第023話 図書館の推薦状
訓練が終わった翌日の昼、ユイはギルドの中にいた。
ヴィクトルの個室の前だ。扉をノックする。
「入れ」
ヴィクトルの声が聞こえた。ユイは扉を開けた。
部屋の中は質素だった。机と椅子、本棚。壁には地図が掛けられている。ヴィクトルは机の前に座り、書類を見ていた。
「何の用だ」
ヴィクトルが顔を上げる。ユイは一歩前に出た。
「禁書庫への推薦状をお願いしたいんです」
ヴィクトルの目が細くなった。
「なぜ、禁書庫に?」
ユイは慎重に答えた。
「古代文字について調べたいんです。北の森で見た封印陣の文字です」
ヴィクトルは腕を組んだ。しばらく黙っている。ユイは視線を逸らさなかった。
「君は、何者だ」
ヴィクトルの声が低い。
「新人冒険者には見えない。動きも、判断も、経験者のものだ」
ユイは答えを選んだ。
「冒険者になる前に、色々と学びました」
「誰に?」
「独学です」
ヴィクトルは溜息をついた。
「嘘ではないが、全てを話していない」
ユイは黙っていた。ヴィクトルは続けた。
「だが、深くは聞かない。君には君の事情がある」
ヴィクトルは立ち上がり、本棚から羊皮紙を取り出した。
「分かった。だが、条件がある」
「何ですか?」
「訓練を続けること。そして、見つけたことは報告すること」
ユイは頷いた。
「約束します」
ヴィクトルは羽ペンを取り、羊皮紙に何かを書き始めた。推薦状だ。しばらくして、ヴィクトルは羊皮紙を折り、封蝋で封じた。
「これを司書に渡せ」
ユイは推薦状を受け取った。
「ありがとうございます」
ヴィクトルは窓の外を見た。
「君は、何かを探している。それが何なのかは分からない。だが、危険なことに首を突っ込むな」
「気をつけます」
ユイは個室を出た。廊下を歩きながら、推薦状を握り締める。ヴィクトルは疑っている。だが、それでも推薦状をくれた。
ユイはギルドを出て、図書館へ向かった。
図書館は王都の中央にある。石造りの大きな建物だ。扉を開けると、静かな空間が広がっていた。本棚が並び、机が置かれている。数人の学者や冒険者が本を読んでいた。
カウンターに、老人の司書が座っている。白髪で、眼鏡をかけている。ユイは近づいた。
「禁書庫への推薦状を持ってきました」
ユイは推薦状を差し出した。司書は受け取り、封を開けた。内容を読む。眉をひそめた。
「ほう。ヴィクトル殿の推薦か」
司書はユイを見た。
「珍しいな。禁書庫へ入るのは、Aランク以上の冒険者か、特別な許可を持つ者だけだ」
「何を調べるのかね?」
「古代文字です」
司書は頷いた。
「古代文字か。難解だが、興味深い分野だ」
司書は立ち上がり、鍵の束を手に取った。
「ついてきなさい」
ユイは司書についていく。図書館の奥へ進む。階段を下り、地下へ。薄暗い廊下を歩く。突き当たりに、鉄の扉があった。
司書は鍵を開けた。扉が重い音を立てて開く。
「では、どうぞ」
ユイは中に入った。禁書庫だ。
部屋は薄暗く、古い本が並んでいる。本棚は天井まで届いている。埃の匂いと、古い紙の匂い。
司書が言った。
「古代文字の文献は、奥の棚にある。必要なものがあれば、持ち出さずにここで読みなさい」
「分かりました」
司書は扉の外で待っている。ユイは奥の棚へ向かった。
本が並んでいる。どれも古い。革の装丁、羊皮紙のページ。タイトルを見ていく。古代エルフ語、古代ドワーフ語、失われた文明の記録。
ユイは一冊を手に取った。表紙には、複雑な文様が刻まれている。ページを開く。古代文字が並んでいる。
読めない。いや、少しだけ読める。前世で見たことがある文字だ。だが、完全には理解できない。
ユイは他の本も探した。いくつか見つかる。どれも難解だ。文字の羅列は続くが、意味を掴むのは困難だ。
ユイは溜息をついた。古代文字の解読には、もっと時間が必要だ。
それでも、諦めずに探し続ける。棚の本を一冊ずつ確認していく。
その時、一冊の本に目が留まった。
表紙に刻まれた文様。それは、見覚えがあった。
ユイは本を手に取り、ページを開いた。
そこに描かれていたのは、複雑な幾何学模様。円と直線が組み合わさった図形。
封印陣だ。
北の森で見たものと、似ている。
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