み込んだ。亀裂が前方へ広がり、歩く速度より早い。通路の奥から重く長い轟音が響いた──ずっと支えていた何かがついに折れたような音だった。
大きな岩板が二枚滑り落ち、通路の出口をふさいだ。
後ろを振り返ると、鉱山坑の方向から岩塵が渦巻いていた。たった今歩いてきた道は、もう形を失っていた。
前は塞がれ、後ろも戻れない。




