表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
152/169

第152話 変な熊

茂みがいきなり外側へ弾け飛んだ。


折れた枝葉が地面に落ちる前に、熊のような影が茂みの間から飛び出してきた。その肩と背は両脇の低木より高く、太い四肢が一歩落ちるごとに、足元の枝は地面へ押し込まれる。


それは墨飛とリリィの前で止まった。


採集ばさみを握る墨飛の手が、宙で固まった。視線をその熊に据えたまま、次の瞬間には後ろを振り返る。


来るときに通った林の隙間はまだある。倒木も道を塞いでいない。まだ退ける。


「気をつけろ。ゆっくり後ろへ下がるんだ」墨飛は声を潜めた。


リリィはすでに背紐の幻獣瓶を押さえ、腕でモモの外側を庇っていた。さっきまで頭を出していた小熊も身を低くし、瓶の口から顔の半分だけを覗かせている。


二人は熊に向き合ったまま、来た道へ一歩ずつ後退した。墨飛は慌てて木の根に足を取られないよう、また急な動きで相手を刺激しないよう、わざと歩みを遅くする。


幸い、相手に追うつもりはないようだった。


熊は突然後ろ脚で体を支え、頭を左へ傾けてから右へひねった。何かを探しているようだ。

続いて前足の片方を下顎に当て、二度ほどこすってから、ようやく四つ足に戻った。


墨飛のまぶたがぴくりと跳ねた。今の人間くさい仕草は何だ? 異世界の熊はみんなこうなのか?


そのとき、プロトタイプ1号が突然、墨飛の肩から半身を覗かせ、触手を熊へ伸ばした。


肩の動きに気づいた墨飛は、すぐにそれを押さえる。「勝手なことをするな」


プロトタイプ1号は肩の上で止まり、伸ばしていた触手をゆっくり引っ込めた。熊の視線もまた、ほんの一瞬だけそれに長く留まった。


やがて熊の視線は、リリィの背紐にある幻獣瓶へ落ちた。


モモは瓶の口から顔を上げ、離れた熊と向き合う。


大きな熊と小さな熊は、ただ互いを見つめ合った。


墨飛はモモへ少し顎を向け、小声で言う。「お前の年長者だろ。話をしてみろよ」


モモはくるりと向きを変え、尻を彼へ向けた。


「違う」リリィは彼を睨んだ。


「見た目がこんなに似てるのに、親戚ってことにもできないのか?」


リリィはもう相手にせず、そのまま後ろへ下がった。


熊は瞬きをし、幻獣瓶にしばらく目を留めてから、すぐ横へ視線を逸らした。

その巨体は花むらの脇をかすめ、再び茂みを押し開いて、森の反対側へ走っていく。枝葉の擦れる音は遠ざかり、やがて重なる木の影の向こうへ消えた。


墨飛は林の中に、風が葉を撫でるかすかな音しか残らなくなるまで、その方向を見つめ続けた。それからようやく長く息を吐く。

「今日は香辛料を採りに来て、危うく具材にされるところだった」


リリィはそこでようやく瓶を押さえていた手を緩め、さっきの採集場所を見た。「先にここを採り終えよう」


二人は先ほどの場所へ戻った。墨飛は残りの黄色い小花を採り続け、リリィは先に採った株を確かめる。今度は二人ともずっと手早く動き、時おり熊が去った方向へ目を走らせた。


「さっきの熊、立ち上がって顎をこすったのか?」


「うん」


「やっぱり見間違いじゃなかった」墨飛は呟く。「変な熊だな」


二人が必要な材料を採り終えるまで、あの重い枝葉の擦れる音は林から二度と聞こえてこなかった。


リリィは道具をしまい、リストを取り出して次の採集目標を確認すると、墨飛を連れてさらに森の中へ進んだ。


その後の道中、彼女は何か所かの植物のそばで足を止め、墨飛も彼女の指示どおりに採集した。採集籠には少しずつ違う薬草が増えていく。

静かな道をしばらく進むと、二人が後ろを振り返る回数も次第に減っていった。


さらに林を抜けると、前方に水の光が映った。


そこには池があった。


リリィは水辺の湿地へ目を向ける。

束になった剣形の葉の間から、何本かの花が伸びていた。五枚の雪のように白い花びらは寄り合い、小さな花の鈴となって垂れている。鈴の口の中には淡い金色の雄しべがわずかに見え、花茎とともに水面の上で軽く揺れていた。


