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第117話 太陽がなければただの鏡

モーフェイが最初にしたのは、配達箱のサイドポケットへ手を突っ込むことだった。


小型太陽集束鏡を取り出した瞬間、アーダイは彼の狙いを察して、即座に遠くへ飛び退いた。


「食らえ、小型太陽集束鏡!」

モーフェイは丸鏡を掲げ、樹冠の隙間から差す光へ向けた。


そして彼は、頭上の細い日光が灰色の雲に呑まれ、鏡面に鈍い銀白色だけが残るのを見た。


場は一瞬で静まり返った。


沼沢ウーズの大きな目は、自分に向けられた銀白色のそれをぽかんと見つめている。もし瞼があったなら、今ごろ二度ほど瞬きしていたに違いない。


モーフェイは身を翻して走った。「撤退! 太陽がなけりゃ、こいつはただの高級化粧鏡だ!」


二人分の高さがある沼沢ウーズは、指のない太い腕を持ち上げた。腕全体が、全力で振り抜かれた墨の鞭のように、空中で凄まじい勢いで伸びる。


ばしん!


墨の鞭は、彼らがついさっき立っていた場所に叩きつけられた。泥水が炸裂し、腐植酸の匂いが顔面へ吹きつける。


三人は泥地を必死に駆け、色の濃すぎる泥面だけを勘で避けるしかなかった。


そのウーズの下半身は泥面に広がり、濡れた布のように前へ滑ってくる。道中の小さな泥穴がいくつも、その体内へ呑み込まれていった。


「まだ大きくなってる!」

「沼沢ウーズは腐植ゲルを取り込めます」トビーは息を切らせながら言った。「でも普通はこんなふうに人を追いません。たいていは泥穴に潜んで、獲物が踏み込むのを待つんです」


モーフェイは苦笑した。「おめでとう。向上心のある個体に当たったな」


沼沢ウーズの太い腕がびくりと震え、墨緑色の粘液弾をいくつも三人へ向けて撃ち出した。


粘液弾がモーフェイの後頭部へ迫った瞬間、プロトタイプ1号が跳び上がり、体を膨らませ、大口を開けてその粘液弾を丸呑みにした。粘液弾の勢いがプロトタイプ1号の体に叩き込まれ、空中で何度も回転した末に、みじめな様子でモーフェイの配達箱の上へ転がり戻る。


一撃が外れると、ウーズの下半身はいっそう激しくうねった。その巨体は墨の波となり、転がる速度を上げてくる。


モーフェイは前方へ視線を走らせ、さらに表情を険しくした。足元の地面が乾き始めている。


黒泥の低地は前方で狭まり、湿った草の根はしだいに砕石と黄土へ変わっていく。普通なら湿地を抜ければ安全を意味する。だが背後のあれは濡れた泥をまとい、自分自身を境界の外へ押し出していた。


アーダイの襟元から、ライフが毛むくじゃらの頭を半分だけ出し、目を光らせた。


アーダイの顔色が変わる。「待って、ライフ。今は衝動的にならないで。僕たちはもう十分不運なんだ。これ以上盛らないで」


脇にあった半ば腐った低木が突然裂け、絡んでいた蔓がアーダイへ向かって薙ぎ払われた。


アーダイは足を取られ、危うく転びかける。次の瞬間、その低木はウーズの前方の黒泥へ倒れ込み、腐木と濡れた草の根が墨緑色のゲルに一口で包み込まれた。


沼沢ウーズの影は半歩ほど前へ滑り、その動きが明らかに止まった。


アーダイはぱちぱちと瞬きした。「うん、今のは言わなかったことにして」


モーフェイはその隙に叫んだ。「乾いた地面へ走れ!」


三人は最後の湿った草斜面を駆け抜け、足元にようやく確かな硬さを感じた。


トビーが最初に砕石地へ飛び出し、振り返ってウーズが泥の境目まで滑ってくるのを見た。下半身をうねらせ、濡れた泥をまとった前半分だけが、無理やり乾いた地面へ乗り上げてくる。


