第214話 変わる世界
王都のギルドに帰還したとき、戦い始まった。
「大型魔物討伐ですね」
ギルド職員が記録を取る。その口調は公式で、詮索がない。書類仕事の最後の確認という態度。それはユイには好都合だった。
「ああ」
ユイが簡潔に答えた。
「討伐対象の名前は?」
「不明」
ユイが答える。その返答は、建前だ。幻モンスターの名前を言えば、世界が動揺する。だから言わない。言わない方が、世界のためだ。
職員は了承した。彼の目には好奇心が無く、単純に業務を進めているだけだ。
「報酬についてですが……」
職員が続ける。通常は次の段階だ。討伐報酬を受け取り、ランクが上昇する。それが冒険者の道だ。
「受け取らない」
ユイが言った。
職員は驚いた。討伐報酬を受け取らない。あり得ない判断だ。だが、ユイは迷わない。報酬を受け取れば、注目される。今は、注目されるのは都合が悪い。
「わかりました。記録に残します。大型魔物討伐、完了。受け取り人:クロウフォール、ブレイズウォール、ラスティ」
職員が書き込む。その過程は、すべて公式だ。だが、公式だからこそ、秘密は秘密にはならない。どの業界にも、情報を追う者がいる。
ユイはそのことを知っていた。秘密は、秘密ではない。知る者は知っている。だが、知らない者は知らない。その微妙な線引きが、世界を保つ。
帰路でのことだ。ユイはカイルと並んで歩いていた。
「ユイ様、次は、何が起きるんだろう」
カイルが呟いた。帰還直後、盾役のリーダーは呟く。その言葉には、期待と不安が混在していた。
ユイは答えられなかった。その答えは、もう決まっていたから。
前世での知識。残り14体の幻モンスター。ザインの計画。世界の変化。すべてが、未来に向かって動き始めていた。
だが、今この瞬間、その答えを言うべきではない。言えば、恐怖が広がる。不安が深まる。だから、ユイは黙った。
「分かりません」
ユイが短く返答した。
カイルはそれで納得した。盾役は、リーダーの返答に疑問を持たない。信頼とは、そういうものだ。
その夜、クロウフォールの拠点に到着した。全員が、深い疲労を抱えて。だが、誰も倒れていない。誰も死んでいない。それだけで十分だった。
ユイは窓から外を見た。月が静かに輝いていた。その光の中で、王都は変わり始めていた。あるいは、もう変わっているのかもしれない。気づかないだけで。