「ベルスイセン」彼女はその花を指した。「最後に足りないのはこれ。この薬草が近くにあるのは、ここだけ」


墨飛は彼女が指したほうを見た。岸辺の花むらを過ぎた視線は、水の中へ落ちる。足取りが遅くなった。


「ここには来たことがある」


池にはいくつもの魚の群れが泳いでいた。ときおり水面へ近づいては、すぐにまた沈んでいく。墨飛は岸へ歩み寄り、しばらく眺めてからそれらを思い出した。


「こいつらは星露魚っていう。夜に泳ぐと、鱗が小さな光を点々と灯すんだ。池全体が星空を一枚閉じ込めたみたいに見える」


リリィは彼の視線を追った。


日光が池の水面に落ち、水中の魚の群れははっきり見える。だが、墨飛の言う星の光はなかった。ごく淡い光の点がときおり瞬いても、すぐに水面の明るさにかき消される。


「分からない」彼女は言った。


「今は昼だからな。あいつらの小さな光じゃ、太陽には敵わない」


墨飛の頭に、別の池の光景が浮かんだ。あの夜、ロックが水の中へ手を入れ、雷光が走ると、池じゅうの星明かりはすべて魚の腹の白に変わった。

だが、その記憶に最後に残ったのは、星露魚のスープを口にしたときの旨い香りだった。


今は分からなくても、信じてくれ。スープにすると、本当にうまいんだ。

墨飛は唾を飲み込んだ。


リリィが何かを言おうとしたとき、池の下が騒がしくなった。


池の中心近くにいた魚の群れが、突然割れた。何かを避けるように、素早く両側へ泳いでいく。次の瞬間、静かな水面が盛り上がり、岸へ迫る水のうねりとなった。


墨飛の目つきが鋭くなる。


ざばっ!


巨大な熊の頭が池から現れ、その視線がちょうど岸の墨飛とぶつかった。

熊は少し止まり、すぐに目を逸らした。続いて巨体が池の水を押し分け、岸を踏んで上がってくる。


墨飛は相手を見て、目尻を引きつらせた。


「こいつ、なんでまた来たんだ」


変な熊は岸へ上がると、勢いよく体を振った。大量の池の水が周囲へ飛び散る。墨飛とリリィは同時に身を引いたが、それでも全身に水を浴びた。


だが、変な熊は去らなかった。


熊は岸に沿って少し歩いたあと、反対側へ戻った。途中で何度か立ち止まり、岸辺の草むらや低い草木のほうへ向きを変え、枝葉を押し開いて中を覗く。見つからなければ、別の場所へ移って同じことを続けた。


墨飛は顔の池の水をぬぐい、変な熊の探す経路を目で追う。


「こいつ、適当にうろついてるわけじゃなさそうだ」


リリィも、変な熊が何度も変える進路を見ていた。


「何かを探してる?」


「そう見える。何を探してるかは、分からない」


変な熊は再び向きを変え、今度はまっすぐ二人へ向かってきた。


二人は視線を交わし、また来た道へ下がった。墨飛は一本の木を自分と変な熊の間に置き、リリィは幻獣瓶を庇いながら、来た道に沿って後退を続ける。


重い足音が岸に沿って近づき、枯れ枝を踏み折る乾いた音も、だんだんはっきりしてきた。


それが墨飛の前にある木の幹を回り込もうとしたとき、池の反対側から突然、枝葉の擦れる音がした。


「私はここよ」


人影が木の後ろから現れ、遮るもののない岸辺へ立った。


変な熊の動きが、ぴたりと止まる。


次の瞬間、それは勢いよく向きを変え、池の反対側を向いた。


墨飛もその人影を見定めた。


「カミラ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