トビーの顔が青ざめた。「上がってきました!」


モーフェイは砕石をひとつかみ拾って投げつけた。砕石はウーズの表面に当たり、泡をいくつか立てただけで沈んでいく。


「切れば分裂する。日光がなきゃ焼けない。しかも今は乾いた地面にまで上がってくる」モーフェイは後退しながら整理した。「こいつ、貧乏冒険者の天敵だろ」


アーダイは息を切らした。「まだ方法は一つある」

彼はさらに高い場所を指した。「あいつが追いつけなくなるまで走る」


三人はさらに上へ走り続けた。山道は砕石の斜面を越えると狭い通路になり、両側の土壁がしだいに高くなる。まるで山体に挟まれた裂け目のようだった。

空気はもうそれほど湿っていない。腐植の匂いは背後へ置き去りにされ、代わりに黄土と砕石が踏み砕かれる乾いた匂いがした。


背後の引きずる音は、どんどん遅くなっていった。


モーフェイは走りながら振り返り、ようやく墨緑色の影が通路の入口の外で止まっているのを見た。しばらくすると、それはゆっくり地面へ崩れ落ち、来た道をたどるように泥の境目へ染み込んでいった。


トビーは膝に手をつき、そのまま崩れ落ちそうになった。

「ま、撒けました……?」


三人はその場で数息だけ休んだが、誰も座ろうとはしなかった。プロトタイプ1号はモーフェイの肩へ戻って腹ばいになり、触手を振った。まだ持ちこたえられる、と言っているようだった。


狭い通路は長くない。だが進むほど奇妙になっていった。両側の土壁は何らかの力で圧迫されたようで、表面が不自然なほど平らだった。

先頭を歩くトビーの足取りが、しだいに遅くなる。


「おかしい……」


トビーは右側の土壁に手を伸ばし、指先で黄土を少し捻り取った。


「ここ、前はこんなじゃなかったんです」


トビーは自分の緊張を説明する余裕もなく、土壁沿いに数歩走り、それから山道のほうを振り返った。


「こちら側には斜面の小道があるはずでした。採薬人はここから風場の端へ回り込むんです。でも今は土壁で横断されています」


通路の突き当たりには、確かに前方を塞ぐ土壁があった。


登れないほど高くはない。だが道を塞ぐには十分だった。壁面に石積みの痕跡はなく、自然崩落にも見えない。一面の土層がここへ押し出され、そのまま押し固められたようだった。


モーフェイは手を伸ばして押した。「山崩れ……か?」


トビーは首を振った。「山崩れなら、こんなに平らにはなりません。下の低地が何かに押し上げられて、ちょうど道を塞いだみたいです」


アーダイも前へ出た。「自然にできたようには見えないね。まるで……魔法?」


モーフェイは眉を上げた。「魔法? あの魔法のお偉方が、この山まで来て壁を積んだって?」


アーダイは首を振る。「分からない。ただ、土元素で土層を引き上げたと考えるほうが、この景観には説明がつきやすいと思っただけ」


モーフェイは土壁を軽く叩いた。「今は考えすぎるのはやめよう。そんなに高くないし、向こう側に危険はないよな?」


トビーは上を見た。「壁の向こうは風場の外縁のはずです。主風道へ直接飛び込まないよう気をつければ大丈夫です」


モーフェイとアーダイが下で手を組み、トビーはモーフェイの肩を踏み台にして、壁の上に盛り上がった土石の縁をつかみ、手足を使ってよじ登った。


トビーは壁の上で素早く周囲を見回し、すぐに息をつくと、下へ向かって手招きした。「安全です。早く上がってください!」


プロトタイプ1号はモーフェイの肩から壁の上へ跳ね上がり、片端をトビーの腰に巻きつけ、二本の翠緑の触手を下へ垂らした。モーフェイとアーダイはその触手をつかんで力を借り、素早く土壁を越えた。


その時、太陽も顔を出し、壁の向こうの視界が一気に開けた。


彼らは高い斜面の縁に立っていた。第七魔導塔は山頂の脇にそびえ、塔の尖端にあったはずの巨大な奥法水晶は、とうに光を失っている。


第七魔導塔からほど近い場所には、山風に合わせてかすかに揺れる広い草場があった。草場全体に灰白色の斑が広がり、遠目には斜面を覆う羽毛の層のように見える。


山風が吹き抜けるたび、その灰白色は見えない手に撫で上げられたように持ち上がり、低空を漂う羽雲の層となる。それから風が弱まるにつれ、また次々と元の位置へ戻っていった。


「あれが浮遊羽草です」トビーは遠くの草場を指した。


モーフェイがようやく気を緩めた瞬間、遠くの雲を裂いて鋭い鳴き声が響いた。


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